翌日。
「赤山雪主催の勉強会」について、雪が柳に説明する。
「私達はまだ三年ですから、卒業試験は受けませんので。どうせ似たような内容を勉強するわけですが」
過去問騒動のゴタゴタで忘れていたが、まだ雪は三年生なのである。
するべきは卒業試験の勉強ではなく、その他の勉強だ。
「だよな。そんじゃ専攻の勉強会にすっか?」
「はい、皆に呼びかけてやりましょう。前もってやれることやっとかなきゃ」
柳は雪の意見を尊重し、この勉強会の主たるテーマを「専攻試験の勉強」に決めた。
テキストを見ながら、以前このテストを受けたという柳が説明を始める。
「生産管理は超ムズいらしいからな。出てくる数字も全部変えるらしいし。
でも見ろよ、淳の過去問は問題の答えだけじゃなく解説まで書かれてるぜ。これ見てりゃ間違いないな!」
そんな雪達の周りに、佐藤や海など勉強会に参加を希望する学生達が集まって来た。
「あたしたちもやるー」
雪と仲の良い同期、そして海の友達など、段々とその輪は広がって行く。
「海ちゃん!一緒にやってもいい?」「うん」
その様子を見た直美と直美と仲の良い女子が、「何よねぇ」とブツブツ言っていた。
白けた表情を浮かべている。
そして雪らを凝視しているのは、直美達だけではなかった。
柳瀬健太は、ジトッとした目つきで雪達を睨んでいた。
イラつく感情を持て余しながらも、頭の中では損得の計算が忙しい。
クソッ‥プライドがあるが、万一を考えて‥
面接の失敗に備えて、今からでもあいつらに付く方が‥
健太は迷っていた。
赤山のこれまでの非礼に目をつぶり、今からでもあちらサイドにつくべきかと。
そしてそんな彼を見透かすかのように、柳楓は冷めた視線を健太に送る。
うっ‥
柳と目が合った健太は、そこでハッとした。
何度も首を横に振りながら、先程の考えを思い直す。
いや!堂々としてりゃいい!面接も落ちるわけねーし!
そして健太はそれきり雪の方を見ようとはしなかった。
一方雪は、とある人物の背中をじっと見つめているところだった。
彼女の周りでは、柳や同期達が勉強会の算段を話し合っている。
「俺も更に人呼んだぜー他の空き教室探すか?ワイワイしちゃうもんな」「そうですねー」
雪の視線の先には、
サーモンピンクのセーターを着た一人の女子。
彼女は、糸井直美と一番親しい子なのである。
雪は無言のまま、隣に座る聡美と視線を交わす‥。
そして授業は始まった。
雪は現在の状況を、改めて頭の中で整理しているところだ。
結局勉強会にまで事を広げてしまったし‥
しかもまた、この教養の授業‥。
どうせこの授業のグループ課題もダメだろうし、自分で全部やるとして‥
授業が終わり、雪は一人で外を歩いていた。
期末までグループ課題が二つと、勉強会、財務学会‥、週末までにそれらに取り組める日が三日‥
やるべきことは山積しており、時間は限られている。
それでも、過去問を盗んだ人間をそのまま放置するわけには‥
けれど、それを見ないふりは出来なかった。
雪の視線の先には、彼女が居る。
サーモンピンクのセーターを着た、あの女の子だ。
雪は頭の中で、彼女のプロフィールを改めて確認する。
黒木典。
口が軽い方。お喋りで、人の悪口を日常的に口にするwith直美さん
雪は彼女の後ろ姿を見つめながら、少し思案した。
どうやって話すかな‥
ターゲット・黒木典。
雪は自分がどう振る舞うべきかを算段しながら、彼女の後を追った。
自販機から出てきたコーラを手に取り、
典はそのキャップを回し開ける。
すると背後から突然掛かった声に、典は驚いて手元が狂った。
「典ちゃん」「きゃっ!」
炭酸はその衝撃で泡を吹いた。
シュワシュワと音を立てながら、典の手を冷たく濡らす。
「あ‥」「あ‥」
典は濡れた手を払いながら、苛立ちの声を上げた。
「もう‥!何なのよマジで‥」「あ‥ごめん」
雪は謝りながら、
彼女に向かってティッシュを差し出す。
その周到さに、典は一瞬口をポカンと開けて固まった。
そして雪の用意したティッシュは手に取らず、代わりに自身の鞄を探る。
「ううん大丈夫、ティッシュならあたしも持って‥」
ティッシュ出てこーい
無‥
はい
結局ティッシュは見つからず、典は「アリガト」と気まずそうな顔で、
雪の差し出すティッシュを受け取った。
どうしても‥
雪は自分と目を合わせようとしない典を見ながらこう思う。
基本的には直美さんが嫌いな私を、避けようとするはずだけど‥
手を拭く典を見つめながら、雪は話を切り出した。
「典ちゃん、もしかして○○区の辺りから通ってる?」
「学科長がその辺りに居るのって見たことあるかな?」
「さぁ‥?」
雪からの質問に、典は首を横に傾げた。
しかし彼女の瞳の中に、好奇心が踊るのが見える。
典は続きを促した。しかし雪は曖昧に笑うだけだ。
「それがどうしたの?」「あ‥ううん、特に何がってわけじゃないの」
「ティッシュ、もう必要ないなら私行くね。ちょっとしか溢れなくて良かった。ホントにごめんね」
「あ‥」
そう言って背を向けようとする雪を、典は思いついた言い訳で引き止める。
「あー‥ティッシュ、もうちょっとくれない?」
雪は笑顔で頷いた。
「いいよ」
心の中で声がする。
興味を持つであろう餌を撒けばー‥
必ず食いつく。
そして案の定、黒木典は食いついて来たーー‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<ターゲット>でした。
こんな風に意図を持って自分から働きかけるの、実は初めてじゃないですかね雪ちゃん。
ますます先輩に似て来たなと感じます。
そして典ちゃん‥寒いだろうにコーラ飲むんですね。若いな‥。
次回は<刺した釘>です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は化けてしまうor文章が途中で切れてしまうので、
極力使われないようお願いします!
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「赤山雪主催の勉強会」について、雪が柳に説明する。
「私達はまだ三年ですから、卒業試験は受けませんので。どうせ似たような内容を勉強するわけですが」
過去問騒動のゴタゴタで忘れていたが、まだ雪は三年生なのである。
するべきは卒業試験の勉強ではなく、その他の勉強だ。
「だよな。そんじゃ専攻の勉強会にすっか?」
「はい、皆に呼びかけてやりましょう。前もってやれることやっとかなきゃ」
柳は雪の意見を尊重し、この勉強会の主たるテーマを「専攻試験の勉強」に決めた。
テキストを見ながら、以前このテストを受けたという柳が説明を始める。
「生産管理は超ムズいらしいからな。出てくる数字も全部変えるらしいし。
でも見ろよ、淳の過去問は問題の答えだけじゃなく解説まで書かれてるぜ。これ見てりゃ間違いないな!」
そんな雪達の周りに、佐藤や海など勉強会に参加を希望する学生達が集まって来た。
「あたしたちもやるー」
雪と仲の良い同期、そして海の友達など、段々とその輪は広がって行く。
「海ちゃん!一緒にやってもいい?」「うん」
その様子を見た直美と直美と仲の良い女子が、「何よねぇ」とブツブツ言っていた。
白けた表情を浮かべている。
そして雪らを凝視しているのは、直美達だけではなかった。
柳瀬健太は、ジトッとした目つきで雪達を睨んでいた。
イラつく感情を持て余しながらも、頭の中では損得の計算が忙しい。
クソッ‥プライドがあるが、万一を考えて‥
面接の失敗に備えて、今からでもあいつらに付く方が‥
健太は迷っていた。
赤山のこれまでの非礼に目をつぶり、今からでもあちらサイドにつくべきかと。
そしてそんな彼を見透かすかのように、柳楓は冷めた視線を健太に送る。
うっ‥
柳と目が合った健太は、そこでハッとした。
何度も首を横に振りながら、先程の考えを思い直す。
いや!堂々としてりゃいい!面接も落ちるわけねーし!
そして健太はそれきり雪の方を見ようとはしなかった。
一方雪は、とある人物の背中をじっと見つめているところだった。
彼女の周りでは、柳や同期達が勉強会の算段を話し合っている。
「俺も更に人呼んだぜー他の空き教室探すか?ワイワイしちゃうもんな」「そうですねー」
雪の視線の先には、
サーモンピンクのセーターを着た一人の女子。
彼女は、糸井直美と一番親しい子なのである。
雪は無言のまま、隣に座る聡美と視線を交わす‥。
そして授業は始まった。
雪は現在の状況を、改めて頭の中で整理しているところだ。
結局勉強会にまで事を広げてしまったし‥
しかもまた、この教養の授業‥。
どうせこの授業のグループ課題もダメだろうし、自分で全部やるとして‥
授業が終わり、雪は一人で外を歩いていた。
期末までグループ課題が二つと、勉強会、財務学会‥、週末までにそれらに取り組める日が三日‥
やるべきことは山積しており、時間は限られている。
それでも、過去問を盗んだ人間をそのまま放置するわけには‥
けれど、それを見ないふりは出来なかった。
雪の視線の先には、彼女が居る。
サーモンピンクのセーターを着た、あの女の子だ。
雪は頭の中で、彼女のプロフィールを改めて確認する。
黒木典。
口が軽い方。お喋りで、人の悪口を日常的に口にするwith直美さん
雪は彼女の後ろ姿を見つめながら、少し思案した。
どうやって話すかな‥
ターゲット・黒木典。
雪は自分がどう振る舞うべきかを算段しながら、彼女の後を追った。
自販機から出てきたコーラを手に取り、
典はそのキャップを回し開ける。
すると背後から突然掛かった声に、典は驚いて手元が狂った。
「典ちゃん」「きゃっ!」
炭酸はその衝撃で泡を吹いた。
シュワシュワと音を立てながら、典の手を冷たく濡らす。
「あ‥」「あ‥」
典は濡れた手を払いながら、苛立ちの声を上げた。
「もう‥!何なのよマジで‥」「あ‥ごめん」
雪は謝りながら、
彼女に向かってティッシュを差し出す。
その周到さに、典は一瞬口をポカンと開けて固まった。
そして雪の用意したティッシュは手に取らず、代わりに自身の鞄を探る。
「ううん大丈夫、ティッシュならあたしも持って‥」
ティッシュ出てこーい
無‥
はい
結局ティッシュは見つからず、典は「アリガト」と気まずそうな顔で、
雪の差し出すティッシュを受け取った。
どうしても‥
雪は自分と目を合わせようとしない典を見ながらこう思う。
基本的には直美さんが嫌いな私を、避けようとするはずだけど‥
手を拭く典を見つめながら、雪は話を切り出した。
「典ちゃん、もしかして○○区の辺りから通ってる?」
「学科長がその辺りに居るのって見たことあるかな?」
「さぁ‥?」
雪からの質問に、典は首を横に傾げた。
しかし彼女の瞳の中に、好奇心が踊るのが見える。
典は続きを促した。しかし雪は曖昧に笑うだけだ。
「それがどうしたの?」「あ‥ううん、特に何がってわけじゃないの」
「ティッシュ、もう必要ないなら私行くね。ちょっとしか溢れなくて良かった。ホントにごめんね」
「あ‥」
そう言って背を向けようとする雪を、典は思いついた言い訳で引き止める。
「あー‥ティッシュ、もうちょっとくれない?」
雪は笑顔で頷いた。
「いいよ」
心の中で声がする。
興味を持つであろう餌を撒けばー‥
必ず食いつく。
そして案の定、黒木典は食いついて来たーー‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<ターゲット>でした。
こんな風に意図を持って自分から働きかけるの、実は初めてじゃないですかね雪ちゃん。
ますます先輩に似て来たなと感じます。
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