ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

医療問題:「学習障害LD」に理解を

2010年07月10日 | 時事問題
医療に関する提言・レポートfrom MRIC(2010年7月6日)「学習障害」 田中祐次 東京女子医大先端生命医学研究所  より

 「学習障害(LD)」とは1999年の文科省の定義によると「全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する、推論する能力のうち特定のものの習得に著しい困難を示す状態を指す」という。多動など「行動障害(ADHD)」とは区別される。学校の調査によると、小中学校で6.3%、高校で2.2%の学習障害の生徒がいるそうだ。学習障害への認識は不十分で、精神科医があやまって抗精神薬を投与し続けた例もあり、現在治療法はないが精神科医による抗精神薬最少投与と精神療法、また居場所探しなどが学校単位で行なわれている。1992年にLD学会も生まれ、会員は医師、心理関係者、学校関係者を中心の6000名弱であると云う。専門に対応している学校としては星槎国際高校があるという。通える通信制高校を設立した。

読書ノート 高橋昌明著 「平家の群像ー物語から史実へ」 岩波新書

2010年07月10日 | 書評
「平家物語」の描く平維盛と重衡のイメージと実像と史実 第7回 

1)小松家の「賢人」重盛と「光源氏」維盛 (2)

殿下乗合事件とは

 後白河上皇がご出家され法皇となって政治を支配した。後白河法皇は内心は清盛が余りに天下をほしいままにしていることに、天皇家の威信をきずかわれているようだった。清盛も別に天皇家を恨む事もなかったのであるが、嘉応二年小松殿(重盛卿)の次男資盛の摂関家(藤原基房)への乱暴家狼藉事件が発生して世の乱れ始める兆しとなった。摂関家(藤原基房)が御所へ参内する道で、狩を終えて六波羅に帰る13歳の資盛一行30人の騎馬に遭遇した。摂関家の車に下馬の礼を取らなかったとして、基房は資盛一行に恥辱を与えた。これを聞いた清盛はいかに摂関家といえど清盛への侮辱であるといきり立ったが、重盛卿はわが息子に非があるとした。それでも清盛は納まらず、無骨者60余名に命じて基房卿の車を襲って舎人の髷を切って仕返しをした。鎌足以来の藤原摂関家への恥辱でもあった。重盛卿はこれを聞いて驚き、資盛を伊勢の国に追放して謝罪した。この話は藤原摂関家と武家の棟梁平清盛の勢力の争いで、清盛は摂関家を叩くことができたが、天皇家(藤原家とほぼイコール)の不興を買い、後白河法皇と敵対関係になってゆく。重盛卿はいつも清盛を諌める役を演じているが、重盛卿が平家一門と後白河法皇の折衝に当っていたことが分る。バランス役の政治家であった。
ところが愚管抄には全く逆に「深く妬み給いて」とある。事実は仕返しは資盛の父重盛の仕業であると云う。清盛を悪者に、重盛を賢人に描くことが平家物語のストーリーである。重盛には長男維盛、次男資盛、三男清経、四男有盛、五男師盛、六男忠房がいた。
(つづく)

読書ノート 砂田一郎著 「オバマは何を変えるか」 岩波新書

2010年07月10日 | 書評
オバマ大統領就任後半年間の初期評価 第11回

アメリカ社会を変える二つの政策 (2)

 2月に公的制度「州児童医療保険計画」拡大法案が議会を通過した。4月より両院で各種委員会が医療保険改革立法の審議を開始された。個人主義の強いアメリカで、医療保険を政府が併合することに保険会社は権益を奪われると、猛烈なロビー活動を議員にたいして行っている。国民皆保険を達成するために企業経営者に保険加入を強制することは、雇用者に対して従業員への医療保険の提供を義務つけるため中小企業経営者の反対が強い。個人に対しては保険料の支払いが不可能な低所得者に補助金を出すことには異論は出ないのだが、受給資格の年収65000ドルから88000ドルを巡って論争が続いている。保険料補助などに10年間で1兆ドル以上かかると予算局は見ている。したがって財源確保のため課税措置がセットにならざるを得ないだろう。6月9日上院の教育、労働、年金委員会が民主党の医療保険改革案を可決した。7月には下院の教育、労働、年金委員会が改革案を可決したが、両院とも財政委員会での審議が終結しなかったので足踏み状態となった。課税方式や公的プランを巡って共和党と民主党の協議が続き8月の議会休会までには審議が終らなかった。大統領は法案の成立のために精力的に世論の盛り上げに動いたが、7月30日の妥協案は下院はまとまる可能性があったが、上院が出来なかった。改革反対派は(保険業界のロビー活動)民間医療保険加入者の条件が悪くなるなどというデマを振りまいて抵抗し、その間にオバマ大統領の医療保険改革への支持率も57%から49%に低下した。議会は9月第2週から再開されるだろうが、両院議会での法案の一本化は容易には進まないだろう。そこでオバマ大統領がどのような折衷案を出すかによっている。保険業界が新しい体制に沿った業界の対応姿勢をとるか、あるいはどうしてもオバマ改革案を潰すつもりなのかまだ不透明である。オバマは医師会や高齢退職者団体を取り込んで利益集団の力関係をうまく調整できるか手腕が問われている。なお2009年11月7日 アメリカ下院はヘルスケアー改革法案を賛成220対反対215で辛うじて賛成多数で可決した。オバマ大統領は支援団体に向けてメールを送り「この法案可決の成果はあなた方の声によるものです」と市民の力を讃えたという。現在上院での審議に関心が移っているが、先行きは不透明である。
(つづく)


読書ノート 徳永恂著 「現代思想の断層ー神なき時代の模索」 岩波新書

2010年07月10日 | 書評
ニーチェ は神を殺したが、20世紀の思想家達の模索は続く 第14回

アドルノと「故郷」(1)
 
 テオドール・ルートヴィヒ・ヴィーゼングルント=アドルノ(1903年 - 1969年)はドイツのユダヤ系の哲学者、社会学者、音楽評論家、作曲家である。1930年からフランクフルト大学に新設された社会研究研究所の社会哲学の教授だったが、第二次世界大戦中は アメリカに亡命。戦後、再びこの研究所が、再スタートを切ったときに、マックス・ホルクハイマーと共に研究所の所長に就任、亡くなるまでここに籍を置いた。フランクフルト学派を代表する思想家であり、その影響は現在でもなお大きい。ナチスに協力した一般人の心理的傾向を研究し、権威主義的パーソナリティについて解明した。権威主義的態度を測定するためのファシズムスケール(Fスケール)の開発者として有名であり、20世紀における社会心理学研究の代表的人物である。作曲家としても作品を残し、アルバン・ベルクに師事した。シェーンベルクをはじめとした新ヴィーン楽派を賞賛する一方、ストラヴィンスキーやヒンデミットなどの新古典主義的傾向をもつ音楽や、シベリウス、リヒャルト・シュトラウス、ヨーゼフ・マルクスといった、20世紀において後期ロマン主義のスタイルをとり続ける作曲家には否定的であった。また大のジャズ嫌いであったことは有名である。

 本書はアドルノ(1903-1969)とハイデガー(1889-1976)を対比させながら20世紀前半のドイツ哲学の争点を明確にしようとするつもりらしい。著者はドイツ留学の時アドルノに師事した思い入れもあって、ここでアドルノを介してドイツ哲学をレビューする意図が明確である。従って本書に占めるこの章の比率が高いのはやむをえないが、これまでの社会学、文化評論から急に哲学用語が多くなって私には理解が困難となるのが悔しい。1933年ナチスが政権をとった当時、ハイデガーはフライブルグ大学総長としてドイツ国民尾精神的指導に乗り出す大御所とすれば、アドルノは初めて教授資格論文「キルケゴール論」を書いたは言え、全く無名のフランクフルト大学の講師になったばかりで、翌年には反ユダヤ法によって休講させられ教授資格も奪われてイギリスに亡命留学せざるを得ない状況であった。1960年代にはアドルノは新左翼世代に担がれた新進批評家で、ハイデガーは隠棲した伝統的な大物哲学者という立場であった。とにかく実生活では接点がない者同士を著者は哲学的意味において対照し対決させるのである。注目する時期はアドルノが「キルケゴール論」を執筆中で、ハイデガーが「存在と時間」を著わした1930年前後と、アドルノが「啓蒙の弁証法」を著わし、ハイデガーが故郷に帰りニーチェ・ヘルダーリン研究に没頭した1940年前後の2つの時期を対象とする。
(つづく)

月次自作漢詩 「梅雨連陰」

2010年07月10日 | 漢詩・自由詩
軽燕低飛入戸来     軽燕低く飛んで 戸に入り来り

前庭環屋長青苔     前庭屋を環て 青苔長ず

斉斉新緑過籬荀     斉斉たる新緑 籬を過る荀
   
暗暗連陰隔葉梅     暗暗たる連陰 葉を隔る梅

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(韻:十灰 七言絶句仄起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)