ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

自作漢詩 「山堂避暑」

2008年08月09日 | 漢詩・自由詩


林影柴門暑漸     林影柴門 暑漸く微なり

泉聲夏木避炎     泉聲夏木 炎威を避く

松陰蝙蝠馴人過     松陰の蝙蝠 人に馴れて過ぎ  
  
幽谷山雲掠塔     幽谷の山雲 塔を掠めて飛ぶ 

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(赤い字は韻:五微 七言絶句仄起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)

美術散歩 朽木ゆり子著 「フェルメール全点踏破の旅」 集英社新書ビジュアル版

2008年08月09日 | 書評
17世紀オランダの風俗画家フェルメールの全作品 第10回
フェルメール絵画7: 「小路」(推定1650年) (53.5×43.5cm)  オランダ アムステルダム国立美術館


フェルメールの絵には風景画といえるのは生まれ故郷を描いた「小路」と「デルフト展望」の2枚しかない。2枚とも大変な名作である。小さな画面に大きな世界を表現するのがうまい。つまり極めて精緻な絵である。そこには穏かなオランダの小都市デルフトの日常世界が描きだれている。小さな絵の中にも、少女、働く女性があかいれんが壁と白い漆喰の色のコントラストの中で往来するのである。壁から暗い屋根を経て自然と空へ向かう遠近法は見事である。風俗画の延長からこのような均整の取れた風景画を描けるフェルメールの腕は確かである。さまざまな素材感が描き分けられている。レンガ、金属の取手、漆喰、木製の雨戸などの質感が一目でわかるのである。人物に用いられた色彩の配置も見事である。少女のくすんだ黄色と縫い物をする女の袖口の黄色と赤、掃除をしている女の赤茶色。「小路」がデルフトの何処を描いたのかについては諸説紛々で、とにかくフェルメールの生まれた家の近くであろうか。フェルメールの生家とされるところは宿屋「飛ぶ狐亭」といわれる。

文藝散歩 「御伽草子」  市古貞次[校註] 岩波文庫

2008年08月09日 | 書評
室町時代以降の庶民文学の始まり  第10回
猿源氏草紙

 伊勢国阿漕が浦(あつかましいと云う意味)に海老名六左衛門という鰯売りがいた。娘に猿源氏と云う者を婿にして、自分は都に上って「海老名の南阿弥陀仏」という遁世者になった。この猿源氏と云う鰯売りは洛中に出て「伊勢の国に阿漕が浦の猿源氏が鰯かふえい」といって鰯を売ったので、大変評判になって売れ金持ちになった。ある時猿源氏が鰯売りにでて五条の橋で網代の輿に出会った時、風で御簾が吹かれて中にいた美人を垣間見た。それ以来猿源氏はその女房に恋わずらいとなった。海老名の南阿弥陀仏が猿源氏の臥す家にきてさまざまな意見をしたが、猿源氏はものすごい知識の持ち主で、いちいち反論をしてやり返した。この反論自体が長い物語で省略するが、なかなかの理屈である。猿源氏はたいした弁論家である。猿源氏が調べたところによれば、女は蛍火と云う遊君(高級遊女)で大名高家しか相手にしないらしいという。猿源氏と海老名の南阿弥陀仏が考えるに、蛍火は都近くに居る大名(室町時代の大名家の名)を皆知っているので、宇都宮の大名に成り代わってアタックしてみようという企てになった。家来には鰯売りを語らって仕立て上げ30人ばかり集めて、宇都宮の弾正殿が遊びに来ると遊女の亭主に触れ回った。亭主は遊君10人を集めて宴会の席に侍らした。猿源氏は蛍火の歓心を得ることが出来、翌日首尾よく蛍火と契りを交わした。ところが猿源氏は酒に酔って寝言に「阿漕が浦の猿源氏が鰯かふえい」と叫んでしまった。これを聞いた蛍火はすっかり鰯売りに身を任せたものと悔しがった。そして猿源氏を起してこの言の意味を問い詰めた。この件は先ほどの反論と似て抜群の知識と歌の引用で出来てたストーリーである。阿漕が浦とは何、はしは何、猿源氏は何、鰯かうえいは何と云う矢継ぎ早の質問に次々と歌の引用で答えてゆく様は圧巻である。結局蛍火は猿源氏の歌の知識のまいったようである。かように物を知る事も威徳である。蔵の内の財は朽ちることもあるが、身の内の財は朽ちることがない。まるで官僚の答弁のように立て板を流すような流暢な詭弁も才能か。

CD 今日の一枚 ヘンデル「エジプトのイスラエル人 シオンへの道」

2008年08月09日 | 音楽
ヘンデル「エジプトのイスラエル人 シオンへの道」
エリオット・ガーディナー指揮モンテヴェルディ合唱団と管弦楽団 声楽ソリスト
 ADD 1979 ERATO

イギリスでのオペラ興行で手傷を負ったヘンデルはオラトリオ(宗教劇)に転向した。これを教会ではなく劇場で演奏することにヘンデルの革命性があった。「エジプトのイスラエル人」は旧約聖書「出エジプト記」より作曲された。第一部はモーゼのエジプト脱出、第二部はモーゼの十戒である。1時間30分以上の長編である。音楽的には私は「シオンへの道」のほうが盛り上がりがあり、感動的であると思った。