さて、その時、僕は御島さん(31)のマンションでバーベキューをしていました。
残りのメンバーはイケメン貴島くん(29)、辛辣姫ユキちゃん(28)、若い池澤くん(24)でした。
「しかし、いい日和ですね。「暑さ寒さも彼岸まで」って言いますけど、穏やかな春の日ですね」
と、池澤くん。
「でも、明日の月曜日から「寒の戻り」らしい。今年の花見の会は、来週末以降の平日になりそうだなあ」
と、貴島くん。
「今年はどこを予定しているの?花見の会の場所は・・・」
と、御島さん。
「今のところ、目黒川沿いにいい場所を見つけてるので・・・その場所で」
と、貴島くん。
「あとは天気のいい日と花の咲き具合を見て・・・決行って感じですね」
と、池澤くん。
「ま、今年も事務所一同で盛大にやりましょ。お酒も料理もパーッと豪華に」
「事務所あげての花見パーティーにしましょうね」
と、御島さん。
「サラリーマンの池澤は、当日、うまくやれよ」
と、貴島くん。
「ええ。最悪、有給休暇を取りますよ。まあ、仕事の方はなんとかなっていますから」
「・・・と言うか、御島さんの事務所の皆さんがうらやましいですよ。理解力のある社長さんだし」
と、池澤くん。
「おまえだって、将来、この事務所に入るつもりなんだろ。ま、せいぜい今のうちに」
「仕事が出来るような人間になっておけよ。御島さんは休む時は休むけど、仕事の要求も厳しいぞ」
「ゆるちょさんだって、馬車馬のように働かされているんだから」
と、貴島くん。
「いやいや、馬車馬は言いすぎだよ。ただ要求が高いのは確かだね。おかげで、自分をシビアに成長させる事が出来る」
「来年度のハードルも高い設定だしね」
と、僕。
「ま、事務所としては個人の成長を最大限バックアップする姿勢・・・そういう事ね」
と、御島さんは笑顔で言う。
「そういう事だから、お前も早く御島さんにスカウトされる人材になれよ」
と、貴島くんはビールを飲みながら笑顔になった。
「そう言えば、桜で思い出しましたけど・・・同じ温度帯のソメイヨシノが一斉に咲き出す理由って知ってました?」
と、池澤くん。
「上野の桜は一斉に咲くし、目黒川の桜も一斉に咲く・・・その理由か?」
と、貴島くん。
「それは・・・同じ品種だから、と言う理由じゃダメって事ね?別な理由があるのね?」
と、ユキちゃん。
「例えば夏休みの観察で有名な朝顔だって・・・個体によって育ち方に多少差もあるし、花をつける時期も」
「微妙に違うじゃないですか?」
と、池澤くん。
「でも、ソメイヨシノは・・・確かに一斉に咲く感じね」
と、御島さん。
「うーん、なんだろうね。池澤くん、正解は?」
と、僕。
「ソメイヨシノはすべて一本の原木のクローンだからです」
と、池澤くん。
「クローン?そうだったのか?」
と、貴島くん。
「新聞には、「上野の山にある原木・・・から、「接ぎ木」で増やしていったのがソメイヨシノ。だから彼らは」」
「「種を作る事が出来ない。日本全国のソメイヨシノはすべて上野の山の原木を接ぎ木したものと考えられる」って出ていて」
「それって要はクローンって事でしょ?」
と、池澤くん。
「なるほど・・・クローンって言い方をすると、わかりやすいね。同じDNAだから、一斉に咲くんだね」
と、僕。
「それを聞くと日本人ってますます、すごいなって感じますね。自然の作用を見事に応用して芸術を作り上げている」
「日本全国にある発酵食品も日本人の叡智を感じるけど・・・ソメイヨシノがクローンだから、同時期に咲くとは・・・」
「日本人の知恵の凄さですね」
と、貴島くん。
「日本人の美的センスは自然を尊敬し、その自然に人間の手を入れ、いわば自然と人間の叡智とのハイブリット体としての」
「芸術を生み出しているんだね。だから、自然がカタチ作る淡い中間色の芸術を好むんだ・・・桜が咲いた上野の山の風景」
「あるいは吉野山や嵐山の風景を日本人は好むんだ・・・日本人の芸術的センスが自然に根ざしている理由がそこにある」
と、僕。
「ゆるちょさんのそういう目って確かですよね。この間、齋藤孝と言う人の著書を読んでいたら」
「「なぜ日本では印象派の展覧会ばかりなのだ。世界にはもっともっと原色を使ったゴーギャンやマチス」」
「「金色を印象的に使ったクリムト、カタチすら壊してしまったピカソなどの作品群があるのに、その展覧会はあまり見かけない」」
「「日本人はもっと広範な世界の芸術を知るべきなのに!」みたいな事が書いてあって・・・」
と、ユキちゃん。
「ユキちゃんはそういう上から目線の物言いが大嫌いだったわよね」
と、御島さん。
「ええ。なんか、あの齋藤孝って人、「自分は頭が良くて偉いのだから、頭の悪い人たちに是非教えなければいけない」って」
「言う意識で話しているのが、丸見えで・・・すごく鼻につくんです。だって今のゆるちょさんの指摘からすれば」
「日本で何故印象派の「淡い中間色の芸術」が好まれるのか、と言えば、日本人が自然を愛し、自然のプレゼンする」
「「淡い中間色の芸術」が好きだからで・・・日本人の芸術センスは自然によって作られた事になるじゃないですか」
と、辛辣姫。
「つまり、日本で印象派の展覧会ばかりある理由は・・・たくさんの日本人に入って貰わないと印象派の展覧会がペイしないからで」
「だから自然に印象派の展覧会が多くなる。印象派以外の日本人が好まない展覧会は少ない」
「・・・そういう経済的に当然な現象になるわけですよ。それなのに、齋藤孝氏には、そういう経済観念がない」
「と言うか、現象の裏側にある当然の理由に頭が行かないんです」
「「世界には様々な芸術があり、日本人はそれを広範に理解すべきだ。それが日本人を成長させる事なのだ」と言う意識しかない」
「だから、経済の原則すら、理解出来ず、むしろ、国民の芸術的センスを磨くために、展覧会があるかのような」
「そんな勘違いをしている・・・それってもう、モノを見る目が可怪しいとしか言えないと思います」
と、ユキちゃんは言い抜いた。
「ま、ユキちゃんがそう言うなら、その人の正体は「知識者」の「俺偉い病」ってところね」
「「知識者」の弱点はその人が得た「知識」に依存するだけで、自分で現象を分析して、その裏にある原因を見つけ出すような」
「「知恵」を作れない事だから・・・そういう見方になるんじゃない?」
と、御島さんが言葉にする。
「自然にある色を日本人は好む・・・と言いながら、僕は尾形光琳らの琳派の金色の表現・・・これは自然には無い色だけど」
「そういう表現も好きだよね。ま、僕はクリムトも大好きだけどね・・・クリムトの展覧会があれば、ぜひ行きたいし」
と、僕。
「琳派は、16世紀終わりから脈々と息づいて来た芸術ですけど、一方、クリムトは19世紀ですからね」
「あまり、芸術で早い遅いを話しても意味はないと思いますけどね。表現の問題だから・・・」
と、貴島くん。
「まあ、いいわ。いずれにしろ、季節を愛でるのが日本人で、自然を愛するのが日本人・・・もちろん、人間の行いも愛でていた」
「そのいい例が美人画だったり、浮世絵よね。・・・まあ、いいわ、今日は芸術論をしたいわけじゃないし」
と、御島さんが結論のように言葉を出した。
「そうだ。僕は今日、ゆるちょさんに聞きたい事があって来たんです」
と、池澤くん。
「さて、何かな、今日は?」
と、僕。
「人間には何故、「運のいい人間」と「悪い人間」がいるんでしょう?」
「僕なんか宝くじを買ってもめったに当たらないし、考えてみたら、女性運もよくなさそうだし」
「なんだか、自分自身、運が悪い人間のような気がするんですよねー」
と、池澤くんが不安そうな顔をして質問してくる。
「池澤・・・女性運が悪いなんて、それは失礼なんじゃないか?」
「僕が見る所、多岐川も、御島社長も、美人でオトコマエで理解力も高くて、おまけに性格もいい・・・いい女だと思うけどな」
と、貴島くんが言う。
「いやあ、それはもちろん・・・女性運と言ったのは、僕の彼女になってくれる人と言う意味で・・・」
「御島さんや、ユキさんは別ですよ、別・・・」
と、池澤くんは大慌てで否定する。
「ふふ。それにしても、興味深い話よね。「運のいい人間」と「運の悪い人間」の線引とは何か?」
「なかなか、いい質問じゃないかしら?」
と、御島さん。
「なるほどね。面白そうな質問だ。少し考えてみよう」
と、僕は焼いた豚肉を口にいれると、ビールでお腹に流し込んだ。
「日本社会と言うのは、ムラ社会と言ってもいい。つまり、周囲の人間が皆知り合い・・・」
「村長さんも警察署長さんも消防署長さんも校長先生もお坊さんも、近所の皆さんも・・・みーんな知り合い」
「・・・それが日本社会の本質であり、わかりやすく言えば、いい意味での善意の相互監視社会だ」
「だから、小学生がひとりで学校に登校しても危険などなかった。今まではね」
と、僕。
「しかし、最近はそういう相互監視社会網が壊れ始めた・・・自分の事、自分の家族しか考えない人間が増え」
「要は「逃げ込み者」が増えたから、相互監視社会が機能しなくなり、結果、下校中の小学生が狙われたりするようになった」
「これは日本文化を破壊している「逃げ込み者」と言うダメ人間達が増えていると言う証拠だ」
と、僕。
「それはまあいい。問題提起だけしておこう」
「じゃあ、なぜ、善意の相互監視社会が作られるかと言えば・・・以前は同じ地域に住んでいるだけで、そのような社会が出来ていた」
「が、しかし、今は、そのような地域のつながりさえ、無くなりつつある。そして、人間のつながりそのものが二極化したんだ」
と、僕。
「二極化!」
と、ユキちゃん。
「その人間が社会的に好ましい人間の場合、多くの人間が「こいつの為に人肌脱ごう。こいつは有用な、好ましい人間だ」と」
「判断する個人が多ければ多い程・・・その人間にはその人間を無償で助ける後見人が多数生まれる事になるんだ」
と、僕。
「そして、そう思われない人間に関しては・・・関係すら持たない人間が増えている。つまり、「後見人のたくさんいる人間」と「関係する人間すらいない人間」」
「・・・日本人のつながりは、この二極化となっているんだ」
と、僕。
「ふーん。じゃあ、後見人の定義を教えて?ゆるちょくん」
と、御島さん。
「その人間の中身を見抜き、その人間を信頼し、その人間の発展を願い、その人間の行為に責任を持ち」
「その人間を利用しながら、自分も発展して行こうとする人間・・・ですかね」
と、僕。
「それってゆるちょさんが会社員時代、部長さんにその人間性を買われ、部の様々なイベントの司会から、全国の営業応援の為の現地派遣」
「東大その他から入ってきた新人女性技術者の教育担当など、部の為にいろいろ仕事をした事が・・・結果、部の成績になり」
「結果として、部長さんが本社に栄転する・・・そんな部長さんと多数の部下の関係・・・そういう関係性を言いますか?」
と、ユキちゃん。
「うん。具体的に言うと、そういう事になるね」
と、僕。
「ははは。ゆるちょさんって、部長さんに「こいつ使えるから」と言われちゃー、いろいろ頼まれていたって話ですよね」
と、貴島くん。
「すごいな。ゆるちょさんって出来る人だったんですね」
と、池澤くん。
「うーん、それはちょっと理解が違う。僕は純粋にコンピューター技術者としては三流以下の人間だ」
「ただ、対人間の仕事に関してはチカラを出せる人間だったし、真面目で陽気で裏の無い人間だったから、単純に相手に好かれたんだ」
「人見知りもしないしね。だから、愛された・・・クレームを言ってきた相手さえ、真摯に取り組めば、一緒に酒を酌み交わせる」
「くらいには、なれた・・・そういう話だよ」
と、僕。
「ゆるちょさん、答え出しちゃったじゃないですか。それが「運のいい人間」の具体的な能力そのものでしょ?」
と、貴島くん。
「え?どういう事ですか?」
と、池澤くん。
「ゆるちょさんと知り合いになった人間、一緒に仕事をした人間は皆、ゆるちょさんのファンになってしまう」
「言わば皆、後見人になるんだ。だから、皆、ゆるちょさんの為になるように動こうとする。だから、ゆるちょさんを知る人間が」
「増えれば増える程・・・「こういう使える人間がいるんだ」と他人に知らせたくなるから・・・ゆるちょさんの仕事は口コミで」
「どんどん増えていくと言う・・・今の仕事増大スパイラルに入っている。そうですよね、御島さん」
と、貴島くん。
「そうね。日本社会はそういうところ。口コミこそが最大のコマーシャル効果を生むと言っても過言ではないわね」
「むしろ、信頼できる人間が推す人間こそ・・・信頼を得るわけだから・・・この日本では後見人が多い人間の勝ち!と言う」
「事になるかしらね」
と、御島さん。
「わたしもそうだけど・・・仕事の出来る人間を使いこなせる人間もまた、出世出来るのよ」
「わたしがゆるちょくんに目をつけたのは、そういう意味もあるの」
と、御島さん。
「具体的に言うと、どういう事ですか?」
と、池澤くん。
「「このオトコはわたしを世界のトップにすら、連れて行ってくれる。だったら、このオトコをわたしの商品として徹底的に守り」」
「「一緒に歩いていくべきだわ。わたしはこのオトコをプロデュースし、この世界でトップを取る」」
「・・・そういう決断をさせてくれたのがゆるちょくんだもの。言葉で表せば、そういう感じかしら」
と、御島さん。
「自転車のトレーニング方法に、そういうやり方ってあるんだよ。基本、自転車のトレーニングは」
「まあ、孤独にやるってのもあるんだけど、最小単位は、二人でさ。一人が前に出て風よけになる。もうひとりは後ろで守られながら」
「足のエネルギーを貯めたら、今度は前に出て、風よけになる。その繰り返し・・・」
と、僕。
「「お前は俺を上手く利用して上に行け。俺もお前を上手く利用して上に行く。そうやってドンドン上のステージに行くのがサイクリストの生き方だ」」
「・・・と言われているけど、こういう生き方がサイクリストの基本なんだ。トレーニングばかりでなく、生き方そのものがそういう感じなんだね」
と、僕。
「それってまさに、ゆるちょさんと御島さんのあり方を説明していると思いますよ。お互いがお互いを守っているカタチに」
「なるわけだし、お互いがお互いを利用して、上のステージを目指しているわけだし」
と、貴島くん。
「このカタチは日本文化的に言えば、古くからある「御恩と奉公」のカタチなんだ。遡れば平安時代中期くらいからある」
「サムライの忠義のカタチだから・・・日本文化そのものの人同士のつながりと言ってもいいね」
と、僕。
「つまり、そういうカタチ・・・御島さんとゆるちょさんの御恩と奉公のカタチを核としたつながりのコミュニティ・・・」
「たくさんの後見人が日本社会に現れるような・・・そういうコミュニティをどんどん大きくしていこうとしているのが」
「今の御島さんとゆるちょさんと言う事になるんですか?」
と、辛辣姫。
「そういう事ね。そして、そういう後見人が機能するから、「ゆるちょにはがんばってもらおう。あいつには、それを可能とする」」
「「優秀な能力がある。他の誰にも無い能力を持っているから」と皆が理解してくれるから・・・皆、よかれと思って」
「いろいろしてくれるから・・・口コミもドンドン広がるから、いい事がゆるちょくんにもわたしにも生まれてくる・・・それが「運がいい」と言われる」
「状況の正体なの・・・」
と、御島さん。
「御島さん、答え知ってたんですか?」
と、貴島くん。
「かなり前に、そういう話になったの。ゆるちょくんと・・・今、それを思い出したわ」
と、御島さん。
「じゃあ、「運が悪い」と言うのは?」
と、池澤くん。
「それはその逆の状況よね。彼を知ってる皆が彼に才能が無いのを知ってる・・・そんな状況じゃない?」
「だから、誰もその彼に手助けをしない・・・だから、その彼にいい事は起こらず、むしろ、不利な事ばかり起こる」
「そんな所かしら」
と、御島さん。
「それを言うなら、その彼を誰も知らない・・・そんな状況も入ってくるんじゃない?もっともその場合、いい事も悪い事も」
「起こらない・・・だけど、それ以上に誰からも知られていない・・・と言う状況は日本的にはつながりが無いわけだから」
「不幸と言う事になる。誰からも無視されている状況だからね」
と、僕。
「ゆるちょさんの指摘した人間の状況って、いわゆる「逃げ込み者」って事になりますよね?」
「でも、わたし、そういう日本人が増えているように思います。そもそも核家族化だって、親世代からの「逃げ込み者」でしょう?」
「それでいて、ママ友とうまくやれなくて・・・みたいな事を聞くけど、そもそも「逃げ込み者」だから、周囲の支えすらないし」
「結局、自分勝手な人間は、この日本ではマックスな不幸になるって事ですよね?」
と、辛辣姫。
「それについてもう少し言えば、「まず相手の事を考える。自分の事は最後に後回しにする」と言う、日本人の基本的な思考が」
「出来なければ、誰も相手にしないわ。そういう自分勝手と言うのは、社会に出れば、ある程度治るものだけど」
「最近は社会などおざなりにして、家庭に引きこもって、自分勝手な王様になり、旦那も嫌い、子離れ親離れが出来ず」
「ダメな子供を作り出す馬鹿親が増えているから・・・結局、日本の誇った「善意の相互監視社会」が破壊されている」
「・・・わたしはそう見るわ」
と、御島さん。
「うーん、でも、そういう家庭って、子供がコミュニケーション能力を確立出来ないから・・・結果的にふしあわせな血脈って」
「そういう風にシビアな日本社会に見抜かれて・・・結婚も出来ずに不幸になっていくんじゃないですか?」
「言わば結婚って、日本社会に入れてもらえるって事だから」
と、池澤くんが言う。
「ほう。池澤、なかなか、鋭い事を言うじゃないか」
と、貴島くんは感心する。
「・・・と言う事は、最近の日本の晩婚化や、若い世代が恋愛出来ない症候群に陥ってる理由って」
「家庭における教育の失敗にあるって事ですか?親が悪いと・・・そういう事になります?」
と、辛辣姫。
「さあ、どうかな。それを論じて見ても、誰得なんじゃない?」
「この日本は、人生やったもん勝ち!の世界だ。逃げ込んでいる人間にしあわせが訪れる程、ヤワな世界じゃないさ」
と、僕。
「逃げ込んでいたら、誰からも忘れられて、決してしあわせにはなれない・・・そういう話ですか?」
と、ユキちゃん。
「まあ、そうだろうね。なにより、日本は「和を以て貴しとなす」を最高正義とする国だ。和とはつながりだよ」
「日本社会とどれだけの有用なつながり・・・お互いがお互いを本能から笑顔にする関係を結べるか・・・そこが鍵になる」
と、僕。
「それが出来る人間に、どんどん運が回ってくるし、それの出来ない人間には、不運がついてくる・・・そういう結論ね」
と、御島さん。
「そういう事だね」
と、僕。
「パワースポットに行けば、運が得られる・・・なんて妄想なんですね。っていうか、最近、パワースポットって」
「ダメ人間ホイホイになっているし・・・」
と、池澤くん。
「お前、行ったのか、パワースポット」
と、貴島くん。
「まあ、ちょっと・・・不幸そうな・・・彼氏や彼女のいなさそうな、女性や男性で溢れてました」
「あと、誰にも相手にされない、不幸そうなオバサン連中も多かったですけど」
と、池澤くんは言いながら、頭を掻くと、
「もう、あーゆーところには、絶対に行きません。こうやって、みなさんとおしゃべりしていた方がよっぽど、運が向きますから」
と、言って、池澤くんは、焼けた肉を頬張った。
皆、その様子を見て、楽しそうに笑っていた。
「日本では「使える人間」と言う表現が、最も最高の呼称なのかもね」
と、ポツリと御島さんが言葉にした。
(おしまい)
残りのメンバーはイケメン貴島くん(29)、辛辣姫ユキちゃん(28)、若い池澤くん(24)でした。
「しかし、いい日和ですね。「暑さ寒さも彼岸まで」って言いますけど、穏やかな春の日ですね」
と、池澤くん。
「でも、明日の月曜日から「寒の戻り」らしい。今年の花見の会は、来週末以降の平日になりそうだなあ」
と、貴島くん。
「今年はどこを予定しているの?花見の会の場所は・・・」
と、御島さん。
「今のところ、目黒川沿いにいい場所を見つけてるので・・・その場所で」
と、貴島くん。
「あとは天気のいい日と花の咲き具合を見て・・・決行って感じですね」
と、池澤くん。
「ま、今年も事務所一同で盛大にやりましょ。お酒も料理もパーッと豪華に」
「事務所あげての花見パーティーにしましょうね」
と、御島さん。
「サラリーマンの池澤は、当日、うまくやれよ」
と、貴島くん。
「ええ。最悪、有給休暇を取りますよ。まあ、仕事の方はなんとかなっていますから」
「・・・と言うか、御島さんの事務所の皆さんがうらやましいですよ。理解力のある社長さんだし」
と、池澤くん。
「おまえだって、将来、この事務所に入るつもりなんだろ。ま、せいぜい今のうちに」
「仕事が出来るような人間になっておけよ。御島さんは休む時は休むけど、仕事の要求も厳しいぞ」
「ゆるちょさんだって、馬車馬のように働かされているんだから」
と、貴島くん。
「いやいや、馬車馬は言いすぎだよ。ただ要求が高いのは確かだね。おかげで、自分をシビアに成長させる事が出来る」
「来年度のハードルも高い設定だしね」
と、僕。
「ま、事務所としては個人の成長を最大限バックアップする姿勢・・・そういう事ね」
と、御島さんは笑顔で言う。
「そういう事だから、お前も早く御島さんにスカウトされる人材になれよ」
と、貴島くんはビールを飲みながら笑顔になった。
「そう言えば、桜で思い出しましたけど・・・同じ温度帯のソメイヨシノが一斉に咲き出す理由って知ってました?」
と、池澤くん。
「上野の桜は一斉に咲くし、目黒川の桜も一斉に咲く・・・その理由か?」
と、貴島くん。
「それは・・・同じ品種だから、と言う理由じゃダメって事ね?別な理由があるのね?」
と、ユキちゃん。
「例えば夏休みの観察で有名な朝顔だって・・・個体によって育ち方に多少差もあるし、花をつける時期も」
「微妙に違うじゃないですか?」
と、池澤くん。
「でも、ソメイヨシノは・・・確かに一斉に咲く感じね」
と、御島さん。
「うーん、なんだろうね。池澤くん、正解は?」
と、僕。
「ソメイヨシノはすべて一本の原木のクローンだからです」
と、池澤くん。
「クローン?そうだったのか?」
と、貴島くん。
「新聞には、「上野の山にある原木・・・から、「接ぎ木」で増やしていったのがソメイヨシノ。だから彼らは」」
「「種を作る事が出来ない。日本全国のソメイヨシノはすべて上野の山の原木を接ぎ木したものと考えられる」って出ていて」
「それって要はクローンって事でしょ?」
と、池澤くん。
「なるほど・・・クローンって言い方をすると、わかりやすいね。同じDNAだから、一斉に咲くんだね」
と、僕。
「それを聞くと日本人ってますます、すごいなって感じますね。自然の作用を見事に応用して芸術を作り上げている」
「日本全国にある発酵食品も日本人の叡智を感じるけど・・・ソメイヨシノがクローンだから、同時期に咲くとは・・・」
「日本人の知恵の凄さですね」
と、貴島くん。
「日本人の美的センスは自然を尊敬し、その自然に人間の手を入れ、いわば自然と人間の叡智とのハイブリット体としての」
「芸術を生み出しているんだね。だから、自然がカタチ作る淡い中間色の芸術を好むんだ・・・桜が咲いた上野の山の風景」
「あるいは吉野山や嵐山の風景を日本人は好むんだ・・・日本人の芸術的センスが自然に根ざしている理由がそこにある」
と、僕。
「ゆるちょさんのそういう目って確かですよね。この間、齋藤孝と言う人の著書を読んでいたら」
「「なぜ日本では印象派の展覧会ばかりなのだ。世界にはもっともっと原色を使ったゴーギャンやマチス」」
「「金色を印象的に使ったクリムト、カタチすら壊してしまったピカソなどの作品群があるのに、その展覧会はあまり見かけない」」
「「日本人はもっと広範な世界の芸術を知るべきなのに!」みたいな事が書いてあって・・・」
と、ユキちゃん。
「ユキちゃんはそういう上から目線の物言いが大嫌いだったわよね」
と、御島さん。
「ええ。なんか、あの齋藤孝って人、「自分は頭が良くて偉いのだから、頭の悪い人たちに是非教えなければいけない」って」
「言う意識で話しているのが、丸見えで・・・すごく鼻につくんです。だって今のゆるちょさんの指摘からすれば」
「日本で何故印象派の「淡い中間色の芸術」が好まれるのか、と言えば、日本人が自然を愛し、自然のプレゼンする」
「「淡い中間色の芸術」が好きだからで・・・日本人の芸術センスは自然によって作られた事になるじゃないですか」
と、辛辣姫。
「つまり、日本で印象派の展覧会ばかりある理由は・・・たくさんの日本人に入って貰わないと印象派の展覧会がペイしないからで」
「だから自然に印象派の展覧会が多くなる。印象派以外の日本人が好まない展覧会は少ない」
「・・・そういう経済的に当然な現象になるわけですよ。それなのに、齋藤孝氏には、そういう経済観念がない」
「と言うか、現象の裏側にある当然の理由に頭が行かないんです」
「「世界には様々な芸術があり、日本人はそれを広範に理解すべきだ。それが日本人を成長させる事なのだ」と言う意識しかない」
「だから、経済の原則すら、理解出来ず、むしろ、国民の芸術的センスを磨くために、展覧会があるかのような」
「そんな勘違いをしている・・・それってもう、モノを見る目が可怪しいとしか言えないと思います」
と、ユキちゃんは言い抜いた。
「ま、ユキちゃんがそう言うなら、その人の正体は「知識者」の「俺偉い病」ってところね」
「「知識者」の弱点はその人が得た「知識」に依存するだけで、自分で現象を分析して、その裏にある原因を見つけ出すような」
「「知恵」を作れない事だから・・・そういう見方になるんじゃない?」
と、御島さんが言葉にする。
「自然にある色を日本人は好む・・・と言いながら、僕は尾形光琳らの琳派の金色の表現・・・これは自然には無い色だけど」
「そういう表現も好きだよね。ま、僕はクリムトも大好きだけどね・・・クリムトの展覧会があれば、ぜひ行きたいし」
と、僕。
「琳派は、16世紀終わりから脈々と息づいて来た芸術ですけど、一方、クリムトは19世紀ですからね」
「あまり、芸術で早い遅いを話しても意味はないと思いますけどね。表現の問題だから・・・」
と、貴島くん。
「まあ、いいわ。いずれにしろ、季節を愛でるのが日本人で、自然を愛するのが日本人・・・もちろん、人間の行いも愛でていた」
「そのいい例が美人画だったり、浮世絵よね。・・・まあ、いいわ、今日は芸術論をしたいわけじゃないし」
と、御島さんが結論のように言葉を出した。
「そうだ。僕は今日、ゆるちょさんに聞きたい事があって来たんです」
と、池澤くん。
「さて、何かな、今日は?」
と、僕。
「人間には何故、「運のいい人間」と「悪い人間」がいるんでしょう?」
「僕なんか宝くじを買ってもめったに当たらないし、考えてみたら、女性運もよくなさそうだし」
「なんだか、自分自身、運が悪い人間のような気がするんですよねー」
と、池澤くんが不安そうな顔をして質問してくる。
「池澤・・・女性運が悪いなんて、それは失礼なんじゃないか?」
「僕が見る所、多岐川も、御島社長も、美人でオトコマエで理解力も高くて、おまけに性格もいい・・・いい女だと思うけどな」
と、貴島くんが言う。
「いやあ、それはもちろん・・・女性運と言ったのは、僕の彼女になってくれる人と言う意味で・・・」
「御島さんや、ユキさんは別ですよ、別・・・」
と、池澤くんは大慌てで否定する。
「ふふ。それにしても、興味深い話よね。「運のいい人間」と「運の悪い人間」の線引とは何か?」
「なかなか、いい質問じゃないかしら?」
と、御島さん。
「なるほどね。面白そうな質問だ。少し考えてみよう」
と、僕は焼いた豚肉を口にいれると、ビールでお腹に流し込んだ。
「日本社会と言うのは、ムラ社会と言ってもいい。つまり、周囲の人間が皆知り合い・・・」
「村長さんも警察署長さんも消防署長さんも校長先生もお坊さんも、近所の皆さんも・・・みーんな知り合い」
「・・・それが日本社会の本質であり、わかりやすく言えば、いい意味での善意の相互監視社会だ」
「だから、小学生がひとりで学校に登校しても危険などなかった。今まではね」
と、僕。
「しかし、最近はそういう相互監視社会網が壊れ始めた・・・自分の事、自分の家族しか考えない人間が増え」
「要は「逃げ込み者」が増えたから、相互監視社会が機能しなくなり、結果、下校中の小学生が狙われたりするようになった」
「これは日本文化を破壊している「逃げ込み者」と言うダメ人間達が増えていると言う証拠だ」
と、僕。
「それはまあいい。問題提起だけしておこう」
「じゃあ、なぜ、善意の相互監視社会が作られるかと言えば・・・以前は同じ地域に住んでいるだけで、そのような社会が出来ていた」
「が、しかし、今は、そのような地域のつながりさえ、無くなりつつある。そして、人間のつながりそのものが二極化したんだ」
と、僕。
「二極化!」
と、ユキちゃん。
「その人間が社会的に好ましい人間の場合、多くの人間が「こいつの為に人肌脱ごう。こいつは有用な、好ましい人間だ」と」
「判断する個人が多ければ多い程・・・その人間にはその人間を無償で助ける後見人が多数生まれる事になるんだ」
と、僕。
「そして、そう思われない人間に関しては・・・関係すら持たない人間が増えている。つまり、「後見人のたくさんいる人間」と「関係する人間すらいない人間」」
「・・・日本人のつながりは、この二極化となっているんだ」
と、僕。
「ふーん。じゃあ、後見人の定義を教えて?ゆるちょくん」
と、御島さん。
「その人間の中身を見抜き、その人間を信頼し、その人間の発展を願い、その人間の行為に責任を持ち」
「その人間を利用しながら、自分も発展して行こうとする人間・・・ですかね」
と、僕。
「それってゆるちょさんが会社員時代、部長さんにその人間性を買われ、部の様々なイベントの司会から、全国の営業応援の為の現地派遣」
「東大その他から入ってきた新人女性技術者の教育担当など、部の為にいろいろ仕事をした事が・・・結果、部の成績になり」
「結果として、部長さんが本社に栄転する・・・そんな部長さんと多数の部下の関係・・・そういう関係性を言いますか?」
と、ユキちゃん。
「うん。具体的に言うと、そういう事になるね」
と、僕。
「ははは。ゆるちょさんって、部長さんに「こいつ使えるから」と言われちゃー、いろいろ頼まれていたって話ですよね」
と、貴島くん。
「すごいな。ゆるちょさんって出来る人だったんですね」
と、池澤くん。
「うーん、それはちょっと理解が違う。僕は純粋にコンピューター技術者としては三流以下の人間だ」
「ただ、対人間の仕事に関してはチカラを出せる人間だったし、真面目で陽気で裏の無い人間だったから、単純に相手に好かれたんだ」
「人見知りもしないしね。だから、愛された・・・クレームを言ってきた相手さえ、真摯に取り組めば、一緒に酒を酌み交わせる」
「くらいには、なれた・・・そういう話だよ」
と、僕。
「ゆるちょさん、答え出しちゃったじゃないですか。それが「運のいい人間」の具体的な能力そのものでしょ?」
と、貴島くん。
「え?どういう事ですか?」
と、池澤くん。
「ゆるちょさんと知り合いになった人間、一緒に仕事をした人間は皆、ゆるちょさんのファンになってしまう」
「言わば皆、後見人になるんだ。だから、皆、ゆるちょさんの為になるように動こうとする。だから、ゆるちょさんを知る人間が」
「増えれば増える程・・・「こういう使える人間がいるんだ」と他人に知らせたくなるから・・・ゆるちょさんの仕事は口コミで」
「どんどん増えていくと言う・・・今の仕事増大スパイラルに入っている。そうですよね、御島さん」
と、貴島くん。
「そうね。日本社会はそういうところ。口コミこそが最大のコマーシャル効果を生むと言っても過言ではないわね」
「むしろ、信頼できる人間が推す人間こそ・・・信頼を得るわけだから・・・この日本では後見人が多い人間の勝ち!と言う」
「事になるかしらね」
と、御島さん。
「わたしもそうだけど・・・仕事の出来る人間を使いこなせる人間もまた、出世出来るのよ」
「わたしがゆるちょくんに目をつけたのは、そういう意味もあるの」
と、御島さん。
「具体的に言うと、どういう事ですか?」
と、池澤くん。
「「このオトコはわたしを世界のトップにすら、連れて行ってくれる。だったら、このオトコをわたしの商品として徹底的に守り」」
「「一緒に歩いていくべきだわ。わたしはこのオトコをプロデュースし、この世界でトップを取る」」
「・・・そういう決断をさせてくれたのがゆるちょくんだもの。言葉で表せば、そういう感じかしら」
と、御島さん。
「自転車のトレーニング方法に、そういうやり方ってあるんだよ。基本、自転車のトレーニングは」
「まあ、孤独にやるってのもあるんだけど、最小単位は、二人でさ。一人が前に出て風よけになる。もうひとりは後ろで守られながら」
「足のエネルギーを貯めたら、今度は前に出て、風よけになる。その繰り返し・・・」
と、僕。
「「お前は俺を上手く利用して上に行け。俺もお前を上手く利用して上に行く。そうやってドンドン上のステージに行くのがサイクリストの生き方だ」」
「・・・と言われているけど、こういう生き方がサイクリストの基本なんだ。トレーニングばかりでなく、生き方そのものがそういう感じなんだね」
と、僕。
「それってまさに、ゆるちょさんと御島さんのあり方を説明していると思いますよ。お互いがお互いを守っているカタチに」
「なるわけだし、お互いがお互いを利用して、上のステージを目指しているわけだし」
と、貴島くん。
「このカタチは日本文化的に言えば、古くからある「御恩と奉公」のカタチなんだ。遡れば平安時代中期くらいからある」
「サムライの忠義のカタチだから・・・日本文化そのものの人同士のつながりと言ってもいいね」
と、僕。
「つまり、そういうカタチ・・・御島さんとゆるちょさんの御恩と奉公のカタチを核としたつながりのコミュニティ・・・」
「たくさんの後見人が日本社会に現れるような・・・そういうコミュニティをどんどん大きくしていこうとしているのが」
「今の御島さんとゆるちょさんと言う事になるんですか?」
と、辛辣姫。
「そういう事ね。そして、そういう後見人が機能するから、「ゆるちょにはがんばってもらおう。あいつには、それを可能とする」」
「「優秀な能力がある。他の誰にも無い能力を持っているから」と皆が理解してくれるから・・・皆、よかれと思って」
「いろいろしてくれるから・・・口コミもドンドン広がるから、いい事がゆるちょくんにもわたしにも生まれてくる・・・それが「運がいい」と言われる」
「状況の正体なの・・・」
と、御島さん。
「御島さん、答え知ってたんですか?」
と、貴島くん。
「かなり前に、そういう話になったの。ゆるちょくんと・・・今、それを思い出したわ」
と、御島さん。
「じゃあ、「運が悪い」と言うのは?」
と、池澤くん。
「それはその逆の状況よね。彼を知ってる皆が彼に才能が無いのを知ってる・・・そんな状況じゃない?」
「だから、誰もその彼に手助けをしない・・・だから、その彼にいい事は起こらず、むしろ、不利な事ばかり起こる」
「そんな所かしら」
と、御島さん。
「それを言うなら、その彼を誰も知らない・・・そんな状況も入ってくるんじゃない?もっともその場合、いい事も悪い事も」
「起こらない・・・だけど、それ以上に誰からも知られていない・・・と言う状況は日本的にはつながりが無いわけだから」
「不幸と言う事になる。誰からも無視されている状況だからね」
と、僕。
「ゆるちょさんの指摘した人間の状況って、いわゆる「逃げ込み者」って事になりますよね?」
「でも、わたし、そういう日本人が増えているように思います。そもそも核家族化だって、親世代からの「逃げ込み者」でしょう?」
「それでいて、ママ友とうまくやれなくて・・・みたいな事を聞くけど、そもそも「逃げ込み者」だから、周囲の支えすらないし」
「結局、自分勝手な人間は、この日本ではマックスな不幸になるって事ですよね?」
と、辛辣姫。
「それについてもう少し言えば、「まず相手の事を考える。自分の事は最後に後回しにする」と言う、日本人の基本的な思考が」
「出来なければ、誰も相手にしないわ。そういう自分勝手と言うのは、社会に出れば、ある程度治るものだけど」
「最近は社会などおざなりにして、家庭に引きこもって、自分勝手な王様になり、旦那も嫌い、子離れ親離れが出来ず」
「ダメな子供を作り出す馬鹿親が増えているから・・・結局、日本の誇った「善意の相互監視社会」が破壊されている」
「・・・わたしはそう見るわ」
と、御島さん。
「うーん、でも、そういう家庭って、子供がコミュニケーション能力を確立出来ないから・・・結果的にふしあわせな血脈って」
「そういう風にシビアな日本社会に見抜かれて・・・結婚も出来ずに不幸になっていくんじゃないですか?」
「言わば結婚って、日本社会に入れてもらえるって事だから」
と、池澤くんが言う。
「ほう。池澤、なかなか、鋭い事を言うじゃないか」
と、貴島くんは感心する。
「・・・と言う事は、最近の日本の晩婚化や、若い世代が恋愛出来ない症候群に陥ってる理由って」
「家庭における教育の失敗にあるって事ですか?親が悪いと・・・そういう事になります?」
と、辛辣姫。
「さあ、どうかな。それを論じて見ても、誰得なんじゃない?」
「この日本は、人生やったもん勝ち!の世界だ。逃げ込んでいる人間にしあわせが訪れる程、ヤワな世界じゃないさ」
と、僕。
「逃げ込んでいたら、誰からも忘れられて、決してしあわせにはなれない・・・そういう話ですか?」
と、ユキちゃん。
「まあ、そうだろうね。なにより、日本は「和を以て貴しとなす」を最高正義とする国だ。和とはつながりだよ」
「日本社会とどれだけの有用なつながり・・・お互いがお互いを本能から笑顔にする関係を結べるか・・・そこが鍵になる」
と、僕。
「それが出来る人間に、どんどん運が回ってくるし、それの出来ない人間には、不運がついてくる・・・そういう結論ね」
と、御島さん。
「そういう事だね」
と、僕。
「パワースポットに行けば、運が得られる・・・なんて妄想なんですね。っていうか、最近、パワースポットって」
「ダメ人間ホイホイになっているし・・・」
と、池澤くん。
「お前、行ったのか、パワースポット」
と、貴島くん。
「まあ、ちょっと・・・不幸そうな・・・彼氏や彼女のいなさそうな、女性や男性で溢れてました」
「あと、誰にも相手にされない、不幸そうなオバサン連中も多かったですけど」
と、池澤くんは言いながら、頭を掻くと、
「もう、あーゆーところには、絶対に行きません。こうやって、みなさんとおしゃべりしていた方がよっぽど、運が向きますから」
と、言って、池澤くんは、焼けた肉を頬張った。
皆、その様子を見て、楽しそうに笑っていた。
「日本では「使える人間」と言う表現が、最も最高の呼称なのかもね」
と、ポツリと御島さんが言葉にした。
(おしまい)