ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 濱口桂一郎著 「新しい労働社会ー雇用システムの再構築へ」  岩波新書

2010年03月13日 | 書評
多様化した労働社会に対応する新しい日本の雇用システムとは 第6回

 労使関係の特徴は企業別組合である。労働者代表として労使協議を行う機能をもつ。賃金など労働条件の向上のために経営者と団体交渉することが重要な役割である。労働組合が団体交渉で決めるのは個々の労働者の賃金ではなく、総人件費を労働者の数で割った平均賃金の増加分(ベースアップ)である。個々の労働者の賃金額は人事査定で決定される。賃金はその企業の支払い能力によって制約されるので、日本の企業別労働組合は産業別連合を結成して、企業ごとに団体交渉を同時期に行って(春闘)ベースアップを勝ち取るのである。交渉が決裂すればストライキとなるのが一般的であったが、1970年以降では賃上げ交渉が労働争議に発展する事はなくなった。今まで述べた日本型雇用システムはあくまで大企業の正規採用従業員のことである。正社員以外の非正規労働者の雇用管理は全くこれと異なる。そして日本全体の労働人口に対する労働組合組織率は第二次世界大戦の直後は全労働者中に占める労働組合員の比率(組織率)も60%以上を占めていたが、年々組織率は低下し、2005年末現在においては18.7%まで下落するに至った。また、従業員が100人にも満たない小企業における労働組合の組織率は3%にも満たないと言われている。非正規労働者の賃金制度は殆どが時給である。非正規労働者の大量出現は1990年代後半の就職氷河期に始まり、若年労働者が正規に採用されずに、派遣労働(日雇い派遣も含めて)、フリーター、アルバイトという劣悪な労働条件を強いられてきた。つぎにこれまで述べてきたことは大企業の製造業をイメージしています。ところが日本の企業は中小企業の数が圧倒的に多く、企業規模が小さくなるに連れて、勤続年数は短くなり、賃金は上がらず、労働組合も存在しなくなる。企業規模が小さくなるほど雇用はジョブ型(欧米型)に近づくわけだ。小さな会社の正規労働者では非正規労働者とあまり変わらなくなるのである。ということで、日本型雇用システムの特徴が成立する正社員の数はある意味では500万人から700万人にしか適用されない恵まれた少数例に過ぎないといえる。その10倍以上の労働者は日本型雇用システムとは縁のない労働環境にある。
(つづく)


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