ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 金子勝・児玉龍彦著 「日本病ー長期衰退のダイナミクス」 (岩波新書2016年1月)

2017年04月16日 | 書評
失われた20年のデフレ対処法の失敗は、アベノミクスのブラセボ経済策によって「長期衰退期」を迎えた 第6回

2) 「日本病」の症状―アベノミクスの失敗 (その3)

最後にアベノミクスの化けの皮が剥げていることを指弾した、服部茂幸著 「アベノミクスの終焉」(岩波新書2014年8月)を紹介する。アベノミクスの早々とした萎縮に疑問を呈し、検証作業をおこなったのが服部茂幸氏の本書である。客観的に評価するのはまだ早いというのではなく、こんなまずい政策は早急にやめるべきというのだ。これは経済学上の立場の違いからくる。筆者はアベノミクスが始まる前からその批判者であった。筆者はポスト・ケインジアン派(ジョーン・ロビンソン、ミハウ・カレツキが代表格で、ヨーロッパに多く存在しアメリカでは非主流である)に共感するようである。服部茂幸著 「新自由主義の帰結」(岩波新書 2013年5月 )において、服部氏は新自由主義のもたらす金融危機は実体経済を破壊するという。アベノミクス1年半の成果を検証 して、4つのアベノミクスの失敗を挙げている。
① マネタリーベースの増加はリフレ派が考える経済成長の手段であって、目標ではない。日本経済がマネタリーベースの数値に比例するわけでは決してない。マネタリーベースはいわば虚数であって実数とはなりえない。マネタリーベース量と経済成長率の理論関係が何もないからである。景気づけの花火と言いってもよい。そのために失うものが莫大であることを日銀は知って知らぬふりをしている。安倍氏が無制限金融緩和を主張してから株価と円安が急進行した。2013年上半期の経済成長率は4%を超えた。金融緩和が実施されたのは4月であり、効果が出るとしたら数か月後のことである。従って13年上半期の経済成長率の増加は異次元金融緩和とは全く関係のない事象である。株価と円ドルレートのチャートを見ると、2012年10月から2013年5月の株価大暴落までの期間は直線的に両者は上昇した。しかし5月23日を期にして2014年5月までの1年間は両者はほとんど停滞している、株価(日経平均)14000円、円ドルレートは100円/ドルであった。5月23日の株価大暴落は日銀の長期国債の大量買い付けが国債価格を不安定にしたためである。これを期に株価も円ドルレートも全く動かなくなった。これがアベノミクスの第1の失敗である。
② 初期の段階で円安と株価上昇はなぜ起こったかというと、政策の効果では全くあり得ない。人々の期待に乗った投資家たちの「偽薬効果」である。円安の狙いは輸出を拡大させることであった。日本の経常収支黒字は1997-2010年の間10兆円を超えていた。円安で輸出産業が拡大するというのは必ずしも当たらない。ところがリーマンショック後伸び悩む輸出に比べて輸入は堅実に増加の一途をたどっている。円安の不利な条件下でも輸入は増え続けている。これは原発停止によるエネルギー価格高騰の為というのは言いがかりみたいなもので、大震災にもかかわらず輸入は増加し続けているのである。経済構造の大きな変化が背景にあるようで、電子家電の不振に象徴される製造大国日本の地盤が大きく浸食されているのが原因であろう。2011年3月の大震災を期に日本は貿易赤字(貿易収支マイナス)になり、経常収支(投資、金利収入などを含む全収支)も2013年末には赤字となった。日銀の金融大緩和が始まると皮肉にも経常収支が悪化した。これは金融政策ではどうしようもない産業構造の沈下こそが大問題なのである。アベノミクスの第2の失敗は輸出拡大による経済復活に失敗したことである。
③ アベノミクスが始まっても実質賃金は変化がないか減少している。実質賃金と可処分所得、実質消費の3者は基本的に同内容であるためほぼ連動して変化するものである。実質消費は物価値上げや消費税増税を受けて上昇し、2013年下半期の消費の増加が急激であった。賃金や可処分所得が増加しないで、消費額が見かけ上上昇するとどうなるかは、生活の圧迫以外の何物でもない。貯蓄の取り崩しから始まって次第に生活レベルの低下となり、消費の減少すなわち需要の減少となることは説明を待たない。2014年の春闘では2%程度もベースアップをする企業もあったというが、厚生省の2014年4月の所定内給与は0.2%低下したという。実質賃金は3%も低下した。勤労者家計の消費の減少は名目で3%、実質で7%だという。内閣府の消費者動向調査では13年度末より各指標は急速に悪化している。アベノミクスの第3の失敗は、賃金が低下し、消費が落ち込んだことである。
④ 2014年4月の消費税増税を前に耐久財消費、民間住宅消費、政府支出を合わせるとGDP の4割を占める。駆け込み時需要の反動で2014年度第1四半期の経済成長率はマイナスとなり、第2四半期になっても回復していないという。景気の底だった2009年から計算するとアベノミクスまでに日本経済は7%成長した。2013年前半にはさらに2%成長した。ここまではアベノミクス効果とは関係ない日本経済の回復期の効果である。異次元緩和が始まってから経済成長率は低迷した。低迷する経済はアベノミクスの異次元緩和の第4のそして最大の失敗である。

(つづく)