ブログ 「ごまめの歯軋り」

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文芸散歩 今野真二著 「北原白秋ー言葉の魔術師」 (岩波新書 2017年2月)

2017年11月15日 | 書評
童謡から短歌・詩など様々なジャンルで活躍した白秋の言語空間の秘密 第1回



北原白秋の詩は、特に唱歌や童謡などでよく聞かれるので知らない人はいないでしょう。短歌にも秀でた句を多く残している。そのジャンルの広さは日本の近代文学において巨大な足跡を残した。私は見たことはないが、岩波書店から「白秋全集」全40巻が刊行されているそうである。だが白秋の全部を読み通した人は少なく、そのジャンル間の作品は互いに深いつながりを持っている。つまり同じ素材を用いながら短歌が詩になり、詩は童謡になり、詩が短歌になるという。共通するイメージの言語化は媒体形式を通じて重なり合っている。これを著者は「心的辞書」と呼び、様々なイメージを言語化して言葉を操る「言葉の魔術師」という。ジャンルの形式、差別性、独自性を十分認めたうえでの言語表現の違いです。白秋は「芸術の円光」の中で次のように述べている。「私は感動の度合いとその形式の差別によって、抒情といわず、長詩、短詩、小曲、小唄、民謡、短歌、短唱、俳句、新古さまざまの形式をもって自由に表現することにしています。一つの形式を固執しません」という。また白秋は「かなとこ、かなしき)」という詩の「添削実例集」を出している.。詞を何度も変えて、推敲、調啄を繰り返すくせがあった。元に戻ることもあったという。詞を鍛え上げる創作者の姿である。時代時代を反映して変化してゆくが、白秋が脳に蓄積したイメージ=言葉の中には生涯変わらなかったものもある。「変わったもの」、「変わらなかったもの」という観点で「言葉の魔術師」を解剖するのが本書の目論見である。下の表に北原白秋の年譜(1885-1943年)を示す。本書で言及されている重要な詩集は太字で記しました。本書はこの年譜をいつも見ながら時系列的に話を進めてゆくので重要になります。著者今野真二氏は初めて読む人なので、著者のプロフィールを見る。1958年神奈川県鎌倉市生まれ。1982年早稲田大学文学部国文科卒、1985年同大学院博士課程後期退学。1986年松蔭女子短期大学講師、助教授、1995年高知大学助教授、1999年清泉女子大学文学部助教授、教授。2002年『仮名表記論攷』で金田一京助博士記念賞受賞。専攻は日本語学である。主な著書は、『消された漱石――明治の日本語の探し方』笠間書院 2008、『大山祇神社連歌の国語学的研究』清文堂出版 2009、『振仮名の歴史』集英社新書 2009、『百年前の日本語――書きことばが揺れた時代』岩波新書 2012、『盗作の言語学 表現のオリジナリティーを考える』集英社新書2015 、『辞書をよむ』平凡社新書2015、『リメイクの日本文学史 リライトの日本文学史』平凡社新書2016などがあります。著者は言う「言語学(日本語学)というのは、目にはみえないけれども共有されているであろうルールみたいなものをみつけていくという面があるわけです。日本語の研究や日本文学の研究をとおして、言語を使って思考するということをおぼえてもらおうとしているわけです。そういう応用力を身につけてほしい。」という。
詩歌について私に発言権があることを証明するつもりもないが、経験の蓄積としてこれまで私が読んだことがある詩集(俳句・和歌を含む)を、日本の詩、西洋の詩、中国の詩(漢詩)別にまとめておこう。監修者も記さず順不同で示す。

1) 日本の詩集:
 万葉集(角川文庫)、古今和歌集(岩波文庫)、山家集(岩波文庫)、金槐和歌集(岩波文庫)、奥の細道(岩波文庫)、芭蕉俳句集(岩波文庫)、芭蕉紀行文集(岩波文庫)、蕪村俳句集(岩波文庫)、一茶俳句集(岩波文庫)、一茶「父の終焉日記」、「おらが春」(岩波文庫)、子規句集(岩波文庫)、正岡子規「仰臥漫録」(岩波文庫)、正岡子規「病床六尺」(岩波文庫)、高浜虚子「俳句はかく解しかく味わう」(岩波文庫)、種田山頭火「山頭火句集」(ちくま文庫)、赤彦歌集(岩波文庫)、斎藤茂吉歌集(岩波文庫)、土井晩翠詩抄(岩波文庫)、宮沢賢治詩集(岩波文庫)、中野重治詩集(岩波文庫)、中原中也詩集(岩波文庫)、与謝野晶子歌集(岩波文庫)、伊藤佐千夫歌集(岩波文庫)、高村光太郎詩集(岩波文庫)、石川啄木歌集(岩波文庫)、吉井勇歌集(新潮文庫)、尾崎喜八詩集(新潮文庫)、伊藤静雄詩集(新潮文庫)、伊藤整詩集(新潮文庫)、堀口大学「月下の群れ」(新潮文庫)、井上康「北国」(新潮文庫)、高村光太郎「智恵子抄」(新潮文庫)、高村光太郎詩集(新潮文庫)、萩原朔太郎詩集(新潮文庫)、三好達治詩集(新潮文庫)、西脇順三郎詩集(新潮文庫)、室生犀星詩集(新潮文庫)、村野四朗詩集(新潮文庫)、草野心平詩集(新潮文庫)、会津八一「鹿鳴集」(新潮文庫)、島崎藤村詩集(新潮文庫)、北原白秋詩集(新潮文庫)、上田敏「海潮音」(新潮文庫)、若山牧水歌集(新潮文庫)、立原道造詩集(角川文庫)、高見順「死の淵より」(講談社文庫)、佐藤春夫詩抄〈岩波文庫)、谷川俊太郎詩集(岩波文庫)、谷川俊太郎詩選集1-3(集英社)、宮沢賢治詩集(新潮文庫)、現代詩人全集第9-10〈岩波文庫)

2) 西洋の詩集:
 ボードレール詩集(堀口大学、新潮文庫)、ボードレール「悪の華」(堀口大学、新潮文庫)、ポー詩集(安部保、新潮文庫)、ランボー詩集(堀口大学、新潮文庫)、ランボー全詩集(宇佐美斉訳、ちくま文庫)、ランボー「地獄の季節」(小林秀雄、岩波文庫)、ヴェルレーヌ詩集(堀口大学、新潮文庫)、コクトー詩集(堀口大学、新潮文庫)、ヴァレリー詩集(鈴木信一郎、岩波文庫)、ジャム詩集(堀口大学、新潮文庫)、ハイネ詩集(片山敏彦、新潮文庫)、ゲーテ詩集(高橋健二、新潮文庫)、バイロン詩集(安部知二、新潮文庫)、ヘッセ詩集(高橋健二、新潮文庫)、リルケ詩集(富士川英郎、新潮文庫)、アポリネール詩集(堀口大学、新潮文庫)、プーシキン詩集(金子幸彦、岩波文庫)、コウルリジ詩集(斎藤勇、岩波文庫)、シェークスピア詩集(高松雄一、岩波文庫)、ツルゲーネフ詩集(神西清、岩波文庫)、シュトルム詩集(藤原定、角川文庫)、ゲーテ詩集1-4(片山敏彦、岩波文庫)、ローラン詩集(有永弘人、岩波文庫)、マラルメ詩集(鈴木信一郎、岩波文庫)、サンドバーグ「シカゴ詩集」(安藤一郎、岩波文庫)、ワーズワース詩集(田部重治、岩波文庫)、ギリシャ抒情詩選(呉茂一、岩波文庫)、ヘンダーリン詩集(小牧健二、岩波文庫)、ローレンス「愛と死の詩集」(安藤一郎、岩波文庫)、ハイネ新詩集(番匠谷英一、岩波文庫)、ゲオルグ詩集(手塚富雄、岩波文庫)、リルケ「ドッイノの歌」(手塚富雄、岩波文庫)、ヴィヨン全詩集(鈴木信一郎、岩波文庫)、グレイ「墓畔の哀歌」(福原麟太郎、岩波文庫)

3) 中国の詩集:
 杜甫詩選(岩波文庫)、唐詩選(上・中・下)(岩波文庫)、中国名詩選(上・中・下)(岩波文庫)、蘇東坡詩選(岩波文庫)、李賀詩選(岩波文庫)、陶淵明全集(上・下)(岩波文庫)、王維詩集(岩波文庫)

(つづく)