「海ちゃん、海ちゃん」
不意に肩を軽く叩かれた海は、ペンを走らせる手を止めて振り返った。
赤山雪が、自分のことを見つめている。
海はイヤホンを外すと、不思議そうな顔をして口を開いた。
「何?」
すると雪は、どこか言い辛そうにこう口にする。
「あの‥過去問見てないかな?あの時の‥あのファイル‥」「過去問?」
突然出た過去問の話題に、海は目を丸くして雪の話の続きを聞いた。
「うん、鞄の中に入れてたんだけど‥ちょっと外出てた間に無くなったみたいで‥」
雪は頭を掻きながら、気まずそうな顔で言葉を紡ぐ。
「どうしよ‥私が出しっぱなしにしてて、無くした場合もあるかもで‥」
「もしかしてこの近くで何か見てないかな?」「ねぇねぇ!雪の席の近くで過去問見た人ー?」
そんな中、聡美は少し離れた席に座っていた同期に話を聞きに行った。
「誰も居ない?」
「えぇ?それって青田先輩の過去問ってこと?」
だんだんと皆の表情が固くなり始める。
海は真剣な表情で、雪に質問した。
「過去問が?」「うん、あの過去問」
「まさか青田先輩の‥?あたしに見せてくれるって言ってた‥」
そして雪は海をじっと見つめながら、申し訳無さそうにこう言った。
「見つからなかったら申し訳ないし‥どうしよう。せっかく海ちゃんから貰ったのに」
海は雪のその言葉を聞いて、思わず声を出した。
「え?」
「あ、そうなんだ。青田先輩から貰った過去問が無くなったんじゃ‥」
無くなったのは、自分があげた過去問‥。
そのことに、海は安堵の息を吐く。
あ
そして同時に、あることを思い出した。
海の変化を見逃さず、雪はその先を促す。
「どうしたの?」「あ、ううん」
しかし海は続きを話そうとはしなかった。
けれど確かに、彼女は何かを知っている‥。
だが雪はその先を無理に聞き出そうとはしなかった。
おもむろに席を立つ。
「そっか。もう一回探してみるよ」
「てかドコ行っちゃったんだろ!走って逃げたわけじゃあるまいし~」
聡美と共に、もう一度鞄のあった席の辺りを探してみようとした時だった。
教室内に、皆が振り向くほどの大声が響き渡る。
「なんだとぉ?!」
?!
思わずビクッと驚いた雪と聡美の元に、大声の主・柳瀬健太がドカドカと近付いて来た。
「赤山っ!こりゃ一体全体何事だぁ?!」「?!?!」
雪は突然の出来事に顔を引き攣らせながら、切れ切れに言葉を紡ぐので精一杯だ。
「あ‥その‥過去問が‥無くなっ‥」
「何っ?!青田から貰った過去問が無いだとぉ?!」「?!?いえその‥」
若干棒読みのようにも取れる口調で、柳瀬健太は必要以上の大声を出しながら迫って来た。
「マジか?!どうして無くなった?!ちゃんと探してみろ!教室で無くなったのか?!」
「は‥はぁ‥」
その健太の予想外の大騒ぎに、雪の顔が青くなる。
「そ‥そうですけど別にそんな事を大きくしなくても‥」
(何なのこの人?どうしてこんなにオーバーに‥)と雪は内心その違和感を持て余していた。
そして案の定、健太の大声とそのオーバーリアクションで、教室中がザワザワと騒がしくなる。
「どうした?何が無いって?」
その騒ぎを聞きつけ、柳を始めとする四年生の先輩方も雪の方にやって来た。
雪は(思ってたより大事になったぞ)と内心焦りながら、さも何でもないことのように振る舞う。
「あはは‥いえその‥鞄に入れてた過去問が無くなっちゃって‥」「無くなったぁ?」
「おいおい赤山!どうしてそうなった?!大事にしてたんじゃねーのかよ!」
「そ‥そうですけどもなんかムカツクな‥」
健太は雪に向かって、無くした過去問が”青田淳から貰った過去問”だと断定した物言いを続ける。
「青田の奴が知ったらどんだけ残念がるか!」
「‥‥‥‥」
それが雪には引っ掛かった。
雪は冷静な口調で、健太にその真実を伝える。
「青田先輩から貰った過去問じゃないですよ。それは今ここにはありません」
「そうなのか?そんじゃ他の過去問ってこと?赤山は他にも過去問持ってんのか?」
「はい」と返事をしてから、雪は早口で事態の収拾を試みる。
「とにかく私の勘違いかもしれませんから‥」
皆が見ているこの状況は、少々荷が重かった。
しかしそんな雪に向かって、海が冷静に口を開く。
「朝持って来てたのは確かなんでしょ?」「うん」
雪はそれに頷き、時系列に沿って状況説明を始めた。
「昨日から過去問を入れっぱにしてた鞄を持って来て、
聡美と教室から出て、帰って来た間に無くなって‥ちょっとおかしいのは確かかも‥」
「どう考えても泥棒だな!泥棒!」
雪の説明を聞いて、柳がそう言い切った。
「誰かが淳の過去問狙ったものの、無駄骨折ったんじゃねーか?」
「はは‥まさか‥」
冗談めかしてそう続ける柳に、苦笑いで応える雪。
すると教室のドアが開き、教授が中に入って来た。
「教授来たぞ!」
忘れていたが、今は授業前だった。
慌てて席に戻る皆の背中に、雪が早口で声を掛ける。
「あ‥授業始まる‥!皆さんあまり気にしないで下さい。私のせいで‥」
ザワザワと未だ騒がしい教室。
「スイマセン‥」と頭を下げながら、雪もまた席に戻る。
そんな雪の姿をチラチラと見る学生と、振り返りもしない直美、冷めたような表情で背を向けた健太。
彼らのその姿を、雪はじっと観察していた。
授業が始まってからも、雪はその背中から目が離せずにいた。
ひときわ大きなその後姿、柳瀬健太から。
彼の机の上に、プリントが載っている。
雪はそれを凝視しながら、疑念がむくむくと湧き上がるのを感じていた。
まさかあの人の仕業か‥?いやでも学校にはあらゆるプリントがあるからな‥
頭の中に居る自身の分身が、健太の背中を見ながらくるくると表情を変える。
いや、あの人のリアクションが変なのは、今に始まったことじゃないし‥情に厚い人間のフリして‥、
さっきの言動が特に変だったってだけで‥しかし一体どうして‥?
雪は頬杖をつくと、ふぅむと息を吐いた。
柳瀬健太という男の現状を、冷静に考える。
その上欠席も多くて、卒業試験が一番危ういのは健太先輩のはず‥
過剰なリアクション、過去問に対するスタンス、控えた卒業試験‥。
考えれば考える程、疑惑は深まるばかりだ。
雪の頭の中で、こう名称が付けられる。
容疑者No.1:柳瀬健太、と。
何が真実かはまだ分からない。
しかし雪は授業が終わるまでの間、何度も容疑者No.1の後ろ姿を見ては、深く溜息を吐いた‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<容疑者No.1>でした。
健太のオーバーリアクション‥。きっと声がでかくてビックリしますよね。。
しかし一難去ってまた一難。雪ちゃんの胃は無事でいられるのか‥
次回は<容疑者No.2>です。
☆ご注意☆
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不意に肩を軽く叩かれた海は、ペンを走らせる手を止めて振り返った。
赤山雪が、自分のことを見つめている。
海はイヤホンを外すと、不思議そうな顔をして口を開いた。
「何?」
すると雪は、どこか言い辛そうにこう口にする。
「あの‥過去問見てないかな?あの時の‥あのファイル‥」「過去問?」
突然出た過去問の話題に、海は目を丸くして雪の話の続きを聞いた。
「うん、鞄の中に入れてたんだけど‥ちょっと外出てた間に無くなったみたいで‥」
雪は頭を掻きながら、気まずそうな顔で言葉を紡ぐ。
「どうしよ‥私が出しっぱなしにしてて、無くした場合もあるかもで‥」
「もしかしてこの近くで何か見てないかな?」「ねぇねぇ!雪の席の近くで過去問見た人ー?」
そんな中、聡美は少し離れた席に座っていた同期に話を聞きに行った。
「誰も居ない?」
「えぇ?それって青田先輩の過去問ってこと?」
だんだんと皆の表情が固くなり始める。
海は真剣な表情で、雪に質問した。
「過去問が?」「うん、あの過去問」
「まさか青田先輩の‥?あたしに見せてくれるって言ってた‥」
そして雪は海をじっと見つめながら、申し訳無さそうにこう言った。
「見つからなかったら申し訳ないし‥どうしよう。せっかく海ちゃんから貰ったのに」
海は雪のその言葉を聞いて、思わず声を出した。
「え?」
「あ、そうなんだ。青田先輩から貰った過去問が無くなったんじゃ‥」
無くなったのは、自分があげた過去問‥。
そのことに、海は安堵の息を吐く。
あ
そして同時に、あることを思い出した。
海の変化を見逃さず、雪はその先を促す。
「どうしたの?」「あ、ううん」
しかし海は続きを話そうとはしなかった。
けれど確かに、彼女は何かを知っている‥。
だが雪はその先を無理に聞き出そうとはしなかった。
おもむろに席を立つ。
「そっか。もう一回探してみるよ」
「てかドコ行っちゃったんだろ!走って逃げたわけじゃあるまいし~」
聡美と共に、もう一度鞄のあった席の辺りを探してみようとした時だった。
教室内に、皆が振り向くほどの大声が響き渡る。
「なんだとぉ?!」
?!
思わずビクッと驚いた雪と聡美の元に、大声の主・柳瀬健太がドカドカと近付いて来た。
「赤山っ!こりゃ一体全体何事だぁ?!」「?!?!」
雪は突然の出来事に顔を引き攣らせながら、切れ切れに言葉を紡ぐので精一杯だ。
「あ‥その‥過去問が‥無くなっ‥」
「何っ?!青田から貰った過去問が無いだとぉ?!」「?!?いえその‥」
若干棒読みのようにも取れる口調で、柳瀬健太は必要以上の大声を出しながら迫って来た。
「マジか?!どうして無くなった?!ちゃんと探してみろ!教室で無くなったのか?!」
「は‥はぁ‥」
その健太の予想外の大騒ぎに、雪の顔が青くなる。
「そ‥そうですけど別にそんな事を大きくしなくても‥」
(何なのこの人?どうしてこんなにオーバーに‥)と雪は内心その違和感を持て余していた。
そして案の定、健太の大声とそのオーバーリアクションで、教室中がザワザワと騒がしくなる。
「どうした?何が無いって?」
その騒ぎを聞きつけ、柳を始めとする四年生の先輩方も雪の方にやって来た。
雪は(思ってたより大事になったぞ)と内心焦りながら、さも何でもないことのように振る舞う。
「あはは‥いえその‥鞄に入れてた過去問が無くなっちゃって‥」「無くなったぁ?」
「おいおい赤山!どうしてそうなった?!大事にしてたんじゃねーのかよ!」
「そ‥そうですけどもなんかムカツクな‥」
健太は雪に向かって、無くした過去問が”青田淳から貰った過去問”だと断定した物言いを続ける。
「青田の奴が知ったらどんだけ残念がるか!」
「‥‥‥‥」
それが雪には引っ掛かった。
雪は冷静な口調で、健太にその真実を伝える。
「青田先輩から貰った過去問じゃないですよ。それは今ここにはありません」
「そうなのか?そんじゃ他の過去問ってこと?赤山は他にも過去問持ってんのか?」
「はい」と返事をしてから、雪は早口で事態の収拾を試みる。
「とにかく私の勘違いかもしれませんから‥」
皆が見ているこの状況は、少々荷が重かった。
しかしそんな雪に向かって、海が冷静に口を開く。
「朝持って来てたのは確かなんでしょ?」「うん」
雪はそれに頷き、時系列に沿って状況説明を始めた。
「昨日から過去問を入れっぱにしてた鞄を持って来て、
聡美と教室から出て、帰って来た間に無くなって‥ちょっとおかしいのは確かかも‥」
「どう考えても泥棒だな!泥棒!」
雪の説明を聞いて、柳がそう言い切った。
「誰かが淳の過去問狙ったものの、無駄骨折ったんじゃねーか?」
「はは‥まさか‥」
冗談めかしてそう続ける柳に、苦笑いで応える雪。
すると教室のドアが開き、教授が中に入って来た。
「教授来たぞ!」
忘れていたが、今は授業前だった。
慌てて席に戻る皆の背中に、雪が早口で声を掛ける。
「あ‥授業始まる‥!皆さんあまり気にしないで下さい。私のせいで‥」
ザワザワと未だ騒がしい教室。
「スイマセン‥」と頭を下げながら、雪もまた席に戻る。
そんな雪の姿をチラチラと見る学生と、振り返りもしない直美、冷めたような表情で背を向けた健太。
彼らのその姿を、雪はじっと観察していた。
授業が始まってからも、雪はその背中から目が離せずにいた。
ひときわ大きなその後姿、柳瀬健太から。
彼の机の上に、プリントが載っている。
雪はそれを凝視しながら、疑念がむくむくと湧き上がるのを感じていた。
まさかあの人の仕業か‥?いやでも学校にはあらゆるプリントがあるからな‥
頭の中に居る自身の分身が、健太の背中を見ながらくるくると表情を変える。
いや、あの人のリアクションが変なのは、今に始まったことじゃないし‥情に厚い人間のフリして‥、
さっきの言動が特に変だったってだけで‥しかし一体どうして‥?
雪は頬杖をつくと、ふぅむと息を吐いた。
柳瀬健太という男の現状を、冷静に考える。
その上欠席も多くて、卒業試験が一番危ういのは健太先輩のはず‥
過剰なリアクション、過去問に対するスタンス、控えた卒業試験‥。
考えれば考える程、疑惑は深まるばかりだ。
雪の頭の中で、こう名称が付けられる。
容疑者No.1:柳瀬健太、と。
何が真実かはまだ分からない。
しかし雪は授業が終わるまでの間、何度も容疑者No.1の後ろ姿を見ては、深く溜息を吐いた‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<容疑者No.1>でした。
健太のオーバーリアクション‥。きっと声がでかくてビックリしますよね。。
しかし一難去ってまた一難。雪ちゃんの胃は無事でいられるのか‥
次回は<容疑者No.2>です。
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