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一人の髪の毛の長い背の高い細身の女性が机に座り、ノートパソコンを叩いています。
彼女の名はレイカ(31)・・・とある雑誌の取材記者です。
「えー、それでは、タケルさん、夜の日本学「源氏物語特別考察編」・・・お願いします。今日は54帖どのお話について語ってくれるんですか?」
と、レイカはノートパソコンを叩きながら、赤縁のメガネを手で直し、こちらを見つめます。
「うん。そうだな・・・今日はまずは第一帖「桐壺」から語っていこう」
と、タケルは話し始めます・・・。
さて、今日の「夜の日本学」はじまり、はじまりー・・・・。
「えーと、この「夜の日本学」はタブー無く、日本の文化を貪欲に摂取していこうと言うのが、基本的な目的になっています」
「今までいろいろな展開をしてきたのですが、やはり、日本文化と言えばこの「源氏物語」を美学の中心に置いている表現も多々あるので」
「早めに摂取したいと考えていたのですが、ようやく、その時間に入ってきたようなので、今回より、この枠で・・・源氏物語をエピ単位に見ていこうと思います」
と、タケルは言葉にする。
「やはり、この枠は女性向けと捉えて、女性読者と共に「源氏物語」を摂取していこうとそういうお考えなんですね?ゆるちょさんは」
と、レイカ。
「まあね・・・ここは以前「建礼門院右京大夫集」の鑑賞もやっているから、この枠が一番いいと思ったかな」
と、タケル。
「ま、レイカちゃんは、源氏物語には詳しいらしいから、とりあえずこの枠ではレイカ先生と言う事で、僕は弟子と言う立場でがんばりたいので」
「・・・よろしくお願いします」
と、タケル。
「じゃ、一緒にがんばっていきましょう、ゆるちょさん」
と、レイカは目の笑ういい笑顔で言葉にした。
「えー、今日は第一帖「桐壷」と言う事で、あらすじを資料にしてきました」
と、レイカは資料をタケルに手渡した。
「さて、ある時、帝の寵愛を一身に受ける美しい更衣がいました。彼女の名こそ、桐壷更衣・・・身分も無く、すでに後ろ盾も失っていたので」
「帝の寵愛だけが便りの心細い身なれど、それでも彼女の輝く美しさは宮中一の呼び声も高く、桐壷更衣は帝の寵愛に身を委ねていました」
「そんな中、彼女は美しいオトコの子を生みました。とても美しい子でしたが、その子の誕生が桐壷更衣の運命を変えました。帝の長男を生んでいた」
「弘徽殿女御(こきでんのにょうご)がその子が東宮になってしまうのではと嫉妬し出したからです。それを境に他の女性達も桐壷更衣に嫉妬するようになり」
「・・・あはれ、体調を崩した桐壷更衣はあっという間に亡くなってしまいました。あとには美しいオトコの赤ちゃんが残され・・・」
「それが後の光源氏だったのです」
「まあ、これは、「桐壷」の巻の前半ですけど、どうでしょう?ゆるちょさん」
と、レイカ先生。
「そうですね。宮中は嫉妬地獄だったんですね・・・桐壷更衣さんは、産後の肥立ちも、悪かったんでしょうね。つーか、怖いところだな」
と、タケル。
「当時の宮中はいろいろな思惑の人間達の欲望の巣みたいな場所でしたから、それこそ、性格の強い女性達の神経戦の場所でもあったんです」
と、レイカ。
「まあ、でも、物語の冒頭と言う事もあり、わかりやすい配置説明かと思いますよ。主人公光源氏の悲劇的過去と敵役としての弘徽殿女御の登場」
「父、桐壷帝のまあ、コンプレックスの提示もありますし、人間の運命や業など、仏教的思想すら表現されていますから、かなり、文化的に深い作品になっています」
と、レイカ。
「オトコにとって、母が死んでいると言うコンプレックスは相当な心の傷になるからね・・・それがその後の光源氏の異常とも言えるオンナ漁りの物語の」
「原動力にしているんだね。つまり、ストーリーとしての源氏のオンナ漁りは紫式部としては、すでに着想していただろうから・・・それを実現するために」
「この様な悲劇的な設定が作られた・・・と言う事になるんだね?」
と、タケル。
「読者、もちろん、女性が光源氏の行動に納得出来るように源氏廻りに悲劇を出来るだけ集めるんですね・・・」
と、レイカ。
「では、「桐壷」後半、行ってみましょうか」
と、レイカは資料を差し出す。
「桐壺帝は翌年、弘徽殿女御の子を東宮としました。この事もあって、桐壷更衣の若君の将来を案じた桐壺帝は若君をある人相見に見せた所」
「・・・「彼は天子になる相を持っておいでですが、そうなると国が乱れます。彼は地上にて、国家の柱石として政治の補佐をする事こそ肝要」・・・と言われます」
「その言葉の後押しもあり、桐壺帝は、確かな後ろ盾も無い若君に源氏の名を与え、臣籍降下することにしました」
「さて、桐壺帝は、それでも亡き桐壷更衣を忘れられず、彼女に面影が似ていると言う藤壺の宮を後宮に迎えていました」
「もちろん桐壺帝は、桐壷更衣の忘れ形見、源氏の若君を手元から離しませんでしたから、藤壺の宮と若君は自然と仲良くなっていきました」
「若君も「あの方は、あなたの母親君と面差しが似ていますよ」などといわれていましたから」
「「ふーん、そうなんだ。母さまはこのようにお美しい方だったんだ。ふーん・・・」などとつぶやきながら・・・彼女をつぶらな瞳で見ていると」
「彼女もかわいい源氏の様子につい笑顔になり・・・お互い目と目を合わせ、時の流れるのを忘れる、いつの間にか、そんな、しあわせな時間を楽しんでいたのでした」
「この頃、源氏の若君は大層美しかった為に宮中では「光るの君」と呼ばれ、藤壺の宮もまた、その美しさから「輝く日の宮」と呼ばれていました」
「そんな甘い二人の時間も長くは続かず・・・源氏12歳の時、源氏は元服し、4歳上の正妻葵の上と結婚します。もちろん、元服した源氏を」
「藤壺の宮もまた、一人前のオトコとして扱いますから・・・源氏は藤壺の宮の美しい笑顔が見れなくなって・・・目と目を合わせる機会が持てなくなり」
「少々不満を抱いていました・・・」
「なるほど・・・源氏は「光るの君の目」と「光るの姫の目」で持って目と目を合わせる恍惚な時間をすでに知ってしまっていたんだ」
「・・・これは、ほんと、最高な時間だよ。もう、女性とか、恍惚としちゃうくらい本能から、気持ちのいい時間だからね・・・経験した事の無い人間にはわからない」
と、タケル。
「確かにそうですね。あの気持ちよさは・・・ちょっと言葉に出来ないくらい・・・なんて言うのかな、お互いがお互いを受け入れて」
「信じあっている事になるんですよね、お互いの気持ちを・・・」
と、レイカ。
「そう。それでいて、本能的な気持ちよさを感じているわけだから・・・代え難い気持ちよさだからね・・・まあ、もちろん、そこの細かい描写はないから」
「・・・紫式部がそれを経験上知っていたかどうかわからないけどね・・・」
と、タケル。
「でも、源氏を「光るの君」と書いているのは全女性納得ですよ?」
と、レイカ。
「そりゃそうだよ。女性は男性の「光るの君の目」こそが女性を恋に落とす事を経験上知ってるもの・・・女性がキラキラを好きな理由もそこにあるし」
「自分の目を少しでも大きくしたい理由の第一は、自分の目を「光るの姫の目」にしたいからでしょ?それはさすがに紫式部だって理解してたんじゃない?」
と、タケル。
「むしろ、男性の方が理解出来ていないと思うよ。だから大人の男性の8割が「死んだ魚の目」と言う現実になるんだろ?女性に比べ男性の認識不足は」
「どんだけ現実が理解出来ていないんだって話になるけどね・・・」
と、タケル。
「わたしは恋についての認識不足は男性の方が恐ろしい程だと思っていますよ」
「だいたい「源氏物語」を読んだ事のある男性だって・・・全体の20%も居ないんじゃないかしら・・・」
と、レイカ。
「悲しい現実だね」
と、タケル。
「でもさ・・・この「桐壷」の最後の所を読むとさ・・・最初に誘ったのは、藤壺の宮なんだぜ・・・それ男性にとっては、とっても大事なところだよ」
と、タケル。
「え?ただ、目を合わせてあげただけで?」
と、レイカ。
「だって、目を合わせると言う事は・・・藤壺と目を合わせたい源氏の意思に同意した、受け入れたって事になるじゃん」
と、タケル。
「それは、そうですが・・・」
と、レイカ。
「オトコはいつも自分の意思を受け入れてくれる女性の存在を見つけようとしているものさ・・・それは男性にとってしあわせの始まりでもあるからね」
と、タケル。
「それを最初にしてしまった藤壺の宮・・・これは源氏からすれば「したいのなら・・・いいわよ」って言われたに近いアピールだと僕は思うね」
と、タケル。
「女性はそこまでは・・・多分、藤壺の宮もまだ、若かっただろうし」
と、レイカ。
「藤壺の宮はこの時、何歳?」
と、タケル。
「光源氏12歳の時、藤壺の宮17歳です」
と、レイカ。
「17歳か・・・確かにまだ、幼いな・・・精神的には・・・」
と、タケル。
「だけど源氏にはそのメッセージが届いているはずだし、なによりも源氏は桐壺帝の子なんだ。桐壺帝の愛するモノ美しいと感じるモノは」
「もちろん、源氏も美しいと感じるんだ・・・だから、その思いは一層・・・桐壺帝の血にその容姿の似ている桐壷更衣の血すらブレンドされてるんだから」
「自分を好きになるのは、女性として当たり前・・・そんな思いも血に絡み・・・源氏の思いはより一層燃え上がるんだよ・・・」
と、タケル
「女性も本能の生き物だけど、少年も本能の生き物なんだ。愛に生き、愛の為に行動するのが、少年なのさ」
と、タケルは言葉にした。
「それが今回の結論になりますね・・・ゆるちょさん」
と、レイカは言った。
「ま、とにかく、どうなるかわからなかったけれど・・・第一回目、なんとなく、出来たね」
と、タケル。
「本稿では、源氏物語の「夜の日本学)的解釈と現代語訳が売りになっていきますかね。この感じだと・・・」
と、レイカ。
「いずれにしろ、他の作品と同じように、生で鑑賞していこう・・・鑑賞して初めていろいろな思いが出来る。言葉も出てくる」
「あれこれ言うより、鑑賞して考察だ・・・その姿勢はどこまで行っても変わらないよ」
と、タケル。
「そうですね。とにかく、当たって考えろ・・・そんな感じですね、ゆるちょさん!」
と、レイカは言葉にした。
「さ、仕事はこれくらいにして、飲み行こうか、「知恵者」のレイカちゃん」
と、笑顔で立ち上がるタケルでした。
「はい。もちろん、お供しますわ」
とレイカは立ち上がり、赤縁のメガネを取り、髪を解いた。
(おしまい)
さて、とうとう源氏物語にも手を出してしまいました。
まあ、毎日勉強勉強ですよ。
とにかく、ガンガンに日本文化を咀嚼し、再解釈し、摂取していきましょう。
また、新たな考えが浮かぶやもしれません。
さ、楽しい水曜日、飲み行っちゃいますか!
ではでは。