横浜映画サークル

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映画『凶悪』残虐性シリーズ(その4-6)毒殺、女子高生コンクリ詰め殺人事件他

2016-04-22 08:56:42 | 映画凶悪・戦争のサイコパス残虐性シリーズ

(その4-5)の続き。

11)用語

(a)「拷問」と「虐待」の使い分け

戦争などで情報を得るなど他の目的がある場合は拷問。他の目的がない場合は虐待。拷問は生きている人に対してだけ使われる用語。死亡した人をさらに切り刻むことを拷問とは言わない。サイコパスは死亡した犠牲者をさらに切り刻んだり、バラバラにしたりすることがあり、これは虐待の延長上にあると考えて、虐待という言葉に含むことにする。サイコパスの場合、金銭は付随した目的で虐待そのものが主要な目的なので本項では用語として虐待を使用。サイコパスにとって金銭を奪うことも虐待の興奮を得る行為の一つ。金銭を渡しても虐待は止まらない。すべての資産を奪いつくされても虐待は続く。これは後の具体例13,14で示す。逆に言えば、金銭を渡して虐待が止まればサイコパスではない可能性がある。その場合「反社会性人格障害」など他の原因が考えられる。M.ストーンが「虐待」の激しいものを「拷問」と表現している場合があり、本シリーズでもM.ストーンと同様の使い方をしているところがありますが、この1.22項では以上のように「虐待」を定義している。

(b)「反社会性人格障害」と「反社会性パーソナリティー障害」

「反社会性人格障害」は日本の心理学会ではアメリカ精神医学会の分類(DSM)に従いサイコパスとの違いを明らかにしないまま「反社会性パーソナリティー障害」と改めたが、本シリーズではサイコパスとの違いを明確にし、旧来の用語「反社会性人格障害」を生かしておく。違いの考え方は本シリーズ(その2)「1.8 サイコパスと反社会性人格障害やその他の犯罪の違い」参照。およそ次のようになる。反社会性パーソナリティー障害=サイコパス+反社会性人格障害。反社会性パーソナリティー障害のおよそ5人に1人がサイコパスで4人が反社会性人格障害〔日経サイエンス、K.A.キールp13〕。K.A.キールは述べる「300種類を超える既知の精神的病状を網羅している臨床医のバイブル『精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)』にさえ、サイコパシーは組み込まれていない。犯罪傾向のある様々な人をいっしょくたんにした「反社会性パーソナリティー障害」という診断名を作ってお茶をにごした」「犯罪者を識別するには役に立たない」〔日経サイエンス、K.A.キールp13〕。本シリーズの定義はK.A.キールの考え方によっている。

(c)傍辺縁系、大脳辺縁系、脳辺縁系、辺縁系は同義語

日経サイエンス、『サイコパスの脳を覗く』でK.A.キールが傍辺縁系と言う用語を使用しているので本シリーズでも使用しているが、いろいろな情報元で大脳辺縁系脳辺縁系辺縁系と同義語が使われており、情報元に従ってそれぞれの用語を使用している。すべて同じ意味と考えてよい。扁桃体は辺縁系の一部になるが、本シリーズでは辺縁系と言うときに偏桃体を含まない範囲の場合があるので、文脈で理解して頂きたい。

以上主に逆転欲求構造からサイコパスの特徴を視た。次に行動からサイコパスの特徴を視る。平和時と戦時に分けている。 

(2)平和時のサイコパスの特徴行動

大きく分けて次の5の特徴行動がある。1)首の切断、2)身体解体、3)毒殺、4)放火、5)監禁虐待。1人のサイコパスがこれらの複数を行うことが多い。特に重要な行動の特徴は機会があれば無限に残虐行為を続け無限に殺し続けることである。各項を例によって説明する。1)、2)、3)の例1~10は単独サイコパス、5)の例11~14はまんじゅうサイコパスである。両親が子供を虐待死するケースは監禁虐待に相当するが本シリーズ(その1)で3例を挙げて説明しているのでここでは省略する。

1)首の切断

人だけでなく猫、犬、ウサギやハトなどの首を切断する。目をえぐったり、口を裂き、頭の皮を剥ぎ、手足を切断したりもする

例1「佐世保女子高生殺害事件2014年」:女子高生1年少女Bが同級生を殺害、と左手首をノコギリなどで切断。胴体部分にも刃物で切ったとみられる複数の傷。「人を殺して解体してみたかった」「体の中を見たかった」などと供述。猫を殺し解体して楽しいと語っていた。小学校6年2010年頃に、同級生の給食に薄めた洗剤や漂白剤、ベンジンを混入するなどをくり返した。父親を金属バットで殴り負傷させたことがある。幼い頃から学業は優秀スポーツも積極的。ピアノで賞を取っている。弁護士の父親は2014年10月に自殺。家裁判決医療少年院送致。〔情報元:ウィキペディア「佐世保女子高生殺害事件」「22回予選 : アルカス佐世保 グレンツェンピアノコンクール入賞者発表」2016/4/19閲覧〕。この犯人は女性。サイコパスは男女を問わない本シリーズ(その3)「1.15(3)サイコパスと性別の関係」参照〕。

下の画像左は国体スピードスケート長崎代表として県知事室で団旗を持っている少女B。成績優秀、スポーツ万能、音楽の才能もあるサイコパスという、サイコパス理解に貴重な特徴を持っているので、事件当時15歳の犯人であるが顔が分かる画像を他のサイトからコピーした。外見や成績優秀やスポーツ万能などと、サイコパス特性は全く別ということがはっきりする事件である。 顔の掲載に問題が出た場合には直ちに削除するが本人が有名人でありネットでは拡散している画像。下画像右は少女Bとは中学から知り合いであった殺害され首が切断された同級生松尾愛和さん。

 

画像出典左:佐世保事件がもとで、サイコパスというアニメ放送繰り上げからみる、アニメの恐ろしさとは? [許せない犯罪]http://trend71.blog.so-net.ne.jp/archive/c2303725559-2 画像出典右:ニュース速報Japan松尾愛和さんと加害者女子高生-佐世保北高校殺人事件http://breaking-news.jp/2014/07/28/010413 (2016/4/19閲覧)

 

長崎教育委員会に見る教育現場の問題:長崎ではこの事件の前に中1男子の幼児誘拐殺人2003年や小6女児の同級生カッターナイフ殺害事件2004年が起きており、長崎県教育委員会は「命の大切さ」を小中学校の児童生徒全員に訴えた。だが健常者の児童生徒は言われなくても人の命を大切にし、弱い者を助けることはあっても殺すことはない。問題はサイコパスの児童生徒の存在で、サイコパスにいくら「命の大切さ」を訴えても全く効果がない。少数のサイコパスが起こす残虐行為に対し、圧倒的多数の健常者と混同した対処教育は的外れになる。また、健常者をサイコパスから守るため健常者に働きかける対策は狡猾なサイコパスに対し消極的すぎ、一時的で抜本的な対策にならないことが多い。その逆にしなければならない。サイコパスが起こす犯罪の対策は、サイコパスに的を絞って行わなければならない。教育現場でのサイコパス理解が強く求められる。 

例2「会津若松母親殺害事件2007年」:ノコギリで母親のと右腕を切断。本項1.22の初めに概要説明済。犯人の少年17歳は母親の首をバッグに入れて一日ネットカフェで過ごした。少年にとって母親の首は逆転快報酬ドーパミンを与えてくれる『宝物』であったと思われる。一日たちその逆転快が弱まったと思われ、タクシーを呼んで警察へ自首した。婦人警官はバッグの首を見て気を失ったという。肩から切断した母親の腕は、あらかじめ用意していた白のスプレーでデザインを施し、自宅の植木の鉢に手が生えているかのように飾っている。少年Aが「淳君の首を大地から生えているように」置いたのと、美的感覚は似ている。〔前項2)(a)サイコパスの逆転認知欲求を示す絵、コラージュ、光景の例(凝視注意)〕参照。 

例3「島根女子大生死体遺棄事件2009年」:女子大生19歳の首が切断され、左大腿骨の一部、両手足のない胴体部分、左足首が切断され別々の場所で発見。胴体部分の胸は刃物によってえぐり取られ、腹部は内臓の大部分が取り出され、胴体全体に焼けた跡。皮を剥いだ跡もある。一部食べたかもしれない。遺体の状況は、通常の感覚を持つ人間ならば直視することすらできない残忍なもの。未解決事件。〔情報元:日本″未解決事件″犯罪ファイル15 http://news.livedoor.com/article/detail/5124452/  2015/9/22閲覧〕 

4「東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件1989年」:犯人宮崎勤は4人目の5歳の女児誘拐・殺害した時、指をもぎ、醤油をかけて焼いて食べ、ビニール袋に溜まった血を飲んでいる。ビニールに溜まった血を飲むのは次の例5「神戸連続児童殺傷事件」少年Aと同じ行動。遺体は首を切断しバラバラにしている。また、殺害などをビデオに残している。【残虐なサイコパスの半数は記録を残す本シリーズ(その4)1.18参照】。宮崎勤の精神鑑定書は1人が統合失調症、2人が解離性同一性障害としている。2008/6月死刑執行。〔情報出典:ウィキペディア「東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件」2015/9/20閲覧〕。筆者は統合失調症でも解離性同一性障害でもなく典型的なサイコパスと思う。サイコパスは21世紀に入り脳の分析技術が進んでよりはっきりしてきたが、日本ではサイコパスはまだ明確な学問的地位を占めていないし、犯罪白書の犯罪分類にもない。一日も早い学問的確立が必要。 

例5「神戸連続児童殺傷(酒鬼薔薇聖斗)事件1997年」:弟の同級生の首を切断、目をえぐり、口を耳までナイフで裂いている。犯人少年Aは2015年に32歳になり手記『絶歌』を出版。医療少年院の更生方針にサイコパス不理解の根本的な問題があることがはっきりしたが、後の項「1.25元少年A更生の失敗と『絶歌』:元少年Aへの呼びかけ」でまとめている。この事件は資料が多く、犯人は自己表現能力があるので、サイコパスを知る大変貴重なものになっている。だが『絶歌』にはサイコパス独特のウソが入り込んでいるので注意が必要。事件概要は本シリーズ(その4)1.18(2)参照。

2)身体解体

被害者の身体がどうなっているかを調べるように、時計を分解するように人体を隅々解体する。身体をバラバラにするだけでなく、さらに頭部をつぶすなどのグチャグチャにする身体破壊がある。腹を裂いて内臓を出す内臓摘出、脳や目などを取り出しもする。人肉や内蔵を生で食べたり、血液を飲んだりも含む

例6「名古屋妊婦切り裂き殺人事件1988年」:臨月の妊婦(27歳)の手を縛り絞殺。死体は、薄い鋭利な刃物で、みぞおちから下腹部に縦38センチにわたって切り裂かれた。発見されたとき死体の足元には、赤ん坊が、へその緒をつけたまま泣き叫んでいた。犯人は妊婦を絞殺後、胎児を生きたまま取り出してへその緒を切り、子宮に電話の受話器と、人形のついたキーホルダーを入れた。受話器などを入れた意味不明。胎児は男の子で、太ももの裏、ひざの裏、睾丸の3箇所を刃物で切られていたが、手術で一命を取り留めた。腹部切開跡から犯人医学的な知識がないとわかっている。未解決事件。〔情報元:ウィキペディア「名古屋妊婦切り裂き殺人事件」2015/9/20閲覧〕

事件例1~6まとめ:1)首の切断の例1、2,3,4,5、は身体解体も行っている。例3は内臓摘出も行っている。例4と例5は血を飲んでいる。例5は食べている。本シリーズ(その6) 「(2)“先生”がカーテン屋に拷問を加える時に浮かべた「愉悦の表情」の違い」で述べたロストフの切り裂き魔と言われたアンドレイ・チカティロ(Andrey Romanovich Chikatilo)は52人の少年少女を殺害し、内臓などを生で食べた。サイコパスの首の切断、身体解体、人肉内臓食、血液飲、は共通の精神基盤である。

3)毒殺

健康でなくなった状態がどうなるか観察するかのように毒殺する。人が毒物で苦しんでいく姿を見たい欲求を持ち、人が死ぬことに快感がある。毒物使用は腕力がない女性サイコパスに多い傾向があるが、腕力の有無にかかわらず毒物の持つ残虐性にサイコパスは引き付けられている

例7「静岡女子高生母親毒殺未遂事件2005年」:高1少女16歳が母親を劇物タリウムで殺害しようとした。少女が猫を毒殺したことを知っている兄が、医師に相談しその医師が警察に通報し発覚。入院中の母親の姿を撮影した記録などを警察が押収。【サイコパスは記録を残す】。女子高生が楽天広場で公開していたとされる日記の内容にサイコパスの特徴がよく表れているので、要点のみ以下に記述した。少女は男子に偽装している。【 】 内は筆者の見解。

2005/7/14:道を歩いていた野良犬を蹴ったら、キャンキャン喚きながら、地べたを這いずり回った。

7/18:道端に血まみれの猫の死体が落ちていました。頭が潰れていて、中から脳髄がはみ出していました。【この少女の行為と思う。少女は激しい動物虐待の可能性大。少年Aが猫の頭部をつぶしているのと似ている】

8/6:今まで様々な生物を僕は殺戮してきた。彼等で遊ぶのは楽しかったが、同時にとても疲れた。何故なら、残った肉塊の処理だけでも数時間は優に要したから。

8/24:酢酸タリウムが届きました。【少女は届いてすぐに母親に使用したと思われる】

8/25:昨日から母の具合が悪いです。全身に発疹が起こり、特に顔面に症状が強く出ています。医者もただ首を傾げるばかりで原因は分からないそうです。

8/25:変な夢を見ました。僕が彼女(母親)を食べる夢です。僕は彼女を手、足、胴体、頭の順に食べました。細い腕は魚みたいに痙攣していて、引きちぎれても未だ動きました。【サイコパスは人体を食べる衝動を持つ者がいる。〔本シリーズ(その2)「1.6 扁桃体を破壊した動物実験でも見られるサイコパスの特徴行動:K.B.症候群(2)」参照〕

9/4:生き物を殺すという事、何かにナイフを突き立てる瞬間、柔らかな肉を引き裂く感触生暖かい血の温度。漏れる吐息。すべてが僕を慰めてくれる。【サイコパスは人体解体衝動を持つ】

9/12:今日も母の調子は悪いです。2,3日前から脚の不調を訴えていたけど、遂に殆ど動けなくなってしまいました。二階にある僕の部屋まで来る事も出来なくなりました。

9/26:明日、母は入院します。未だ原因は不明のままです。残念な事に母は余り良い保険に加入していない。【サイコパスは大脳新皮質には異常がないので打算が働く

10/2:父が呼んだ救急車で連れて行かれた。入院先は近くの病院、布製の担架で運ばれて行った。父も同伴した。少し悲しそうな顔をしていた。【サイコパスは、表情を理解するが、自分の心に映し取れず、共感はしない

10月某日:人は輪になって踊る。丘の上で死体を数え、微笑みながら飲み交わす。撃ち殺された男の匂い、引き裂かれた女の匂い。【サイコパスは人が殺し、殺され、引き裂かれる場面に強く引かれる

10月某日病状は悪化している。日直の先生も異常を察し、集中治療室へ連れて行った。

10/16:母は幻覚を見始めたらしい。居もしない虫や、ドアの傍の白い陰に悩まされていると言う。

10/16:今日の朝、先生に筆記用具を借りた。其の時泣きながら母の話しをして、同情を得た。人って案外簡単に騙されるものなんだと思った。【サイコパスはウソ泣きができ、軽い気持ちで人をだます

10/16日(日記最後の記述):蒼ざめた馬の通る道に、規則は存在しない。暗闇を進む足跡は草木を枯らし、死を招く。其処に生命は宿らない。在るのは寂しい同じ形。【サイコパスの精神的支柱を失っている心象、偏桃体機能不全の心象を表していると思われる内容】

10/21日に少女は服毒自殺を図り10/31日に回復したところを逮捕された。逮捕当時母親は意識不明の重体。

〔情報元:タリウム母親毒殺未遂事件の女子高生容疑者が綴った日記の内容http://plaza.rakuten.co.jp/hontoeiganopage/diary/200511030002/ (2016/2/18閲覧)。静岡県伊豆の国市母親毒殺未遂女子高生http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1183003496 (2016/2/18閲覧)〕

例8「イングランド殺人医師ハロルド・シップマン(Harold Fredrick Shipman)事件1998年逮捕」:ハロルドは成績優秀でリーズ大学医学部卒の医師。被害者は最低でも215人、493人は殺害されたとされるが正確な数はわからないサイコパスは機会があれば無限に殺し続ける主に薬物アヘン剤により殺害。裁判で直近の15人の殺害で終身刑。2004年に刑務所内で首つり自殺(57歳)。〔情報元:M.ストーンp117及びウィキペディア:ハロルド・シップマン(2016/2/18閲覧)〕

日本の医師によるサイコパス特性の強い殺人は『九州大学、生体解剖事件』や旧日本軍の731部隊があるがそれについては後の項「(3)戦時下のサイコパスの特徴行動」で述べる。

例9「マサチューセッツ殺人看護人ジェイン・トッパン(Jane Toppan)事件1901年逮捕:ジェインは住み込み看護婦として働きながら転々とした。そのたびにその家族を毒殺した。犠牲者はわかっているだけで31人、一説には100人と言われる。多すぎてジェイン自身にもわからない。ジェインは「砒素ですって? 私、砒素を使ったことなんか一度もないわよ。不勉強ね。砒素なんか使ったらゲーゲー吐いて大変なのよ。すぐにバレてしまうわ。だから私はモルヒネとアトロピンを併用するの。アトロピンはね、モルヒネの症状を判らなくする効果があるのよ。だけど、速効性がないのが残念なのよね」「みんなすっかり私に騙されたわ。馬鹿な医者も、間抜けな親類も」と刑事に話したという。デイヴィス家の4人を皆殺しにしたときに、長旅をしていたもう一人が帰宅し事件は発覚、ジェイン47歳。住居の何軒かに放火し、放火狂との診断もされた。サイコパスの放火の特徴も持つ。毒物などの知見がある知的水準が高いサイコパス。

〔情報元:M.ストーンp237。殺人博物館 – Biglobe:Toppan, Jane(ジェーン・トッパン)http://www5b.biglobe.ne.jp/~madison/murder/text2/toppan.html (2016/2/20閲覧)〕

例10「ロンドン毒殺魔グレアム・フレデリック・ヤング(Graham Frederick Young)事件1971年」:ヤングは14歳で継母、父、姉妹、学校の友人たちに毒物を与え、継母は死亡、逮捕。精神障害犯罪者の病院に収監、回復したとして9年後に釈放。釈放後すぐ写真店の店員に就職し、数ヶ月の間に約70人にお茶に混ぜるなどで毒物を与え2名が死亡。釈放後1年たたず1971年再逮捕23歳。毒物投与とその症状の日記が残っている。サイコパスは記録を残す。以下はその一部。

10/31:「フレッドに致死量の特別混合剤を投与した。明日どうなっているか楽しみだ」。

11/1日:「フレッドは出社していない」。

11/3:「フレッドは既に重体だ。意識不明で、麻痺と失明が進行している。あと2、3日もすれば最期を迎えるだろう。その方が彼には救いになる。仮に生き延びたとしても、永久に障害者になるだろうから、死んだ方がいいのだ」

〔情報元:ウィキペディア、グレアム・ヤング。殺人博物館グレアム・ヤングhttp://www5b.biglobe.ne.jp/~madison/murder/text/young.html (2016/2/16閲覧)〕

下の画像左は少年時代のグレアム・ヤング。中央は毒を盛られた父と叔母と姉。右は殺されたフレッド。

  

画像出典:殺人博物館グレアム・ヤングhttp://www5b.biglobe.ne.jp/madison/murder/text/young.html2016/3/20閲覧

映画化『グレアム・ヤング毒殺日記』(1996、独仏英、原題:The Young Poisoner's Handbook)    

毒殺と首切断や人体解体の欲求基盤は同じ:例1「佐世保女子高生殺害事件2014年」の同級生を殺害、首と左手首をノコギリなどで切断、「人を殺して解体してみたかった」と述べた女子高生は、小学校6年の時に、同級生の給食に薄めた洗剤や漂白剤、ベンジンを混入するなどをくり返していた。例7の母親に毒物を与えた少女は、人体解体にも強い衝動を持っている毒物で人が苦しんでいくことを見たいというサイコパスの欲求は、首切断や人を解体する欲求と同じ精神基盤であることが分かる。

4)放火

例9のマサチューセッツ殺人看護人ジェイン・トッパンは毒殺を繰り返したが、同時に放火魔でもあった。放火は幼少期の3特徴(放火、動物虐待、寝小便)の一つであるが、大人にも見られる。〔幼少期のサイコパスの3特徴は本シリーズ(その4)「1.17(2)扁桃体の構造と具体的機能とサイコパス」「1.18(1)基本的な考え方」参照〕。後の例11「女子高生コンクリート詰め殺人事件」では、逃げられないようにしてライターの油を使って犠牲者の体に火を点けている。例14の角田美代子は犠牲者にガスバーナーを顔に向け髪の毛を燃やすなどの虐待をしている。生きた人を逃げられないようにして体に火を点けることはサイコパスの放火の究極と思われるが現代の戦場でも見られる。後の項「(3)戦時下のサイコパスの特徴行動」参照

5)監禁虐待

平和時のサイコパスは健常者の目から離れた場所で特徴行動をする監禁はその特徴行動の典型。健常者が立ち入れない閉鎖環境(友人関係内部、家族関係内部、企業内部、自衛隊内部や警察内部など)で行われる。サイコパスは外部からの力が及ばない限り、監禁での虐待の手を緩めることはない。犠牲者との間で「憎み/憎まれる」「恨み/恨まれる」関係を監禁の場で増幅することが快感になっている。監禁し食料を与えず痩せ細り苦しんでいる姿や、悲鳴を上げ、のたうち回ることがたまらなくサイコパスを引き付ける。犠牲者が「やめて」と叫べば叫ぶほど虐待を強め、ガリガリに痩せて死んでいく過程や死体をバラバラに解体する過程などで逆転快報酬系ドーパミンの陶酔を味わう。

サイコパスは、逃げないようにする監禁部屋や虐待のための道具を能力の総力を挙げて工夫する。何十人もの女性を殺害したデイヴィッド・パーカー・.レイ(David Parker Ray)は単独サイコパスであるが「拷問部屋」を作った。防音、滑車、鎖、ウインチ、テーブル、拘束具、スタンガン、弱電流の牛追い棒、釘で覆われた張形、婦人科用器具、注射器、薬品、強化壁と強化ドア、カメラ、モニターが備え付けられていた〔本シリーズ(その2)「1.7 サイコパスは見た目や会話では分からない」参照〕

以下の監禁事件例11~14はいずれも、まんじゅうサイコパスで、周囲に暴力装置としての人と道具を配置して虐待を実行している。単独サイコパスは自分自身の腕力や各種道具などを暴力装置として使うが、まんじゅうサイコパスでは暴力装置に相当する人がサイコパスから分離している。暴力装置となる人は映画『凶悪』原作の後藤良次のように反社会性人格障害者が取り込まれやすい。まんじゅうサイコパスは反社会性人格障害と親和性があり、暴力団と繋がりを持つものが多い。例11、12、14のまんじゅうサイコパスは暴力団との繋がりがある。

例11「女子高生コンクリート詰め殺人事件1988年〔以下女高生監禁殺人事件〕」友人関係の閉鎖環境で行われた。まんじゅうを形成したサイコパスの監禁がどんなに残虐であるかをこの例で理解していただきたい。

宮野裕史(当時18歳)を主犯とした16~18歳4人が刑事犯、2人が少年院送致の犯罪。高3吉田順子17歳を2階の居室に監禁し、輪姦、柱に裸で縛り付け性器にビン・マッチ・タバコなどの異物挿入、裸踊りや自慰行為の強要、タバコを2本一度に吸わせたり、シンナーを吸わせたりした。犯人らの隙をついて警察に通報しようとしたが宮野に見つかり阻止され、その腹いせに足にライターのオイルをかけて火で何度もあぶるという暴力行為をし、彼女の焼け焦げた足の腐臭を疎ましく思い強姦の対象から暴力へと変貌し、1m以上上から鉄棒を腹に落とす。トイレにも行かせず紙コップに排尿させその尿を飲ませ、ゴキブリを食べさせる。顔にマジックペンでいたずら書き。陰部や肛門に鉄棒や瓶を挿入し、刺し込んだまま瓶を割る。1.6kgの鉄球付き棒で大腿部を数十回にわたって殴打し、脇腹部、脚部などを多数回にわたって手拳で殴打した。暴力の激しさは、刃物で刺すことはしていないにも関わらず、殴られた時の出血が天井まで飛び散るほど激しいもの。全身が血だらけになり目の位置がわからなくなるほど顔が膨れ上がる。準主犯格の小倉護が「なんだお前でっけえ顔になったな」と笑う。真冬のベランダに裸で放置、顔面に蝋をたらす、などの苛烈な行為を41日間にわたり行った。最後は「ギャンブルに負けた」という理由(カラ理由)で、自力では立てなくなりほとんど動けなくなった被害者を2時間にわたって殴る蹴る、足をライターオイルで焼く、鉄の棒で殴るなどのリンチを加え放置し、死亡。遺体をドラム缶に入れてコンクリート詰めにし、遺棄。遺体の状態:顔や性器、肛門は破壊されて原型を留めていない:鼻の穴には血が詰まっており、口でしか呼吸ができない状態:陰部には栄養ドリンクの小瓶が2個差し込まれていた:乳房には縫い針が複数本刺さっていた:片方の乳頭(乳首)はペンチのようなもので潰されていた:手足は火傷と炎症で体液が漏れ出していた:歯茎にまともに付いている歯は一本もない:51キロあった体重は30キロ台になり、皮下脂肪が通常の半分近くになっていた:脳が委縮して小さくなっていた〔情報元:ウィキペディア「女子高生コンクリート詰め殺人事件」、及び「女子高生コンクリート詰め殺人事件の全貌。2人は再犯…」http://topicoco.com/post-1654  いずれも2015/9/21閲覧〕

下の画像左は殺害された八潮南高校3年吉田順子さん。卒業旅行の旅費を自分で稼ぐためダンボール工場でアルバイトをして、自転車で家へ帰る途中、犯人らの運転する車にぶつけられて拉致された。主犯格宮野は20年の刑の出所後2013年43歳の時に振り込め詐欺容疑で池袋署に逮捕、不起訴。準主犯格小倉は10年の刑の出所後2004年監禁致傷の疑いで警視庁竹の塚署に逮捕、4年実刑。画像右は犯人3名の当時の写真。2人は成人になり逮捕されているので顔が分かる画像を他のサイトからコピーした。2016年現在2人とも釈放されている。

画像出典左:沸騰する人たち・煮えたぎるモンスターたちhttp://blog.goo.ne.jp/xdr123/e/e62e97226587239549f9ab34a419d3e3 (2015/10/10閲覧)。画像出典右3人:女子高生コンクリート殺人事件 に貼られた o0626033611837091548.jpg の画像http://kokushin-kai.seesaa.net/upload/detail/image/o0626033611837091548.jpg.html (2015/10/10閲覧)

この例11「女子高生コンクリート詰め殺人事件」後半はその(4-7)へ続く。

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映画『凶悪』残虐性シリーズ(その4-5)サイコパス化過程とサイコパスまんじゅう他

2016-04-22 07:41:52 | 映画凶悪・戦争のサイコパス残虐性シリーズ

(その4-4)の続き。

(d)サイコパスまんじゅう内部での健常者のサイコパス化過程

(ⅰ)サイコパス化過程の4段階

まんじゅうサイコパスは健常者を自分と同じサイコパスにしたい衝動(サイコパス化衝動)を持つ。サイコパスまんじゅうの内部で健常者は真白化を経てサイコパス化する。それぞれ前期と後期に分かれ、全体として4段階になっている。この4段階は次の項目の「逃走4レベル」と合わせて理解すると理解しやすい。具体例は後の項の例13「北九州監禁殺人事件」例14「尼崎監禁殺人事件」で示す。

真白化

1段階真白前期簡単には逃げることができないこと、逃げることに失敗した時の恐怖から現実を受け入れ、当面の生命の危機を回避するため、逃げる行動をとらなくなる。サイコパスによる監禁だけでなく一般的な監禁状態で生ずる心理状態。「感情喪失」には至っていない。心理学用語の「学習性無力感」がこの状態に近い太平洋戦争で健常者が赤紙(召集令状)を受け取った時期

2段階真白後期サイコパスの行為が理解できず、思考停止(頭が真白)状態。サイコパスが行う残虐な現実を受け入れる以外に選択支がない。目の前の残虐虐待を受けることからから逃げることができない絶望恐怖などの感情が消滅し、何も感じなくなった状態。意志や判断力の喪失。疑似サイコパス準備期と言える。脳では、抑制神経伝達物質GABAなどの放出が強く行われて、扁桃体が機能停止状態に入ったと考えられる。心理学用語「解離」がこの状態に近い。【太平洋戦争で健常者が戦場の残虐さに直面した時期

本シリーズで特記のない真白化は真白後期への移行を言う。真白化は「ロボット化」と同義語。監禁状態で短期間に激しい残虐に直面した場合には前期と後期の境が明瞭でない。例13「北九州監禁殺人事件」では前期、後期の境がはっきりしないが、例14「尼崎監禁殺人事件」川村家では前期、後期の境がはっきりしている。 

②疑似サイコパス化

3段階疑似サイコパス前期:真白化で意思・判断力を喪失しているため容易にサイコパスの指示に従い他者を虐待することやサイコパスの行動を見て同じ行動をとる(サイコパス行動の映し込み)。逃げることができず、残虐な現実の絶望とともに従わないときの制裁虐待が背景。この段階ではサイコパスの言う通りに他者を虐待する。マインドコントロール(呪縛洗脳)下と言える。指示通りにするかどうかを近くでサイコパスが見ている条件下で行う。すなわちサイコパスの意思は「隣在の空気』」となっている。【太平洋戦争で健常者が上官の指示に従い残虐行為を行う時期

4段階疑似サイコパス後期サイコパスの指示がなくても、サイコパスが近くにいなくてもサイコパスの意思通りの行動をとる。外観上サイコパスと変わらない。遥か遠方でもサイコパスの意思を感じることがこの状態になる必要条件。すなわちサイコパスの意思は遠在の空気』」となっている。【太平洋戦争で上官がいなくても健常者が自ら残虐行為を率先して行う時期】。扁桃体は機能停止状態のため長期になるとサイコパスと類似の「逆転快」を感じるようになっている。逃げることができず、残虐な現実の絶望従わないときの制裁虐待とともにサイコパスと同様の「逆転快」が生じていることがこの時期の特徴となる。サイコパスと同様徹底的に残虐になっている。この段階を長期に続けると、事件が解決した後の呪縛解放に長期を必要とすることがある。場合によっては一生完全な呪縛解放は困難になる。呪縛解放とは偏桃体の機能回復のことである。以上をまとめると下記表の通り。 

サイコパス化の段階

健常者サイコパス化移行条件

サイコパスとの関係位置

呪縛解放後、回復必要期間

真白化

真白前期:逃げることをあきらめる。学習性無力感

逃走失敗を考え、当面の生命の危機を回避するため逃げられない。・逃げることができない絶望。

監禁初期。逃げないだけで、残虐行為を見たり受けたりはしていない

偏桃体は健全なままなので、呪縛されていず、救出と同時に自分を取り戻す。

真白後期:残虐や恐怖に何も感じなくなる。解離

・逃げることができない絶望。 ・残虐を受け入れる絶望。

監禁初期。サイコパスの残虐行為を見る、または受ける

短期間に回復。他者へ虐待していないので回復が早い*3

疑似サイコパス化

疑似サイコパス前期:残虐行為を指示下で行う。

・逃げることができない絶望 ・残虐を受け入れる絶望   ・自分が自分でなくなる絶望 ・従わないときの制裁虐待

監禁中期。サイコパスは近くにいる。言われるままに、あるいはサイコパスと同じ虐待行為を他者に行う

一定期間のリハビリが回復に必要。他者への虐待が強い心の傷になる*3

疑似サイコパス後期:残虐行為を指示が無くても自ら行う。

・逃げることができない絶望 ・残虐を受け入れる絶望   ・自分が自分でなくなる絶望 ・人間でなくなる絶望    ・従わないときの制裁虐待  ・「逆転快」が生じている*1

監禁後期、サイコパスは遠くにいる。言われなくてもサイコパスの強い意思『空気』」を読んで他者を虐待*2

長期のリハビリが回復に必要。完全回復困難性有。一生回復できない場合有*3

 *1疑似サイコパスのサイコパス崇拝

 特に疑似サイコパス後期になり、残虐行為に逆転快を感じるようになると、その快感をもたらしてくれるサイコパスを崇拝するようになる。崇拝するまでになった疑似サイコパス後期の人はサイコパスの右腕として、サイコパスと全く変わらない残虐行為を率先して行う。疑似サイコパス後期の存在によりまんじゅう構造は強固になる。真白後期(ロボット化)者や疑似サイコパス前期者でもサイコパスを崇拝することがあるが、それは自分が意思・判断力を失っており、自分に代わって意思決定をしてくれることからサイコパスを崇拝する。あたかも意志決定をする神であるかのように崇拝する。この崇拝は逆転快を伴わないため疑似サイコパス後期者ほど強固ではない。崇拝の具体例は例14「尼崎監禁殺人事件」で示す。【太平洋戦争の旧日本軍の中には上官のサイコパス行動(虐殺行動)を見て「あのようになりたい」と崇拝する兵隊が存在した。欧州でもドイツナチスの残虐行為を崇拝する人が多数出た。現在でも「その快感」を引きずっている人が存在する。これらは後の項「(3)戦時下のサイコパスの特徴行動」参照】

*2:太平洋戦争開戦の『空気』はサイコパスの強い意思

 山本七平の言う太平洋戦争開戦を決めた御前会議の『空気』は、旧日本軍内部の『サイコパスの強い意思』と考えると、「連合艦隊司令長官山本五十六などの合理的な判断による強い反対」を抑えて戦争を始めたことに納得がいく〔『「空気」の研究』山本七平文藝春秋 1983。NHK「山本五十六の真実」〕。サイコパスが合理的理由なく、どうでもいい理由を付けて、戦争を強く渇望することはサイコパスに共通する特徴。サイコパスは戦争実行のためにあらゆる能力を総動員し、サイコパスまんじゅう同士が融合拡大して多数派を形成して『空気』を作り出す。太平洋戦争における「国家のため」「家族のため」という理由は旧日本軍内部に入り込んだ『サイコパスの逆転欲求のため』と置き換えられる場合が相当あると考えられる。サイコパスの欲求は合理的な論理に基づくものでないので『空気』にならざるを得ない。反戦平和の運動をする人にとって「反戦平和の戦サイコパスの空気の影響を政治中枢やマスメディアや自衛隊幹部などから排除する戦い」でもあると筆者は考えている。サイコパス同士が結束し融合拡大することについては後の項「(h)サイコパスまんじゅう拡大の特徴」参照。

*3健常者の呪縛解放時の3つのタイプ:「忘却」「苦悩」「正当化」

①忘却タイプ:呪縛解放忘却真白化及び疑似サイコパス前期が数か月以上の長期の人に多い:自分が疑似サイコパス化して他者を虐待したことを忘れること。「忘れる」より「憶えていない」と言った方が近いかもしれない。長期のために偏桃体がほぼ完全に機能停止しているので行為に感情が伴わず記憶が断片的にしか残っていないことと、残虐行為の理由がよく分からない(カラ理由の)ために生ずる。残虐の苦しみから逃避するかのように忘れ去る。真白段階であれば、他者が虐待されるのを見たことを忘れる。戦場で長期に戦って帰還した兵士には戦場の詳細を思い出せないものがいる。後の例14尼崎監禁事件の真白後期を長期に維持した角田美子などが例。記憶と偏桃体の関係は前項「4)(a)サイコパスの「痛み」が快感になるメカニズム」参照。

②苦悩タイプ:呪縛解放苦悩真白化及び疑似サイコパス前期が数か月以下の短期の人に多い:自分が疑似サイコパス化して他者を虐待したことを自分の意思で行ったと勘違いして苦しむこと。偏桃体機能停止が短期であるためその前後の意思が記憶にしっかり残っているためと、残虐行為のカラ理由を受け入れた自分の記憶が比較的残っているために生じる。なぜあんな残虐なことをしたのだろうと自分に問いかけ苦悩する。真白化段階であれば、他者が虐待されるのを助けられなかった苦悩となる。この苦悩は「自分の意思が機能停止」だったことを理解することが苦悩解消の基礎になる。

③正当化タイプ:呪縛解放正当化疑似サイコパス後期に達した人に多い:他者を虐待したことを正当化すること。疑似サイコパス後期に達した人は逆転快ドーパミンが生じているために残虐行為に不快としての記憶がほとんどないことと、快を与えてくれたカラ理由再認識することから生ずる。疑似サイコパス後期を長期に維持した場合には逆転快ドーパミンを求めて再び残虐な世界を望むことがある。これはもはやサイコパスと変わらない

以上の3タイプは一人の人に混在する場合がある。また、PTSDは3タイプのいずれでも起こりうる。

 PTSDについては後の本シリーズ(4-20)「(I-1)(e)川村家サイコパスまんじゅう形成から衰退の全過程」の表の注*6満足期(川村疑似サイコパス前期へ)の「太平洋戦争で日本へ復員した兵隊」を参照。

「学習性無力感」と「解離」:「学習性無力感」でサイコパス化の全過程を説明しようとすることがみられる。これは大雑把すぎて限界。例えば、健常者がサイコパス化して他者を虐待する状況を説明することができない。「学習性無力感」は真白前期相当とすると、全体がすっきりまとまる。「解離」については西田公昭(立正大教授,社会心理学)の説明「自分がどんな状況で、何を考えているか分からなくなる。何らかの極限的な経験をした人はよく経験していることで、トラウマ的体験という言葉でよく理解されていること」〔瑠衣22回鑑定人証言〕と真白後期に相当する説明。

(ⅱ)犠牲者がサイコパスから逃げる時の逃走レベル:サイコパス化過程の4段階と逃走の関係

犠牲者がサイコパスにサイコパス化過程の上位の段階へ移行することを強制されたときに、上位段階への移行をする形で逃走する。このためサイコパス化過程の4段階に対応して逃走レベルがある。サイコパス化過程は絶望を背景に進行するので、上位段階絶望拒否する逃走でもある。下記表にサイコパス化過程の4段階と絶望に対応した逃走の4レベルを示した。具体例は例14「尼崎監禁事件」で見る。

逃走4レベル

真白化過程での逃走

疑似サイコパス化過程での逃走

レベル1

レベル2

レベル3

レベル4

真白前期になることを拒否する逃走

真白後期になることを拒否する逃走

疑似サイコパス前期になることを拒否する逃走

疑似サイコパス後期になることを拒否する逃走

絶望から見た逃走4レベル

逃げられない絶望にならないよう逃走。物理的拘束を拒否して逃走

残虐を受け入れる絶望にならないよう逃走。虐待を見る、受けることを拒否して逃走

自分が自分でなくなる絶望にならないよう逃走。他者虐待する自分(別人=サイコパス)になることを拒否して逃走。逃走の自殺*1

人間でなくな絶望にならないよう逃走。自律他者虐待する自分(完全な別人=完全なサイコパス)になることを拒否して逃走。逃走の自殺*1

苦痛から見た4レベル

拘束される苦痛で逃げる。逃げられるので逃げる

虐待される苦痛で逃げる。虐待されるので逃げる

サイコの前で人を虐待・殺すようになる自分に対する苦痛で逃げる

サイコがいなくても自律的に人を虐待・殺すようになる自分に対する苦痛で逃げる

捕まった状況で見た4レベル

捕まれば拘束されるが逃げる。拘束されても逃げる

捕まれば虐待されるが逃げる。虐待されても逃げる

捕まれば人を虐待・殺すことになるので逃げる。他者が殺されても逃げる

捕まれば殺されるが逃げる。殺されても逃げる

4レベルの心理状況のまとめ

 

危機回避の一般的な逃走と同様。危険なものには近づかない、離れる逃走

当面の生命の危機を回避するため逃げないでいたが、残虐行為が目の前で、また自分に行われ、逃げないでいることが生命の危機回避にならなくなったため逃走

感情喪失(意志喪失)してサイコパスが作る残虐状況に適応して自己存続を維持していたが、他者を虐待するサイコパスになることを強制され、感情喪失だけでは存在できなくなり逃走

言われるままに他者虐待し前期のサイコパス化することで自己存続を維持していたが、言われなくても虐待する完全なサイコパスになることを強制され、前期サイコパスでは存在できなくなり逃走

*1:真白後期を過ぎると、偏桃体が停止しているため感情が喪失しており、死ぬことの恐怖がない。レベル3、レベル4では、物理的な拘束により逃走できない場合には自殺という形で「逃走」することがある。これは、サイコパスが逆転欲求(心を破壊したい、肉体を破壊したい、死ぬのを見たい)で自殺に追い込んだ結果でもある。レベル3と4の「逃走の自殺」とサイコパスによる虐殺とは一体になっており区別が困難。

軍隊兵士の「敵前逃亡」=逃走レベル4:レベル4の場合が多いと考えられる。自分が殺されても人を殺すことができない、人間であることの究極の逃走である。多くの場合は味方兵に殺される

用語:逃走=その場から急いでいなくなろうとすること。逃亡=逃げて身を隠すこと(goo辞書)。失踪=行方がわからなくなること(Weblio辞書)。本シリーズでは用語を「逃走」で統一する。「逃亡」「失踪」がふさわしい場合も含む。

e)ロボット化とサイコパス化の違い

ロボット化とは:真白化と同義語。感情のない物体のような状態になること。中間サイコパスとまんじゅうサイコパスでロボット化に表面的な違いが出る。中間サイコパスは健常者をロボット化後に自殺を強要することに特徴があり、虐殺、身体解体に至ることも見られる。まんじゅうサイコパスは、ロボット化の後にまんじゅう構造の一部に取り込む。

サイコパス化とは:まんじゅうサイコパスにより、健常者が他者を虐待する疑似サイコパスになること。ロボット化の次の過程になる。広義にはロボット化を含めてサイコパスか(サイコ化)と言う。単独サイコパスは犠牲者をロボット化することもサイコ化することにも興味がなく、犠牲者を物理的に破壊するだけになる

サイコパスは健常者のロボット化衝動、サイコパス化衝動を持つ。監禁虐待でこのサイコパス化衝動がよく現れるので後の項「(2)平和時のサイコパスの特徴行動5)監禁虐待」の具体例で説明する。

(f)サイコパスまんじゅうの構造

下記表が基本構造である。サイコパスまんじゅうは、サイコパスを頂点とし、外部の犠牲者を最下層とした支配の階級構造を持つ。サイコパスまんじゅうはサイコパスの逆転欲求満足を追及するために作り上げられる。中心のアンはサイコパスと暴力装置が一体となって形成されている。暴力装置を使って健常者を支配構造に組み込み、犠牲者を虐待する。暴力装置を使うのは単独サイコパスと共通しているが、まんじゅうサイコパスはさらに強力なものを使うことが多い。暴力装置が無ければ、ほとんどのサイコパス犯罪は成立しない。疑似サイコパスはサイコパスに代わって暴力装置を使うことが多い。疑似サイコパスは自ら暴力装置となり、サイコパスの言いなりに犠牲者に対し殴る蹴るの行為を行うことがある。サイコパスの暴力装置は逆転欲求を実現するための「サイコパスと犠牲者の間に介在する媒介物」のことで、概念が広いので注意してください。具体例で理解して頂くのがいい。

サイコパスまんじゅう基本構造

基本構造内容

中心のアン

サイコパス(一人とは限らない)

暴力装置(道具類、監禁部屋、武器、薬物、火など)

まんじゅうの皮

(健常者や反社会性人格障害者などがサイコパスに取り込まれて、サイコパス化したもの。犠牲者の立場に転落することがある)

疑似サイコパス後期

疑似サイコパス前期

真白化期

外部の犠牲者

資産を取られたり、虐待を受けたりする人

以下のA~Hは例13「北九州監禁殺人事件」のサイコパスまんじゅうの支配構造の特徴をまとめたものであるが一般性がある。

A)階級序列は頂点のサイコパスが必要に応じて自在に変える

B)暴力装置をサイコパスに代わって使うものがサイコパスの右腕として虐待実行の最上位になる。この位置は疑似サイコパス後期者が占める。最上位のものは下位、例えば疑似サイコパス前期のものとともに複数で、外部犠牲者やまだ真白化段階の者を虐待する。

C)B)をまとめれば上位の者が下位の者に対して虐待する。最下位が外部の犠牲者の位置になり、最も激しく虐待される。

D)サイコパスに逆らえば序列の下位に落とされる。「誰かが下位に下がれば他の者は安堵」する(例13北九州監禁殺人事件の公判での純子証言)。「自分より下位が現れて怒られていれば矛先が向いてこないので安心する」(例14尼崎監禁殺人事件の公判での瑠衣証言)。

E)まんじゅう内部ではサイコパスの機嫌を損ねないよう絶対服従するようになる。

F)まんじゅう内部で他者の「問題点」「悪口」を述べれば序列の下位から免れるように仕向けられ、互いが「悪口」を言い合い憎み/憎まれる関係が増幅する【まんじゅう告げ口(密告)システム】。「悪口」を言わないものは下位へ落される。「悪口」はどのようなものでもよく、言われた者は制裁虐待の理由に使われ虐待される。【サイコパスは虐待にどうでもいい理由を必要とする】

G)相互の会話を禁じる。盗聴していることを匂わせるなどで、サイコパスがいない場所で逆らう話しをさせない。逆らう話をしたと思われるものは、見せしめに虐待される。

H)以上のため、まんじゅうの皮を構成する人は数が多くても一致団結してサイコパスに逆らうということが無い

(g)サイコパスまんじゅうのいじめ集団(虐待集団)と反社会性人格障害者のいじめ集団(反秩序集団)

両者は親和性があり融合していることがあるが、基本的に別の集団で下記表の通り。対処の仕方も別になる。

サイコパスまんじゅうのいじめ集団(虐待集団)

反社会性人格障害者のいじめ集団(反秩序集団)

逆転欲求満足の虐待行為が主体

正常欲求満足の金銭略取、万引、暴力沙汰など反秩序行為が主体

青年期の健常者の多くにも見られる万引きや喧嘩などの反秩序行為は17歳ごろをピークに減少する。これは大脳新皮質(社会脳)が脳組織の成長で最も遅れて20歳頃に完成するために生じている。したがって少年法でその間に行う違法行為は特別な配慮がある。反社会性人格障害者は青年期だけでなく20歳を超えても違法行為が止められない。その集団は暴力団との親和性があるというより、暴力団そのものになる〔本シリーズ(その3)「1.15(1)サイコパスと年齢の関係」、サイコパス犯罪は年齢に関係なく一定割合で推移する〕反社会性人格障害者は正常欲求満足(経済的利益や承認欲求など)のために違法行為を行ない、その違法行為で他者に苦痛を与えても気に留めることがないが、苦痛そのものを求めているわけではない。一方、サイコパスまんじゅうのいじめは「恨み/恨まれる」関係形成や犠牲者の苦痛などの逆転欲求満足を求めるところが、大きな違いになる。

単独サイコパスやサイコパスまんじゅうのいじめは、サイコパスについての知識がない教師が健常者の生徒の教育指導と同じように対処しても、全く歯が立たない。歯が立たないどころか、教師のほうが震え上がり、近寄ることができず早く卒業してほしいと、傍観者になる場合もある。また、教師自身がサイコパス特性を持つ場合もあるので、サイコパスの対処法を教育現場とともに社会全体で構築する必要がある。用語としては「いじめ」という軽いものではなく、命が掛かっている。「いじめ集団」より「虐待集団」のほうが実態に合っている。反社会性人格障害者まんじゅうと言える暴力団は、暴力を背景に、法秩序違反の領域で経済活動をする。基本は金で動く

(h)サイコパスまんじゅう拡大の特徴

サイコパスまんじゅう同士は、融合拡大と敵対共鳴の2つの拡大方向を取り、外圧がない限り、限界まで拡大する。

融合拡大:複数のまんじゅうが融合して拡大する。同一まんじゅうのアンの中に多数のサイコパスが存在するようになる。多数の健常者がまんじゅうの皮として、疑似サイコパス化して取り込まれ、周囲に多数の犠牲者がいる。このとき、反社会性人格障害まんじゅうと言える暴力団が融合し、暴力装置として一体化する。サイコパスまんじゅうは暴力団との親和性があり、暴力団はサイコパスまんじゅうから金銭的支援を得て融合拡大の原動力の一つになる。

敵対共鳴:複数のまんじゅうが互いに憎み/憎まれ、恨み/恨まれる関係を創出し、各まんじゅうがそれぞれ逆転欲求満足を味わう共鳴状態を作る。各まんじゅうは一見敵対関係に見えるが、互いに相手の存在によって自己の存在がある。各まんじゅう間で激しい残虐行為が行われ、アンとなったサイコパスの逆転欲求が満足される。

融合拡大は、敵対共鳴を原動力としていることが多い。まんじゅうサイコパスがこれらの拡大を遂行するが、単独サイコパスもまんじゅう内部や外部で逆転欲求満足を追求する。

戦時のファシズムは上記の2つの拡大方向によりサイコパスまんじゅうが巨大化して国家レベルにまで至ったものと筆者は考えている。虐待の恐怖で健常者を支配する恐怖独裁(テロ独裁)国家はファシズムと同様のサイコパスまんじゅう国家。古代国家などをサイコパスまんじゅう国家の視点で捉え直す学問的なアプローチが必要と考えている。サイコパス研究がまだ学問的地位を十分に獲得した状態とは言えず、サイコパスまんじゅうの概念も多くの研究を必要とするもので、ここでは基本的なところだけを述べた。 

以下(その4-6)へ続く。

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映画『凶悪』残虐性シリーズ(その4-4)性的サディズム論の誤り他

2016-04-21 21:46:37 | 映画凶悪・戦争のサイコパス残虐性シリーズ

(その4-3)の続き。

5)サイコパスの逆転安全欲求2(逆転残虐欲求)

健常者が「恐怖・残虐を避ける」のは前項の「痛み」を避けるのと同様、生存欲求の一部の安全欲求と一体となったものであるが、サイコパスはこの「恐怖・残虐」の情動が逆転している。

健常者の安全欲求2(恐怖・残虐回避欲求)

サイコパスの逆転安全欲求2(逆転残虐欲求、真空化した安全欲求)

恐怖・残虐を避ける。生き物や他人に恐怖・残虐を求めることはない。

衝動的に恐怖・残虐を求める。生き物や他人に恐怖・残虐を与えることが快感になる。

サイコパスが求める恐怖・残虐は、健常者が遊園地のお化け屋敷や乗り物でスリルを味わうのとは全く別次元のもの。健常者は扁桃体が恐怖などで反応するのを楽しむが、サイコパスは扁桃体が反応せず、恐怖や残虐で生ずる「逆転快」の報酬系ドーパミンを求めている。サイコパスの「残虐」が快感になるメカニズムは前項4)の「痛み」が快感になるメカニズムと同様である。健常者の報酬系は困難に直面したときに、少しでも前進することを繰り返し「何度も刺激を受けることにより、ドーパミンを放出する神経系のネットワークが強化され」最終的に困難を乗り越える。「やる気のレベルアップに繋がる」報酬系である〔痛みと鎮痛の基礎知識―情動〕サイコパスの報酬系「逆転快」はますます残虐になるように作用する。

(a)サイコパスの「逆転快」の強烈さを麻薬の関係で掴む

サイコパスが求める「逆転快」の報酬系ドーパミンは麻薬(ここでは快感をもたらす薬物全体を代表して麻薬とする)と同様の強烈なもの。健常者では脳内でドーパミンは常に一定量が作られ、回収されて基準量(動的平衡)になっている。麻薬はそのメカニズムに作用して、下記3系がある。

アンフェタミン系(覚せい剤):ドーパミンの放出する神経そのものを活性化する。どんどん放出する。

オピオイド(コカイン、アヘン)系:ドーパミンの回収を阻害する。回収がないのでどんどん増えることになる。

モルヒネ系:ドーパミンの放出を抑える働きをしている神経を働かなくする。どんどん放出する。

「一度ドーパミンの快感を味わうと、再び同様の快感に浸りたいという気持ちが湧いてくる」〔痛みと鎮痛の基礎知識―情動〕。麻薬の場合には繰り返すうちに快感が得られなくなり、麻薬の頻度や量が増大するが、これは脳内のドーパミン基準値そのものが上がり、わずかな麻薬ではドーパミンの増加が得られなくなったため、あるいはドーパミン受容体の感受性が落ちたためと考えられる。サイコパスの残虐行為についても麻薬と同様の作用になる。少年Aの状態がそのことをよく示している。

「小学6年に上がると、猫殺しは更にエスカレートした。殺害から殺害までのピッチが短くなり、手口はますます残虐を極めた。『死を理解するため』というもっともらしい大義名分は消え去り、ただただ殺し解体することが快感だった。快感はドラッグと同じで“耐性”がある。一匹また一匹と猫を捕まえ、殺害方法がグレードアップするのと反比例して、最初の頃のように、理性も思考も倫理も丸ごとぶっ飛ぶようなエクスタシーは得られなくなった中学に上がる頃には猫殺しに飽き、次第に、『自分と同じ“人間”を壊してみたい。その時にどんな感触がするのかこの手で確かめたい』という思いに囚われ、寝ても覚めても、もうそのことしか考えられなくなった〔『絶歌』p69〕。」として当時10歳の彩花さんをハンマーで殺害し、別の女子をすれ違いざまにナイフで刺した。彩花さんの頭部の砕け方を診た脳外科医は「これは、ハンマーか金属バットか鉄パイプで殴られた跡です。バットなら思い切りスイングしたと思います。」〔『彩花へ-「生きる力」をありがとう』1998年山下京子p77:彩花さんの母親の手記〕と話した。サイコパスは逆転快の報酬を求め手加減をしない。

サイコパスの逆転快は麻薬のオピオイド系(コカイン、アヘン系)と同様の可能性がある。オピオイド系脳内神経伝達物質の「β-エンドルフィンはアヘンに極めて近い構造」を持ち、ドーパミンの回収を阻害する機能を持っている。「少量のドーパミンしか分泌されなくても、β-エンドルフィンがあれば、ドーパミンが10~20倍も出たのと同じ作用がある」「ドーパミンとβ-エンドルフィンが同時に分泌されると、人間は非常に恍惚した状態になる」〔『脳・神経のメカニズム』http://www.k2.dion.ne.jp/~yohane/00%200%20seibutu5.htm (2016/3/11閲覧)〕。サイコパスの逆転快が麻薬のどのタイプと類似しているかはまだはっきりしないが、サイコパスにとって残虐行為が麻薬と同じ強烈な作用になっていることは間違いない。そのため止めることができず繰り返す。

健常者は「快」「不快」によるドーパミンの増減の変化は内容にもよるが比較的短時間で生じ、それが元に戻るときの「逆転不快」「逆転快」が強く生じないよう時間的にゆっくり変化するよう制御されている。サイコパスはこれも逆転している。「逆転快」があたかも健常者の「快」であるかのように短時間で生じる。この時間的な変化はまだ計測された論文は無いようであるが、サイコパス理解には重要と考える。

6)サイコパスの性的サディズム論の誤り

サイコパスの「性的サディズム」という性欲を中心に置いた考え方は誤っている。サイコパスが残虐行為時に性的な反応を伴うのは、扁桃体の機能不全から生じたもので、性欲から生じたものではないことが脳内の情報回路から判明する。以下その説明。

「本能行動の中枢は視床下部にあり、本能的な欲求が満たされると主観的には快情動が生じる」〔痛みと鎮痛の基礎知識―内分泌系ホルモン〕。本能行動は食欲、飲水欲、性欲、睡眠欲、体温保持欲などである。

視床下部位置は下図左の通りで、左右の扁桃体に挟まれた中央にある。下図右は視床下部内の各核(共通の特徴を持つ神経細胞集団で周囲に溶け込んだ状態のものを一般的に核と言う)の機能。食欲に係る外側核、腹内側核。性行動に係る背内側核、内側視索前核。睡眠欲に係る視交叉上核。ドーパミンを分泌する10A神経の内側前脳束や12A神経の弓状核がある。下垂体には視床下部で産生された性ホルモンなどが一時蓄えられ、扁桃体からの指令で血液内に放出されて生殖器などへ至る。扁桃体の指令の下で、「視床下部がすべての性現象を決めている〔「脳内物質」http://www.geocities.jp/eastmission7/B-bussitsu.html (2016/3/10閲覧)〕」。扁桃体そのものの機能については本シリーズ(その2)「1.17 扁桃体の位置と具体的機能とサイコパス」参照。

画像出典左:嗅覚の特異性http://www.kosui.jp/FFcote.htm (2016/3/6閲覧)画像出典右:視床と視床下部http://kanri.nkdesk.com/hifuka/sinkei27.php (2016/3/6閲覧)

(a)健常者の性的快感

下図は視床下部に係る情報回路を示す。異性などの五感からの感覚入力(情動刺激)は図の左上の視床経由などで偏桃体へほぼ直接入力するものと、大脳新皮質(前頭前野を含む)へ送られこれまでの学習や経験などで処理された精緻な情報として時間遅れで間接的に偏桃体へ入力されるものがある。扁桃体へは内臓情報も脳幹などから入力されており、直接、間接および内臓情報で性的な準備が整っていれば生命の大原則で性的興奮の指示を視床下部へ発するとともに側坐核へドーパミンの分泌「快」を指令する。すなわち性的快感の源、性欲の源は扁桃体にある。ドーパミンは関連部位(大脳新皮質、扁桃体、視床下部)全体に放出され強い快感になる。それらは海馬を通して記憶回路で記憶され、再び快感を得ようとする基礎になる。興奮にはノルアドレナリンなどが係るが、複雑になるので省略。ドーパミンで基本構造はわかる。下図の右の腹側被蓋野はドーパミンを産生するA10神経系の起点となる部位で、ここでは側坐核と一体と捉えて頂いてよい。下図の右上の報酬性刺激とは、ここでは複雑さを避けるため偏桃体などから側坐核へ入力されるドーパミン放出指令情報と同じと考えてください。

画像出典:Neurogenesis 脳と心のお話(第四話)「恐怖する脳、感動する脳」国立精神・神経センター神経研究所微細構造研究部 湯浅 茂樹 http://www.brain-mind.jp/newsletter/04/story.html (2016/3/10閲覧)

b)サイコパスの快感は性欲とは別物

性欲は扁桃体で生ずるもので、サイコパスにはそれがない。サイコパスには性欲が存在しないと言ってもいい。サイコパスは視床下部への扁桃体の指令が存在せず、また上図で解るように大脳新皮質(前頭前野)からの視床下部への指令回路がない。このことは前項の図〔画像出典:「偏桃体の構成と機能、Ⅲ)扁桃体への入力(系)」川村光毅〕でも同様である。サイコパスの視床下部は側坐核のドーパミン増減でのみ制御される。すなわち、ドーパミンが増大するいかなる行為でも、性的な反応をすることになる。サイコパスはドーパミン分泌の「逆転快」を求めて残虐行為を行っており、そのドーパミン増加の付随反応として性的反応がある。性的反応を求めて残虐行為をするのではなく、その逆になる。上図で解るように側坐核からのドーパミンは機能不全になっている偏桃体へも投射されており、サイコパスは扁桃体がドーパミンでわずかに反応する生命の叫びともいえる快感を得ると考えられる。サイコパスの扁桃体は機能不全で指令を出すことはないが、ドーパミンの報酬は受け入れる一方通行になっている。

少年Aは次の場面で勃起し、射精している。いずれも恐怖、残虐、認知などの「逆転快」でドーパミンが分泌されたときと考えられる。性欲とは関係がない。

・切り刻んだ猫の頭にレンガを置き、上から踏み潰し、脳が出てぐちゃぐちゃになったとき〔『絶歌』p63〕

・淳君の首を切断したとき〔ウィキペディア:神戸連続児童殺傷事件2016/03/12閲覧〕

・淳君の目と口を裂いた頭部を風呂場で洗ったとき「首を洗った時も興奮して勃起し、淳君の髪の毛にクシを入れながら射精した」〔『絶歌』p88、ウィキペディア:神戸連続児童殺傷事件2016/03/12閲覧〕

・淳君の頭部を正門に置き5、6分ほど眺めていたとき「性器に何の刺激も与えてないのに、何回もイッてました」〔ウィキペディア:神戸連続児童殺傷事件2016/03/12閲覧〕。

少年Aは「女性に全く興味がない」〔『絶歌』〕。精神鑑定医に「君はマスターベーションの時にどんなことをイメージするの?」と聞かれたとき「人を殺して身体を裂き、内臓を貪り喰うシーンを想像します〔『絶歌』p134〕」と正直に答えている。サイコパスは繰り返した残虐行為で前頭葉が学習し残虐場面を想像するとドーパミンが分泌されると考えられる。そのドーパミンで性的反応を起こす。これはドーパミンの報酬回路で、性欲の回路ではない。また、按摩器の振動を使ってマスターベーションをしている〔『絶歌』p47〕が、上図でわかるように視床下部から弱い神経信号が側坐核へ入力しており、射精時に視床下部からの指令で側坐核からドーパミンの放出があり、快感があると考えられる。この快感は繰り返されて強化される。これは健常者にもあるが、射精だけに係る快感で、扁桃体を含めた総合的な性の快感の一部となるもの。また少年Aには射精時に常に「尿道に針金を突っ込まれたような」「尿道から釣り針を引っこ抜いたような〔『絶歌』p63〕」激痛があり、精神科医に相談した答えは「性欲に対する罪悪感の表れ」〔『絶歌』p49〕と的外れなフロイト派的な診断。この激痛は、もし精神的なものの場合、偏桃体からは何も指令がない=「快ではない」、視床下部からは射精の「快である」と矛盾した情報が性器に伝わり、本来偏桃体の判断が優先するはずがそうならない矛盾した状態を反映していることが考えられる。すなわち性システムが成立していないことが係っている。少なくとも「罪悪感」というようなものではない。また痛みがAにとっては「快」と作用している特徴がある。淳君殺害後は2年間勃起や射精することがなかったと告白しているが、Aは性システムの問題を抱えていることが分かる。健康な青年であれば2年間勃起や射精がないことはない。この2年間Aは少年院に入っており残虐行為ができない状態でドーパミン分泌の快感を味わう機会がなかったと考えるのが妥当。

次の例も性欲は関係なく「逆転快」の報酬系ドーパミン分泌による付随反応と考えられる。

・「大阪姉妹殺害事件2005年」前項「1)サイコパスの逆転生存欲求」で述べた事件の犯人山地悠紀夫は16歳の時に金属バットで母親を滅多打ちにして殺害した時に射精。

・本シリーズ(その2)で述べたテッド・バンディ(Theodore Robert Bundy =Ted Bundy)は女性を切り刻んだ時に勃起し、切断した女性の頭部の口の中に射精。

・15人の男性を殺害したD.ニルセン(Dennis Andrew Nilsen)。男性死体を床下に隠し、時々床を剥がして取り出しては興奮を味わい、腐敗が進み、蛆が湧くまで肛門性交を繰り返した〔M.ストーンp194〕。

・性的乱交や結婚・離婚を異常なまでに繰り返すサイコパスは、相手への何らかの虐待を伴うと考えられる。サイコパスは「逆転快」報酬系ドーパミンを求めて物理的精神的虐待を繰り返すので、結婚が成立しない。また、偏桃体のコントロールがないので、わずかなドーパミン変化でも容易に勃起現象を起こすことがあるため、性欲が亢進したと誤解される。女性の場合、勃起がないので、「性的亢進」と誤解される現象は観察されないと考えられる。

扁桃体を破壊した動物が相手かまわず、例えばウサギがニワトリに交尾を挑むのは、ドーパミンの報酬系が温存されているためで、性欲の亢進とは別のもの。このウサギの性欲は扁桃体とともに破壊されたと考えるべきである〔本シリーズ(その2)「1.6 扁桃体を破壊した動物実験でも見られるサイコパスの特徴行動:K.B.症候群の(4)」参照〕。サイコパスは扁桃体の性欲は存在しないが、性器そのものは健全で精子や卵子を産生することはでき子孫を残すことができる。また、ドーパミンを産生し報酬系を形成するA10神経系や側坐核は機能している。サイコパスは性システム以外にも、視床下部が係る本能行動に次項のような問題を抱えている可能性がある。

(c)サイコパスの性欲以外の本能行動の問題

「6)サイコパスの性的サディズム論の誤り」の画像出典右:「視床と視床下部」の図が示すように、視床下部が係る本能行動には性欲以外に食欲、飲水欲、睡眠欲、自律神経などがあり、いずれもサイコパスは問題を抱えている可能性がある。

(ⅰ)食欲、飲水欲の問題:元少年A「食べることに興味がなかった。もし食事の代わりにガソリンでも飲んで動けるのならのなら、間違いなくもう2度と“食べる”という行為に従事ないだろう。冗談に聞こえるかもしれないがいたって本気だ。それほどに僕は“食べる”という行為が煩わしい」「“味を楽しむ”と言う概念は持っていない」〔『絶歌』p218〕。元少年Aはプレス工を「自立した人生を始めたい」として辞め、カプセルホテル生活を約5か月行っているが「食費を節約するためカップラーメンを大量に買い込み、ホテルのロッカーにぎっしり詰め込み〔『絶歌』p235〕」朝晩カップラーメンを食べていたが苦にしていない。多くの健常者は、栄養価や見た目やおいしさを求め、食事を楽しむ。元少年A「食事には頓着しないが水分はよく摂る。よく摂るというよりも、過剰に摂る。夏でも冬でも、特にストレスがたまると僕は異常にのどが渇く。1日3リットルはフツーに飲む〔『絶歌』p218〕」。元少年Aは食欲や飲水欲に何らかの問題を抱えていると思われる。サイコパスは食事内容からくる健康問題を起こしやすい。

(ⅱ)睡眠欲の問題:後で述べる例13北九州監禁殺人事件のサイコパス松永太、例14尼崎監禁殺人事件のサイコパス角田美代子は徹夜で何日も怒鳴り続けたり、監禁犠牲者への食事を午前2時ごろだけに与えたりすることがある。これは視床下部の視交叉上核(体内時計)と密接な関係があり睡眠をもたらすメラトニンを分泌する松果体が偏桃体からの指令がないためにうまく制御されず昼夜が逆転したりしているためと考えられる。

(ⅲ)自律神経の問題:サイコパスの特徴の一つに夜尿症があるが、視床下部の自律神経に問題が生じていると考えられる。〔本シリーズ(その4)「1.17 扁桃体の位置と具体的機能とサイコパス(2)扁桃体の構造と具体的機能とサイコパス」参照〕

7)サイコパスが優しい顔から悪魔に豹変するとき

昼間は普通の人として振舞い、夜に突如殺人鬼に豹変するような特徴がある。これは、サイコパスの大脳新皮質(社会脳の前頭前野や知識の側頭葉を含む)は正常で、健常者と同様に学習し、経験し、判断できることから生じている。すなわち大脳新皮質が行動を支配しているときは優しく正常に見え、情動の逆転欲求報酬回路に切り替わったところで悪魔に豹変する。後の例14「尼崎監禁殺人事件」主犯サイコパス角田美代子は「優しさと残虐の両面がある」(三26回谷本明証言)。健常者には悪魔に相当する逆転欲求報酬回路は存在しない。したがって健常者にはこの豹変を自分の延長上では理解できない。

(a)豹変の3つの時期と破壊的自己表出

サイコパスの行動は次の3時期のサイクルとなっている。

・懐柔(仮面)期:健常者や弱者を丸め込む時期=大脳新皮質が行動を支配している時期=優しい顔の時期

・豹変(悪魔化)期:健常者や弱者を精神的暴力的に支配できると感じた瞬間=逆転欲求が行動を支配した瞬間=悪魔が出現した瞬間。破壊的自己表出が現れた瞬間。一度豹変すると残虐行為で逆転欲求満足を求め続け、外部からの強制力がない限り、または満足を達成するまでとどまることはない。

・満足(悪魔)期:逆転欲求満足のドーパミンを味わい陶酔している時期。サイコパスはこの満足期に記録や犠牲者の一部などの『宝物』を残す。これらは「逆転快」の陶酔を後で再び呼び覚ますためと考えられる。

破壊的自己表出とは:逆転欲求が外化すること。サイコパスが犠牲者の心や人間関係や肉体や創造物を破壊する行為。サイコパスの豹変(悪魔化)期に現れる特徴。外向的サイコパスでは激しく怒鳴り散らし、激高する姿になる。健常者の創造的自己表出の正反対になる。健常者の破壊は創造が背景にある創造的破壊で創造的自己表出の一部になる。サイコパスの破壊的自己表出には創造がない。ただ破壊する。

(b)サイコパスは健常者が逆らえない状態になったとき豹変期に入る、それまで仮面をかぶる

サイコパスは相手が逆らえない状態と感じた時に、悪魔に豹変する。それまでの理性的な会話はすっ飛び、激しい怒りや暴力になる。サイコパスの脳内で大脳新皮質の支配から逆転欲求の支配に移行した瞬間である。健常者には、なぜそんなに激しく怒っているのか解らず、頭が真っ白な状態になり、サイコパスに屈する。後の例13では屈強な元警官が腕力のないサイコパス松永に屈し虐待死され、例14では元暴力団員で体に入れ墨が入ったマサが腕力では全く劣る女性サイコパス角田美代子に屈し、虐待されている。マサは底知れない恐ろしさに抵抗できなくなると述べている。サイコパスの心を読めない、何考えているかわからないことが恐怖となり屈してしまうきっかけになっている。この詳細はそれぞれの例の項で説明する。相手が反撃しない自閉症者や弱い子供などの場合、また自分が武器を使いって相手より優位である場合には、サイコパスは始めから悪魔となる。また、寝込みなど反撃できないところを襲う。サイコパスの合理的判断は正常なので、残虐行為が可能になるまでじっと耐え続けることができる。残虐行為で懲役刑となっても、模範囚としてじっと耐えて刑期を終え、出獄して直ちに残虐行為を行うサイコパスは時々見られる〔M.ストーン〕。戦争を渇望する『優秀な』サイコパスは、戦争が起きるようあらゆる能力を総動員して着々と進めることができ、戦争が起きるまで、戦争の「逆転快」報酬系ドーパミンの快感を予想してほくそ笑み、じっと耐え忍ぶ

8)サイコパスは虐待行為に全能力を注ぐ

サイコパスの逆転欲求「逆転快」報酬系ドーパミンの追及は、サイコパスの全能力を総動員して行われる。あたかも麻薬患者がすべての能力を総動員して麻薬を手に入れようとするのと似ている。

(a)サイコパスは虐待道具、武器、薬物などの知識をフルに使って残虐行為をする

サイコパスは論理思考や知識の大脳新皮質は正常に機能しているため、あらゆる道具、武器、薬物などの知識をフル回転し、自ら訓練をして残虐行為を行う。逃げないようにする監禁部屋や虐待のための道具を能力の総力を挙げて工夫する。何十人もの女性を殺害したデイヴィッド・パーカー・.レイ(David Parker Ray)は単独サイコパスであるが「拷問部屋」を作った。防音、滑車、鎖、ウインチ、テーブル、拘束具、スタンガン、弱電流の牛追い棒、釘で覆われた張形、婦人科用器具、注射器、薬品、強化壁と強化ドア、カメラ、モニターが備え付けられていた。〔本シリーズ(その2)「1.7 サイコパスは見た目や会話では分からない」、及び後の項(2)平和時のサイコパスの特徴行動5)監禁虐待〕参照。

(b)サイコパスは執念深く何年たっても特定の犠牲者を捕まえようとする

サイコパスは知識/能力を総動員して、あらゆる工夫をして、犠牲者を逃がさないようにし、また、逃げた犠牲者を捕まえる。犠牲者を逃げられないようにすることは単独サイコパスにも見られるが、単独サイコパスは一人で暴力装置を使って犠牲者を逃がさないようにするのに対して、まんじゅうサイコパスは、まんじゅうの皮となった人々を使いこなして、またまんじゅうの皮自身が疑似サイコパス化して、犠牲者を逃さない

サイコパスにとって犠牲者は麻薬患者の麻薬と同じ位置を占め、そのためサイコパスは、あたかも麻薬患者が何年たっても麻薬を求める衝動が消えないように、特定の犠牲者を何年たっても執拗に追い求める。サイコパスの「逆転快」報酬系ドーパミンを与えてくれた特定の犠牲者が記憶に刻まれている。逃げるものを虐待することは逃げないものを虐待するより逆転愛情欲求が一層満足され「逆転快」報酬系ドーパミンの分泌が大きいためと考えられる。「執拗なストーカー」は逆転欲求を持つ者の行動とすると理解できる。サイコパスの逃走者を捕まえる執念深さは、後の例14「尼崎監禁殺人事件」で具体的に視る。〔本シリーズ(その3)1.15(6)サイコパスの遺伝要素と環境要素」に述べた執念深いストーカーに通じる。サイコパスは思い込むと注意を他に向けることができない特性を持つ」参照〕

9)サイコパス自身は自分をどう感じているか

「何十件もの研究から、サイコパスは世の中を他の人とは違って感じていることが分かっている」〔「別冊日経サイエンス2013/4/18号、心の迷宮、脳の神秘を探る。サイコパスの脳を覗く、ニューメキシコ大K.A.キール(Kent A. Kiehl)p9。以下日経サイエンス、サイコパスの脳を覗くK.A.キール〕サイコパスは麻薬常習者と似ており、自分でおかしい、何とかしなければと思いながらも残虐行為がやめられないそれだけ強い逆転欲求の衝動に支配されている。逆転欲求は、初めは弱いが、繰り返すうちに徐々に強くなっていき、ついには寝ても覚めても、もう残虐行為のことしか考えられなくなる。前項「5)(a)サイコパスの「逆転快」の強烈さを麻薬の関係で掴む」参照

(a)自分がなぜ残虐行為をするかわからない

サイコパスには自分が異常であることに気づいているものがいるが、なぜこのような異常になっているのかは自分でも分からない

サイコパス犯罪の犯人は自分でも動機が分からないので取調時に思いつく適当な理由を言う。また、取調官(健常者)が「…ではないか」と自分で理解できる範囲の理由を誘導して、調書の体裁を整えることがあるので、サイコパス犯罪を混乱させる。サイコパス犯罪の動機は、逆転欲求の追求にある。この動機は、取調官(健常者)には自分のどこを視ても見つけることができず、理解できないもので、いまの調書の体裁が整わない。この動機は偏桃体機能不全の病気として初めて理解でき、調書にサイコパスを扱う区分を設ける必要がある。 

元少年Aは少年院に面会に来た母に「母さん、よう聞いてな。僕は病気やねん。僕がこんなふうになってもぉたんは、母さんのせいとちゃうねん。誰のせいでもないねん。せやから、母さんには自分を責めっとってほしい〔『絶歌』p145。以下ページのみ〕」。「あれほど残虐な、許されない罪を犯しながら、自殺もせず、発狂するわけでもなく…、自分はいったいどういう人間なのだろうp203」。「自分は人間の皮をかぶった人殺しのケダモノだp277」。弟への虐待やダフネ君を前歯が折れて血だらけになるまで殴ったことなどをなぜ行うか分からないでは済まされることではないと思う。でも、本当にどうしても分からないp76p269」。「自分の抱える異常性と向き合うことから逃げて逃げて逃げ抜いて」「結果あのような事件に至ったのではないだろうか…p84」。元少年Aはフロイトの「死の欲動」などを調べ、自分の異常性を理解しようとしているが、結局わからないまま、2015年の『絶歌』出版に至っている。

サイコパスは初めから自分が健常者と違うことに気が付いているわけではない、ある日気が付く。少年Aは猫の虐待の感覚を他の人も同じように感じていると思い、その話を友達にし、友達は全く感じていないことに愕然としている。またサイコパスには自分が異常だと気が付かずに、他の人も自分と同じ感覚を持つと思い込んだまま、隠れて残虐行為をして人生を終えるものも多数いると思われる。

(b)離人症的感覚を持つ

サイコパスはオピオイド(コカイン、アヘン)系の麻薬患者に似た離人症的感覚を持っている。「オピオイドの大量分泌は離人症的な症状をもたらす。現実感の喪失、自己と外界を隔てる透明な壁のある感じ、自分のことを遠くで自分が観察している感じ、自分の手足の消失する感じなどです。」〔『神経伝達物質・脳内ホルモン』http://trauma.or.tv/1nou/3.html (2016/03/11閲覧)〕

少年Aは淳君殺害の2週間後に書いた「懲役13年」という文章で悪魔が「深淵をのぞき込むとき、その深淵もこちらを見つめている」とサイコパスの離人症的「自分のことを遠くで自分が観察している」感覚を表現している。また、サイコパス殺人鬼を描いた漫画「ヒメアノ~ル」の殺人鬼森田正一が自分の心を表現している場面「中学の時の帰り……オレは完全に“フツーじゃない”って……マジで悔しくてその場で死にたくなった……泣いちゃったよ」「うずくまる森田が森田の住む“こちら側”の世界と、永久に触れられない“あちら側”の世界をガードレールが無常に隔てている」という場面で元少年Aは「―あの頃の自分だ―そう思った。漫画を読んで泣いたのはこの時が初めてp230」と述べ、サイコパスの離人症的感覚の「自己と外界を隔てる透明な壁のある感じ」がガードレールのこちら側とあちら側となっている。前項「(1)2)(a)サイコパスの逆転認知欲求を示す絵、コラージュ、情景の例」の下段右の一つ目で手の間から、ことらを覗いているコラージュは離人症的感覚を表現していると考えられる。また、犯行ノートに描かれた絵の手やコラージュ左の脳は消失している。これらも手や脳が消失していると感じる離人症的感覚を表していると考えられる

(c)虐待犠牲者に代償感覚を持つ

虐待犠牲者(逆転欲求満足を与えてくれた対象)に金を与えることがある。少年Aは弟のプラモデルをぐちゃぐちゃにしたり、殴ったりした後に弟の机に100円玉や500円玉を置いている〔『絶歌』p268〕。なぜ金を置くかA自身にもわからない。父親から死にそうになるくらいに虐待を受けていたアポロ君は暴力を振るわれた翌日はいつも机の上に千円札が置かれていたと言う〔『絶歌』p28〕。「ごめんなさい」の気持ちではないか?とAは考えた。筆者は、感情を持たないサイコパスの、物を買ったときに代金を払うのと同じ感覚と思う。逆転欲求満足を与えてくれた代金で、物的な関係。「ごめんなさい」という感情ではない。サイコパスの大脳新皮質は正常で、そこで学んだ金銭の支払い代償関係を反映している。次項の虐待をするときにどうでもいい理由を付けることと同様の脳内部の合理性を図る行為と考えられる。

(d)虐待行為にどうでもいい理由を必要とする

サイコパスは論理思考の大脳新皮質は正常に機能しているので、逆転欲求報酬系ドーパミンを求めた残虐行為に、どうでもいい、つまらない理由(カラ理由)を付け、脳内部の合理性を図る。どうでもいい理由を付けるのは、健常者を納得させるためだけでなく、サイコパス自身の内的衝動(カラ理由付け衝動)がある。少年Aが動物虐待をするときに『死を理解するため』と理由を付けていた。だがこの理由に意味がないことは前項「(1)5)(a)サイコパスの「逆転快」の強烈さを麻薬の関係で掴む」で抜粋したように、「『死を理解するため』というもっともらしい大義名分は消え去り、ただただ殺し解体することが快感だった〔『絶歌』p69〕」と正直に述べている。サイコパスが作り出す、どうでもいい理由に、フロイト派精神分析の研究者は真に受けて振り回されている場合がある。

カラ理由とは:サイコパスが虐待などを行うときに付ける中身がない表面的な理由

カラ理由付け衝動とは:サイコパスが脳内部で逆転欲求行為を大脳新皮質が形式的に合理化しようとするために生ずる理由付け衝動。サイコパスはカラ理由付け衝動を持つ。その理由には意味がなく、サイコパスにとって逆転欲求満足追及にのみ意味がある。この理由付け衝動は、健常者をサイコパスまんじゅうの皮としてサイコパス化するときや詐欺行為の時に盛んに外化する。サイコパス犯罪の取調官や精神鑑定医がしばしばカラ理由に振り回されて、真の動機である逆転欲求を見落とすことがある。また、取調官などに逆転欲求の存在が認知されていないために、犯人とともにカラ理由を作り出してしまう。

(e)心に正常と悪魔の両者がいることに苦しむことがある。

サイコパスは大脳新皮質の正常欲求と偏桃体機能不全の逆転欲求の両方を同時に持つため、深い苦悩に陥ることがある。サイコパスが人を騙すときのウソ泣き以外で涙を流すのは、この苦悩の時と思われる。少年Aが留置所や少年院で何日も泣き続けた時〔『絶歌』pp16-18、p139〕や、前項「(b)離人症的感覚を持つ」で「漫画を読んで泣いた」涙はこの苦悩である。例14尼崎監禁殺人事件の角田美代子も逮捕され、留置所で大泣きしていた時期がある。サイコパス苦悩と名付けておく。

健常者が同一人物に対して愛情と嫌悪や尊敬と軽蔑を同時に感じるような両価性(アンビバレンス)と言われるものとサイコパスの2面性は全く別のもの。健常者が両価性を持つのは人が持つ多面性を総合的にとらえた結果で、ごく当然のこと。サイコパスの行動の2面性は偏桃体機能不全から生じた、根本的に両価性とは異なるもの。フロイト派はサイコパスの2面性を健常者の両価性の中に取り入れようとして混乱している。そのためフロイト派を勉強した元少年Aも混乱していることが『絶歌』の中でみられる。

10)サイコパスの逆転欲求構造のまとめとサイコパスまんじゅう

サイコパスの暗いイメージとをまんじゅうに重ねるのは、まんじゅうを作り販売している人々には不快なことと思いますが、わかりやすい説明の比喩としてご理解いただきたく。筆者は甘党で甘いまんじゅうや中華まんじゅうをこよなくあしている一人ですので、ご了承ください。

(a)サイコパスの逆転欲求は統一した全体で捉える

健常者の欲求構造と全く同様に、サイコパスの逆転欲求も統一体として把握する必要がある。

逆転生存欲求や逆転認知欲求や逆転愛情欲求や逆転安全欲求など、個々の特徴をバラバラに把握すると実態が分からなくなる。それらは統一体として逆転欲求全体を形成している。例えば古い建築物を一瞬で解体処理する画像に健常者はすっきりする感覚を持つが、少年Aが弟のきれいに並べたプラモデルをバラバラにするのとは全く別。建築物の解体をすっきりと感じるのは健常者の創造性認知欲求と係わり、犠牲者が生じないこと(愛情欲求や仲間欲求など)が一体となっている。サイコパスの物体解体は、解体された犠牲者の苦痛を求めることと一体になっている。〔健常者の欲求構造については後の項「1.23(1)健常者の欲求構造とサイコパスの出現理由」参照〕。

(b)サイコパスは健常者と類似の多様な個性          

サイコパスは、大脳新皮質は正常に機能しているので、大脳新皮質から生じる個性の多様性が健常者と同様にある。また、扁桃体が6つの部位からなり、機能不全が全体なのか、どこかの部分なのかの違いにより、病状に差が生じると考えられる。

(c)サイコパスには単独型まんじゅう型がある

サイコパスの多様性は、健常者と同様大きく二つ、内向的と外交的に対応した、単独型とまんじゅう型に分けることができる。集団型とせず、まんじゅう型とするのは、健常者の集団とは全く別のものなので、誤解を避けることと、その集団の特徴を短い言葉で表現するためである。

単独サイコパス

まんじゅうサイコパス

一人で残虐行為を行う。内向的サイコパス。

サイコパスまんじゅうを形成し残虐行為を行う。外交的サイコパス。

元少年Aを含め前項「1)サイコパスの逆転生存欲求」で述べた宅間守などの6人は単独サイコパス。後の項「(2)平和時のサイコパスの特徴行動、事件例11~14」の犯人がまんじゅうサイコパスである。

まんじゅうサイコパスとは:サイコパスまんじゅうを形成するサイコパス。

サイコパスまんじゅうとは:中心にはサイコパスの黒いアンがあり、周囲は健常者の白い皮で覆われ、全体としてサイコパス化した集団。中心のサイコパスは一人とは限らない。サイコパスは一人では実行できない残虐行為を、サイコパスまんじゅうを形成することによって実行する。

単独サイコパスは、まんじゅうサイコパスの予備軍であり、いつでも機会があればサイコパスまんじゅうを形成する構成員になる。元少年Aは少年期に万引きグループを形成しており、まんじゅう型への移行の可能性を持っている。サイコパスまんじゅうについては本シリーズ(その4)「1.20健常者のサイコパス化の危険」でも説明しているので参照。

サイコパスまんじゅうの内部は、愛情のないロボットの関係であり、外部に対してだけでなく、内部者相互に残虐行為に及ぶ場合が多い。

単独型とまんじゅう型の中間に位置する中間型があるが、この3類型詳細は後の項「(L-7)サイコパス対策と治療体制」及び「5)平和時のサイコパスの特徴行動:まとめ」参照

ブログの文字数制限を超えますので以下(その4-5)へ続く。

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映画『凶悪』残虐性シリーズ(その4-3)逆転愛情欲求他

2016-04-21 17:31:17 | 映画凶悪・戦争のサイコパス残虐性シリーズ

(その4-2)の続き。

(c)物や草花をぐちゃぐちゃにしたい衝動の例

少年Aは小学低学年の時、弟に因縁をつけて理由なく殴っているが、同時に丹精込めて作り机の上に飾ってあった多くのプラモデル・ガンダムをめちゃめちゃにした。なぜそうするか本人にもわからない〔『絶歌』p268〕。「眼に映るすべての美しいものをバラバラに壊してやりたかった〔『絶歌』p17〕」。サイコパスは動物や人間だけでなく、物をぐちゃぐちゃにする強い衝動を持っている。

後の例14「尼崎監禁殺人事件」のサイコパス角田美代子は逃亡した谷本初代が逃亡先のベランダで育てていた花をぐちゃぐちゃにした。「花がグチャッとつぶれ、その時はさすがに母親(谷本初代)をかわいそうに思った」「母親はガーデニングが好きだった」〔三8回公判で初代の娘の瑠衣証言。花を育てる心、愛情を持つ心がサイコパスには理解できず、苦痛になることと一体のグチャグチャにしたい衝動。このあと谷本初代は激しい虐待で殺害された。

(d)認知できないことを求める衝動の例

少年Aは“理解する”ことより“自分の理解が及ばないもの”との遭遇を求めている」と述べ。精神鑑定の担当精神分析医が自分と同じ“自分の理解が及ばないもの”を求めている“屈折した探究者”だと分析して、「個人的な『好感』をもった〔『絶歌』p135〕」と述べている。少年Aとこの精神分析医との関係は、映画『羊たちの沈黙』(1991年米国)でサイコパスの囚人レクターがFBIの犯罪心理を学ぶクラリスを逆に分析してしまう関係を思い出させる。少年Aがレクターで、精神分析医がクラリスに当たる。レクターをアンソニー・ホプキンズが、 クラリスをジュディー・フォスターが演じた。この映画はアカデミー賞の主要5部門すべてを独占した。

少年Aの精神分析医は、幼少期の母親による虐待により、少年Aの問題精神構造になったと誤った分析をしている。そのため、愛情で取り囲めば少年Aの心は改善すると誤った更生方針となった。サイコパスは愛情で取り囲んでも治らない。この誤りは少年Aが精神分析医を誘導したためか、精神分析医が、健常者が理解できる範囲の理由として創作したためと考えられる。少年Aの母親は虐待などと無縁で、とても愛情がある人であることについては後の項「1.25元少年A更生の失敗と『絶歌』:元少年Aへの呼びかけ」で述べる。

3)サイコパスの逆転愛情/逆転承認欲求

下記表は健常者とサイコパスの比較。

健常者の愛情/承認欲求

サイコパスの逆転愛情/逆転承認欲求〔真空化した愛情/承認欲求〕

憎(にく)まれたくない、恨(うら)まれたくないと思う。

憎(にく)まれたい/憎みたい、恨(うら)まれたい/恨みたい、怒りたいと思う。理由なく、ただ憎み、恨む理由なく怒る

仲間との心の交流を楽しむ。愛し/愛されたい、認め/認められたい、尊敬し/尊敬されたいという欲求がある。

人が仲良くしているのを見るのは苦痛で、破壊衝動を持つ。愛情や尊敬の人間関係は破壊の対象。人の関係は心の通わないロボット化する。〔ロボット化は項(d)参照〕。

困っている人は助けたいと思う。

人を助けたいと思うことはない。

(a)ネコの「対象がないのに怒る」実験

サイコパスは対象がないにもかかわらず、怒りたいという情動がある。原因は、偏桃体に問題があることが、次のネコの実験からもわかる。ネコの偏桃体や視床下部を電気的に刺激すると、対象がないのに、怒り、攻撃行動を示す。耳を伏せ、毛を逆立てて、「シャーッ!」と怒り、速脈などの自律神経の反応。この怒り、攻撃の誘発は、偏桃体を起点にし、視床下部の腹内側核などへの神経信号で生ずることが分かっている〔情報元:痛みと鎮痛の基礎知識 - Pain Relief ‐情動http://www.shiga-med.ac.jp/~koyama/analgesia/react-emotion.html(2016/2/5閲覧)〕

健常者がイライラして怒ってしまうのとは、まったく別の次元のもの。偏桃体機能不全のサイコパスはイライラする原因がなくても激しい怒りが生じる。健常者にはなぜそんなに怒っているのかわからない。

(b)愛情あふれる人の偏桃体は大きい

米ケンタッキー州ジョージタウン大学アビゲイル・マーシュ教授率いる研究チームは19人の腎臓ドナー提供者(報酬なしで提供する、献身的で利他的な人、愛情あふれる人)は大きな偏桃体を持つことを観察した。一方、マーシュ教授らが以前行ったサイコパスの研究では偏桃体が標準より小さめで、他人の怯えや不安の表情に対してほとんど反応をしないというものだった。「際立って利他的な人は、脳の構造においてもサイコパスとは正反対である」ということが言えるだろうとマーシュ教授は話している。〔情報元:親切なのは生まれつき? 利他的な人と利己的な人では脳の構造が異なることが判明(米研究)2014/10/5日http://karapaia.livedoor.biz/archives/52174587.html (2016/2/4閲覧)〕

(c)神戸連続児童殺傷事件元少年Aの逆転愛情/逆転承認欲求

元少年Aは逆転愛情/逆転承認欲求を素直に表現したと思われるところがある。Aは「人を憎み/人から憎まれる」「人を恨み/人から恨まれる」ことを理由なく求めている。「他人が自分に向ける悪意の量以外に、自分の存在を図る物差しを持っていなかった。他人から浴びせられる侮辱や罵倒によってのみ、自分が浄化される気がした」「一人でも多くの人に憎まれ、否定され、拒絶されることだけが、僕の望みであり、誇りであり、生きるよすがだった」〔『絶歌』pp22-23〕。自分は「他人の善意をすべて逆手にしか受け取れない」「常に他人を攻撃するための材料を探す人間」『絶歌』p83〕だった。Aの精神的な混乱で『絶歌』では修辞的になっているが淳君の首を置いた中学校の校舎を「憎悪の結晶」「激しい怒りや憎しみの対象」としている〔『絶歌』p98〕。Aのこの憎悪や激しい怒りに理由はない。

(d)サイコパスは健常者を自分と同じ感情のない状態にしたい衝動を持つ

サイコパスは健常者を自分と同じ感情のない状態にしたいという衝動(ロボット化衝動)を持つ。その衝動は人間関係の破壊と、人の意思の破壊をもたらす。

a)サイコパスの心の交流破壊と人間関係のロボット化衝動

サイコパスは、人を憎みたい/憎まれたい衝動を持つが、同時に他者の愛情あふれる心の交流を破壊したい衝動を持つ。健常者の嫉妬とはレベルが違う。愛情関係の破壊は決定的に行い、結婚している人は離婚させ、互いに殴り、殺させる。親子で殺し合いをさせ、10歳の姉に5歳の弟を殺させる〔例13北九州監禁殺害事件〕。例14尼崎連続殺人事件のサイコパス角田美代子は6組の男女を離婚させ、形式的な結婚をさせ、養子縁組をし、感情がないロボットの家族を作った。サイコパスが作るロボット化した人間関係は、愛情や心の交流のない人間関係、無味乾燥な砂漠の人間関係、真空化した人間関係と言ってもいい。特に外向的サイコパスはロボット化した人間関係を作ろうとする強い衝動を持っている。この衝動は逆転欲求そのものである。このロボット化した人間関係が後で述べるサイコパスまんじゅう内部の人間関係である。

下の画像上段は映画『ふしぎな岬の物語』(2014年日本)のフォークソング仲間(ブラザーズ5)の1シーンである。映画では別々の仕事を持ちフォークソングを歌う仲間で、喫茶店が火事で消失したとき、再建に無償で手伝う。この映画のような支えあう仲間のグループは日本中に無数にある。このような愛情あふれる仲間の心の交流に反社会性人格障害者は参加することが困難であるが、サイコパスは参加しないだけでなく激しい苦痛を感じ、破壊したい衝動を持つ。サイコパスは動物や人や物をぐちゃぐちゃに破壊する衝動を持つが、さらにサイコパスは、愛情あふれる人間関係をぐちゃぐちゃに破壊したい衝動を持つ。愛情あふれる関係を「甘ちょろい、虫唾が走る人のつながり」としか感じ取れない。愛情あふれる人の交流にサイコパスは何も価値を見出すことはできない。下の画像下段左は映画『おとうと』(2010年日本)の一場面。仕事がなく風来坊状態の弟がガンを患い、貧困者を支援する施設の世話になっていた。吟子(吉永小百合)は弟が心配で探し回り、ようやく施設にたどり着く。施設の小宮(小日向文世)に「弟の生活費は大丈夫でしょうか」と聞くと小宮は「生活保護の手続きをとって、その費用の中で何とかできているので心配ないですよ」と答える場面である。この映画の小宮のように、利害を超えて献身的に人のことを考える人を、反社会性人格障害者は理解できないが、サイコパスは、理解できないだけでなく、苦痛を感じ虐待の対象にする。サイコパスは、人にやさしい献身的な人を特に虐待の対象にする。このことは後の例14「尼崎監禁殺人事件」で具体的に分析する。下の画像下段右。沖縄戦の「戦争語り部」と呼ばれ、修学旅行生などに沖縄戦の体験を無償で講演などをするお年寄りがいるが、その一人元白梅学徒看護隊員の中山きくさん。『壕を前に、中山きくさんは戦時野戦病院内という極限の状況下で体験した凄惨極まる生死のドラマを証言します。自身の身に死が迫り、学友の多くが斃(たお)れることになったのは、任を解かれ南部を彷徨い始めてから』〔画像出典サイトより〕と話す。このような話を健常者は、なぜこのような戦争になったか、戦争が起こらないようにするには、どうしたらいいかを考えるきっかけにするが、反社会性人格障害者は、当時の人の立場で考えることができず「つまらない、退屈な話」程度にしかとらえることができない。サイコパスは、中山さんの戦争の残虐な話に引き付けられて、戦争を起こしたいという衝動になるとともに、献身的な中山さんのような人を嫌悪し、危害を加える衝動さえ持つと考えられる

画像出典上段:ブラザーズ5 - 杉田二郎、堀内孝雄、ばんばひろふみ、高山厳、因幡晃http://55jikey.blog.so-net.ne.jp/2014-04-02    (2016/3/18閲覧)。画像出典下段左:ブタネコのトラウマ、おとうと。http://buta-neko.net/blog/archives/2011/06/otouto.html   (2016/3/18閲覧)。画像出典下段右:写真家田中正文公式サイト、元学徒隊員沖縄戦を語る(中山きく氏)http://www.ww2-okinawa.com/testimonyf/shiraume.html   (2016/3/18閲覧)。

映画『セブン』(1996年米国)はサイコパスの「激しく憎まれたい」という心象が表現されている。猟奇殺人を続けるサイコパスの犯人ジョンは、最後に、追跡するミルズ刑事の妻の首を切断して頭部を小箱に入れて送り付ける。激しい怒り、憎しみの塊となったミルズ刑事は犯人を必ず殺すと言う。友人の刑事は、殺されることは犯人が望んでいることだから、それに乗ってはいけないと制止する。だが、ついに犯人を銃殺してしまう。犯人の望みどおり。ミルズ刑事はブラッド・ピットが、友人刑事はモーガン・フリーマンが演じた。この映画は「4週連続で全米興行成績1位の大ヒット(ウィキペディア)」した。キリストの7つの大罪『セブン』をテーマにしているが犯人はサイコパスの特徴がよく現れている。

b)サイコパスの人の意思破壊とロボット化衝動

サイコパスは愛情あふれる人間関係、心の交流をぐちゃぐちゃに破壊し、ロボット化したい衝動を持つが、さらに人の自立した意思を破壊し完全従属のロボット化したい衝動を持つ。サイコパスの「人のロボット化」とは、人間関係と個人の意思の両面を破壊することである。いずれにしてもサイコパスの行うロボット化により、犠牲者はあらゆる人間性(人間らしさ)を破壊つくされる。ロボット化過程で人は動くことを許されず、食事を与えられず、やせ細り、ついには餓死し、その後にバラバラに解体される。ナチスによるアウシュビッツ収容所の犠牲者のやせ細った人や衰弱死した人の山はロボット化された人の姿の例。少年Aなど多くのサイコパスはこのアウシュビッツの写真に強く引き付けられている。健常者には理解しがたいことだが、サイコパスは自分がアウシュビッツの犠牲者と同じ物体化した存在に感じていると思われる。サイコパスがアウジュビッツの犠牲者に引かれるのは、犠牲者と自分が同じと感じることが根底にあると思われる。他者をぐちゃぐちゃに破壊して、感情のないロボットにしたい衝動は残虐性の「逆転快」報酬系ドーパミンを求めたものであるが、同時に他者を自分と同じぐちゃぐちゃな精神状態にしたい、すなわち他者をサイコパスにしたい衝でもある。後の項(その4-4)「10)e)健常者のロボット化とサイコパス化の違い」参照

(e)健常者が「他人の不幸は蜜の味」と感じることとサイコパスが他者を虐待することは全く別。

例えば、健常者には自分と変わらない人物が大金持ちであることを見せつけられた後、その大金持ちに不幸があると快を感じる人が一定割合いる。これは人間関係の『痛み』を感じる大脳辺縁系の前部帯状回が係っている。この部分は『痛み』を情動として感じる部分である。格差の『痛みねたみの感情が大金持ちの不幸で解消して快となったと考えられる。〔情報元:「妬みや他人の不幸を喜ぶ感情に関する脳内のメカニズムが明らかに」独立行政法人 放射線医学総合研究所http://www.nirs.go.jp/information/press/2008/index.php?02_12.shtml (2016/2/23閲覧)〕

また、社会の過酷な個人間競争で、他者が脱落すれば自分が楽になるという足の引っ張り合いの面を反映して「他人の不幸は蜜の味」と感じる人が出ていることも考えられる。この他者の脱落を喜ぶことを生み出す過酷な競争は、企業間競争では賃金を安くした方が勝利する搾取競争が新価値創造競争を凌駕すること、及びライベル企業の失敗を願い喜ぶことを反映している。搾取競争の諸個人への影響は後の項「経営とサイコパス」で述べる。

いすれにしても健常者の「ねたみ」は人間関係や社会に理由を見出すことができるが、サイコパスの「ねたみ」には理由がない。サイコパスは、ただ「ねたみ」「うらみ」そして虐待する。サイコパスの偏桃体機能不全が、前部帯状回の機能不全へ病状が伝播しているため、理由なく「ねたみ」が生ずると考えられる。〔これについては次項「4)サイコパスの逆転安全欲求1(逆転痛み欲求)」参照〕。偏桃体に機能不全がなく、前部帯状回にのみ損傷や機能不全がある場合にも生ずると考えられるので、理由なく「ねたみ」を持つ人がサイコパスとは限らない。また、健常者には「ねたみ」「うらみ」を全く持たない「悟り」の境地に達した人が一定割合存在する。A.H.マズローによれば2%程度の人がこの「悟り」レベルに達している。〔「悟り」の境地の人については後の項「1.23(1)健常者の欲求構造とサイコパスの出現理由」参照〕

4)サイコパスの逆転安全欲求1(逆転痛み欲求)

健常者が「痛みを避ける」のは生存欲求の一部の安全欲求と一体となったものであるが、サイコパスはこの「痛み」の情動が逆転している。

健常者の安全欲求1(痛み回避欲求)

サイコパスの逆転安全欲求1(逆転痛み欲求、真空化した安全欲求)

自分の痛みを避ける。生き物や他人に痛みを求めることはない。

衝動的に自分の痛みを求める。生き物や他人に痛みを与えることが快感になる。

菜食主義を守る人以外の健常者は生存のために他の動物を殺し食べるが、サイコパスは生存のためという理由がなく、ただ他の動物に痛みを与えるために虐待し、殺害する。少年Aは「自慰行為の最中に血が出るほど強く舌を噛むようになり」「母親の使っていたレディースカミソリで、猫の手指や太腿や下腹部の皮膚を切った」「僕は痛みの虜だった」〔『絶歌』p67〕と述べている.少年Aがナメクジなどをカミソリで裂き、薄く切る〔『絶歌』p51〕のも、相手の「痛み」を快感として感じているためと考えられる。

(a)サイコパスの「痛み」が快感になるメカニズム

比較的解明が進んでいる「痛み」でサイコパスの心のメカニズムを視る。このメカニズムはすべての逆転欲求を理解する基本になるので詳しく述べる。脳の神経回路で少々複雑になるが、サイコパスの本質理解に極めて重要。

人を含め哺乳類の多くは「快」「不快」を脳内快感物質のドーパミンの増減の変化で感じている。生命の大原則にとって好ましい場合に「快」、好ましくない場合に「不快」の情動となるよう、「快」でドーパミンが増え「不快」でドーパミンが減るよう進化しており、その判断を原則的には偏桃体が行っている。「快」を求め「不快」を避けて行動をする。ドーパミンで充満したまま変化しないと「快」は感じなくなる。他の神経伝達物質のセロトニンやノルアドレナリンやGABAなども「快」「不快」に係ると考えられているが、分かりやすくするためここでは最も重要なドーパミンだけで説明する。

ネズミのドーパミンによる行動制御の実験:脳にドーパミンを直接与えたと同様になるよう、側坐核などに電気刺激できるようにしたネズミ(ラット)を、四角い場所に放し、決まった角に行ったときにドーパミンを与えるようにすると、放されたときに常にその角へ行くようになる。この方法でネズミを実験者の思い通りにどこにでも積極的に行くようにすることができる。ネズミはドーパミンの快感が欲しくて行動する。この行動は食欲よりも強いドーパミンは行動意欲の源泉であることを示す実験である。〔別冊日経サイエンス2013年、快楽の神経回路、M.L.クリンバック(Morten L. Kringelbach)/K.C.ベリッジ(Kent C. Berridge)pp67-70。以下日経サイエンス、快楽の神経回路〕

健常者では脳内に基準量のドーパミン量が存在しており、偏桃体が外部情報を「不快」と判断すると、ドーパミンを減少させ「不快」を脳内に生じさせる。「不快」が解消したときドーパミンを脳内に放出し「快」の感情になり、元の基準量のドーパミン状態に戻る。前項(e)の格差の痛み』の感情が生じるとドーパミンが減少し「不快」となるが、大金持ちの不幸で解消すると、基準のドーパミン量に戻り「快」となるのと類似のこと。この「不快」が消えることで「快」が生ずるメカニズムが、サイコパスの逆転欲求を理解するカギである。サイコパスは「痛み」を直接「快」と感じているわけではなく、「痛み」「不快」が解消した時のドーパミンが脳内に分泌されることの「快」を感じている。すなわち、ワンクッションおいて、間接的に「快」を感じている。間接的だが弱いということはない。この「不快」が解消したとき生じる「快」を特に「不快の逆転快」=「逆転快」と名付ける。「不快」が強ければ強いほど「逆転快」も強くなる。サイコパスは「不快」を感じられずに、「逆転快」だけが生じるところに健常者と決定的な違いがある。

逆転快は健常者でも見られる。「患者の一人で、切断されて現在はない肢に痛みを感じていた男性は、脳幹のある領域を刺激されると、痛みが鎮まるだけでなく深い快感を得た。同時に脳画像撮影で中前部(情動や報酬系にかかわる前頭前野の眼窩前頭皮質)が激しく活性化している」〔日経サイエンス、快楽の神経回路p71〕。この例は痛みが鎮まったことが快感になっていること、すなわち痛みの逆転快を感じていることを示している。快感により痛みが抑えられて消えたとも考えられるが、筆者はその逆の前者を支持する。

以下に具体的に「痛み」の脳内のメカニズムから、サイコパスの「逆転快」を説明する。下図左は海馬を起点とした記憶回路(パペッツ回路、Papezという人が発見した)と偏桃体を起点とした情動回路(ヤコブレフ回路、Yavovlevという人が発見した)。回路というのは、例えば、記憶回路では、接続している神経のどこかを物理的に切断すると記憶に支障が出るので、情報がこの回路を回っていることが分かる。短期記憶か長期記憶か、生命にかかわる深刻な情報か、痛さ、音、味覚などの内容に応じて、海馬や帯状回や側頭葉や前頭葉などに記憶収納される。世代に引き継ぐ生存にかかわる重要な遺伝的記憶は扁桃体そのものに記憶される。「サルの扁桃体には嫌いな蜘蛛やヘビにだけ反応する細胞」「好きなスイカだけに反応する細胞が発見されている」〔「人はなぜ愛するか・愛情」http://www.geocities.co.jp/HeartLand/2989/brain4.html (2016/3/10閲覧)〕。すなわちサルは生命にかかわる重要なことを扁桃体で記憶している。〔扁桃体を破壊したサルについては本シリーズ(その2)「1.6 扁桃体を破壊した動物実験でも見られるサイコパスの特徴行動:K.B.症候群」参照〕。

下図右はそれらの回路の脳内の立体的な関係である。両図は出典が異なるため名称など若干の違いがある。また脳内部ではこの回路以外に島皮質など多くの部位で情報交換が行われネットワーク化しているので、実際はもっと複雑なので、基本構造と理解してください。重要な点は記憶回路と情動回路は扁桃体の統制の下に一体になっていることです。「偏桃体が『記憶』を支配している」〔下画像出典左と同じ〕。

画像出典左:『情動による記憶強化のしくみ』(生活工学研究第8巻第2号2006、枝川義邦、早稲田大学生命医療工学研究所)http://ci.nii.ac.jp/naid/110006558018 (2016/3/8閲覧)画像出典左:『管理薬剤師.com 大脳皮質、辺縁系、基底核』  http://kanri.nkdesk.com/hifuka/sinkei2.php (2016/3/8閲覧)

「痛み」を不快として感じる脳の重要な部位は扁桃体、前帯状回、前頭前野の3部位があり、相互に依存。この3部位の関係理解がサイコパス理解になる。前帯状回(帯状回前部)では痛みを「不快」と記憶している。健常者の「慢性疼痛(痛み)の治療で前帯状回を破壊した患者は、痛みの場所はわかるが、不快感が緩和し、痛みに苦しまなくなる」〔『痛みと鎮痛の基礎知識 - Pain Relief -説』小山 なつ、滋賀医科大学、以下〔痛みと鎮痛の基礎知識〕http://www.shiga-med.ac.jp/~koyama/analgesia/anat-cortex.html(2016/2/24閲覧)〕。                              

「サルの帯状回を損傷すると、痛みの刺激からの逃避反射が起こらない」〔痛みと鎮痛の基礎知識〕。健常者の「前帯状回は痛みを予知しただけでも発火する」〔痛みと鎮痛の基礎知識-説〕。すなわち痛みの「不快」を前帯状回が記憶している。また前帯状回は痛みの不快を感じて反射的回避・逃避行動をもたらす。

扁桃体への情報入力は直接と間接の2になっている。この2重であることが、サイコパスが逆転快を増幅させるメカニズムの基礎になる。初めての刺激情報では、扁桃体へ五感や内臓感覚などからのすべての刺激情報がほぼ直接的に入力される。同時に前帯状回では情動記憶と照合し、前頭前野では環境適応的(報酬系)に処理され意思決定された後に間接的に偏桃体に入力され、偏桃体が整合性をとる。まとめると下記表の通り。

表1.22.4)-1:の扁桃体への入力区分(偏桃体が中心

 

偏桃体入力の時間差

入力情報の内容

経由部位

対応行動

ほぼ直接入力

瞬時

すべての刺激素情報

扁桃体

生得的反射行動。間接入力と調整

記憶間接入力

時間遅れ

記憶との照合情報

前帯状回

情動記憶に基づく反射行動

意思間接入力

大きく時間遅れ

処理された精緻な情報

前頭前野

環境適応報酬系意思決定。学習。

表の情報元:「偏桃体の構成と機能、Ⅲ)扁桃体への入力(系)」川村光毅http://www.actioforma.net/kokikawa/kokikawa/amigdala/amigdala.html (2016/3/8閲覧)、および「痛みと鎮痛の基礎知識」から筆者の理解で作成。

繰り返される刺激情報では偏桃体に代わり前頭前野が「学習」を繰り返し「快」「不快」の判断を先行して行うようになる。扁桃体が前頭前野に判断を任した状態。脳構造は扁桃体の増大する情報処理負担を分担するように進化し帯状回や前頭前野などを形成したと筆者は考えている。下記表の通り。前頭前野と偏桃体の刺激情報に対する時間的優先度が逆転する。すなわち偏桃体中心の報酬・懲罰系から前頭前野が中心の報酬・懲罰系になる。報酬とはドーパミン増、懲罰とはドーパミン減になる脳の回路で「快」「不快」と同じものを別の面から見た表現

表1.22.4)-2:繰り返された刺激情報の前頭前野への入力区分(前頭前野が中心

 

前頭葉入力の時間差

入力情報の内容

経由部位

対応行動

ほぼ直接入力

(意思決定)

瞬時

すべての刺激素情報

(精緻な処理を実施)

前頭前野

環境適応報酬系意思決定。学習。

扁桃体や前帯状回の情報と調整

記憶間接入力

時間遅れ

記憶との照合情報

前帯状回

情動記憶に基づく反射行動

情動間接入力

大きく時間遅れ

扁桃体情動情報

扁桃体

生得的反射行動。

 

以上は健常者の偏桃体と前頭前野の関係である。サイコパスが「不快」を感じられずに、「逆転快」だけが生じる状態は、繰り返された刺激情報で前頭前野が偏桃体に代わり中心になった状態で起こる。もともとサイコパスは扁桃体機能不全で前頭前野が中心にならざるを得ない障害である。カミソリの「痛み」「不快」情報が前頭前野の学習した経験で判断され、「不快」として脳内神経回路を回る。サイコパスの場合しばらくしても前帯状回や扁桃体から「不快」という信号は帰ってこない、すなわち「不快」は解消したことになる。前頭前野は「不快」が解消したとして「逆転快」のドーパミンの脳内分泌を指令する。前頭前野からの指令でドーパミンを放出する主な部位は側坐核で、側坐核はドーパミンの貯蔵庫になっている。下記図は扁桃体などの脳の各部位の情報入力関係を示している。側坐核を見ると、扁桃体からと前頭葉(主に眼窩面皮質)=前頭前野から入力があり、両方からドーパミン放出増減指示を受けるようになっていることが分かる。脳幹からの線維はドーパミンを産生するA10神経で、この神経の作用で側坐核にドーパミンが蓄えられる。側坐核にドーパミンの放出を指示する神経回路ではないのでここでは無視しておく。サイコパスは、前頭前野で「不快」の情報信号を発し、側坐核が「不快」の反応をしようとする頃には扁桃体から「不快は解消した」(扁桃体の反応がない)という反応が来る。側坐核は扁桃体優位の原則に従って不快が解消した「逆転快」のドーパミン放出を行うことになるこのとき前頭前野も扁桃体優位の原則で不快は解消した「逆転快」の信号を側坐核へ送る。すなわち、扁桃体も前頭前野も「逆転快」ドーパミン放出の指示を側坐核に出していることになる。前帯状回は記憶回路を情報が回ることにより「逆転快」を生じさせる時間遅れに関与していると考えられる。

画像出典:「偏桃体の構成と機能、Ⅲ)扁桃体への入力(系)」川村光毅http://www.actioforma.net/kokikawa/kokikawa/amigdala/amigdala.html (2016/3/8閲覧)

 サイコパスは前頭前野が「不快」でなく「快」と判断をした場合には、時間遅れでの扁桃体からの評価は「快は消えてなくなった」(扁桃体の反応がない)となるので、「逆転不快」で側坐核がドーパミン減となり、不快状態になる。そのためサイコパスは健常者が良かれと思うような行動、すなわち健常者の「快」行動をとることはない。健常者が「不快」と思う行動だけをする。すなわちサイコパスの行動原理は健常者と「快」「不快」が逆転している。健常者の逆転快、逆転不快は一方に偏らないよう偏桃体によりバランスよく統制されているが、サイコパスはそのバランスがなく、逆転快だけを憑り付かれた様に追及する。

まとめると側坐核からのドーパミンによる脳内報酬・懲罰系は、健常者では扁桃体と前頭前野の両部位により行われ整合性が常にチェックされているが、サイコパスは前頭前野だけにより、扁桃体のチェックが働かないので逆転快の報酬系だけが機能し、懲罰系があたかも存在しない状態になる。また、懲罰系が働かないので再犯性が高くなる。「本シリーズ(その2)1.4サイコパスは罰から行動を是正すことができない:罰を無視し、罪悪感が無く、再犯率が高い」を参照。

ブログの文字数制限を超えますので以下(その4-4)へ続く。
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映画『凶悪』残虐性シリーズ(その4-2)戦争とサイコパス

2016-04-21 15:01:08 | 映画凶悪・戦争のサイコパス残虐性シリーズ

「映画『凶悪』残虐性は『人間が持つ普遍的な暗部』と描く。だが最新科学は先天的障害であるとする(その4-1)」の「1.21戦争、内乱、政治的テロでのサイコパス」の次に入る項目ですが、文字数制限で(その4-2)としています。本シリーズ(その1)でも述べましたが、映画『凶悪』のように暴力、残虐行為を扱う映画が多数あり、サイコパスを理解することはこのような残虐映画を批評するうえで重要なのでまとめている。また、戦争は典型的な暴力・残虐行為で、サイコパスとの関係性が強く戦争映画を批評するうえでもサイコパスの理解は重要と考えている。本シリーズ(その1)~(その7)掲載後約2年がたち、「神戸連続児童殺傷事件」の酒鬼薔薇聖斗と名乗った元少年Aが2015年に手記『絶歌』を出版し、女性サイコパス角田美代子の「尼崎監禁殺人事件」の最後の被告瑠衣の判決が2016/2/12日に出たなど、サイコパスに関する情報が豊富になったので追記したものです。

1.22サイコパスの存在原因と戦争

昨年(2015年)安保法案〔戦争法案〕が国会を通過するときロンブーの田村淳がTwitter2015/09/16で「 安保法案賛成の人も反対の人も戦争したくない想いは同じじゃないのかな? 」と述べていたが、これは正しくない。「戦争をしたいと強く想っている人」がいる。それがサイコパスサイコパスはその病理から潜在的に戦争を強く渇望している。戦争と聞いただけで興奮し、殺し殺される場面を思い浮かべ、また武器を使ってあらゆるものを破壊し、多くの人が苦しんでいること思い、また皆殺しにすることを想像してワクワクすると思われる。「会津若松母親殺害事件2007年」の犯人高3男子17歳は寝ている母親47歳を包丁で刺し、ノコギリで首と右腕を肩付近から切断。母親の手には抵抗した際に出来たと思われる無数の傷。動機について「誰でもいいから殺そうと考えていた」「たまたま近くに母親がいたので殺した」「戦争やテロが起きないかなと思っていた」と供述。中学校時代は野球部のエース、スキーのジャンプもうまく、何事にも一生懸命な優等。県内で有数の進学校生徒である。〔情報元:ウィキペディア「会津若松母親殺害事件」2015/9/21閲覧〕。この犯人はサイコパス特性が強く、戦争を強く望んでいる。

本シリーズ(その1)で述べた凶悪なサイコパスのテッド・バンディは「優秀な成績で大学を卒業」し「州知事や連邦上院議員にもなれるだろう」と称賛されたワシントン州共和党員だった。後で述べる例13「北九州監禁殺人事件」主犯松永も小学校時代はいつもオール5の成績優秀で弁がたつ、「頭の回転がいい」サイコパスである。松永を接見した女性は「大企業の管理職などで成功できたはず」と印象を述べている。政治中枢や経営幹部や自衛隊幹部などにもサイコパスが入り込んでいるか、その影響を受けている可能性があると考えるべきである。サイコパスの割合は250人に1人程度である〔本シリーズ(その3)「1.11(1)サイコパスの割合」参照〕。経営組織のサイコパスは項目1.23を参照。

この1.22項ではまずサイコパスの逆転欲求を説明し、次に平和時のサイコパスの特徴行動と戦時の兵士の特徴行動から、戦時下でサイコパスは解き放されることを示す。映画『凶悪』原作で形成されていたサイコパスまんじゅうなどの例を参考に、平和時と戦時のサイコパスまんじゅうを詳細に分析し、サイコパスにより健常者がサイコパス化する過程を示す。その後でサイコパスの存在原因は戦争を繰り返してきた人類の歴史に根本があるという筆者の考え方を述べる。平和時のサイコパスの説明の所々に太平洋戦争に関する記述が出てくるのは、このため。太平洋戦争は「サイコパスの戦争の面が強いことを示し、いくつかの戦争映画を概観する。また、サイコパスは「いじめ」と密接な関係があるので、関連部分で記述している。

本項は暴力や残虐行為の描写で不快に感じると思われる表現を含みます。また、一部残虐な画像を使用しているが、サイコパスの本質を明らかにするためにやむを得ず掲載しています。残虐画像を見てマネ〔模倣〕をする人がいるのでふさわしくないという人がいるかもしれないが、サイコパスの残虐性を含む実態を把握しなければ残虐映画を評価し効果的なサイコパス対策を考えることは出来ないと思うので、あえて実態を明らかにするようにしています。「3)戦時下のサイコパスの特徴行動」では残虐画像は小さくしているので、気持ち悪いと感じたら画像を大きくせず、すぐに先へ進むようにしてほしい。健常者は残虐な画像が心から消えなくなり、軽いPTSD(心的外傷後ストレス障害)状態になることがあると思うので注意してください。その場合無理をせず読むのを停止してください。もし、残虐行為の描写や画像に魅力を感じ引き付けられる人がいたら、その人はサイコパス特性を持っている可能性があるので、自分のサイコパス特性を自己分析し、サイコパスが表面化しないように抑え込む努力をしてほしいと思います。注意すべき画像は(凝視注意)または(画像拡大注意)としています。

ここに述べる事件例に不運にも遭遇して殺害された遺族の皆さんや傷を負った皆さんには、触れたくないと思われることが記述されているかもしれませんが、二度とこのような事件を起こさせないためにも事実を把握する必要があると考えておりますので、ご理解いただきたく。また、亡くなられた被害者の皆さまには心からご冥福をお祈り申し上げます。

本項の目次

1.22サイコパスの存在原因と戦争

(1)サイコパスの精神構造=逆転欲求構造

  1)サイコパスの逆転生存欲求

  2)サイコパスの逆転認知欲求

   (a)逆転認知欲求を示す絵、コラージュ、光景の例(凝視注意

   (b)動物や人体をぐちゃぐちゃにしたい衝動の例

   (c)物や草花をぐちゃぐちゃにしたい衝動の例

   (d)認知できないことを求める衝動の例

  3)サイコパスの逆転愛情/逆転承認欲求

   (a)ネコの「対象がないのに怒る」実験

   (b)サイコパスの偏桃体は小さく、愛情あふれ献身的な利他的な人の偏桃体は大きい

   (c)神戸連続児童殺傷事件の元少年Aの逆転愛情/逆転承認欲求

   (d)サイコパスは健常者を自分と同じサイコパスにしたい衝動を持つ

     a)サイコパスの心の交流破壊と人間関係のロボット化衝動

     b)サイコパスの人の意思破壊と個人のロボット化衝動

   (e)健常者が「他人の不幸は蜜の味」と感じることとサイコパスが他者を虐待することは全く別

  4)サイコパスの逆転安全欲求1(逆転痛み欲求)

   (a)サイコパスの「痛み」が快感になるメカニズム

  5)サイコパスの逆転安全欲求2(逆転残虐欲求)

   (a)サイコパスの「逆転快」の強烈さを麻薬の関係で掴む

  6)サイコパスの性的サディズム論の誤り

   (a)健常者の性的快感

   (b)サイコパスの快感は性欲とは別物

   (c)サイコパスの性欲以外の本能行動の問題

  7)サイコパスが優しい顔から悪魔に豹変するとき

   (a)豹変の3つの時期

   (b)サイコパスは健常者が逆らえない状態になったとき豹変期に入る、それまで仮面をかぶる

  8)サイコパスは虐待に全能力を注ぐ

   (a)サイコパスは虐待道具、武器、薬物などの知識をフルに使って残虐行為をする

   (b)サイコパスは執念深く何年たっても特定の犠牲者を捕まえようとする

  9)サイコパス自身は自分をどう感じているか

   (a)自分がなぜ残虐行為をするかわからない 

   (b)離人症的感覚を持つ

   (c)虐待犠牲者に代償感覚を持つ

   (d)虐待行為に理由付けを必要としている

   (e)心に正常と悪魔の両者がいることに苦しむことがある

 10)サイコパスの逆転欲求構造のまとめとサイコパスまんじゅう

   (a)サイコパスの逆転欲求は統一した全体で捉える

   (b)サイコパスは健常者と類似の多様な個性

   (c)サイコパスには単独型とまんじゅう型がある

   (d)サイコパスまんじゅう内部での健常者のサイコパス化過程

   (e)サイコパスまんじゅうの構造

   (f)サイコパスまんじゅうのいじめ集団(虐待集団)と反社会性人格障害者のいじめ集団(反秩序集団)

   (g)サイコパスまんじゅう拡大の特徴

 11)用語

   (a)「拷問」と「虐待」の使い分け

   (b)「反社会性人格障害」と「反社会性パーソナリティー障害」

   (c)傍辺縁系、大脳辺縁系、脳辺縁系、辺縁系は同義語

(2)平和時のサイコパスの特徴行動

  1)首の切断

   例1「佐世保女子高生殺害事件2014年」

   例2「会津若松母親殺害事件2007年」

   例3「島根女子大生死体遺棄事件2009年」

   例4「東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件1989年」

   例5「神戸連続児童殺傷(酒鬼薔薇聖斗)事件1997年」

  2)身体解体

   例6「名古屋妊婦切り裂き殺人事件1988年」

  3)毒殺

   例7「静岡女子高生母親毒殺未遂事件2005年」

   例8「イングランド殺人医師ハロルド・シップマン(Harold Fredrick Shipman)事件1998年」

   例9「マサチューセッツ殺人看護人ジェイン・トッパン(Jane Toppan)事件1901年」

   例10「ロンドン毒殺魔グレアム・フレデリック・ヤング(Graham Frederick Young)事件1971年」

  4)放火

  5)監禁虐待:サイコパスまんじゅう形成による事件

   例11「女子高生コンクリート詰め殺人事件1988年」

   例12「映画『凶悪』原作、三上静男事件2005年逮捕

   例13「北九州監禁殺人事件2002年」

以下は現在原稿作成中です。以下の原稿作成が進んだ場合に、作成済の部分に手を加えることがあるかもしれませんので予めご了承ください。

   例14「尼崎連続殺人事件2011年」

(3)戦時下のサイコパスの特徴行動

1.23経営とサイコパス

(1)健常者の欲求構造とサイコパスの出現理由

(2)ケヴィン・ダットン(Kevin Dutton)のトロッコ問題の誤り

1.24戦争映画の概観:「男たちの大和」「永遠の0」など

1.25元少年A更生の失敗と『絶歌』:元少年Aへの呼びかけ

以下は本文

(1)サイコパスの精神構造=逆転欲求構造

サイコパスが表情から相手の心を読めず、恐怖心がないことなど、全般の特徴は本シリーズ(その2)~(その4)を参照。この項では、さらに深くサイコパスの精神構造に入り込んで、サイコパスの心理は「人間が内に秘める心の闇」〔映画『凶悪』プログラムintroduction〕というような誰でもが持つものではなく、ごく一部の人が持つ偏桃体機能不全という病気から生ずる逆転欲求という病状であること示す。

健常者が強く恐怖を感じ、嫌悪するあらゆることが、サイコパスにとっては機能不全の偏桃体がわずかに反応する麻薬、魅力的なこと、になり健常者と逆転した欲求構造になっている。なぜ逆転してしまうのかは後の項目「4)(a)サイコパスの「痛み」が快感になるメカニズム」で示す。健常者が、激しくのどが渇いて水を求めるように、サイコパスは機能不全の偏桃体が要求する残虐行為を激しく求める。偏桃体は動物生存の根源の位置を占め、五感などのすべての感覚器官からの情報が他の脳組織を経由して入射され、その情報が生命の大原則にとって好ましいものか好ましくないものかを評価判断を行う根源になっている。その根源部位の病気である。残虐行為を行い一時的に渇きが解消しても、時間がたつと再び渇き、残虐を求める。より強い刺激を求めて残虐性がエスカレートする〔本シリーズ(その2)「1.6 扁桃体を破壊した動物実験でも見られるサイコパスの特徴行動:K.B.症候群」及び(その4)「1.18サイコパスが邪悪で暴力的である根本原因」参照〕。偏桃体の機能不全以外でも暴力行為にかかわる脳部位、例えば反社会性人格障害や統合失調症や薬物依存にかかわる部位は存在するが、その場合はサイコパスとは言わない。〔反社会性人格障害や統合失調症などについては本シリーズ(その3)「1.15 サイコパスの年齢や社会的経済的地位などとの関係」参照〕。健常者の欲求構造全体については後の項目「1.23(1)健常者の欲求構造とサイコパスの出現理由」で述べる。ここでは主要な逆転欲求を説明する。逆転欲求の考え方は、筆者独自の考え方で、心理学会等で認められたものではありませんが、サイコパスの理解のために不可欠な考え方と思っています。

1)サイコパスの逆転生存欲求

下記表は生存欲求の健常者とサイコパスの比較。逆転生存欲求は健常者が自分の心の延長上で理解することはできない。尚、健常者でも、サイコパスの虐待の影響下で絶望すると真白化を経て疑似サイコパス化し平気で人を殺すようになる。〔真白化から疑似サイコパスへ至る過程については後の項「10)(d)サイコパスまんじゅう内部での健常者のサイコパス化過程」参照。また健常者も、他人に対して冷淡な面を本質的に持っているサイコパスの冷淡とは全く別のもの。〔これについては後の項目「1.23(1)健常者の欲求構造とサイコパスの出現理由」参照〕。NHK心と脳の白熱教室第3回「あなたの中のサイコパス」の講師ケヴィン・ダットン(Kevin Dutton)はサイコパスの冷淡と健常者の冷淡を同じにとらえる誤りに陥っている〔これについては後の項「1.23(2)ケヴィン・ダットン(Kevin Dutton)のトロッコ問題の誤り」参照〕

健常者の生存欲求

サイコパスの逆転生存欲求〔真空化した生存欲求〕

どんな困難があっても生きたい、自己実現(成長の限界まで到達)したいと思う。

生きたくない。自分を殺してほしい。自分は生まれてくるべきではなかったと思うことがある。簡単に死ぬ

理由がなく人を殺そうと思わない。

人を殺したくてしょうがない殺すことに理由はなく、ただ殺す。カラ理由(表面的な中身のない理由)を言うことはある

逆転生存欲求=〔真空化した生存欲求〕としているのは、生存の基礎となる偏桃体の機能が失われて、心のよりどころを失った状態、偏桃体が真空になってしまった状態として「真空化」と表現している。

以下に逆転生存欲求が表れていると思われる5例を示す。サイコパスは、一般的には最後まで自分の犯罪を否定し続け、明白になった事実についても真実を語ろうとしない傾向がある〔『何が彼を殺人者にしたのか』2011マイケル.ストーン(Michael H.Stone) p30、イースト・プレス。以下M.ストーン〕。サイコパス自身が自分でもなぜ犯罪をするのか、本当のところが分からないので、真実を語れないためと筆者は思う。以下5例の犯人の様に。

・附属池田小事件2001(小学生8人刺殺、教師を含む15人重軽傷):犯人宅間守(当時37歳)の判決時の法廷発言「どうも死刑にしてくれてありがとう!、裁判長さん。 感謝するわ!わし、もうはよう、死にたい思うてたから、ほんま助かる。やっと死ねるんやなーと思うとほっとしたわ」「なんで、幼稚園にせんかったんやろ?、幼稚園ならもっと殺せた」。弁護団が控訴したが、宅間が取り下げ、死刑を早くするよう申し出て、判決から約1年後2004年に死刑執行〔情報元:ウィキペディア附属池田小事件。宅間守の生い立ち(附属池田小事件)http://matome.naver.jp/odai/2136425953880976101 (2016/2/4閲覧)〕

・大阪姉妹殺害事件2005(帰宅時にドアを開けたところを押し入り姉妹を殺害):犯人山地悠紀夫(当時22歳)「母親を殺したときの感覚が忘れられず、人の血を見たくなった」「誰でもいいから殺そうと思った」と供述。この事件の5年前の16歳の時に金属バットで母親を滅多打ちにして殺害し、殺害時に射精をしている。中等少年院送致の保護処分を受け。3年6か月後の2004年3月退院。退院後1年8か月でこの姉妹殺害事件を起こした。弁護人が差し入れたノートに「何のために生まれてきたのか、答えが見つからない。人を殺すため。もっとしっくりくる答えがあるのだろうか。ばく然と人を殺したい」と記している。接見中「生まれてこない方がよかった」と話した。弁護人権限で控訴したが山地が望んで控訴を取り下げ死刑が確定。2009年25歳の時に死刑執行。〔情報元:ウィキペディア大阪姉妹殺害事件、他〕

「神戸連続児童殺傷事件1997年」の酒鬼薔薇聖斗と名乗った元少年Aは手記『絶歌』〔pp230-235〕で「事件当時の自分を見ているようだ」と山地悠紀夫とA自身の共通点を分析している。Aも逮捕当時は殺されることを望み「死刑はいつですか」「一刻も早く死刑台に連れていってほしい」と尋ね、刑事の「お前はガキや、死刑にはならん」の答えに「何を言ってんだ、このオッサン」「救いは『死刑』だけだった」〔『絶歌』p11、pp14-15〕と当時を振り返っている。

・秋葉原無差別殺傷事件2008(7人死亡、10人重軽傷):犯人加藤智大(ともひろ)(当時25歳) 携帯サイトの電子掲示板に、「秋葉原で人を殺します」とのタイトルで、「車でつっこんで、車が使えなくなったらナイフを使います みんなさようなら」と掲載した後に実行。犯行理由の供述は、取調官などの話に合わせ変遷。本人もなぜ犯行に及んだかよくわからない言動。派遣社員の劣悪な雇用条件や家庭環境が犯行理由の可能性は少ない。犯行前に中央線に飛び込む自殺を計画、実行せず。2015年2月死刑確定。2016年3月現在東京拘置所に収監中〔情報元:ウィキペディア秋葉原通り魔事件、他〕

・千葉君津祖父母殺害事件2015(祖父(67)と祖母(64)を殺害):犯人高2男子17歳。「誰でもいいから殺そうと思った。通行人でもいいが、逃げられると思い、身内にした。祖父母に恨みもトラブルもない」と供述。ハンマー、ナイフ、つるはしを使い何度も殴ったり刺したりした。殺害から3日後に自首。「学校の人間関係のストレスを解消するために殺した」と供述した〔情報元:日経新聞2015/12/28朝刊と夕刊〕。健常者はどんなにストレスが溜まろうとも、理由なく人を殺そうとは思わない。犯人はサイコパス特性が強い。おそらく本人もなぜ自分が人を殺すのか理由が分からないと思う。警察はこのような事件を「強い殺意による犯行」とし、その「動機」を探ろうとすることがあるが、おそらく見つからない。従来の「物取り、怨恨」の動機捜査はサイコパスには通用しない。「快楽殺人」も正確ではない。「快楽」という前向きな衝動ではなく、犯人は深刻な欲求構造の問題を抱えている。「サイコパス犯罪という概念が必要と思う。

・旧ソ連時代のロストフの切り裂き魔:52人の少年少女を殺害し、内臓などを生で食べた殺人鬼。アンドレイ・チカティロ(Andrey Romanovich Chikatilo)。「私は生まれてくるべきではなかった。死刑になって当然だ」と言ったという。(本シリーズ(その5)「3.(2)“先生”がカーテン屋に拷問を加える時に浮かべた「愉悦の表情」の違い」の項参照)。

下の画像左は池田小事件の宅間守。中央は姉妹殺害事件の山地悠紀夫の逮捕時、この微笑みを元少年Aは「彼の微笑みの意味が分かる気がした。」「あれほど絶望した人間の顔を、僕は見たことがなかった。」と心情が自分と似ていると述べている〔『絶歌』p235〕。右は秋葉原無差別殺傷事件の加藤智大。外見でサイコパスはわからない。

  

画像出典左:宅間守の三大名言http://fknews-2ch.net/archives/31037748.html (2016/2/20閲覧).画像出典中央2つ:山地悠紀夫http://x37.peps.jp/shinda10/free/?cn=47 (2016/2/20閲覧).日本を震撼させた猟奇殺人http://www.pakfiles.com/watch--3566728 (2016/2/20閲覧)。画像出典右:StarHills 替え玉http://starhills.cocolog-nifty.com/kaedama/images/2008/06/17/photo_2.jpg (2016/2/20閲覧)

健常者でもあまりにも厳しい現実を前にしたとき、もう死んだほうがましだ、と思うことがあるかもしれないが、サイコパスは厳しい現実がなくても死にたいと思う。「扁桃体を失えば、人生から一切の個人的な意味が消失する〔『脳の仕組みと脳内物質の働き。情動の爆発』http://www.geocities.jp/eastmission7/b-system.html (2016/2/23閲覧)〕

精神分析学の開祖ジークムント・フロイトは多くのサイコパスと思われる患者を診て、誰でも「死の欲動」があると考えた。サイコパスにはあるが、健常者に「死の欲動」はない。フロイトはサイコパスの逆転生存欲求と健常者の正常生存欲求を混同して、統一して健常者を理解しようとしたため混乱した理論になった。しばしば理論の変更をしているが、ついに基本的な誤りを正すことはできなかった。フロイトは無意識世界などに多くの業績を残し、この誤りがフロイトの功績を無にするものではないが、現在でもフロイト派として誤りを引きずっている心理学者が精神分析学の中には多数いる。〔フロイトについては本シリーズ(その4)「1.18、(3)2つの誤った見解」も参照〕

2)サイコパスの逆転認知欲求

下記表は認知欲求の健常者とサイコパスの比較。

健常者の認知欲求

サイコパスの逆転認知欲求〔真空化した認知欲求〕

知ることを喜びとして求める、認知することの欲求知的好奇心=科学的認知欲求がある。他者が蓄積した知識の上に新しい認知を統合し、知識が体系的で統合的であることに魅力を感じる。

認知できないことを求める欲求。「いったいどうなっているんだ」という混沌状態に惹き付けられる。自ら対象をぐちゃぐちゃな状態にして「いったいどうなっているんだ」と確かめるようにぐちゃぐちゃにする。「人体をぐちゃぐちゃにすること」に強く引き付けられる。ぐちゃぐちゃにした対象物は逆転欲求満足の『作品』『宝物』として、記録を残す傾向がある。体系的統合的知識に魅力を感じない。

以下の例で逆転認知欲求がどのようなものかを理解する参考にしていただきたい。

(a)サイコパスの逆転認知欲求を示す絵、コラージュ、光景の例凝視注意

下の上段左の絵は「1997年神戸連続児童殺傷事件」の酒鬼薔薇聖斗と名乗った少年A(以下元少年A、少年A又はA)の犯行当時14歳頃の凝視注意)自画像とも言える。上段右は犯行ノート?に描かれていた。

下段のコラージュは昨年2015年10月に元少年A〔32歳〕が立ち上げたホームページ『存在の耐えられない透明さ』に掲載された。このホームページは規則違反があるとして、開設の3日目にはネット管理者により凍結されている。コラージュ左の中央の黒い服を着て顔がゆがんで、目が一つなのは元少年A自身。サイコパスは自分がぐちゃぐちゃになってこのコラージュのように心(脳)が無いように感じていると思われる。またこれは偏桃体が機能していない状態の感覚と思われる。中央下のハート形と上から垂れ下がっている5つの塊はナメクジで作られている。元少年Aは塩水を掛けられ、粘液を出し、のたうち回るナメクジを見て「地獄絵図」として魅力を感じている。少年時代に切り刻んだナメクジに今も強い執着がある〔元少年Aホームページ〕。コラージュ右は同じナメクジを周囲に配置し、自分自身だけを変えたもの。一つ目にして、その目でこちらを覗いている。サイコパスの離人症的感覚を表しているように思う。この感覚については後の項「7)サイコパス自身は自分をどう感じているか。(b)サイコパスは離人症的感覚を持つ」参照。

 

 

画像出典上段2枚:酒鬼薔薇聖斗が描いた絵- ラビット速報http://livedoor.4.blogimg.jp/rabitsokuhou/imgs/c/8/c857ea6a-s.jpg (2016/3/18閲覧)画像出典下段2枚:気まま備忘録【神戸連続児童殺傷事件】酒鬼薔薇聖斗こと元少年A、公式ホームページ『存在の耐えられない透明さ』、発見される…不気味なナメクジ絵も公開【画像】(※閲覧注意)http://blog.livedoor.jp/aokichanyon444/archives/55362635.html (2016/3/18閲覧)

元少年Aが逆転認知欲求を現在も持ち続けていることと、再び猟奇事件を起こすかどうかは別の視点が必要なので注意をしてください。少年Aの医療少年院での更生方針が誤りであったことについては後の項「1.25元少年A更生の失敗と『絶歌』:元少年Aへの呼びかけ」で述べる。元少年Aの逆転欲求を絵やコラージュなどに表現する欲求は強く、その強さは健常者の表現欲求(自己表出欲求)以上と思われる。これは、偏桃体と関連部位に障害があるが、「やる気」をつかさどる前頭葉などの大脳新皮質は正常であることによると思われる。生命の根源的な基盤が存在しない(偏桃体機能不全)で、糸の切れた凧のような心象を表現しないではいられない、極限状態を思わせる。表現しなければ存在していることができないくらい深刻な表現欲求。この絵やコラージュを制作するときにAは脳にドーパミンを分泌する快感状態が形成され、扁桃体がわずかに揺さぶられていると考えられる。本シリーズ(その6)「(3)“先生”がカーテン屋の頭を坊主にし、体中に油性マジックで落書きした場面の違い」に掲載したジェイソン・バーナム(Jason Barnum)37歳が自分の頭部に描いた入れ墨も逆転認知欲求を感じさせるものである。映画『凶悪』原作のサイコパス三上静男は犠牲者カーテン屋を坊主にして体中に絵を描いている。また後の例11「女子高生コンクリート詰め殺人事件」のサイコパス小倉も犠牲者の女子高生の顔に絵を描いている。いずれもAが描く絵と同様気持ち悪い逆転認知欲求を示すものであると推測する。

元少年Aは、淳君(当時11歳)の首を切断し両目をナイフで十字に刺し、口を両側に耳まで裂いた頭部を、夜中の中学校の校門に置いた光景を思い起こし「告白しよう。僕はこの光景を美しいと思った。」「もう、いつ死んでもいい。そう思えた。自分はこの映像を作るために、この映像を視るために、生まれてきたのだ。すべてが報われた気がした〔『絶歌』p99〕」と述べている。健常者には、この美的感覚、逆転認知欲求は理解できない。少年Aはこの情景を5、6分ほど眺めながら勃起し、性器に触れることなく射精しているが、これについては次の(b)項も参照。

(b)動物や人体をぐちゃぐちゃにしたい衝動の例

少年Aは小6の時、猫を殺し目口腹などを切り裂きめちゃくちゃにした後、頭部にコンクリブロックを置きその上から踏んでつぶしている。「砕けた頭蓋骨からピンク色の脳がはみ出し、『猫だった』ことさえ判別できないほどグチャッグチャだった〔『絶歌』p63〕。」このとき少年Aは勃起し射精している。本シリーズ(その2)で述べたテッド・バンディ(Theodore Robert Bundy =Ted Bundy)も、女性を殺害し切り刻んだり、切断した頭部を万力(物を挟む道具)でつぶしグチャグチャにしたりしたときに射精している。逆転認知欲求と性的現象が結びついた性的サディズムと言われる状態に含まれるが、これについては後の項「4)(a)サイコパスの性的サディズム論の誤り」参照。

ブログの文字数制限を超えますので以下(その4-3)へ続く。

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