【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

「道州制」の背景は何か

2009-02-27 00:33:49 | 政治/社会
鈴木文熹『道州制が見えてきた』本の泉社,2008年

           
道州制が見えてきた   [本]

 現行の47都道府県を10前後の道州に再編する道州制の可能性が、かなり前から喧伝されています。市町村の平成の大合併が一段落し、次の課題が「平成の廃藩置県」である道州制ともいわれてますが、この背景には一体何があるのでしょうか。

 本書で、著者は究極の構造改革である道州制の背景、意図、内容を詳らかにしています。

 この本によると、地方分権改革が90年代後半からしきりに宣伝されるなか、文書として初めて「道州制」が記載されたのは、03年11月に公表された第27次地制調(地方制度調査会)の「今後の地方自治制度のあり方に関する答申」です。

 また、道州制導入の背景には、トヨタの世界戦略があります。本書からこのことがわかったのは収穫です。すなわち、トヨタが目指しているのは「世界企業」であり、従来の三河一極集中を脱却し、九州、東北、北海道に子会社を設けて「クルマ版列島改造」による生産の集積基地を目論むことの延長で、世界の列強と戦って勝てる体制の構築、それが道州制の背景にあるというのです。

 名古屋市が中部国際空港(貨物空港)を開港し、愛知万博を開催したのは国際都市への布石です。中部5県が州としてまとまることは、多国籍企業トヨタの悲願です。

 道州制は結局のところ産業界の強い要請が背景にあり、その全体像は国際的な問題の処理を国が、産業関係については道州が、国民の生活については基礎自治体(市町村)があたるという住み分けの構想に他なりません。

 それゆえ、道州制への再編は州内にある住民にとって重要な資源を大企業、巨大グローバル企業の利活用に供する「からくり箱」です。

 経団連の奥田前会長、御手洗現会長が道州制実現にやっきになのもむべなるかな、と思いました。

 議論に多少、強引なところがあったり、仮説を支える論理的連関が弱いところも散見されますが、ひとつの警告として押さえておく必要があるかと考えました。