おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

サウダーヂ

2022-07-21 07:53:46 | 映画
「サウダーヂ」 2011年 日本


監督 富田克也
出演 鷹野毅 伊藤仁 田我流
   ディーチャイ・パウイーナ
   尾崎愛 工藤千枝 野口雄介
   中島朋人 亜矢乃 宮台真司

ストーリー
山梨県甲府市。何の変哲もなく、人通りもまばらな中心街はシャッター通りと化していた。
不況の土木建築業には、日系ブラジル人やタイ人を始めとする様々な外国人労働者たちがいた。
HIPHOPグループ“アーミービレッジ”の猛(田我流)は派遣の土方として働き始める。
猛の働く建設現場にも、多くの移民たちがいた。
そこで、土方一筋に生きて来た精司(鷹野毅)や、タイ帰りの保坂(伊藤仁)と出会う。
猛は彼らと共に仕事帰りにタイパブに繰り出したが、タイ人ホステスのミャオ(ディーチャイ・パウイーナ)に会って楽しそうな精司や、盛り上がる保坂に違和感を覚え、外国人を敵視する。
精司は、妻の恵子(工藤千枝)が怪しげな商売に手を出し始めたことで、ますますミャオにのめりこみ、全てを捨てて彼女とタイで暮らす事を夢想しはじめる。
しかしミャオはタイの家族を支えるために日本で働き続けなければならない。
保坂はこの街に見切りをつけようとする。
不況はますます深刻化し、かろうじて持ちこたえていた建設業にもリストラの波が押し寄せる。
真っ先に切られる外国人労働者たちは、住み慣れた日本を離れ、遠い故国に帰るしかないのか?
苦難を忘れる束の間の喜びのとき、彼らは集い、歌い踊る。
移民たちに動揺が拡がる中、猛はかつての恋人まひる(尾崎愛)が彼らと交流を深めていることを知る。
そして日系ブラジル人デニス(デニス・オリヴェイラ・デ・ハマツ)率いるHIPHOPグループ“スモールパーク”と出会い、日本人と日系ブラジル人二つのHIPHOPグループが競い合うパーティーの夜が始まる……。


寸評
「サウダーヂ」とは変なタイトルだがポルトガル語で、”過去”という意味らしい。
富田監督によれば、舞台となった実在の団地・山王団地(サンノーダンチ)がブラジル人の発音ではサウダーヂに近かったこともタイトルを決める要因になったということである。

山王団地と言えば住民の半分以上が外国人ということを何かの記事で見たことがある。
日本での稼ぎを夢見てやってきた人たちだと思うが、現実はそう甘くはない。
母国に居る家族への仕送りと自分の生活で精一杯である。
閉塞感を感じながら夢見た生活が得られず日本を去っていく者も出てくる。
閉塞感にあえいでいるのは外国人だけではない。
土方の精司や保坂、HIPHOPグループの猛も同様である。
彼らを初め登場人物たちの振る舞いや会話が演じている風ではなく素のままのリアル感があって、時には過剰な演技と思われるところもあるのだが、それが地元の一般人の演技と違和感を生じさせているのも逆にいい味になっている。
彼らが住んでいる地方都市そのものがシャッター通りを抱えて閉塞感にあえいでいるのだから、住民の彼らが閉塞感を感じるのも自然の成り行きなのかもしれない。
日本における建築現場の厳しい仕事は外国人労働者に頼らねばならないのが現実なのだろう。

男たちはもがいているが女たちはポジティブで行動力がある。
まひるは東京帰りでブラジル人たちと交流を深めイベントを企画し、将来的には東京へ進出しようとしている。
精司の妻の恵子はバカみたいな話し方でいい加減な女に見えるが、エステで稼ぎ怪しげな水販売にも手を出し、挙句の果てには選挙に立候補を予定している男の後援会でかなりの顔役となっている。
女たちに比べれば男たちはだらしない。
土方仕事は減少するばかりで、重機は動かず人力で土を掘り返さねばならないし、仕事がなくなれば同じ土方仕事として墓じまいの仕事で食いつなぐ。
親方を初め現場でビールを飲んだくれるなど仕事ぶりはかなりいい加減である。
精司は生き生きしている恵子にイライラしてタイ人ホステスのミャオに入れあげる。
保坂から聞いたタイの暮らしに憧れて、ミャオと一緒に行こうと夢のようなことを思い始める。
猛はミュージシャンとしてブラジル人の持つパワーに負けそうになり、彼らに反感を持つようになる。

今の暮らしを打破しようとする精司と猛の末路が、けっしてバラ色でないのはこの手の映画にはよくあるパターンではあるが、地に足の着いた描写のおかげでその末路が陳腐に感じられない。
母国時代や自分の辛い過去を背負いながら今を生きているが、反する未来は明るいものではないという結末を描いていて辛いが、今日の日本の縮図の一端を描く確かな描写力は評価できる。
ただし上映時間は予想以上に長い。
果たしてこれだけの長さが必要だったのだろうか。
ヤクザが登場するシーンなど、無くても良いようなシーンが所々見受けられた。