ヒマローグ

毎日の新聞記事からわが国の教育にまつわる思いを綴る。

一人前になるまで辞めなければよい

2024-03-14 08:35:58 | 我が国の教育行政と学校の抱える問題

「無期限に?」3月9日
 書評欄に、『「サンミュージックなお笑いの夜明けだったよ! 付き人から社長になった男の物語」岡博之著(晶文社)』についての書評が掲載されていました。同書は、『芸歴40年超の現役芸人が、芸能事務所「サンミュージック」の社長になるまでの歩みをつづる』ものだそうです。
 とても考えさせられる一文がありました。『芸人として売れるために必要なことは「売れるまで辞めないこと」。至言だ』です。意味はよく分かります。なるほどと思う面もあります。でもこれは、全ての職に通用することなのか、と考えてしまったのです。
 もっと端的に言えば、教職にも通用するのか、ということです。つまり、「良い教員になるために必要なことは、良い教員になるまで辞めないこと」という命題は、正しいのかということです。
 新卒一年目の初日から、既に良い教員という人はいません。もちろん、それなりに優れた資質、教員に向いていると思わせる言動を感じさせる人はいますが、その時点での「教員力」は、当然のことながら不十分です。そして、様々な資質と能力の若者が教員人生の第一歩を踏み出し、少しずつ成長し、良い教員に近づいていくのです。
 その歩みには、遅速があります。3年もすれば立派に一人前の教員になる人もいれば、10年経っても何だか頼りなく子供にも保護者にも信頼されない者もいます。では、何年待てばよいのでしょうか。「良い教員になるまで辞めない」を貫けば、いつか必ず良い教員になれるのか、そうではないのか。そうだとしても、20年も30年も待つべきなのでしょうか。そうではないとしたら、何年で見切りをつければよいのでしょうか。
 私の数少ない趣味である将棋では、全国から才能のある若者が集まった奨励会で、26歳までに四段に昇段出来なければ、退会、つまりクビになるシステムです。ある時点で見切りをつけることが、本人のためにも、そして将棋界のためにも有益だという考えに基づきます。
 授業も学級経営も上手くいかず、子供からも信頼されず、同僚教員の冷たい目にさらされ続ける、それはとても辛い人生です。また、国民の納めた税金で雇用される教員には、自分の思惑だけでなく、きちんと職務を果たす責任もあります。その責任を果たすことが期待できないのであれば、クビを宣告するのも教育行政が担うべき責任です。
 私は教委勤務時に、「指導力不足教員研修」を担当していました。対象となった教員の半数以上は、結果として教職を去りました。彼らの多くが教職経験20年以上のベテランでした。見切りをつけるのに、20年が必要だったのか。20年は長すぎたのか。だとすれば何年が適当だったのか、実は当時も迷っていました。
 10年間教職にいて不適合とされた場合、その後新たに同程度の収入を得ることができる職に就くのは決して簡単ではありません。20年ならなおさらです。30年となれば、余程の特技や資格がなければほぼ不可能です。
 だからといって、2年や3年でクビを宣告するのでは、あまりの酷だと言われるでしょう。教職志望者はいなくなってしまうかもしれません。教職にも通用する至言が書かれた本はないのでしょうか。

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 支持者は皆無なのか | トップ | 誰でも自分を守りたい »

コメントを投稿

我が国の教育行政と学校の抱える問題」カテゴリの最新記事