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戦地で生きる支えとなった 115通の恋文

2015-09-18 17:22:45 | 

 フィリッピンのミンダナオ島で、「ミンタルの虎」と呼ばれるほど、敵には勇猛でいながら、部下や現地の人には優しい心遣いをした日本陸軍大尉がいました。その名は山田藤栄さん。1945年の敗戦から1年後、フィリピンのダリヤオン捕虜収容所での抑留生活から日本へ帰国。家族の元に戻った時、彼が背負っていたリュックの中には、氷砂糖、干ぶどうと、「故郷の思出」と書かれた表紙で綴られた、妻しづゑからの手紙115通がありました。

 娘の喜久代さんは15歳の時に、押し入れからこの手紙を発見し、その手紙を読むと、普段は口数が少なく、おとなしい印象の母の、戦時中における、夫への熱い想いが爆発していると思ったことでしょう。実際に手紙を読ましてもらうと、結婚後、夫が1年で出征し、運悪く、命を落とすかもしれない境遇の中、妻の恋い焦がれた気持ちが噴出しています。これこそ「恋文」です。夫の武運長久を願いながらも、無事で戻ってきてほしい!早く会いたい!ただそれだけでしょう。

 戦場で受け取っていた夫・藤栄さんも同じ思いで読んでいたことでしょう。彼が転戦し、最後には撤退する戦場で、この手紙を持っていたのは、肌身離したくない思い、そして、彼の守護の御守りにもなっていたような気がします。

 帰国後は、戦地での話を一切しなかった、夫であり父である藤栄さん。戦後の彼はこの恋文が現実になり、苦しい思い出は記憶の闇に追いやったのかもしれません。これこそ純愛、読めば心震わせる70年前の記憶、日本人のこの物語を忘れてはいけません。

『戦地で生きる支えとなった115通の恋文』(稲垣麻由美著、扶桑社、本体価格1,300円)

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2 コメント

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ご紹介いただきありがとうございます。 (稲垣麻由美)
2015-11-03 21:48:47
はじめまして。『115通の恋文』を書きました稲垣麻由美でございます。
このようにご紹介いただき、大変嬉しく、また、心よりお礼を申し上げます。

私は神戸出身でございますので、こうして、神戸の、しかも懐かしい板宿の書店さんご紹介いただき、望外の喜びです。 ありがとうございます。
もっと早くお礼をお伝えすべきところ、気づくのが遅くて恐縮です。 他のページも実に興味深く拝読しました。多くのことを学ばせていただいております。

また伺います。
ありがとうございます。


稲垣麻由美

ご丁寧にありがとうございます (井戸書店 森)
2015-12-14 14:10:23
稲垣さま、ご丁寧にありがとうございます。
「我々は感動伝達人である」という理念で、本を通して感動を伝えたいと書店業を営んでおります。本書も感動本です。戦時中の生きるか死ぬかの瀬戸際での心温まる、愛の手紙は平和への架け橋でもあります。
私もお返事が遅くなりました。

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