おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

極道の妻たち

2022-07-07 06:54:15 | 映画
「極道の妻たち」 1986年 日本


監督 五社英雄
出演 岩下志麻 佐藤慶 世良公則 かたせ梨乃
   佳那晃子 成田三樹夫 岩尾正隆

ストーリー
粟津環(岩下志麻)は堂本組若頭補佐で粟津組組長(佐藤慶)の妻である。
気丈な彼女は、服役中の夫・等に変わり組を守っていた。
ある日、環は貧しい工場を経営する父・保造(大坂志郎)と暮らす妹・真琴(かたせ梨乃)に縁談を持ちかけた。
そんな時、堂本組総長が急死した。
関西を拠点に全国的に勢力を持つ堂本組は、傘下組員二万人の暴力団で、粟津組はその直系である。
堂本組の跡目相続人は、故人の遺言によって若頭の柿沼(岩尾正隆)に決定した。
これを不満とする舎弟頭の蔵川(疋田泰盛)は、同補佐の小磯(成田三樹夫)らを引き連れて朋竜会を結成。
環はあくまで堂本に忠誠を尽し、小磯の誘いを拒否する。
小磯は傘下系列の名古屋の杉田組組長の杉田(世良公則)に柿沼暗殺の指揮を命じた。
一方、アルバイト先のスナックで杉田にしつこく言い寄られていた真琴は、バカンスを楽しむグァム島で偶然彼と再会し、コテージで力ずくで抱かれた。
帰国した真琴は、環に縁談を断りやくざと関係したことを告げた。
杉田と真琴は、子分に囲まれながら結婚式を挙げたが、杉田は突然踏み込んで来た刑事たちに逮捕され、真琴のもとに杉田が柿沼を射止めた拳銃が残された。
このまま抗争を続ければ、双方の組織が壊滅しかねないと案じた堂本の妻、絹江(藤間紫)は関東から手打ちの仲介を頼むと環に告げる。
環は小磯の妻、泰子(佳那晃子)の手を借りて小磯と会い、戦争終結を話し合った。
一方、保釈となった杉田は、朋竜会解散の真偽を確めに大阪へ。
家族と海水浴を楽しむ小磯の前で、自分の腹をドスで突き刺した・・・。


寸評
タイトルを「極道の妻(おんな)たち」と読ませているが、短縮した呼び名では「極妻(ごくつま)」と言われた。
シリーズにおける東映製作版では第二作の主演女優が十朱幸代、第三作が三田佳子に代わったが、四作目以降は再び岩下志麻に戻って全10作が撮られた。
東映ビデオ制作版では高島礼子が主演を務めたが、すべてを通じて岩下志麻の存在感が群を抜いており、「極妻シリーズ」は岩下志麻のシリーズと言って過言でない。
東映では当初、1作目を岩下志麻、2作目を十朱幸代、3作目を三田佳子、4作目を山本陽子、5作目を吉永小百合という女優シリーズとして企画していたようであるが、結局岩下志麻に絞られた。

タイトル通りヤクザ社会の女たちが描かれる。
冒頭は組長の粟津が刑務所に入っているために組を仕切る妻の環が、同じく組員の亭主が刑務所に入っている女房連中を集めてクラブで騒いでいるシーンで、亭主がヤクザという社会に生きる女たちの姿を垣間見させる。
そこに藤間紫演じる本家の姐さんが現れ祝儀を置いていく。
ヤクザ社会の上下関係が女たちの世界にもあることを示すシーンとなっている。
留守を守る岩下志麻が女親分らしい貫録を見せるのに対し、男たちはどこか間が抜けていて頼りない。
堂本組2代目の柿沼は簡単に殺されてしまうし、敵対する朋竜会会長の蔵川は、小磯に粟津組が味方してくれるなら会長職を明けておくと言われるような存在である。
一番の敵対者である小磯に至っては、良きパパぶりを見せ、突っ込んできたトラックに「ごっつい地震やのう」などと言うとぼけた男である。
凄みの効いた低い声で「あんたら、覚悟しいや!」と叫ぶ岩下志麻とは雲泥の差である。

岩下志麻と並ぶヒロインが、環の妹である真琴を演じたかたせ梨乃である。
体当たり演技を見せて濡れ場を受け持っているのだが、この後もシリーズに出続け、彼女にとって女優として大きな成長をとげたシリーズとなった。
作品的に見ると、ここでのかたせ梨乃は、ストーリーを追うあまり犯された杉田になびいていく動機づけが弱い。
グアムで杉田の正体を知ったはずなのに、一緒にいた小松政夫が自首した事件をニュースで見て家族のもとを訪れるのは不自然で、これなども理由づけが乏しい。
細かなことを言えば、岩下志麻が仏壇のロウソクに火をつけたマッチを吹き消すが、火は不浄な人の息では消さないものだ。
そのように五社演出に関しては荒っぽいところがある。
その五社監督作品の「鬼龍院花子の生涯」ですでに入れ墨姿を披露していた岩下志麻だが、ここではさらに大胆な背中の入れ墨を披露していて、岩下の入れ込み具合もわかるような気がする。

公開された1986年は、くしくも「男女雇用機会均等法」が施行された年で、女性の台頭してくる時代を先駆けた作品になったともいえる。
最後は笑える。