ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 真藤宗幸著 「司法官僚ー裁判所の権力者たち」 岩波新書

2010年07月28日 | 書評
最高裁判所事務総局の司法官僚 第4回

 では裁判官とはどういう人達なのか。簡単にキャリアーをいうと、大学の法学部を卒業し(在学中)司法試験に合格して、1年半の司法研修を受け、弁護士・検事・判事の道のひとつである判事を選んだ人達である。日本の裁判官の数は先進国では極めて少ない。10万人当たりの裁判官数は、ドイツが24人、アメリカ10人、イギリス7人であるのに対して日本は2人である。日本の判事は3500人いる。そして常時300件の事件を担当している超多忙な職種である。一週間に3日法廷を開いている。そして「転勤族」で3または5年で転勤を繰り返すので、自宅を持つ人はいない。地域の人と付き合わないことや繁華街には出かけない一般交通機関を利用しないという隔離された人種である。職業倫理意識の高い人で、権威を強く意識する人である。裁判官は司法研修所をおえて「判事補」として任官し、殆どの人は10年後に判事に昇格する。ここで一人前である。判事の任期は10年で、再任のための裁判官評価が行われる。判事の俸給は1号から8号の8段階で上がってゆく。再任制度と俸給号制度が判事のサラリーマン化であり、心理的に種々の統制を受けるようである。戦後日本の司法は、戦前の司法省という行政支配を脱し、最高裁判所を頂点とする独立した組織である。独立した組織である以上、強大な権限を持つ司法行政機構である最高裁事務総局を持っている。本書は①裁判官を統制する「司法官僚」の存在を明らかにし、②その「司法官僚」のキャリアーパスを見て「エリート選別方式」を明らかにし、③そして人事政策と裁判の実質である裁判内容に司法官僚の統制の実態を見て、④最後に「市民参加」のために必要な司法改革を考えようとする。
(つづく)

環境書評 井田徹治著 「生物多様性とは何か」 岩波新書

2010年07月28日 | 書評
地球上の生物の多様性を失うことは人類の生存の危機 第8回

3)レッドプログラムー保護から再生へ (1)

 生物多様性はが直面する危機は、ただ手をこまねいて政府に対策を要望するだけでは一向に改善しない。世界各国での生物多様性の損失に歯止めをかける取り組みを紹介する。些細な一歩だが大きな一歩となる事を願って、巨大な破壊力に抗することは、結論的にはなかなか難しい。ユカタン半島の根本にあるベリーズは最近独立したばかりのカリブ海の国である。ベリーズの沖にあるサンゴ礁はオーストラリアのグレートバリアリーフに次ぐ規模を持つ。1996年「ベリーフのサンゴ礁保護区」として「世界自然遺産」に登録された。ここはホットスポット「カリブ海諸島」の主要な部分である。絶滅が心配される「ジンベイザメ」は、2001年にワシントン条約により国際的取引が規制された。この地域の漁業は乱獲から漁獲量は激減した。地元の環境保護団体「自然の友 FON」は2003年2月、世界で始めてジンベイザメの海洋保護区を作った。保護区の監視作業を続け、ダイビングとガイドの「観光業」が地域の主要産業になったという。皮肉なことであるが今度は観光業の行き過ぎで、サンゴ礁が2009年に「危機的な世界遺産リスト」に挙げられた。2005年生物多様性条約締結国会議は、各国の排他的経済水域EEZの10%を海洋保護区にするべきだと数値目標を掲げたが、現在の海洋保護区の割合は0.9%に過ぎず、10%の目標が達成できそうなのは2050年ごろである。
(つづく)

読書ノート 宮本太郎著 「生活保障ー排除しない社会へ」 岩波新書

2010年07月28日 | 書評
雇用と結び付ける「生活保障」政策 第12回

4)新しい生活保障とアクティベーション (3)

 雇用と社会保障の新しい連携を「アクティベーション」というが、このモデルでは雇用を支えるために次の4つの機能が必要である。①人々の就労や社会参加を促進する「参加支援」の政策領域、②就労の見返りを大きくする政策領域、③雇用の創出と維持のための政策領域、④労働時間の短縮や労働市場からの一時離脱が可能な政策領域である。相互関係を見ると、①と④は人に焦点をあてた政策であり、②と③は雇用の場に関する政策である。北欧やイギリスでは①と②の政策領域、つまり参加支援と見返りのある労働市場作りで重視されてきた。近年スウェーデン型生活保障や第3の道路線の行き詰まり状況から③と④の政策領域が浮上している。

① 参加支援
「翼の保障」という労働の流動化に伴う生活を保障する政策バッテリーである。第一に働らく者の高等教育が地方で行われ、家族へのケアの負担を取り除く政策、職業訓練や職業紹介など積極的労働市場政策など仕組みが整備されることが必要である。
② 働く見返りの強化
労働市場が働く人の生活を維持するにたる見返りをもたらさないと、生活保障はそもそも成り立たない。「働けど我暮らし楽にならず、じっと手を見る」では困るのだ。したがって最低賃金制度の見直しと均等待遇の実現は基本的な政策でなければならない。日本の基本賃金は低い。男性稼ぎ主の安定した雇用が揺らいでいる今、パート・非正規労働の賃金が見返りが強化されないと、全員が貧乏生活になってしまう。「ベーシックインカム」の「給付付き税額控除」などの支援や高い賃金を得るためにキャリアパス形成支援が求められる。
③ 持続的雇用の創出
地域に雇用を作り出してゆく政策である。道路などの公共事業は日本のお家芸であったが、オバマ大統領の「グリーン・ニューディール」が提唱された。スウェーデン型の先端部門に労働力を移動させる政策もグローバル企業の「雇用なき成長」では行き詰まった。労働力を吸収する新しい事業の創出とは、いう言うは易く、実現は困難である。
④ 雇用労働の時間短縮と一時休職制度
有償労働時間は世界的に短縮の傾向であるが、日本では無償労働が正規社員に強いられている。経済不況は緊急避難的には「ワークシェアリング」を生み出したが、賃金低下は避けられない。主婦などが出産育児で職を離れる生活保障がない安心して働けない。
(続く)

月次自作漢詩 「城市欲雨」

2010年07月28日 | 漢詩・自由詩
日午埃塵城市中     日午埃塵 城市の中

烏雲翻墨起炎空     烏雲墨を翻し 炎空に起る

油然伴雨怒風伯     油然と雨を伴って 風伯怒り 
   
一撃煌煌激電公     一撃煌煌と 電公激す

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(韻:一東 七言絶句仄起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)

CD 今日の一枚 ブルックナー 「交響曲第5番 変ロ長調」

2010年07月28日 | 音楽
ブルックナー 「交響曲第5番 変ロ長調」
バレンボイム指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
DDD 1991 TELDEC

ブルックナーの世界は限られたジャンル(交響曲、宗教曲)でブルックナーらしさで満ちている。まず最初数秒間以上何も聞こえてこない。ボリュームを上げればかすかに聞こえるのだが。これを「ブルックナー的開始」という。そして金管による主題が浮かび上がる。交響曲第5番は1876年の作品。