過去問盗難事件があったその夜、雪はペンを走らせながら先輩と電話をしていた。
「‥はい、それで過去問でゴタゴタしてるんですけども、
それが思ったよりちょっと‥ゴタゴタにゴタゴタが次ぐ感じで‥」

雪は「過去問が盗まれた」という事実を隠して、先輩に現状を伝えた。
通話先の淳は、その核心を聞き出そうとする。
「何かあったんじゃないの?」
「いや‥特に何がってわけじゃないですけど‥
こういうささいなことが変に疲れるし、ピリピリしちゃうって感じですかね‥」

淳は「そうか‥」と相槌を打った後、思い当たる人物の話題を出した。
「健太先輩はどう?この間、過去問絡みで問題になったろう?」
「健太先輩ですか?相変わらずですよー、THE・お騒がせ野郎です。
皆、あの人が面接受かってさっさと出て行って欲しいって言ってますね」
「あの人、また雪ちゃんに対して何か言って来てるんじゃないの?」

その淳の問いを、雪は一応肯定する。
「はい。でも特に何かってのは無いです」

しかしやはり、詳しいことは何も言わなかった。
視線の先には、課題が山積みになっている。
「今は週末までに終わらせなきゃならない物が沢山あるってことの方が‥問題‥
」

すると、PCがメールの受信を教える音を立てた。
添付されたファイルには、”財務学会発表資料”と書いてある。
「あっ佐藤先輩だ」

雪はファイルを開きながら、淳に向かってそろそろ通話を終えたい旨を遠回しに伝える。
「先輩、私もう発表の準備しなきゃ!課題と財務学会の発表が重なっちゃって‥」
「うん、分かった」

淳はすぐにそれを了承し、雪に労いの言葉を掛けた。
「もうこんな遅いのに、本当に大変だね‥」
「せんぱいぃぃぃ‥」

その優しさに涙しながら、雪は彼におやすみを言う。
「先輩こそ通勤大変でしょ?早く休んで下さいね」
「うん、課題集中して頑張れよ。また連絡するよ」「はい!」


そして恋人達は電話を切った。
フワフワするその甘い会話の後に残るのは、窮屈な現実だけ‥。
「あ~!大変だぁぁぁ!戦じゃ戦~~!」

そして同じ頃。
「赤山にファイルは送ったし‥」

佐藤は自身の発表資料を後輩に送り終えた所だ。
続けて送るべきメッセージは、少し躊躇を覚える相手へのそれであった。

佐藤は覚悟を決めると、
キーボードを叩き始めた。

人性検査は他のところと同じ?

そんな端的なメッセージを打ち、Enterを押して送信する。
佐藤は暫し画面を眺めた。
「‥‥‥‥」

これで近日中に返信が来れば‥と思いつつ、
佐藤は手元の資料に再び目を通し始める。

すると。

PCがメッセージの受信を知らせる音を鳴らした。
そこにはオンラインになったアイコン、”青田淳”からのメッセージが表示されている。
うん。大差ないよ

思っていたよりも相当早いその返信に、佐藤は思わず「おっ」と声を出した。

佐藤は再びキーボードに指を置くと、ここはクールに‥と思いつつメッセージを打ち込んだ。
おk、教えてくれてサンキュ

すると青田淳からすぐに返信。
良いんだよ。同期なんだからお互い様だろ

そして予想外なことに、彼から更にメッセージが続いた。
佐藤は優秀だな。うちの会社に来て欲しいよ。思ったより大学の同期が居ないんだ

その突然の褒め言葉に、思わず佐藤は仰け反った。
今まで嫌味な奴だと思っていた青田淳が、最近は妙に自分に対して優しいからだ。

動揺しながらも、とりあえず佐藤はメッセージを返した。
世辞はいいよ。とにかくおつかれ

やり取りを終わらせたがっている佐藤の雰囲気を察してか、
淳は最後に温かな言葉で締めくくる。
うん、また聞きたいことあったら聞いてな

そしてやり取りは終わった。
佐藤は咳払いをしながら、一人「良いヤツじゃないか‥」と呟いた‥。


都内高級マンションの一室。
彼の長い指が、PCのキーボードを打ち終える。

画面には、佐藤広隆との会話が表示されている。
たった今、そのやり取りは終わったところだ。

彼はキーボードから指を離し、「あぁ」と声を出した。

彼、青田淳は通話中なのである。
「それで?」
「そんでさ、赤山ちゃんの鞄の中にあったそれがそっくり消えたってワケ!
鞄に入れっぱにしてたっていうその紙切れが、どーしてどーして空飛んで無くなるってのかねぇ?」

通話先は彼の同期、柳楓であった。
柳は今日起こった「赤山雪の持っていた過去問盗難事件」について、その全てを淳に報告している。
「したらさ、突然柳瀬が大声で”赤山ぁ!こりゃ何事だぁ?!”っつって駆け寄って来てよ。
それが俺的にはビビッと来た的な?「犯人はこの中に居る!」「あなたが犯人です!」的な!」
「ふぅん‥」

名探偵が犯人を名指しする場面を冗談交じりに話す柳。
すると彼は、思いついたように大きな声を出した。
「あっ!てか大ニュースがあった!!」「大ニュース?」

冷静にその続きを促す淳。柳は興奮しながら言葉を続けた。
「衝撃の新事実!!伏兵が居たんだよ!その名も糸井直美!」
「糸井?」

若干予想外なその人物の名を、淳はそのまま復唱した。
柳は今日目にした糸井直美の様子をつぶさに口にする。
「いきなり糸井が赤山ちゃんとこ来て、うるさいだの雰囲気を壊すなだの色々言って来たのよ。
なんつっても表情がぎこちねーし、興奮を隠しきれねー感じでさ、何か後ろめたいことをバラされた、みたいな印象受けたんだよな。
俺、教養心理学A+じゃん?分かんのよねー」
「‥怒ってたってこと?」
「うーんそういう単純な感じじゃなかったな。とにかくムカついてしょうがない、って感じだった。
赤山ちゃんに、「本当に過去問なくしたのか」とか「どうして個人的なことでゴタゴタさせるのか」とか、
そんな感じのこと言ってたよ」

柳の語る、おかしな糸井直美像に、淳もまた違和感を覚えた。
「ふぅん」と呟く淳の表情が、固く曇る。

「そうだったんだ‥」
「とにかくお前の手が加えられた過去問はスゴイって話だよww」

柳は笑いながら、久々に話す淳との会話を楽しんでいる。
淳は柳との会話の中に雪が言葉にしなかった事実の裏を取り、一人思案に耽るのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<裏取り>でした。
雪と会話した後佐藤とメッセをやり取りしながら柳と電話する淳‥。
どんだけ裏で動いてるんですか!

そして淳と電話する柳の謎のテンションの高さにビックリした私です。
久々に話せるから嬉しかったんですかね~。淳のことが大好きな柳‥。
次回は<ターゲット>です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は化けてしまうor文章が途中で切れてしまうので、
極力使われないようお願いします!
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「‥はい、それで過去問でゴタゴタしてるんですけども、
それが思ったよりちょっと‥ゴタゴタにゴタゴタが次ぐ感じで‥」

雪は「過去問が盗まれた」という事実を隠して、先輩に現状を伝えた。
通話先の淳は、その核心を聞き出そうとする。
「何かあったんじゃないの?」
「いや‥特に何がってわけじゃないですけど‥
こういうささいなことが変に疲れるし、ピリピリしちゃうって感じですかね‥」

淳は「そうか‥」と相槌を打った後、思い当たる人物の話題を出した。
「健太先輩はどう?この間、過去問絡みで問題になったろう?」
「健太先輩ですか?相変わらずですよー、THE・お騒がせ野郎です。
皆、あの人が面接受かってさっさと出て行って欲しいって言ってますね」
「あの人、また雪ちゃんに対して何か言って来てるんじゃないの?」

その淳の問いを、雪は一応肯定する。
「はい。でも特に何かってのは無いです」

しかしやはり、詳しいことは何も言わなかった。
視線の先には、課題が山積みになっている。
「今は週末までに終わらせなきゃならない物が沢山あるってことの方が‥問題‥


すると、PCがメールの受信を教える音を立てた。
添付されたファイルには、”財務学会発表資料”と書いてある。
「あっ佐藤先輩だ」

雪はファイルを開きながら、淳に向かってそろそろ通話を終えたい旨を遠回しに伝える。
「先輩、私もう発表の準備しなきゃ!課題と財務学会の発表が重なっちゃって‥」
「うん、分かった」

淳はすぐにそれを了承し、雪に労いの言葉を掛けた。
「もうこんな遅いのに、本当に大変だね‥」
「せんぱいぃぃぃ‥」

その優しさに涙しながら、雪は彼におやすみを言う。
「先輩こそ通勤大変でしょ?早く休んで下さいね」
「うん、課題集中して頑張れよ。また連絡するよ」「はい!」


そして恋人達は電話を切った。
フワフワするその甘い会話の後に残るのは、窮屈な現実だけ‥。
「あ~!大変だぁぁぁ!戦じゃ戦~~!」

そして同じ頃。
「赤山にファイルは送ったし‥」

佐藤は自身の発表資料を後輩に送り終えた所だ。
続けて送るべきメッセージは、少し躊躇を覚える相手へのそれであった。

佐藤は覚悟を決めると、
キーボードを叩き始めた。

人性検査は他のところと同じ?

そんな端的なメッセージを打ち、Enterを押して送信する。
佐藤は暫し画面を眺めた。
「‥‥‥‥」

これで近日中に返信が来れば‥と思いつつ、
佐藤は手元の資料に再び目を通し始める。

すると。

PCがメッセージの受信を知らせる音を鳴らした。
そこにはオンラインになったアイコン、”青田淳”からのメッセージが表示されている。
うん。大差ないよ

思っていたよりも相当早いその返信に、佐藤は思わず「おっ」と声を出した。

佐藤は再びキーボードに指を置くと、ここはクールに‥と思いつつメッセージを打ち込んだ。
おk、教えてくれてサンキュ

すると青田淳からすぐに返信。
良いんだよ。同期なんだからお互い様だろ

そして予想外なことに、彼から更にメッセージが続いた。
佐藤は優秀だな。うちの会社に来て欲しいよ。思ったより大学の同期が居ないんだ

その突然の褒め言葉に、思わず佐藤は仰け反った。
今まで嫌味な奴だと思っていた青田淳が、最近は妙に自分に対して優しいからだ。

動揺しながらも、とりあえず佐藤はメッセージを返した。
世辞はいいよ。とにかくおつかれ

やり取りを終わらせたがっている佐藤の雰囲気を察してか、
淳は最後に温かな言葉で締めくくる。
うん、また聞きたいことあったら聞いてな

そしてやり取りは終わった。
佐藤は咳払いをしながら、一人「良いヤツじゃないか‥」と呟いた‥。


都内高級マンションの一室。
彼の長い指が、PCのキーボードを打ち終える。

画面には、佐藤広隆との会話が表示されている。
たった今、そのやり取りは終わったところだ。

彼はキーボードから指を離し、「あぁ」と声を出した。

彼、青田淳は通話中なのである。
「それで?」
「そんでさ、赤山ちゃんの鞄の中にあったそれがそっくり消えたってワケ!
鞄に入れっぱにしてたっていうその紙切れが、どーしてどーして空飛んで無くなるってのかねぇ?」

通話先は彼の同期、柳楓であった。
柳は今日起こった「赤山雪の持っていた過去問盗難事件」について、その全てを淳に報告している。
「したらさ、突然柳瀬が大声で”赤山ぁ!こりゃ何事だぁ?!”っつって駆け寄って来てよ。
それが俺的にはビビッと来た的な?「犯人はこの中に居る!」「あなたが犯人です!」的な!」
「ふぅん‥」

名探偵が犯人を名指しする場面を冗談交じりに話す柳。
すると彼は、思いついたように大きな声を出した。
「あっ!てか大ニュースがあった!!」「大ニュース?」

冷静にその続きを促す淳。柳は興奮しながら言葉を続けた。
「衝撃の新事実!!伏兵が居たんだよ!その名も糸井直美!」
「糸井?」

若干予想外なその人物の名を、淳はそのまま復唱した。
柳は今日目にした糸井直美の様子をつぶさに口にする。
「いきなり糸井が赤山ちゃんとこ来て、うるさいだの雰囲気を壊すなだの色々言って来たのよ。
なんつっても表情がぎこちねーし、興奮を隠しきれねー感じでさ、何か後ろめたいことをバラされた、みたいな印象受けたんだよな。
俺、教養心理学A+じゃん?分かんのよねー」
「‥怒ってたってこと?」
「うーんそういう単純な感じじゃなかったな。とにかくムカついてしょうがない、って感じだった。
赤山ちゃんに、「本当に過去問なくしたのか」とか「どうして個人的なことでゴタゴタさせるのか」とか、
そんな感じのこと言ってたよ」

柳の語る、おかしな糸井直美像に、淳もまた違和感を覚えた。
「ふぅん」と呟く淳の表情が、固く曇る。

「そうだったんだ‥」
「とにかくお前の手が加えられた過去問はスゴイって話だよww」

柳は笑いながら、久々に話す淳との会話を楽しんでいる。
淳は柳との会話の中に雪が言葉にしなかった事実の裏を取り、一人思案に耽るのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<裏取り>でした。
雪と会話した後佐藤とメッセをやり取りしながら柳と電話する淳‥。
どんだけ裏で動いてるんですか!


そして淳と電話する柳の謎のテンションの高さにビックリした私です。
久々に話せるから嬉しかったんですかね~。淳のことが大好きな柳‥。
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