メンバーが選ぶ2017年後半に観た映画で良かった、又は印象的な作品(1/2)の続き。
Aさん
『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017日本 監督:白石和彌 原作:沼田まほかる)
昨年後半のナンバーワンは邦画では『彼女がその名を知らない鳥たち』だ。イヤミスの女王、沼田まほかるの原作を「凶悪」やTV版「火花」などの白石監督が映像化した。私は読まず嫌いのために原作は読んでいない。しかしこの映画は紛れもなく純粋な一人の男の無償の愛を描いていて、ゾクッとするものがあった。
風采の上がらない15歳年上の男・陣治(阿部サダヲ)と暮らす女・十和子(蒼井優)。だが彼女はひどい捨てられ方をして別れた黒崎(竹野内豊)が忘れられない。彼に似た別の妻子持ちの男(松坂桃李)とも関係を持つ。そんな揺れ動く十和子を陣治は少ない稼ぎで面倒を見つつ、どなられてもけなされても無償の愛をささげていく。次第に黒崎の失踪が判明し、事件なのか陣治が関わっているのか、一気にミステリアスな雰囲気が濃くなっていく。
蒼井優のいつもながらのふわっとした演技は文句なく上手いし、イケメンの竹野内豊と松坂桃李がろくでもない男たちを演じているのも見どころ。だが特筆すべきは阿部サダヲが実にはまり役ということ。あの大きな目で温かく女を見守ったり、おどおどしたり、不穏な空気を感じさせたりする。観るものを最後まで引き付け、予想もしなかったラストに突っ走り、同時にタイトルの意味が浮かび上がるしくみ。その演出は実に巧みで、こみ上げて来る感動があった。やっぱり純愛って凄い! こんな日本映画もあるのかという、驚きと発見のある作品だったので、読まず嫌いでなく原作もぜひ読んでみたい。
(下画像左は主人公の十和子(蒼井優)と陣治(阿部サダヲ)。画像中は忘れられない昔の男で失踪する役の竹野内豊左。画像右はデパートの社員(松坂桃李)が十和子を誘惑する場面。ご参考:イヤミスとは=読んで嫌な気分になる(=後味の悪い)ミステリーのこと:はてなキーワードより)
画像出典左:シネマドリ「彼女がその名を知らない鳥たち」大阪の川沿いに建つ 十和子と陣治のマンションhttps://www.athome.co.jp/vox/curation/house/113285/ (閲覧2018/1/11)。画像出典中と右:YAHOO映画彼女がその名を知らない鳥たち (2017)https://movies.yahoo.co.jp/movie/ (閲覧2018/1/11)
『日の名残り』(1993米国 監督ジェームズ・アイヴォリー 原題:The remains of the day 原作:カズオ・イシグロ)
これは随分と前に観て、地味ながら凄く印象に残っている映画だった。きっかけは知人に英国最高の文学賞を受賞した原作を勧められたことだった。昨年、原作者のカズオ・イシグロがノーベル文学賞を受賞したのをきっかけにもう一度DVD鑑賞した。やはり素晴らしい。何が素晴らしいかというと、「眺めのいい部屋」「モーリス」などのジェームズ・アイヴォリー監督の抑制のきいた気品のある映像と、今回は怪演でなく自分を殺すような抑えた演技を貫く主演の執事役のアンソニー・ホプキンス、有能な女中頭役のエマ・トンプソンのコンビネーションが抜群なのだ。そしてイギリスの広大な田園風景もまた物語に奥行きを与える。
第一次大戦後の1920年代から1930年代、ダーリントン卿に真摯に仕える執事のスティーブンスは、広いお屋敷で多くの使用人を仕切り充実した日々を送っていた。そんな彼を助ける有能な女中頭ミス・ケントンだが、その信頼は次第に愛情に変わっていく。お互いに愛情を感じながらも素直になれない二人。もどかしい感情を抱えつつ、戦後処理で訪れる各国の政府要人などの来客の応対に追われていく忙しい日々。そしてミス・ケントンは他の男性と結婚して屋敷を去る。時は過ぎ、平和平等主義の卿は利用されて、ドイツのナチス主義に加担したと見なされ失意のうちに世を去る。新しい進歩主義のアメリカ人の主人に仕えるスティーブンス。新たな女中頭候補として結婚生活がうまく行っていないらしいミス・ケントンのもとを数十年ぶりに訪れるのだが……。
ミス・ケントンを訪れる途中の酒場で「私は政府要人と非公式に接する仕事をしていた」と胸を張るスティーブンス。その矜持と相反する後ろめたさを心に秘めるアンソニー・ホプキンスの演技が見事。愛情は取り戻すことができなかったが、もどかしい感情の発露のようなラスト、お屋敷から緑深い森に向けて飛び立つ鳩の映像が美しく、誰にでもある人生の後悔や自由への渇望など、感慨深い余韻を残す名画だ。
(下の画像左はダーリントン卿の邸宅での非公開の国際会議。画像中の左に執事スティーブンス(アンソニー・ホプキンス)、右には有能な女中頭ミス・ケントン役のエマ・トンプソン。画像右は原作者カズオ・イシグロ)
画像出典左:日の名残り('93)ジェームス・アイボリーhttp://zilge.blogspot.jp/2008/11/93_10.html (閲覧2018/1/15)画像出典中:映画「日の名残り」。――過去の栄光が崩れるとき https://ameblo.jp/tta33cc/entry-11799654582.html (閲覧2018/1/15)画像出典右:Amazon日の名残り (ハヤカワepi文庫) Kindle版の表紙(閲覧2018/1/15)
S.Tさん
ベストの作品は『AI』(2001米国、監督スティーヴン・スピルバーグ。原題:A.I. Artificial Intelligence:和訳人工知能)
「母」を愛することだけをインプットされたAIロボットを描いたSF。最後を知ってしまうと面白くないと思うかもしれないが、知っていても少しも感動がなくならない。逆に2回目の方が、感動が深まるのではないかと思う作品でした。最後を知ることが気になる人は、以下は観てから読んでください。
ストーリ:子供が病気で、冷凍保存状態で回復できないことを知り、激しく落胆する母親に父が母の愛情に応えるAIロボットを特別注文で手に入れる。ところが子供が奇跡的に回復し実の子供とAIロボットの両方の生活をする。AIロボットが誤って実の子をおぼれさせてしまい、AIロボットを廃棄処分しなければならなくなる。廃棄処分になると分解されてしまう。下の画像左は母親がAIロボットを廃棄分解に出すことができずに遠くの森に、自分で生きて行ってと捨てる場面。捨てられる理由が分からず、捨てないでと訴えている。森にはほかにも捨てられたロボットがいて交流が始まるが、ロボット廃棄業者に次々捕まってしまう。逃げ延びたAIロボットは母を探し続けるが見つからない。画像中左は母を探している最中のAIロボット。やがて機能停止する。それから数百年(?)がたち、すべての人類は滅びていなくなり、宇宙人が地球に来て人類がどのような生物だったかを調べる。AIロボットは再起動し宇宙人はAIロボットが人類を知る貴重な存在と認識する。宇宙人はDNAを使い人類を再生しようと試みるが1日しか再生できない。AIロボットが母の髪の毛で再生してほしいと激しく望むので、宇宙人たちは望みをかなえてあげる。画像中右は宇宙人が、再生は朝起きて夜眠るまでの1日だけと言うことは母には伝えてはいけないとAIロボットに話している場面。母は再生され、家もAIロボットの記憶通りに作られ、望みどおりに母と過ごす1日が作られる。画像右は1日が終わり眠たくなったという母の手を胸に当てて一緒に寝るAIロボット。この後AIロボットは自ら機能を再起動しないように停止する。この場面を思い出して、この文章を書きながら涙がにじんで来る。
画像出典左、中右、右のいずれも:hatenablog映画『A.I』...最も残酷な愛の呪縛http://yuruyuru00.hatenablog.com/entry/2016/03/17/233011(閲覧2018/1/4)。画像出典中左:CINEMATOGRAPHE.A.I. – Intelligenza Artificiale https://www.cinematographe.it/cinema-in-tv/intelligenza-(閲覧2018/1/4)
2番目は『人生フルーツ』と『居酒屋ばあば』(2017日本、監督伏原健之)
H.Eさんが2017年前半の良かった映画で『人生フルーツ』を挙げていたので観てみました。すべて実話のドキュメンタリー。主人公の津端修一さんのように自分も生きられたらいいな、うらやましいなと思う作品でした。修一さんが92歳で亡くなる前に最後の建築(福祉施設)設計の仕事を無償で引き受けて、施設建設が終わる前に散歩から帰って昼寝をした時に、そのまま帰らぬ人になった。福祉施設の基本設計は終わっているので具体的な建設に大きな問題はなかった。設計では小さな木がたくさん植えてある所があり、修一さんは福祉施設の人にここは何年か後には立派な林になり木陰ができますので楽しみにしていてくださいと話している。修一さんの妻英子(ひでこ)さんがその後も健在でナレーションを担当した樹木希林との1時間弱の対談『居酒屋ばあば』が同じドキュメントグループにより撮られている。そこで、英子さんは樹木希林に「若いころの修一さんより晩年の修一さんの方がずっと魅力的で好きです」と話す。樹木希林も夫の内田裕也と今でも時々会うことや、内田裕也がお金を無駄に使ってしまうので、遺産が娘に渡るように事務所名義を娘にしていると話す。がんが転移していて特別な治療をあきらめ自然に任している樹木希林と英子さんの死についての会話など、この対談は本編の『人生フルーツ』の感動が深まるとても魅力的なものでした。
下の画像左は最後に基本設計した福祉施設(街のサナーレ・メンタヘルス・ソリューションセンター)、広いガラス越しに緑の庭が見えるようになっている。画像中は右に修一さん、左に英子さんがいる。画像右は樹木希林(当時74)と対談中の英子(89)さん左。
画像出典左:かっぱカレッジ『人生フルーツ』トークイベントhttp://kappacollege.com/course (閲覧2018/1/4)。画像出典中: 建設通信新聞公式記事ブログ【映画】30畳一間でスローライフの老建築家夫婦、最後の仕事とは? 『人生フルーツ』17年1/2より公開http://kensetsunewspickup.blogspot.jp/2016/11/301712.html (閲覧2018/1/4)。画像出典右:樹木希林の居酒屋ばぁば【東海テレビドキュメンタリー傑作選】https://bangumi.skyperfectv.co.jp/e2/?uid=i12733497 (閲覧2018/1/4)
3番目は『否定と肯定』(2017英国。監督ミック・ジャクソン。原題Denial)
ナチスの残虐行為はなかったと主張する否定論者の歴史研究者アーヴィングが、ナチスの残虐を記した本「ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の真実」著者リップシュタットを名誉棄損で訴える。その裁判の実話を基にした作品。日本でも南京大虐殺がなかったとする「歴史研究者」がいるなど、ヨーロッパでも同じことが起きているのかと思い観てみた。日本とほとんど同じ状況なのでビックリ。ストーリ:否定論者アーヴィングはリップシュタットが大学で講義をしている授業に乗り込み、学生たちに「ヒットラーはユダヤ人虐殺を命令していない。もし命じたと証明できる者にはこれをあげよう」と札束千ドルを振って見せる場面から始まる。英国では名誉棄損は起訴された方が名誉棄損はなかったことを証明しなければならないので、起訴されたリップシュタット側で弁護団が作られ、綿密な調査が行われる。裁判で否定論者アーヴィングは「毒ガス室などはない。ガスはユダヤ人の体にいたノミを駆除するためのものだ」「死体がたくさん部屋にあったのは死体安置所だったからだ」と主張する。リップシュタット側が「死体のノミをどうして駆除する必要があるのか」と質問するとアーヴィングの主張は崩れる。他にもいくつかの論争点が解明される。判決直前に裁判長が「事実でなくても信じる自由はある」と言うような話をして判決がどうなるか分からなくなる。最後は見てのお楽しみにしておきます。
プログラムによれば脚本担当のデビッド・ヘアは否定論者が映画を「非難する隙を与えないようにするために、裁判の公式記録を隅々まで読み」「1日分の裁判記録を読むのに4~5時間かかった」がすべて読んだ。裁判でのやり取りはすべて実際に話された通りとのこと。リップシュタット役のレイチェル・ワイズは2日間リップシュタットと過ごし人柄を吸収し、撮影の間中連絡を取り合っている。スカーフや服装はリップシュタットのものを実際に着用している場面がある。裁判はアーヴィングが2001年に上訴したが棄却で確定。その後2002年にアーヴィングは破産宣告しているとのこと。下の画像左はリップシュタット役のレイチェル・ワイズ中央、周りにいるのは弁護団スタッフ。画像中は否定論者アーヴィング役のティモシー・スポールが裁判で発言しているところ。画像右はリップシュタット側の法廷弁護士ランプトン役のトム・ウィルキンソン。英国では弁護士の分業が進んでいて、法廷弁護士が代表して弁論を行い、事務弁護士は戦略を立てるなど。この弁護士の分業が分かっていないと少し混乱する。
画像出典左:映画ライター折田千鶴子のカルチャーナビアネックス“ホロコースト否定”論者との対決映画『否定と肯定』原作者デボラ・E・リップシュタットさんに聞くhttps://lee.hpplus.jp/kurashinohint/838897/(閲覧2018/1/4)。画像出典中:「否定と肯定」ホロコーストはなかったと言われたら。フェイク・ニュースを読み解く力を持つために信じること、信じないこと。実話の映画化。レイチェル・ワイズ主演映画【感想】http://eiga-suki.blog.jp/archives/denial.html(閲覧2018/1/4)。画像出典右:『否定と肯定』インタビュー含む特別映像https://www.youtube.com/watch?v=JDV20OkcONo(閲覧2018/1/4)
Mさん
『スター・ウォーズ最後のジェダイ』(2017米国 監督ライアン・ジョンソン 原題:Star Wars: The Last Jedi)
今回はレイの出番が少ないように思うがその分、ルークの活躍にワクワクしました。レイヤ姫も含め、良い年輪を重ねましたね。レイヤー姫役のキャリー・フィッシャーの訃報は誠に残念です。赤い地面に白い雪が色彩的に綺麗です。今回も大迫力のMAX画面で鑑賞しました。
(下の画像左はレイ、画像中はルーク、画像右はレイヤー姫)
画像出典左:RTE Star. Wars: The Last Jedi soars to $745m worldwidehttps://www.rte.ie/entertainment/2017/1224/929511-star-wars-the-last-jedi-soars-to-745m-worldwide/(閲覧2018/1/19)。画像出典中:Polygon. Star Wars: Episode 8 will focus on what’s happening with Luke, director sayshttps://www.polygon.com/2017/1/11/14237012/star-wars-episode-8-luke-skywalker-rian-johnson(閲覧2018/1/19)。画像出典右:News The Essential Daily Briefing. Star Wars: The Last Jedi trailer hints at poignant final role for Carrie Fisher https://inews.co.uk/culture/film/star-wars-last-jedi-trailer-carrie-fisher/(閲覧2018/1/19)
『キングスマン・ゴールデンサークル』(2018米国 監督マシュー・ヴォーン 原題:Kingsman: The Golden Circle)
この作品も続編になり、期待通りの面白く仕上がっていました。前作の主人公を脇に廻し、若い方が演じていました。残虐性が上手くブラックユーモアになっています。3作目も又、違う主人公が演じるような予告が観られました。
(下の画像は右にカバン型の武器を使う諜報組織キングスマンの“エグジー”、左に傘に仕込まれた銃を使うハリー。世界最大の麻薬密売組織ゴールデンサークルが絡んで来る)
画像出典:1ZOOM.ME ブレードランナー 2049、ハリソン・フォードhttp://www.1zoom.me/ja/wallpaper/533190/z17367/1366x768 (閲覧2018/1/19)
『ブレードランナー2049』(2017米国、監督ドゥニ・ヴィルヌーヴ 原題:Blade Runner 2049)
今回は続編でまとめてみました。難解な前作、復習の意味で再見。やっぱり難解。新作は多少、理解できたかな。
前作より数十年後の世界を描き、主人公のハリソン・フォードも同期。まだ、頑張っていますね。我々世代には勇気を与えてくれます。
(下の画像は雨の中の元ブレードランナー役のハリソン・フォード)
画像出典:1ZOOM.ME ブレードランナー 2049、ハリソン・フォードhttp://www.1zoom.me/ja/wallpaper/533190/z17367/1366x768 (閲覧2018/1/19)
H.Eさん
『夜間もやってる保育園』(2017日本 監督 大宮浩一)
完全オーガニックの給食による食育や療育プログラム、卒園後の学童保育など独自の試みを続ける新宿区の24時間 保育園「エイビイシイ保育園」を中心に北海道、新潟、沖縄の保育現場を取材。夜間保育の現場を追ったドキュメンタリー。
感想: 認可夜間保育園があることを初めて知った。とはいえ全国で約80。とても足りる数ではない。夜、働かなければならない親がいれば、子どもにも保育は必要。そんなことも含め、いろんなことを知ることができた作品だった。
(下の画像左は園児の面倒を見ている保育士。画像右は夜間もやってる保育園での子供たちの給食風景)
画像出典左と右:映画の時間 夜間もやってる保育園 作品情報https://movie.jorudan.co.jp/cinema/34089/ (閲覧2018/1/21)
『ヨコハマメリー』(2005日本 監督 中村高寛)
白塗りの化粧に白い貴族のようなドレスという特異な姿で注目を集め伝説の娼婦 ハマのメリーさんをめぐるドキュメンタリー。
感想:関内で働いていた頃、馬車道のアート宝飾の前のベンチに座っているメリーさんをよく見かけていた。監督の新作「禅と骨」が公開されたのにあわせリバイバル上映されていると知り伊勢佐木町で見た。最後に映った晩年のメリーさんのきれいで穏やかな顔が印象に残った。
(下の画像左は横浜のメリーさん。画像中は横浜の街での真白一色のメリーさん。画像右は晩年のきれいで穏やかなメリーさん)
画像出典左と右:晩安日記ヨコハマメリーhttp://blog.goo.ne.jp/momonngamomo/e/e480727839ce26400bddd4b9470f4d99(閲覧2018/1/21)。画像出典中:TAMA CINEMA FORUM 「ヨコハマメリー」上映会http://www.tamaeiga.org/archives/event/merry/merry.html(閲覧2018/1/21)
以上です。