群馬の写真館の息子・暖平は群馬から上京し、大学の新生活を迎えます。高校までと同じように、人との付き合いを避けて、アルバイトに励む大学生になるつもりが、入学式に向かうキャンパスで落語研究会の部長の碧(芸名は文借亭那碧〔あやかりていなあおい〕)の『強情灸』の語りに、話しかけられたかと勘違いし、オチまで聴いてしまいます。その後、こたつを秋葉原に買いに行った暖平は下宿までの送料惜しさに、こたつを背負った姿を碧に発見され、そのまま落研に入部します。
全く知らなかった落語の世界を知ることになり、当初想定していた大学生活とは全く違い、落研のメンバーと濃密に付き合い、多くの影響を受けます。例えば、
・落語の登場人物たちはそれぞれクセはあるけど、お互いにそれを受け入れて仲良く付き合っていること
・相手に変わることを要求せずに、自分が変わらないと誰も受け入れてもらえない
・明日楽しむために、楽しむための準備をする
・徹底的に同じことをやってみないと、個性なんて発露しない
・今のお前はこれまで出会ったすべて。でも、未来のお前はこれから出会うすべてだ。
など、読者にとっては本当に有難い言葉です。
落語をしている私にとって貴重な教えは、落語をしている時にどこを見ているかという問いの答えは
「落語の登場人物の語りかける相手の目を見て話す」
ということです。現実でも同じですが、そこまでの意識を持ってネタを披露してませんでした、トホホ。
『おあとがよろしいようで』(喜多川泰著、幻冬舎、本体価格1,600円、税込価格1,760円)