ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート マックス・ヴェーバー著 「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」 岩波文庫

2012年11月24日 | 書評
営利の追求という近代資本主義の誕生とピューリタニズムの宗教倫理との結合 第10回

第1章 問題(1:信仰と社会層 2:資本主義の精神 3:ルターの天職観念) (3)
 第1章の3: ルターの天職観念ではルター派の職業観念の意義と限界を検討する。プロテスタントの優勢な地域・国には必ず天職(神から与えられた召命)といった観念が存在する。これはルターの聖書翻訳「ベン・シラの知恵」に源を発するものである。旧約聖書のヘブライ語では最初は祭司の職務という意味であったが、神の訓戒の実行という「召命」、そして「職業労働」を指すようになり、ドイツ語のberufの意味となった。天職の思想は宗教改革の産物であった。世俗的職業の内部における義務の遂行を、道徳実践の最高内容として重要視したことである。神に喜ばれる生活を営む手段はただひとつ、各人の生活における世俗的義務の遂行であった。これこそが「召命」に他ならない。世俗の職業生活にこのような道徳的性格を与えたことが、ルターの宗教改革における後代への最大の影響であった。全体としてみれば聖書は伝統主義に有利な思想が多いが、この点だけは革新的な影響を及ぼした。しかしルターの経済思想はパウロの無関心に近く、結局ルターは宗教原理と職業労働との結合を根本的に打ち立てるには至らなかった。ルター派からは実践的世俗的職業を導くことは出来ない。それはカルヴィニズムとプロテスタント諸信団(ゼクト)の顕著な役割に譲らざるをえない。ピュウリタニズムの神話といわれるミルトンの「失楽園」に見るように、現世に対する厳粛な関心というか、世俗的内的生活を使命として尊重する生活態度が資本主義の精神とよい親和性を持ったというべきであろう。これを「選択的親和性」という。原因ー結果という一義的関係ではなく、数ある要因の中で最も良く調和したいうべきであろう。
(つづく)

読書ノート 宮崎勇・田谷禎三著 「世界経済図説」 第3版 岩波新書

2012年11月24日 | 書評
世界金融危機・ユーロ危機を経た現在の経済状況を図説から読む 第11回

5)指令経済と「南」の市場経済 (1)
①社会主義対資本主義ではない
 1991年にソ連が自壊し社会主義対資本主義の構図は消滅した。しかしここで問題とするのは指令型経済のことである。しかし中国では社会主義市場経済が存在するし、独自の社会主義を唱える国もある。指令経済とは①官僚的非高率な経済運営②人為的資源配分③政治軍事優先経済④対外的閉鎖措置⑤軍事部門の独立による軍民経済圏の分離という特徴を持つ経済のことであった。では中国はどうかというと釈然としない。ようするにこの5章で述べるのは先進資本主義市場経済以外の経済体制国を扱うということである。それらの国が全部指令経済かといえばそうでないのである。社会主義経済国と後進国経済をごちゃ混ぜに議論しても意味が無い。
②ソ連の解体、混乱と復興発展
 1991年のソ連邦崩壊によって、市場経済への移行がスムーズに行かず、企業経営の経験不足からロシアの経済成長は一時マイナスとなったが、2000年ごろから回復し5%以上の成長率を続けた。ロシアの回復は中国のような貿易依存型ではなく(輸出入とも世界の2-3%シェア)、2010年では経常収支の対GDPは5%と黒字となった。これはプーチン政権以来の資源貿易でBRICsとして経済発展を遂げた。インフレ率も沈静化し5-6%ほどである。産業構造は1次産業が5%、鉱工業などの2次産業が36%、サービスなど3次産業が59%である。中国よりは第3次産業への傾斜が進んでいる。
③中国の市場経済化と発展
 1993年の全人代で憲法改正を行い中国は「計画経済」から「社会主義市場経済」を目指すと変更した。分権と市場化を2つの柱とする。政府は混合体制の中で国有企業の改革、金融改革、行政組織改革を始め「開放・改革」の真っ只中にある。生産・雇用の約30%は外国企業や香港・マカオ・台湾の資金を受けている。海岸部では成果が上がったが、今内陸部へ向かっている。金融証券の国際化は始まったばかりであるが、経済大国への道を歩み始めた。2011年にはGDPで日本を追い抜き世界第2位となった。
④インドの経済発展
 インドは市場経済と社会主義的経済の混合経済体制である。1990年以降インドは目覚しい発展を遂げ経済成長率は5-10%を維持している。現在インドの経常収支は赤字である。産業構造はサービス業が50%、製造業が30%、農業が15%であり次第に成熟社会に入りつつある。なかでもインドはIT情報関連産業発展が目立つ。ただ地域間格差が大きい。人口抑制政策は中国ほど顕著ではなく幼少人口が多い。(中国:釣鐘型、インド:ピラミッド型)
⑤アジア諸国(日本・中国を除く)の経済発展
 アジア諸国は輸出中心の経済発展を遂げて、1998年のアジア通貨危機に見舞われたが2000年には再び発展の軌道に乗った。韓国、香港、台湾、シンガポールは「四匹の龍」といわれ、21世紀は平均4%を超える経済成長率を維持した。ACEAN中核国(マレーシア、ブルネイ、タイ、フィリッピン、インドネシア)、ベトナム、ミャンマーの順で経済発展をしてきた。なかでもベトナムの経済成長率は高くこの10年で平均7.3%であった。また域内貿易比率が高く経常収支は黒字である事から経済成長は高めで推移している。この地域の経済成長の貿易依存体質は、GDPに対する輸出比率で見ると、2008年で韓国が45%、台湾70%、香港168%、シンガポール185%、マレーシア90%、ベトナム68%などから分かる。ちなみに中国は33%、日本は16%。アメリカは8.8%であった。
(つづく)


筑波子 月次絶句集 「暮秋夜景」

2012年11月24日 | 漢詩・自由詩
鏡面長江雁影横     鏡面の長江に 雁影横り

天寒永夜乱秋聲     天寒く永夜 秋聲乱る

葉紅舞散風初切     葉紅に舞い散り 風初て切に

露白弦黄月正明     露白く弦黄に 月正に明なり


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(韻:八庚 七言絶句仄起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)