主人公猪山直之(堺正人)は金沢藩(石川県、北陸地方を支配した)の150人ほどいた御算用者(現代の財務会計担当者)の1人である。北陸地方の年貢(税)収入と配分の帳尻合せを行っていた部署である。
私なら次の2点を加えて現実味のある映画にする。
1、年貢(税)を取られる側の人を描く。
北陸を支配した金沢藩は他の藩より10%程度高い税率など、徹底した厳しい税を課している。特に富山県の八尾町の「おわら風の盆」の背景となった江戸時代の農民の苦しさや頻発した北陸地方の農民一揆の様子を絡ませる。このことで猪山家の家計破綻の切迫感を醸成する。
2、解雇(首)にされた家来・使用人を描く。
この首にされた路頭に迷う人に触れて、猪山家の家計を救済するためには、他の人のことを考えていては無理で、自分たちのことでアップアップの状態を示す。
以上の2点を加えれば、現代にも通ずるリアリティーのある映画になったのではないかと思う。
森田監督は、テーマが家族の愛情で、経済的困難を家族の愛情で切り抜ける姿を描きたかったのかもしれない。また、歴史家磯田道史の原作「武士の家計簿」(2003、新潮社)に忠実にし、背景などを拡げないようにしたのかもしれない。森田監督から直接お話を聞きたいところですが、2011年12月、C型肝炎による急性肝不全で61歳の若さで他界してしまった。ご冥福をお祈りいたします。合掌。