山と山が重なり合う深い森 山口・島根県境
深谷渓谷看板 橋の銘板には昭和37年完成と書かれている
住んでいる瀬戸内海沿岸から中国山脈のふところを目指して、クルマを走らせること1時間30分。
錦帯橋が架かる錦川本流や支流をさかのぼること70km。娘の嫁ぎ先の実家がある集落に着く。
お隣り島根県との県境に位置しており、実にのどかではあるが、過疎という現実に直面した集落でもある。
そこには、錦川の支流「深谷川」が流れていて、その小さな川が山口県と島根県を分けている。
川の流れが土砂を削り、洗い流し、長い年月をかけて作り上げた、文字通り急峻なV字型渓谷を作り出したと言われている。
そんな渓谷をまたぎ両県をつなぐ橋が、このドライブの目玉「深谷大橋」である。橋の銘板には昭和37年完成と記されている。
足元はるか、80mの下を小さく流れる深谷川の清流
全長わずか99.5mという短さではあるが、その深い谷底は、高所恐怖症の人にとってはなんとも耐えがたい80mもの直下に、チョロチョロと深谷川の水が流れている。小石を落としてその時間を計ってみようと試みるが、小石は真っ直ぐ下に落ちることなく、風に押されるのか引き込まれるのか、途中で見失ってしまう不思議を見せる。
それゆえに、完成後しばらくは「〇〇の名所」という有り難くないあだ名を付けられた時期もある。
お浄土への旅立ちに、自ら手っ取り早く近道をするためにこの橋、この渓谷を選んだ、という悲しい事実もある。
一つの対策として、大人の腰までしかない欄干の外側に、高さ2mに及ぶ、飛びおり防止の柵が設置された。
完成当時は一大観光スポットとして、茶屋や食堂など繁華で、観光バスも立ち寄っていた。
そんな面影は遠い遠い昔の話。今では、1時間滞在するのが精一杯。その間通るクルマの数は10台に満たない。
改めてその橋をゆっくり渡り、はるか下を覗き込んでみる。
思わず吸い込まれそうになる恐怖と、遠い過去の見知らぬ魂魄が、おいでおいでをしているような錯覚さえおぼえる。
そこには渓谷の底から吹きあげる涼風と、山と山が重なる深い森の静けさによる涼しさが、涼を求める気持ちを優しく包んでくれる。
ただその空気のひんやり感だけではない何かを感じて、より一層涼しさを得るドライブであった。