おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

この自由な世界で

2022-07-13 06:49:31 | 映画
「この自由な世界で」 2007年 イギリス / イタリア / ドイツ / スペイン

 
監督 ケン・ローチ    
出演 カーストン・ウェアリング
   ジュリエット・エリス
   レズワフ・ジュリック
   ジョー・シフリート
   コリン・コフリン
   レイモンド・マーンズ

ストーリー
一人息子のジェイミーを両親に預け、職業紹介所で働くシングルマザーのアンジーは、ある日突然解雇されてしまう。
そこで彼女は、ルームメイトのローズを誘って、自ら職業斡旋の仕事に乗り出すことに。
こうして、行きつけのパブの裏庭を集合場所に、外国人労働者の斡旋業をスタートさせたアンジーだったが、ある時、不法移民を働かせるほうが儲かると知り、気持ちが大きく揺れてしまう…。


寸評
シングルマザーと外国人労働者という二つの問題が描かれている。
わが国においても外国人労働者は増えていて、不法就労者もかなりの数に上っていそうである。
企業は安い賃金に引かれ、過酷な労働でも自国の貨幣価値に比べれば高い円に引かれる人々が問題を抱えながらも生活しているのが実態ではなかろうか。
そこには搾取もあり、闇の世界の介在もあるのかもしれない。
保証もなく不安定で劣悪な労働環境に甘んじながら労働市場の底辺を支える外国人雇用の実態を描くが、私が知る縫製業界でもそのような実態を垣間見ることがある。
そもそも労働集約産業的な職域での日本人労働者は減少しつつあるのではないか。
当然ながら自国の労働者は、より条件の良い職域に向かうであろうから、その結果としてできる空洞を外国人労働者が埋めることになる。
映画の中でも仕事にあぶれた外国人労働者の姿が描かれる。
そして暗に闇の世界の存在を匂わせている。
とてもイギリスの話と割り切ってみているわけには行かない切実感がある。
一方アンジーは派遣事業を起こすが、その仕事は尋常ではない。
勝気な性格もあって成功を収めたかに見えるが、その強引なやり方は父親も疑問を持ち、ついには労働者とトラブルを起こす。
ついには社会のルールを破るまでに至ってしまう。
それでも悪人には見えないのは必死に生きる彼女の姿があり、子供を思う母の姿があるからに他ならない。
彼女を見守ってくれる周りの人間たちの存在もあることも一因だと思うし、血も涙もない人間の側面を見せながらも、困っている人を助けてあげるような人の良さも持ち合わせているからだと思う。
誰もが自由にことを起こせ、自分の才覚で自分自身の幸せを得ることができる自由社会の中で、強く生きる女性を描きながらも拝金主義的に生き、あるいは金に翻弄される人間の弱い部分を描いた映画でもあった。
その姿はわれわれが生きているこの社会そのものの縮図でもあった。