ある役人のつぶやき

どうかご理解ください。私ども役人は公僕なのです。国民の皆さまに仕える下僕なのです。ですから、私どもはいつも国民の皆さまのためを思って働いているのです。「なにもこんな時期にGO TO キャンペーンなんか打たなくても」とあなたさまはおっしゃいますが、それもこれも、私どもが国民の皆さまのために〈善かれ〉と思ってやったことなのです。

GO TO キャンペーンから東京を除外したことが、良い例じゃありませんか。東京の人たちはコロナをばら撒くから、地方の人たちがこぞって「来ないでくれ」、「来て欲しくないと」言っていることを、あなたさまはご存知でしょう。それが圧倒的多数の国民の声ですから、私どもはその声に従ったのです。民主主義の下では、多数派の声はご主人の中のご主人、神さまの声と同じですからね。

え？何ですって？東京はたしかにコロナの新規感染者が多いけれど、新規感染者が多いのは、なにも東京だけではない。大阪、神奈川、埼玉、愛知など、ほかにもある。それらの府や県もこのキャンペーンから除外すべきではないか、とおっしゃるのですね。

ですが、東京にしても、それらの府県にしても、そういう所はどこも人口の密集地ですよね。それらの府県も除外したら、キャンペーンの対象になる人の数が激減して、「GO TO を使って旅をしよう」と思う人は極端に少なくなってしまいます。そうなれば、このキャンペーンを打つ意味がなくなってしまうのです。

それで良いじゃないか、とあなたさまはおっしゃるのですね。でも、そうすると、観光業界の苦しい現状を救うことはできないのです。観光業界の関係者の皆さまも、私どものご主人である国民の皆さまの、その一部であることに違いはありませんからね。

え？何ですって？このままGO TO を続けたら、コロナ感染が全国に拡大して、観光地からますます客足が遠ざかってしまうだろう。そうなれば元も子もない、ですって？ だからあなたさまは、その前にPCR 検査を徹底すべきだ、と、そうおっしゃるのですね。GO TO よりもコロナ撲滅のほうが先だ、とおっしゃるのですね。

ですが、これは私の個人的な信念なのですが、コロナなんて化物みたいなもの、そう簡単に撲滅なんてできっこありませんよ。絶対にできない、と言ったっていい。実際、西村大臣もおっしゃっているではありませんか。PCR検査でも、取りこぼしは避けられない。いわゆる偽陰性の問題です。

ですから我々は、「ウィズコロナ」でやっていくしかないのです。コロナとどう付き合うかですね。コロナと上手く付き合うのには、どうすれば良いかの問題です。手洗い、うがい、マスクの着用に気を配り、感染の危険を最小化する。その上で、国民の皆さまには旅に出てもらうしかないのです。そこまでして、それでもコロナの蔓延が避けられないとすれば、これはもう超弩級の天災、東日本大震災並の天災としか言いようがありません。運命みたいなもので、私どもの対応の範囲を遥かに超えています。なにせ私どもはしがない役人でしかないのです。下僕でしかないのです。神さまではないのですよ。どうぞご理解ください。

では、悪しからずごめんください。