ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 鶴間和幸著 「人間・始皇帝」 岩波新書(2015年9月)

2016年10月26日 | 書評
中国最初の皇帝による中華帝国の統一事業と挫折 第1回



 古代中国では周の滅亡後長い数世紀の間、中原の覇を争った春秋戦国時代を経て、始皇帝(前259年ー前210年 在位前247年ー前210年)は中国史上最初の皇帝となった。司馬遷が編纂した「史記」に50年の帝王の生涯をたどることができる。始皇帝すなわち秦王政は、趙の邯鄲で生まれ、13歳で秦王に即位し、39歳で天下を統一し皇帝となった。12年間秦帝国を支配し数々の事蹟を残して不意に病死し、彼が残した帝国も3年後に瓦解した。わずか15年御の短命な統一帝国にもかかわらず、歴史上の意義はたとえようもなく偉大で、その帝国の完成は劉邦(武帝)の漢帝国に受け継がれたといえる。2000年以上の間中国大陸の興亡は始皇帝の図式の上で進行したといえる。中華帝国の皇帝支配の根源を創出したのが始皇帝である。東洋的絶対的支配者の原型を作ったのである。司馬遷(前145年―前86年)の史記は、皇帝となるべき存在として始皇帝像を描いている。史記は始皇帝の死後100年以上たってからの記述であり、始皇帝の実像とは言い切れない。司馬遷は前漢の武帝(在位前141年ー前87年)と始皇帝を中華帝国の皇帝として同じ視線で見ている節がある。それは武帝が始皇帝を意識して、辺境の征服戦争、長城の建設、泰山での封禅という国家祭祀、巡行など始皇帝の事業を再現しているからである。史記の記述から距離を置いて始皇帝の実像に迫るには、他の考古資料と文字資料(伝承ではなく)によるしかない。1974年始皇帝陵の東の地点で「兵馬俑坑」が発見され、翌年1975年1155枚の始皇帝時代の竹簡(睡虎地秦簡)が発見された。2002年秦時代の3万8000枚の簡とく(里耶秦簡)が発見され、2007年嶽麓秦簡や2010年に北大秦簡、北大簡簡らが出版され文字資料をして利用できるようになった。この中から史記の記述とは違う「趙生書」では、始皇帝の幼少期の名前を「趙生」とする竹簡文書があり、史記では「趙政」となっているほか、始皇帝崩御後の後継者会議で胡亥を選んだという史記とは違う内容になっている。さらに趙生書では始皇帝を秦王と呼んでいるなど、史記との再検討が必要となった。始皇帝は伝承では暴君となっているが、焚書坑儒で儒者を生き埋めにしたこと、万里の長城建設で人民を苦しめたことがその理由である。しかし戦国の分裂時代を終焉させ統一国家を築いたことや、帝国の集権制行政組織である「郡県制」という政治体制の確立、文字・度量衡の統一などは有能な君主と言えるのではないかという。ここで著者鶴間氏のプロフィールを紹介する。鶴間氏の略歴は、1950年生まれ、1974年 東京教育大学文学部史学科東洋史学専攻卒業、 1980年 東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学 、1981年 茨城大学教養部講師、 1982年 同助教授、 1985年4月~86年1月 中国社会科学院歴史研究所外国人研究員、 1994年~96年 茨城大学教養部教授、 1996年 学習院大学文学部教授である。鶴間氏の研究テーマ・分野は、中国古代帝国(秦漢帝国)の形成と地域、秦始皇帝と兵馬俑の研究、 東アジア海文明の歴史と環境であるという。主な著書には、1996年 『秦漢帝国へのアプローチ』 山川出版社、 2001年 『始皇帝の地下帝国』 講談社、 『秦の始皇帝ー伝説と史実のはざま』 吉川弘文館 、2004年 『始皇帝陵と兵馬俑』 講談社学術文庫、『ファーストエンペラーの遺産 秦漢帝国』 講談社 、2013年 『秦帝国の形成と地域』汲古書院 などがある。なお本書においては古代の伝説や予言の書、祭祀のやり方と古代王朝の風習、星座と予兆、不吉な彗星の記録など古代風俗と風習、信仰のことにかなり頁を割いている。今ではそんなことを信じる者はいないので、又それで歴史が変わったとも思えないので、私はそのような記述は無視しうると思う。新書という限られた紙面で、その代わりに兵馬俑坑の内容とか、当時の経済、政治思想などに力を注いだ方が本書が面白くかつ深くなったのではないかと残念である。

(つづく)

和田純夫著 「プリンピキアを読むーニュートンはいかにして万有引力を証明したか」(講談社ブルーバックス2009年)

2016年10月25日 | 書評

近代科学の出発点となった運動の法則や万有引力を確立したニュートンの金字塔 第20回 最終回

3-3) 第Ⅲ編後半

話題1: 「地球の形」
 天体が完全な球体であれば、セクション12で示した重力の性質は簡単になる。実際には惑星は完全な球ではない。例えば地球の両極間の距離は赤道の直径よりも1/300 ほど短い。つまりわずかに扁平である。ニュートンの時代には地球の形は計測されていなかった。1736年モーペルチュイが極地探検で地球が扁平であることを明らかにした。地球は自転のため遠心力が働いて赤道方向へ膨らみ扁平となる。ニュートンは重力理論を用いてどの程度扁平になるのか計算した。扁平になったため場所によって重力がどの程度変化するかも検討した。
命題18: 「惑星は自転軸方向に潰された扁平な形をしている」 
命題19: 「惑星の自転軸の長さとそれに直角な方向の直径の比を求めよ」
(地球の北極Pから中心Cまでと赤道上の点Aから中心までが細い管まで連結されていると想定する。赤道の直径をAB、北極と南極を結ぶ自転軸上のPQの細管内の力を重力と重さによる圧力がバランスしているとして、次の3段階で考察を進める。①ACとPCの上に働く重力の違い、
②ACとPCの長さが違うことによる総質量の違い、
③AC方向にのみ遠心力が働くことである。出発点として仮にAC/PC=101/100としたら重力がどれだけ違うのだろうかを考える。
「第1段階」: 長さPCを半径とする地球に内接する球S1を考え、球と扁平楕円上のPでの重力を比べる。第1編命題91系2の定理を使えば、離心率e^2=1-(PC/AC)^2=2/100 となるので、Pでの重力/内接球上S1の重力=126/125となる。
「第2段階」: 赤道上のAで外接する球体S2を考え、扁平な楕円体との重力とに比較は、S2上での重力/Aでの重力=126/125.5
「第3段階」: 命題72より相似関係にある球の重力の比は半径の比に等しい。S1上での重力/S2乗での重力=100/101 以上の3段階の結論をすべて掛け合わせると、極Pでの重力/赤道Aでの重力=(126/125)・(100/101)・(126/125.5)≒1.002(501/500)
要素①の結論:極の方が1%短い場合には、極での重力が0.2%大きいことになった。
要素②の結論:重力が違うことによる単位質量あたりの重量比=質量比×半径比=(100/101)・(501/505)=501/505≒0.992 
要素③の結論:遠心力は=速度^2/半径であるので、赤道上での重力/遠心力≒9.8:0.0337≒1:0.0034 となる。赤道上では重力は0.8%少ないのに、遠心力は0.34%しかない。つまり重力差が生じている。木星では扁平率は1/12(赤道と極方向の半径の差の、赤道方向の半径に対する比率)であった。地球が扁平なら緯度によって重力が異なり、振り子時計の進み方も違う。
命題20 地表上での緯度の違いによる重力の変化
(地表上の各緯度での重力はその位置での、地球の中心からの距離に反比例する。楕円曲線論から緯度の角度をθとすると、離心率eはゼロに近いとして、楕円長軸半径a、球半径rとすると、(1/r-1/a)∝(sinθ)^2

話題2: 「潮汐」
 ニュートンは惑星を動かしている万有引力という作用によって、潮汐という現象も説明できることを示した。3体問題第1編命題64以降の議論が出発点になる。月が地球と太陽を結ぶ線上にあるときは、力の差は月を地球から遠ざける。月が地球と太陽を結ぶ線と直角の位置にあるときは、力の差は月を地球に近づけるように働く。ここで地球から見て潮を月に見て、太陽を月に見ると、地球の月側の海水は膨らみ(満潮)、反対側の海水は干上がる(干潮)。月が及ぼす干潮力は距離の3乗に反比例し、万有引力の大きさに比例する。干潮力∝天体の質量/天体までの距離^3、月の干潮力/太陽の干潮力=(月の質量/太陽の質量)×(太陽までの距離/月までの距離)^3である。太陽と月と地球が一直線上にある時(満月または新月)、二つの潮汐力が一致し大潮となる。半月の時小潮となる。大潮/小潮=(月の潮汐力+太陽の潮汐力/月の潮汐力ー太陽の潮汐力)=9/5(観察値) すなわち月の潮汐力/太陽の潮汐力)=7/2、月の質量/地球の質量≒1:40である。)
題Ⅲ編には命題は45あるが紹介しきれないので、テーマだけでも紹介する。
①地球や月の自転軸の動き、
②月の楕円軌道からのずれ、面積速度の変化、
③月の赤道面と地球の公転軌道面の傾きの動き、その交差点の動き、
④彗星の軌道計算 などである。

(完)


和田純夫著 「プリンピキアを読むーニュートンはいかにして万有引力を証明したか」(講談社ブルーバックス2009年)

2016年10月24日 | 書評
近代科学の出発点となった運動の法則や万有引力を確立したニュートンの金字塔 第19回

3-2) 第Ⅱ編

第2編では天体ではない普通の身の回りの力が扱われる。運動する媒質による抵抗力などが話題になるが、この 和田純夫著 「プリンピキアを読む」では、第1編と同じ分量がある第2編を紹介することはできないとして、大幅に割愛し、トピックスの拾い読みとなった。

話題 1  「抵抗力と重力を受ける質点の運動」
セクション1では抵抗が速度に比例する場合、セクション2では抵抗が速度の二乗に比例する場合、セクション3ではそれらが合わさった場合、セクション4ではもし惑星が宇宙空間で抵抗を受けたらどんな運動になるのかという問題が議論される。
セクション1: 「物体の垂直落下運動」
ここに働く力とは、重力と抵抗力である。抵抗力は速度に比例し重力の反対方向に働くとすると、F=mg-kvである。例えば雨粒の落下運動を考えると、重力で加速されるが、速度が増えると抵抗力が大きくなり力がバランスする時がある。物体の合力はゼロとない、慣性の運動により一定の速度で落下するようになる。終速度v∞=mg/kとなり、力はF=k(v∞-v)と書ける。力の逆数を縦軸に、速度を横軸にしたグラフを積分すると、∫(1/F)dv=t(時間)と表せる。
命題3: 初速度ゼロから落下する物体が速度vになるまでの時間は、グラフのv=0からvまでの面積に比例する。その時までの落下速距離は∫(1/F)dv-(1/kv∞)・vに比例する。終速度においては∫(1/F)dv-1/kである。
(現代風に微分で考えると、F∝dv/dt 1/F=dt/dv すなわち1/F=dt/dvをvで積分すると時間tとなり、また落下距離をxとすると、dx/dvをvで積分すればいい。dx/dv=(dx/dt)・(dt/dv)∝v/Fだから、x=∫dx/dv=∫v/Fdv=∫1/Fdv-1/kとなる。)
セクション2: 
命題5: 重力を受けずに動いている物体が速度の二乗に比例する抵抗を受けると、経過時間がα倍になるごとに速度は1/αとなり、その間の移動時間は一定である。
(微積分で表せば容易に証明できる。)
セクション3: 
速度に比例する抵抗力と速度の二乗に比例する抵抗力が共存する場合の運動が議論される。
セクション4:命題15 物体が力の中心Sからの距離の二乗に反比例する重力を受けており、また媒質の密度はSからの距離に反比例しているとき、物体の軌道は等角螺旋となる。
(等角螺旋とは、軌道上の点で接線の方向と中心への方向の角度が常に一定である螺旋を言う。宇宙空間には、天体に抵抗を及ぼす物質などは存在していないということである。惑星が太陽に向かってスパイラルにぶつかってゆくことはあり得ないからである)

話題 2 「流体の性質」
セクション5: 「流体の密度と圧縮及び流体靜力学」
命題22: 圧力と密度が比例する流体が、中心からの距離の二乗に反比例する重力によって引かれているとすると、中心からの距離の逆数が一定の値だけ減るごとに、その流体の密度は一定の割合だけ減る。
(気体の圧力と密度が比例するというのは「ボイルの法則」である。ボイルの法則が提唱されたのは1662年なので、ニュートンはこの法則を知らなかったのか、何か見当違いな議論をしている)
セクション6: 「振り子」
重さとはその物体に働く重力であり、質量とは加速されにくさであって重力は関係しない。しかし2つは数値としては同じであり、重さと質量は比例関係にあるので、混同しても害はない。重力が質量に比例することをガリレオはピサの斜塔の実験で示した。しかしニュートンは自身が行った振り子の実験で質量と重力が比例することを精密に確かめた。
命題24: 真空中では、長さと振幅が決まった振り子の周期の二乗は、振り子に付けた物体の質量と重さの比に比例する。
(同じ長さの振子を同じ振幅で振らせた時の周期が、その振子に付ける物体を変えても変わらなければ、質量と重さの関係は物体に因らず一定、すなわち質量と重さは比例する。この振子では振幅を合わせているが、バネの振動のように、変異と復元力が比例しているなら振動の周期は振幅に関係ないのだが、振り子にはこの関係は厳密には成り立たない。従って振幅は同じにしておく必要がある。空気の抵抗は考えないし、実験場所の地球上の位置によって質量と重力の関係は異なってくるがこれは欧州で実験するので無視する。ここからニュートン推論の論理の厳密さを数式を使わないで堪能できる素晴らしい記述の箇所である。それはニュートンのすばらしさでもあり、著者の頭脳の明晰さからくるのであろう。長くなるが詳細に書いてゆこう。異なる物体をつけた同じ長さの2つの振り子が、同じ振幅で振れているとする。軌道も同じ、力の方向も同じなので、軌道を細かく分割して対応する部分を比較する。2つの振り子の周期が違うとしても各部分の通過時間は比例関係にあり、各部分での速度も比例関係にある。距離が等しければ、速度と時間は反比例関係にあるので、速度の比=通過時間の逆数の比=周期の逆数の比、また速度とは加速度の積算なので、速度の比=速度の変化の比なので、速度の比∝通過時間×重力/質量ここに通過時間×重力の変化は運動量の変化である。mv=F・t  速度の比∝通過時間×重力/質量=周期×重力/質量となり、周期の逆数の比=周期×重力/質量の比、すなわち質量/重力=周期の二乗の比よって(質量/重力)/周期^2=一定という定理が証明できた。この関係を数式で書くと数行で済むのだが、ニュートンは論理の積み重ねで行った。)
話題 4 「物体の形状と抵抗」(流体力学)
セクション7: 大きさを持った物体の流体中での運動」
命題34: 等しい直径を持つ球と円柱が、希薄な媒質中を運動するとき、球が受ける抵抗力は円柱が受ける抵抗の半分である。
(媒質には粘性はないとし、渦ができることもないとする。しかし抵抗力は物体の各部分において異なる。これらをすべて積分をしなければならないが、円柱と放物面の体積の比率が2:1なので命題は証明されるとニュートンは考えた。ニュートンは系の「問題」において、円錐台の抵抗を最小にする形、放物回転体の形などを検討している。
話題 5 「波動」
セクション8: 「U字管の中の水面の振動」 この振動の周期は水管に入っている水深の半分に等しい。

(つづく)

和田純夫著 「プリンピキアを読むーニュートンはいかにして万有引力を証明したか」(講談社ブルーバックス2009年)

2016年10月23日 | 書評
近代科学の出発点となった運動の法則や万有引力を確立したニュートンの金字塔 第18回

セクション13 「球ではない天体の引力ーニュートン積分」

命題78-命題84は一般的な力の計算法を扱うが省略する。プリンキピアでニュートンが積分的手法を使う章である。微積分の創始者があえて、微積分を使わないで議論を進めることがプリンピキアの最大の特徴であった。この章は例外である。

例題90:「円板がおよぼす力」
 距離によって決定される何らの力を及ぼす物質からできている、一様な厚さの円板がある。その中心を通る垂直線上の任意の位置にある質点に働く力を求める方法。
(質点をP、板の上の任意のいちをEとする。このE点を板のスタート点AとしDまで移動させる。EからPまでの距離xで決定される力のグラフ、関数形で表すとf(x)を別途描くことができる。積分範囲はAPからADとして、グラフの面積が力である。これを現代風に微小幅の円環半径をxとし微小幅を⊿xとして、単位面積当たりの力をf(y),y^2=a^2+x^2として、力=2πa∫f(y)dyと表現される)
命題90系1: 力が距離の二乗に反比例する場合、力の曲線は1/y^2であり、積分範囲はPAからPH、 1/y^2の積分形は-1/yであることを使うと、力の合計∝PA・(1/PA-1/PH)=1-PA/PH=AH/PHである。
命題90系2: 力が距離のn乗に反比例する場合、力の曲線は1/y^2となり、力の合計=PA(1/PA^n-1 -1/PH^n-1)に比例する。
命題91系1:「円柱が及ぼす重力」
 AB軸にDGCEという円柱の断面を描く。円柱は一様な物質からできており距離の二乗に反比例する力を及ぼすとしたとき、軸の延長線上の質点Pに働く円柱全体の引力はAB-PE+PDに比例する。
(円柱の半径をrとし、点Fで円柱を薄い円板に分割する。PF=xとすると命題90の結果より、∫(x/√(x^2+r^2)dx=√x^2+r^2=PE-PD 、積分範囲はPAからPB  力の合計は命題90系1より力の合計はAB-(PE-PD)=AB-PE+PDに比例する。
命題91系2:「扁平な楕円体による重力」
 一様な物質からできた回転楕円体ACBGを考える。ただしこの回転楕円体はABを軸として楕円を回転させたものであり、AB方向に縮小した扁平楕円体である。この回転楕円体がAB軸上の外に位置する点Pに及ぼす引力と、ABで内接する球がPの質点に及ぼす引力の比を求めよ。
(驚嘆に値する作図法で、AB上の点Eにおいて、扁平楕円体の薄い円板を考え、質点Pとの距離をPE=x、扁平楕円体の円板の半径ED=yとする。ER=PDとするRの描く曲線の弓の面積がPDの積分となる。PD=√(x^2+y^2)、離心率をeとするとa^2/b^2=1-e^2である。大変な変数変換をして結果が求まる。その結果も複雑すぎて応用の価値が分らないのでここでは省略する)
命題91系3:「回転楕円体内部で働く重力」
 回転楕円体の内部の質点に働く力は、中心からの一直線上で比較すると、中心からの距離に比例する。
(球の場合の内部の質点に働く力は命題73で求めたが、それと同様な結果が得られることを証明する。命題70より楕円内部の点が作る2つの対応する円錐台の力は打ち消し合い、命題73より距離に比例する力が働く)

(つづく)

和田純夫著 「プリンピキアを読むーニュートンはいかにして万有引力を証明したか」(講談社ブルーバックス2009年)

2016年10月22日 | 書評
近代科学の出発点となった運動の法則や万有引力を確立したニュートンの金字塔  第17回

セクション12 「大きさのある物体の重力」

地球がもし完全な球対称なら、それによる重力を考えるときには大きさを無視し、地球すべての構成要素がその中心に集中しているとみなしても厳密に正しいという定理を証明しよう。このことは力を受ける側にとっても適用され、例えば月が地球から受ける重力は、月と地球のそれぞれの中心間距離に逆二乗する力を考えることである。ニュートンはこの定理を得てプリンキピアの執筆を始めたといわれるほど、重要な仮定であった。まず天体は球対称を前提として進める。

命題70:「球面内部の重力」
 内部が空洞の球体があり、内部の点Pに位置する物体には、球対称の位置にある球面上の各部分から、距離の二乗に反比例する同じ力が働くとする。質量の一様分布を仮定している。そのとき点Pでの合力はゼロである。
(Pに及ぼす力の比=楕円表面の質量比/距離の二乗の比=1であることは、質量∝弧の面積=Pからの距離^2であることから自明である。従って両側の楕円による引力は打ち消し合うので、Pでの動力はゼロとなる)
命題71:「球面外部の重力」
 点Pが球面の外部にあるとすると、ただし球の内部は空洞であり質量は表面だけにあるとする。点Pにある物体は球の中心に向かう、球の中心からの距離の二乗に反比例する力を受ける。
(球の内部は空洞である点位において命題70を継承している。Pから球の中心を結ぶ線にある角度θをもって描く細い球面上の帯(円環)の面積を求めある。向心力=楕円表面の帯の質量/距離の二乗である。ここから筆舌に尽しがたいニュートンの曲芸的微小部分の作図手法で証明が行われ、その力の和は、点Pにある物体は球の中心に向かう、球の中心からの距離の二乗に反比例することをいう。質点とは大きさの無い粒子のことである。これより内部が詰まった球どうしの重力についての定理に進む。いくつかのステップを経て最終的には命題76で球対称な物体間の重力を扱う)
命題72:「相似関係にある球と質点との間との重力」
 2つの密度は等しいが半径の異なる球がある。(球1、球2)それぞれの外部に位置Pとpをそれぞれの中心からの距離を半径の比に等しく決める。するとPとpにおかれた質点に働く力の比は球の半径の比に等しい。
(力の比∝質量の比/距離の比~2であるが、内部が詰まった球の部分微小領域の質量は全質量×角分割である。球の質量は半径の3乗に比例するので、力の比=半径^3/半径^2=半径の比となる)
命題72系3: 「相似関係にある物体と質点との間の重力」 密度が等しい相似な2つの立体がある(球である必要はない)。それぞれの外部に、相似な位置におかれた質点には、2つの立体の相似比に比例する力が働く。
(距離の二乗に反比例する力は命題72により半径のみに比例するので、すべてが相似なので線形比例関係が成立する)
命題73:「球の内部の質点が受ける重力」
 一様な密度の球があり。その内部を自由に動ける質点があったとする。その質点が受ける力は中心からの距離に比例する。
(仮想質点であるが、中心を通る細いトンネル内部の点と考えればいい。内部に作る同心球面上に点Pがあるとする。同心球面よる外部によるPへの引力全体は、命題70より球対称側の打ち消しによってゼロである。同心球面内部によるPへの引力は命題72より同心球面の半径に比例する)
命題74:「球の外部の重力が逆二乗則を満たすこと」
 球の外に位置する質点には、球の中心からの距離の二乗に反比例した力が働く。
(球を暑さが無限に小さな同心球面に分割する。命題71より内部が空洞で薄い層からなる球体の集合体を考え、その構成球体各層から受ける力を合計したら、距離の二乗に反比例した力の合計になる。大きさの無い質点、あるいは大きさが微小な物体が受ける重力がその質量に比例することは命題ではなく、定義で示されている。しかし大きさのある物体が持つ重力について次に示す)
命題74系1: 「球による重力がその質量に比例すること」 均質な球の引力は、中心からの一定の距離においては、球自身の質量に比例する。
(均質で密度の等しい物質からなる2つの球1、球2を考える。中心からの距離が半径に比例する相似な位置関係にあるとする。命題72より質点が受ける引力の比は半径に比例する。次に点PをQに移動する、QS=ps するとこの点で受ける引力も比は距離の二乗に反比例するので(SP/sp)・(SP/SQ)^2=(SP/sp)^3 半径の3乗とは体積比すなわち質量に比例する)
命題75:「均質な球どうしの重力」
 2つの均質な球がある。その微小部分どうしの間には、その間の距離の二乗に反比例する力が働いている。その時2つの球の間には中心間の距離の二乗に反比例する力が働く。
(位置P,Sに質量m1とm2の球1,2がある。球の対応すする微小部分どうしの間には距離の二乗に反比例する力が働いている。片方を質点、他方を球として力のベクトル的な合計はSP間の距離の二乗に反比例する。作用と反作用で逆も成り立つ。結局、引力∝m1・m2/SP^2である。)
命題76:「均質とは限らないが質量分布が球対称な球どうしの重力」
 質量の分布は球対称だとする。すると、球の間の力は中心間の距離の二乗に反比例する。
(球の内部に行くほど密度が高くなるが球対称性は保たれているとする場合、均質な球を無限個重ね合わせて作った球と見なせる。命題73により、球の外にある質点が受ける力は距離の二乗に反比例する。全体としてその合力もやはり距離の二乗に反比例する力が働く)
命題77:「距離に比例する力が働く時の球どうしの重力」
 物質が球対称に分布している2つの球がある。その各部分の間には距離に比例する引力が働いているとする。2つの球の間の引力は、その中心間の距離に比例する。
(力が距離の二乗に反比例する場合と同様に議論すればいい。この場合球をPSを結ぶ直線の垂直に輪切りにする板を考える。力はPCの反対側どうしで打ち消すので、PS方向の力のみの力を積算することになる。その力は距離の比例するので結局球の全質量の引力は距離に比例するのである。)

(つづく)