横浜映画サークル

サークルメンバーの交流ブログです。

メンバーの鑑賞感想や映画情報など気軽に記述しています。

メンバーが選ぶ2023年前半に観た映画で良かった、又は印象的な作品

2023-07-11 20:38:32 | メンバーが選ぶ良かった、又は印象的な映画

メンバーからメールで頂いた2023年前半に観た映画で良かった、又は印象的な作品です。作品西暦は特記がなければ日本公開年度、次に製作国です。公開年度や劇場で観たかに拘っていません。TVやレンタルBDなどを含めて選んでいます。これから見たい映画も取り上げていいとしています。今回は新型コロナのため映画館で観るのを控えた会員もいますので、2023年前半に観た映画でなくてもいいとしています。また、感想などでネタバレの要素がある場合がありますのでご了承ください。原則敬称略。

N.Mさん

怪物(2023年 日本 監督:是枝裕和)
同じ出来事が親、教師、子どもという異なる視点から描かれています。異なる視点で見ると、真実はこんなにも異なるのかという展開の仕方です。一つの出来事でも、視点によって解釈が異なり、真実を理解するためには多角的な視点が必要であることが示されているのかなと思います。
それは簡単に伝わるメッセージで、より深いメッセージがあるように感じました。ただ、私には理解が及ばず、何度か繰り返して見ることが必要そうです。
この映画は、坂本龍一が生前に音楽を手掛けた最後の作品のようで音楽にも注目です。

画像出典:安藤サクラ主演×是枝裕和監督『怪物』、場面&キャラクター写真19点が一挙解禁

https://mdpr.jp/news/3695863

 

F.Mさん

①『シンドラーのリスト(1993年アメリカ 監督:スティーヴン・スピルバーグ 原作:オーストリアの小説家トーマ ス・キニーリー氏の「シンドラーの箱舟」)

第二次世界大戦時にドイツによるユダヤ人の組織的大量虐殺(ホロコースト)が東欧のドイツ占領地で進む中、ドイツ人実業家オスカー・シンドラーが1100人以上ものポーランド系ユダヤ人を経営する軍需工場に必要な生産力だという名目で、絶滅収容所送りを阻止し、その命を救った実話で有る。

ホロコーストに関する代表的作品として、見ておくべき映画の1本と思い、現在の世界情勢を思うにつけ(もちろん色々有りはするが)平和な国に住んでる事を実感させられました

(下画像左:ナチス親衛隊SSは抵抗者、隠れる者、病人など、次々に虐殺。下画像中左:連行されるユダヤ人の中を歩く赤い服の少女。下画像中右:赤い服の少女の遺体を運ぶ人。下画像右:ナチス親衛隊SSの前に立つ主人公シンドラー中央、後ろに多数のユダヤ人労働者)

画像出典左と中右:史上最大の悲しみを描くホロコースト作品“シンドラーのリスト”https://yellowegg.jp/eiga/schindlers-list/  (閲覧2023/7/11)    画像出典中左:ゆめたんのマイペース日記 シンドラーのリストに出てくる赤いコートの女の子https://ameblo.jp/yumetandayo/entry-12675204464.html  (閲覧2023/7/11)  画像出典右:CINEMORE『シンドラーのリスト』“スピルバーグ映画”を越境する「音」への取り組み(C)1993 UNIVERSAL CITY STUDIOS, INC. AND AMBLIN ENTERTAINMENT, INC. ALL RIGHTS RESERVED.https://cinemore.jp/jp/erudition/643/article_781_p3.html  (閲覧2023/7/11)

②『引っ越し大名!(2019年日本 監督:大童一心 原作:土橋章宏氏の「引っ越し大名三千里」)

何度も国替(引っ越し)させられた実在の大名松平直矩(なおのり)のエピソードを基に、高額な費用のかかる遠方への引っ越しを、知恵と工夫で乗り切ろうとする姫路藩士達の奮闘を描く。

断捨離をせねばと考えている身としても、アレコレと参考になった

このジャンルでは、現在『大名倒産』が公開されていたり『超高速!参勤交代』『殿、利息でござる!』などなど様々な作品も有り、この作品というよりはこのジャンルという感覚で選んで見ました。

(下の画像は不要物見切り許可状を見せる場面)

画像出典:FASHION PRESS映画『引っ越し大名!』土橋章宏の人気小説を星野源や高橋一生で映画化 https://www.fashion-press.net/news/39437  (閲覧2023/7/11)

 

③『怪物(2023年日本 監督:是枝裕和 脚本:坂本 裕二)

喧嘩をした子供達の食い違う主張をきっかけに、社会やメディアを巻き込む騒動が起きる。

今年の話題作として、見て見ました。1ヶ月経ってますが、一言で言うと難しい!!と言う印象は相変わらずです。母の視点・教師の視点・子供達の視点 まさに、怪物だーれだ⁈

子供の頃に、田舎の廃墟になった不思議なでんぷん工場でよく遊んだワクワク感を思い出しました。子供時代のあるあるですね。

(下画像左:喧嘩をした?子供二人。下画像右:舞台となった廃電車)

画像出典左:映画『怪物』はなぜ性的マイノリティを描きながら不可視化したのか。映画製作の構造的な問題を考える(文:久保豊)

https://www.tokyoartbeat.com/articles/-/movie-kaibutsu-review-202306  (閲覧2023/7/11)

画像出典右:映画「怪物」6.2全国公開 × 諏訪LOCATION 特設サイト へようこそ! | 諏訪圏フィルムコミッション

http://www.suwafc.com/kaibutsu-locationsp/  (閲覧2023/7/11)

見たい映画

・『青いカフタンの仕立て屋』『モロッコ』新聞の案内を見て。

・『WBC〜侍ジャパン世界一奪還へ』野球は昔から好きなので、すっかり大谷女子になった身としては(笑)やはり見たい!日ハム時代に買ったグッズは、やはりお宝になりましたね♪

 

M.Nさん

ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー日本語吹き替え版(2023年4月26日日本公開。製作米日。監督アーロン・ホーバス、マイケル・ジェレニック 原題The Super Mario Bros. Movie)

ストーリー:ニューヨークで配管工を営む双子の兄弟マリオとルイージ。二人で配管工の生業をすることに希望持ちながら頑張っていた。ひょんなことから謎の土管に入ってしまい見たことのない世界へ行ってしまう。そんな途中にその兄弟は離れ離れになってしまう。弟を助けに行くために兄はいろんな人に出会い協力をもとに弟のもとへ。

感想他:姪っ子にぜひ映画のマリオを見たい!とリクエストされ、私自身も幼少期からゲームや本で慣れ親しんだマリオの映画の世界へ飛び込んできました

ストーリーとしては桃太郎かなというようなイメージですが・・・どのキャラクターも愛らしいです。

映像作品としてとても綺麗でぜひスクリーンで見ることをおすすめします。

3Dも4Dもあるようなので何度でも楽しめると思います。

安倍元首相が「マリオ」の恰好をしたオリンピックの閉会式・・世界中にインパクトを与えたと思います。マリオを生み出したのは日本人ですからね(^▽^)/

劇場の中は子どもたちが多く見終わったあとの館内はマリオの言葉ヒーヤッホーという声がどこからともなく聞こえました

今後はマリオカートで遊ぶときはクッパを選ぼうかな。彼の一途な気持ちや歌声は心に染みました(^0^)♫

マリオが迷い込んだ世界へぜひ行きたい!私も土管を見つけたら入ってしまうかもしれません。

下に映画館で撮ったポスターを添付いたします。

 

O.Aさん

2023年前半の印象的な映画3本

1.『REVOLUTION+1』2023年3月11日公開 監督足立正生(75分)

2.『劇場版 センキョナンデス』2023年2月18日公開 監督ダースレイダー、プチ鹿島(109分)

3.『妖怪の孫』2023年3月17日公開 監督内山雄人(115分)

3作品とも黄金町のシネマ・ジャック&ベティで鑑賞した。

意識した訳でもないのに偶然時間帯があったので鑑賞したが3作品とも安倍晋三に関連する映画でなんとも奇妙なシンクロニシティを感じてしまう。

ご存知のとおり、安倍晋三は2022年7月8日に暗殺により亡くなっている。もう一年もなるが、その事件を描いたのがREVOLUTION+1である。

国葬に抗議する意味で足立正生と井上淳一が2日で脚本を完成させて撮影に臨んだ野心作全国の公開は今年の3月であったが、その前に横浜で先行上映していた。未完成版は、2022年9月27日の国葬の日に公開された。

映画はタモト清嵐(そらん)扮する川上哲也(山上徹也)が事件を起こすまでの背景を中心に描く。流石に急場で製作された映画なので事実を列挙するのが精一杯の印象作品に深味がないのが少し物足りない印象。

 

劇場版 センキョナンデスでは、2022年7月8日の暗殺事件が劇中に登場し、選挙をエンタメとして楽しむ。

主演のダースレイダーとプチ鹿島(監督も兼務)が安部氏暗殺の一報を聞いて絶句するシーンが出て来る。

映画前半は『香川1区』でも描かれた小川淳也VS平井卓也の構図を茶化す軽いノリであるが、安部氏の暗殺を境に作品が社会派に変貌して行く。予測不能なドキュメンタリー映画の醍醐味が体験できる拾い物。

配給のネツゲンは大島新の設立した映画製作会社で、大島新のドキュメンタリーと重なる部分も多い。

 

妖怪の孫は、安倍晋三のバックボーンを知るのに最適なテキスト映画。

別に故人を擁護するつもりはないが、決して順風満帆という訳ではない安部氏の政治人生を知ることができる。

父親との確執や祖父で岸信介を越えることに奔走する総理時代の姿を通して安部晋三の実態を浮き彫りにする。

意外と知らないことが多く取り上げていて興味深いが、『パンケーキを毒見する』と同様に不要なアニメパートがあるのがマイナス。

5月5日から公開した『ハマのドン』もかなり集客があるようで政治ドキュメンタリー映画は意外に稼げるコンテンツなのかもしれない。

(下画像左:『REVOLUTION+1』撮影風景。中央の白髪の人が監督足立正生、その左に主演タモト清嵐。壁には安倍晋三の写真。下画像中:『劇場版 センキョナンデス』香川1区小川淳也の突撃取材、左にダースレイダー、右にプチ鹿島。下画像右:昭和の妖怪岸信介の『妖怪の孫』安倍晋三)

画像出典左:【緊急限定上映】REVOLUTION+1  https://demachiza.com/movies/12220  (閲覧2023/7/7)  画像出典中:ラッパーと時事芸人が忖度なしの突撃取材を敢行!前代未聞の政治ドキュメンタリー『劇場版 センキョナンデス』爆笑の特報予告が解禁! 両監督からのコメントも到着!©︎劇場版 センキョナンデス https://cinefil.tokyo/_ct/17591374  (閲覧2023/7/7)  画像出典右:映画ナタリー 妖怪の孫 https://natalie.mu/eiga/film/192491 (閲覧2023/7/7)

 

H.Oさん

今回は、昔見た時間や空間の制約を超えた映画を2点でエントリします!「タイムスリップ」とか「時間軸のずれ」をテーマに、ロマンチックな要素を組み合わせた映画は、現実ではあり得ないと知りつつ、感動してしまいます。その中で、印象に残っている作品を2つご紹介します。

イルマーレ』(The Lake House( 2006年 アメリカ 監督:アレハンドロ・アグレスティ 原題The Lake House)

主演は、キアヌ・リーブスとサンドラ・ブロックです。2人はレイクハウスに住んでいるにもかかわらず、2年以上の時間差で生活しているという設定です。

お互いに過去と未来を生きているため、直接会うことができず手紙を介して知り合って、色々な障壁を乗り越えたり運命に逆らったりしながらのラブストーリーです。

テーマソングは、ポールマッカートニーの「This never happened before」で盛り上がります。2000年の韓国映画『イルマーレ(時越愛:シウォレ)』をリメイクした様ですね。

画像出典:手紙で繋がる時空を超えた愛『イルマーレ』(2006年/アメリカ映画)https://safarilounge.jp/online/culture/column/detail.php?id=6771  


ぼくは明日、昨日のきみとデートする( 2016年 日本 監督:三木孝浩)

主演は、福士蒼汰と小松菜奈。福士蒼汰が一目惚れして、小松菜奈をデートの誘うところから始まります。

タイトルどおり、彼が明日デートする彼女は、実は昨日の彼女だということなのですが、それはお互いの時間の流れが逆になるということで、初めてのデート、初めて手をつなぐ、初めてお互いを名前で呼び合うなどが、全て、相手にとっては最後になるという設定なのです。

かなり頭が混乱しそうですが、2人が、色々な障害を乗り越えながら生きるストーリーは素敵で印象深かったです。主題歌は、back numberの「ハッピーエンド」! これもグッドです!

画像出典:自由気ままな映画ブログ 映画『ぼくは明日昨日のきみとデートする』ロケ地まとめ!あの橋や公園はどこ? https://film-studio3000.com/eiga/bokuasu-roke/  

 

S.Tさん

劇場映画館では放映されない自主上映作品は見逃すと、見る機会がほとんどないので、優先すべき作業があったのですが無理に時間を取って行ってきました。『雪道』は東急東横線の中目黒での自主上映、『アリ地獄天国』は東急東横線の大倉山でのドキュメンタリー映画祭で観てきました。特に『雪道』は現在と過去をうまく整合させ、感動的でした。

1番目『雪道(2022年日本公開、韓国PG12 監督:イ・ナジョン、原題:Snowy Road)

日本が軍事支配を始めたころの朝鮮半島が舞台。綿花を栽培している貧しい農家の主人公15歳の少女(農家少女)は、学校に行きたいと思っていたが親は認めない。弟は無理しても学校に行かせる家父長制の家族。綿花畑などの地主の娘で富裕な主人公15歳の少女(地主少女)は農家少女を卑下し、自分は高貴な存在としていた。地主少女には優しい兄がおり、農家少女はあこがれていたが、地主少女は話をすることさえ認めない。この2人の少女の人生が描かれる

ストーリー: 地主少女に日本軍のため働く勤労挺身隊の話が来て、「憧れの日本へ行き働きながら勉強もできる」と日本行を決意する。少女の兄も勤労挺身隊の勧誘と思われる人に日本へ連れていかれていた(徴用工?)。農家少女にも日本へ行きたくないかと話しかけてくる人が現れる。少女は断っていたが地主少女の兄に会えるかもしれないと迷いがある。ある日無理やり車に乗せられてしまい、母親に行くと言ってないので、どこに行ったか心配しているだろうと思う。日本へ向かう列車の中で二人の少女が会う。何かおかしいと感ずる。二人が向かったのは日本ではなかった。地主少女は「何かの間違いです」と懸命に訴えたが聞き入れられない。二人は慰安婦施設に連れていかれる。時が立ち、日本の敗戦が近づき、日本軍に日本人慰安婦とともに撤退するよう指示が出る。現地調達慰安婦は処分の命令。この混乱の時に少女二人は殺されかかるが、かろうじて慰安施設から脱出することができ、雪の中を故郷へ向かう。この故郷への道が題名の『雪道』。

感想:最後の農家少女が高齢になり、林の中を歩いている場面と、高齢になった少女が昔母親に「こら、何やっているの」と追い回されていることを懐かしく思い出す場面がラップして表現されている。私も亡き母親に「00はほんとにダメなんだから」と怒られていた時を思い出してジンとくる場面でした。

日本軍の従軍慰安婦を描くと、目の敵にして批判する人が出てくると思うのですが、そうした人も高齢になった農家少女の現代の生活人の心を描くうまさに惹きつけられるのではないかと思う。拉致被害者御家族の横田早紀江さんに観ていただければ、きっと感銘するのではないかと勝手に思う作品でした。

(下画像左:農家少女左が憧れの地主少女の兄と恥じらいながら話す場面。下画像中:慰安婦となった少女。手前の右側が農家少女、左の背が高い方が地主少女。下画像右:混乱の慰安婦施設で殺されかけたが逃げ出し、故郷への途中の雪道の2人。地主少女は逃げる時の銃弾の傷で血が出ていた。地主少女は農家少女に、「兄と結婚してもいいよ」と話すと、農家少女は「もう結婚できる体じゃないから無理」と、地主少女は「黙っていればいいじゃない、私もこのことは誰にも決して話さないから」と、「もう疲れたので少し休んで後から追っていくから先に行って」と農家少女を先に行かせて、最後の別れになる場面。)

画像出典左:映画の時間 雪道映画情報:https://movie.jorudan.co.jp/film/97157/  (閲覧2023/7/2) 画像出典中:歌手イ・ヒョリ、SNSに慰安婦被害を扱った映画『ヌンキル(雪道)』のOST公開 http://japan.hani.co.kr/arti/culture/26548.html  (閲覧2023/7/2) 画像出典右:映画.com 雪道 https://eiga.com/movie/97463/  (閲覧2023/7/2)

 

2番目『アリ地獄天国(2020公開 日本 監督 土屋トカチ)

「・・2020年後半・・印象的な作品(3/3)」で観たい映画として取り上げていた作品。

映画内容の事前情報大手引越会社の正社員が、長時間労働や事故で生じた費用は自腹などで「アリ地獄」と揶揄される状況を問題にし、個人加盟労働組合(ユニオン)に加入したら配置転換、給料半額、ついに解雇に追い込まれるなどを追った3年間のドキュメンタリー。情報元:公式サイト他。

ストーリー:システムエンジニアだった主人公は妻がおり、より安定的な年収1000万円という記事を信じて引越社へ転職。がむしゃらに働き(月390時間,土日を休日と仮定すると残業390-8h×20日/月=230時間程度になる。私の経験では、残業50時間以上でプライベートなことは一切できない、主に睡眠時間を確保する生活。残業80時間以上になると精神がおかしくなってきて、人と笑うところが違ってくる。月230時間の残業を私は行ったことがないが土日も含めて毎日13時間程度の労働時間、食事昼夕各1時間と仮定すると毎日朝8時から夜11時まで働く、睡眠時間が確保できず、命の危険がある状態と思う)営業成績トップになるが、ある日、社用車での通勤時に事故を起こし会社の車が破損など。事故の修理費など48万円を給料から天引きされた。通勤中の社用車事故は本人の特別な過失がない限り労災の対象範囲で会社負担が一般的、天引きはおかしいと苦情を言い、また長時間労働についても改善を申し出た。類似の問題を扱った週刊誌記事を見て合同組合(プレカリアートユニオン)を知り相談を始める。合同組合の支援でいろいろな天引きの個人弁済や長時間労働強制に対する抗議を始めると、営業からシュレッダーによる裁断業務へ回された。この付近から土屋トカチ監督の撮影が始まる。主人公は営業への職場復帰を求めたが、シュレッダー業務が続いた。主人公は合同組合の支援で「団体交渉」を会社側に求め、会社は形式だけの団体交渉を受ける。会社は一日中シュレッダーだけをやらせておけば、そのうち退職するだろうと高をくくっていたが一向にやめずに職場復帰の要求を下ろそうとしない。会社はシュレダーをする部屋の壁に「過激派の流れを汲むような怖い人は去れ!」「北朝鮮人は帰れ!」のチラシを張った。「罪状」と題し顔写真入りのチラシが各支店に配布され、主人公夫妻のそれぞれの両親に嫌がらせの怪文書が送られた。本社の前で抗議行動をしていると副社長が出てきて「お前ら何してんねん」と大声で暴力団と間違えそうにまくし立てる。ほかの従業員も朝鮮人、韓国人などを揶揄した民族差別の用語や古い時代の差別用語を浴びせかけられた人がいる。シュレッダーだけの業務は2年続いた。最後には会社が折れ職場復帰が実現する。会社が折れた理由は主人公の不屈な姿勢がいろいろな人に影響し、会社への批判が集まり、会社の経営がうまくいかなくなったためと思われる。本社も移転した。営業職に復帰した主人公は、他社の営業などからも一目置かれて、協力してくる人が出てくる。映画はここまでであるが、この後副社長は社長に出世しており、主人公の困難な状態は新たな段階に入ったと思われる。

観ようと思う動機:私が横浜へ引っ越してくるとき3社の引越会社から見積もりを取って決めたのですが、その時の状況がこの映画の背景に関係すると思い見てみたいと思った。見積もりは他社にも頼んでいると言っていないときには3社とも40万円前後だったが、他社にも見積もりを頼んでいると話すと急に30万円程度に各社とも下げてきて、何社に見積もりを頼んでいるか、他社はどこか、を聞いてきた。話すと業者間で談合されると困るので話さないでいると、競って下げてくる。引越市場は年間500万件程度でその限られた市場の取り合いが激しいことが分かってくる。結局一番安いところは20万円強だったが、安すぎて問題が生じると困ると思い、1割ぐらい高い、2番目に安いところに決めた。それでも横浜についた時の荷下ろしは問題なかったが、エアコンのダクトのセッティングがしてもらえなかった。作業員は外注の人らしく顧客そっちのけで手間賃が安すぎると盛んに携帯で、大声でもめていた。また、次の仕事が入っているのでダクトセッティングの時間が取れない様子でもあった。ダクトセッティングはいいよと言って帰ってもらった。新たに別費用でエアコンメーカにダクトのセッティングを依頼した。引越全体は最初の40万円程度よりはずいぶん安く済んだが、合い見積もりで競争をさせるという手法や、安いところが生き残るという原理が単純にいいことか?考えさせられる経験だった。引越会社の激しい競争と働いている人の厳しい状況を見た思いがする。『アリ地獄天国』はこの引越会社の状況を会社の内側から捉えていると思い、観てみたいと思った。

観た後の感想能力の高い働く人を安く、激しく使った方が勝利する競争原理を『アリ地獄天国』は浮かび上がらせたと思う。この引越社は当時従業員4000人程度の大手企業。この競争原理は資本主義の原理のように思うので、多かれ少なかれすべての企業の中に存在すると思う。主人公は職場復帰を勝ち取ったが、資本主義の原理を克服したわけではないので、いずれこの原理そのものに対峙しなければならないことになるのではないかと思う。私が横浜に引っ越しをするときに引越し会社の激しい競争の現実に直面したが、主人公は職場復帰してこの競争の真っただ中に戻らざるを得ない。会社側の不当な振舞は会社の文化(社風)というような視点では解決しない本質的なものがあるように思う。主人公の勇気や真摯な姿を応援する気持が沸き、会社側の不当な対応に腹が立つが、資本主義の深遠な困難さも同時に感じざるを得ない

 (下画像左:シュレッダー後の袋を道路の向かい側のごみ置き場へ運ぶ主人公。映画の後の座談会に土屋トカチ監督が出席をされ、パンフレットにサインをいただいたもの。下画像中:各支店に張り出された『罪状』チラシ、弁護士と相談して作られたらしい内容になっている。下画像右:本社前で抗議のマイクを持つ主人公、左に撮影中の土屋トカチ監督。この画像には入っていないが合同組合の人が主人公を周囲で支えている)

画像出典左:パンフレット表紙コピーをトリミング。 画像出典中:パンフレットからコピーをトリミング。 画像出典右:パンフレットからコピーをトリミング。

 

3番目『生きるLIVING(2023日本公開 英国 監督オリヴァー・ハーマナス 脚本カズオ・イシグロ 原題:Living)

本来1番目に挙げるべき名作ですが前の2本があまりにもインパクトが大きかったので、3番目になっています。「・・2022年後半・・印象的な作品(2/3)」で観たい映画として取り上げた作品。

ストーリー(私の記憶に基づくので、多少違っているかもしれない):ロンドンの役所の市民課長の主人公は、当たり障りのない事務処理をこなし、決まった時間に帰る、孤独で空虚な毎日を過ごしていた。ある日医者から余命半年の癌を宣告される。職場を無断で離れ、海辺のリゾートで自分らしい時間を作ろうとするが、虚無さだけになる。街に戻ると部下の若い女性に出会い、食事を共にする。部下の女性は快活で職場の人に陰であだ名を付けていた。主人公にはゾンビと、なぜかと聞くと、生きているか分からないからという答え、主人公はうまいこと言うと二人で笑う。部下の女性はレストランの支配人になれる仕事が見つかったので転職するという。後日、主人公がそのレストランに行くと、ウエイトレスの仕事で支配人にはなれそうもなく、募集の甘い言葉に騙されたが、ハツラツと仕事をしている。数回その元部下の女性と食事をした後、無断で離れていた職場に戻る。職場の部下たちがびっくりしている中、書類の中に埋もれていた、団地の空き地が排水が悪く不衛生で、公園にしてほしいという陳情書を取り出した。この陳情は団地の主婦数人が何回も市民課に来ていたが、都市計画課など他課の仕事として他の課へ行くように指示して、たらい回しにして、戻っていた。主人公はこの陳情を実現すべく、動き出す。自ら他の課へ行き認可が下りるまで粘った。公園ができると、その公園のブランコに座り「ナナカマドの木」を歌い、幸せそうな笑顔を浮かべて他界する。

感想:黒澤明の『生きる』のリメイクだが、展開は、ほぼ黒澤作品通りで、魅力的なところがすべて入り込んでいるように思う。異なるところは、黒澤作品には悲壮感があり、本作品は希望がある点だ。黒澤作品の「ゴンドラの歌」は切々と歌われるが、対応する「ナナカマドの木」の歌は、比較的力強く明るく歌われ、悲壮感がない。黒澤作品の最後は若い職員が、新課長が陳情書類を後回し棚に移すのを見て文句を言おうとするが止めてしまうのに対し、本作品では、市民課長が亡くなる前に対応する若い職員に手紙を残し、壁にぶつかったらあの公園をみて私を思い出してほしいというような内容を残した。また、主人公が影響を受けた元部下の若い女性とこの若い職員の二人が未来の希望として描かれているように思う。

本作品のパンフレットINTRODUCTIONで、カズオ・イシグロは黒澤の映画への姿勢を「世間から称賛されるからやるのでなく、他人がどう思うかではなく、それが自分がなすべきことだからやる」と表現している。この姿勢は両作品のテーマとして共通に表現され人を惹き付ける魅力となっていると思う。映画の中で表現されているこの黒澤の姿勢は私自身もずいぶん励まされる思いがする。尚、黒澤作品のほぼすべてに係わった野上照代はパンフレットの中で「私としては、やっぱり黒澤さんの方が描き方はうまいと思うけれど、一つの映画としてこの作品も面白く拝見しました」「黒澤さんの『生きる』も見る人が増えてくれれば、嬉しいですね」と述べている。

https://youtu.be/8dBvDgXvYWg  1分47秒:映画の酒場の場面で主人公が「ナナカマドの木」を歌う場面の動画、癌で余命が少ないという悲壮感はないように表現されていると思う。主人公を演ずるビル・ナイは歌がうまい

https://www.youtube.com/watch?v=_GEM_Vgm8TM  3分53秒:声楽家大前恵子が日本語訳で歌う「ナナカマドの木」ご参考まで。

https://youtu.be/SRaxhH3rchY  3分30秒:ソプラノ歌手鮫島有美子が歌う「ゴンドラの歌」いい歌ですね!

(下画像左:書類が山積になった市民課の中、奥に主人公の市民課長がいる。下画像中:市民課長役ビル・ナイ。下画像右:完成した公園で遊ぶ子供立ち。子供はどこの国も同じですね)

画像出典左:映画.com 第21回:黒澤明監督作「生きる」との違いは? 英国リメイク版の監督、脚本カズオ・イシグロらが明かす(C)Number 9 Films Living Limited。https://eiga.com/extra/hosoki/21/  (閲覧2023/7/7)  画像出典中:ENTERTAINMENTブリティッシュ“ライク”“私は紳士になりたかった …” 映画『生きる Living』https://www.british-made.jp/stories/entertainment/202303300061894  (閲覧2023/7/7)  画像出典右:FASHION PRESS映画『生きる LIVING』黒澤明作品をリメイク - 余命半年、残された日々をどう生きる? https://www.fashion-press.net/news/81992  (閲覧2023/7/7)

以上

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