ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 小野善康著 「成熟社会の経済学」 岩波新書

2012年10月28日 | 書評
生産力過剰の成熟社会の長期不況は、内需拡大による雇用創生が鍵 第2回

序(2)
 本書は比較的分かりやすい論点を提示している。長い不況で民間企業の本質からして国(内需)を棄てて国際企業として生きる道を取っている以上、民間企業の右上がり経済成長に期待することは不況対策にはならないことが分かった。小泉流構造改革で便宜を図ってやった企業は恩をあだで返すように去った。そのような企業を援助する必要も無い事は明らかである。「去るもの追わず」とすると、いわゆる内需拡大策しか日本という国民国家は成り立っていかないことも確かである。民が頼りにならないとすると相対的に政府の役割が大きくなる。経済学ではいわゆる市場主義と称される新古典学派と景気重視といわれるケインズ経済学の立場からすると、不況は一時的な需要と供給のアンバランス現象で長期的には完全雇用は回復するという前提である。そういう意味で現在の長期不況という発想はない。開発途上国社会では生産の効率に邁進すれば生活は豊かになると信じて働く社会であった。ところが日本のように1980年代末からのバブルを経験して1990年から長期不況に入った社会では不況を長期的な現象としてとられる必要がある。著者は「長期不況を念頭に「増税してもそれによって政府が雇用を作れば、経済成長は出来る」と主張している。新古典主義派は政府が雇用を作ると民間を圧迫するといい、ケインズ派は増税すると民間から金を取り上げることになり景気を冷やすという。しかし著者がいう成熟期の経済学では、「成熟期の長期不況は生産性の低さではなく需要の不足が原因である。政府が雇用を作って事業を行っても余った労働力を使うだけで民間の生産活動は圧迫せず、納税者や消費者から増税しても新たな雇用を通じて戻されるため景気を冷やすことは無い」という。これと同じ効果は、消費者の消費拡大によっても生まれる。だからこそ自分の生活を楽しむ知恵が必要で、観光、iPaD・ITなどの新しい需要を創造しなければならないのだという。
(つづく)

読書ノート 山口二郎著 「政権交代とは何だったのか」 岩波新書

2012年10月28日 | 書評
マニフェストを実行できない民主党の問題と民主政治への展望 第5回

1)民主党政権の2年間の軌跡 (2)
 2010年6月普天間基地問題で鳩山が退陣し、菅直人政権が誕生した。小沢とは距離を置くスタンスで「強い経済、強い財政、強い社会保障」というスローガンをかかげ、経済成長路線が復活した。その柱として消費税率引き上げによる財政再建を訴えて7月の参議議員選挙を闘ったが破れ、参議議院では自民党時代の攻守変更した「ねじれ国会」が再現した。9月の民主党代表選挙では小沢を斥けて民主党の統一と首相の座は守ったが、党内のグループの対立はかえって鮮明となった。菅政権は「生活第一」路線を「経済成長」路線に修正し、TPP参加と法人税減税、アジアへの原発技術輸出支援というマニフェストにない政策を突然前面に打ち出した。その中で3月11日東日本大震災が発生し、原発事故という未曾有の困難に直面した。この緊急事態で政府は単純な政治指導を改め具体的に問題について官僚機構との協力関係を再構築することになった。政府内に復興構想会議が設けられ地元自治体との調整に直面した。原発事故の対処には政府は東電や経産省の手の内に落ちた感が強かったが、官首相は5月静岡県にある中部電力浜岡原発を停止させ、脱原発路線を表明し、再生可能エネルギーの開発促進のため固定価格買取制度の導入法を成立させた点はさすが民主党政権でなければと納得させた。6月野党の首相不信任案を提出に小沢グループが同調するような構えを見せたことで、菅首相は退陣を条件に第2次補正予算、再生エネルギー法案を可決して、8月末に退陣した。ついで民主党から党内融和を掲げて野田首相が選出され、政策的にはTPP参加・普天間基地から名護への移転・消費税率の引き上げなど自民党政治の継承発展に傾いた。ここにいたって2009年の政権交代への期待は雲散霧消した。アンチ自民党というテーゼで政治を行なうことはもはや限界に達したようだ。
(つづく)

筑波子 月次絶句集 「江村晩秋」

2012年10月28日 | 漢詩・自由詩
洲翁柳岸繋漁舟     洲翁は柳岸に 漁舟を繋ぎ

煙蔽長橋墨色鮮     煙は長橋を蔽い 墨色鮮なり

寂漠蒼山横落日     寂漠たる蒼山に 落日横わり
 
蕭然孤雁度平川     蕭然と孤雁は 平川を度る


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(韻:一先 七言絶句平起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)