横浜キネマ倶楽部の自主上映『十階のモスキート』(1983監督崔洋一 原作内田裕也)と監督崔洋一の講演に行ってきました。この映画は実際の警察官による郵便局強盗1978年をモデルにして作成されています。犯人の警察官広田雅晴はこの映画公開1983年の後1984年に加古川刑務所を仮出所し、警察官から拳銃を奪い警察官やサラ金店員を射殺した。以下は実際の犯人広田雅晴の経歴です。
・1943:千葉県成東町生まれ。
・早くに父を亡くし、兄の後ろをついて歩くおとなしい子供だったという。家が貧しかったため、5人兄弟で高校に進んだのは広田だけ。高校では学年で4、5位という優秀な成績
・高校卒業後造船会社で溶接工として働き、高所恐怖症のため退職。その後は司法書士事務所の助手など。
・1963、20歳:警察官試験に合格。京都府警で15年間務め巡査部長。映画では主任と呼ばれている。この間、京都市内の家の養子となり、3人の子供をもうける。
・1978.3月、35歳:西陣署勤務から派出所勤務に異動。屈辱的左遷と受けとめ西陣署長を恨むようになる。この頃からギャンブルにはまり、サラ金に多額の借金をつくった。私は逆で、ギャンブルにはまり、サラ金に多額の借金をつくる状態なので派出所勤務に移されたのではないかと推察する。派出所勤務も重要な業務経験なので、単純に左遷を意味するものではないと思う。
・同年7月:夜勤明けで非番の朝、西陣署へ行き同僚の拳銃を盗み、皮ケースだけを元に戻した。路上でたまたま通りかかったバイクに1発試し打ちをした。その後郵便局強盗をやり、逮捕。「拳銃を盗まれたとなれば署の上司が困るだろうと思ってやった」と供述。
映画『十階のモスキート』は、ここまでをモデルにしている。
・公判では犯行を否認し続けたが、二審で懲役7年判決。
・1984.8月31日、41歳:6年間の加古川刑務所を仮出所。「警察に復讐してやる。このままでは死にきれない」と手記。復讐心に燃えていた。
・同年9月4日:西陣署派出所巡査を公園に呼び出し、ナイフで刺殺し銃を奪った。腕や肩など16か所刺され、奪われた銃で背中を撃たれていた。その3時間後、サラ金に行き、店員が「冗談でしょう」と言った直後、発射し殺害、別の従業員から73万円を奪い逃走。
・同年9月5日:千葉県成東町にある実家に戻ったところを逮捕。
・1997年12月、54歳:最高裁死刑確定。現在78歳
経歴の以上の情報元:元警察官の連続強盗殺人事件http://yabusaka.moo.jp/hirota.htm (閲覧2021/3/14)
下の画像左は実際の元警察官犯人広田雅晴1984年逮捕時。画像中は中央に主人公警察官役内田裕也、右に娘役小泉今日子(映画初出演17歳)が友達と父親に金をせびりに来た場面。画像右は郵便局強盗で逮捕された主人公。内田裕也が「金を食ってやる」と表現していた場面。
画像出典左:警察悪と対決・組織犯罪集団・京都府警http://seigi003.blog40.fc2.com/blog-entry-110.html (閲覧2021/3/14) 画像出典中:日活映画十階のモスキートhttps://www.nikkatsu.com/movie/26037.html (閲覧2021/3/14) 画像出典右:浮気なシネ漫歩第262回『十階のモスキート』https://www2.hp-ez.com/hp/cinemanpo-3/page62 (閲覧2021/3/14)
映画『十階のモスキート』のストーリー展開は、ほぼ事実を踏襲している。犯人が奈落の底に落ちていく最も罪深いきっかけはギャンブルにはまったことではないかと思う。私の会社に競馬好きの上司がいたが、出張の帰りに、今から会社に帰ってもしょうがない、まだ3レースはできるから川崎競馬によって行こうと言うので同行したことがある。その上司は競馬新聞の「エイト」を愛読し、1レースの分析に2時間かけることもあるという。栗東トレーニングセンターでの事前の走行記録やこれまでの成績やパドック(レース前に出場馬を見せる場所)での艶や体重などから体調や短距離1.6Km向き、長距離3.6Km向き、左回り右回り、砂場や芝、雨の日に強いなどの条件とタイムとの関係を分析し、予想する。馬は5歳の秋がピークとのことで年齢も考慮する。レースは初めにどの馬が飛び出して、後半にどの馬が伸びてくるかのレース展開まで予想する。ムチを入れると馬は呼吸しないで走り、冬場は馬の鼻先の息の蒸気が見えなくなる。ムチを早く入れると呼吸をしないので長くは続かず途中で失速する。ムチを入れるタイミングが、うまい騎手の条件。上司は、レース中は体を震わすほど興奮し、「ばか野郎ムチが早すぎる」などと小声を出して集中している。読み通りのレース展開で当てた時の充実感は相当なものらしい。この上司は2600万円を注ぎ込んだと話していた。勝ち負けのメモを取っていた。どんなに損をしても勝った時の興奮で止められなくなるようだ。私もどんなものかを知るためにG1レース(レースの分類ごとに競争に勝ち進んできた馬が競うグレードが高いレース)だけやってみた。欲を出さないで手堅い馬だけにしていた1年目は平均数%程度儲かったが、2年目に入り少し倍率がいい、いわゆるギャンブル性を高くすると、儲かった時の見返りは大きいが、全体として損が大きくなる。大きく儲けようとすればするほど損が大きくなる。私はどんなものか分かったので2年目でやめた。私は1レース千円と決めていた。私が慣れてきたころを見計らって上司は1万以上でないと面白みがないと諭すようになってきたがそうしなかった。競馬場が賭け金の25%を取るので、平均的には必ず25%損をすることになる。映画『十階のモスキート』の警察官は競艇であるが私の上司のようにギャンブルのドツボにはまったと思う。上司も頭のいい人だった。
映画『十階のモスキート』には、複数のセックス描写と暴力場面があり、崔監督が話していたようにセックスと暴力が当時の映画のトレンドとして、見る人のために興行としてうまくいくように用意した場面と思う。本当の犯人の姿ではないと思う。
タイトルの由来(ウィキペディア。映画パンフレットより):内田裕也談「ある時ふっと気が付くと、壁にモスキート(蚊)をつぶした小さな血痕が付いていた。自分の血なんですけどね。僕はロックンロールのナントカなんて呼ばれてるけど、現実には、大きな宇宙の中のちっぽけなモスキートみたいなものにすぎない───、でも人は刺せるよ、というふうな、それがテーマなんです」
崔洋一監督の講演:本映画に直接かかわる印象に残っている話のみ
1、内田裕也が本は俺が書く10日待ってくれと言って、1カ月かけて400字詰め原稿用紙20枚を書いてきて「あとは崔さん頼むよ」と言ってきた。手を加えて100枚ぐらいにした。通常1時間30分から40分の映画で400字詰め原稿用紙100枚ぐらいになる。
2、実際の事件は京都だが、千葉県の新日鉄君津工場近くの交番にしたのは、崔が新日鉄君津工場でバイトをしていたので地の利があることと、実際に犯人が千葉県出身であること。また、大都会の洗練されたのとは違う、地方の街の形態、矛盾したところが出せる。
3、主人公の組織の中でうまくいかない、反骨の精神は内田裕也に通じるものがある。内田裕也自身なのではないかと思う。
4、内田裕也自身が表現している「カネを食ってやる」が郵便局強盗で捕まった時の最後の場面に出てくる。
以上S.Tでした。
小学生の頃、たまたま「マークスの山」を観てしまい、崔監督のセックスと暴力の描写に怯えて悪夢にうなされていたことを思い出しました(笑)