書評、その他
Future Watch 書評、その他
スモールワールズ 一穂ミチ
書評誌で絶賛されていた一冊。初めて読む作家だが、BL小説界ではすでに有名な作家とのこと。ライトノベルなどマニアックな世界の作家が一般小説を書いて新風を巻き込むという例がここ数年増えてきているが、この作家もその典型例のように思える。小説の内容は自分にはあまり馴染みのない世界という感じだが、発想の面白さや文章の魅力は十分に理解できた。次にどんな世界を見せてくれるのか楽しみな作家に出会えたと思う。(「スモールワールズ」 一穂ミチ、講談社)
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スノーホワイト 森川智喜
最近宇宙の本ばかり読んでいるので、ちょっと気分転換にライトノベルっっぽい表紙の本書を読んでみた。2014年の本格ミステリー大賞受賞後に購入したと思うので7年くらい積ん読だったことになる。読み始めると、設定が異世界ファンタジーのようで全く本格ミステリーらしくないのでまずびっくり。それでもとにかく面白いし、よく考えるといわゆる「本格ミステリー」というものも奇妙な構造の洋館が出てきたり都合よく嵐で外界と遮断されたりで現実とはかけ離れているのだから、そもそも「本格」とはこういうものということで良いのではないかという気持ちになってきた。最近ゾンビが出てくるミステリーなどミステリー界に新しい動きがみられるが、本書はこうした動きを先取りしている気がするし、本格ミステリー大賞の審査員もそうしたミステリーの変化の予兆を感じ取ったのではないかとさえ思えてきた。なお、本書の主人公の探偵は実は異世界の王位継承者という設定でそのライバルが極悪非道の探偵なのだが、解説を読むと本書はシリーズ作品の中の一冊でそのシリーズに必ず登場するのは極悪非道の探偵の方だと書いてあって衝撃を受けた。ぜひそのシリーズの別の作品を読んでみたくなった。(「スノーホワイト」 森川智喜、講談社文庫)
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彼らはどこにいるのか キースクーパー
地球外知的生命探査(SETI)について、天文学、宇宙論、生命科学、社会学、SF小説などあらゆる知見を総動員して考察する一冊。各章毎に、①SETIが暗黙の前提としている「エイリアンは利他的」という仮定の妥当性 ②知的生命体の知能の向上とテクノロジーの関係 ③知的生命体の発生に欠かせない環境条件(レアアース仮説の検証) ④SETIが採用しているエイリアンとの通信手段の有効性 ⑤宇宙に活動範囲を広げていく際に必要なエネルギー確保の問題 ⑥知的生命との遭遇の確率に決定的に重要な知的文明の存続期間 ⑦エイリアンにメッセージを送る試み(Messaging Extraterrestial Intelligence)のリスクなどが取り上げられて、詳細に分析が加えられる。これらの検討課題のうちの①と⑦以外は、先日天文学のオンライン講義で学んだSETIを立ち上げたドレイク博士によるドレイク方程式の右辺の値を1つずつ検証していく作業と言い換えることができる。①については、人類の歴史を見ると暴力の減少などが観察される一方で異文化の邂逅の大半が悲劇的であることを踏まえ、SETIの仮定はやや楽観的すぎると指摘。②ではイルカの知能の研究などからSETIの方法ではヒト型知能しか見つけられないだろうとする。③では、地球という環境が偶然の産物なのか(言い換えれば地球が宇宙の中でレアな存在なのかを、地球存続に木星や月が果たす役割などにより考察(木星が小惑星を飲み込み地球への衝突を回避、月が傾きを安定させているので気候の激烈な変化を抑制)。④では、電波やレーザーという通信手段での交信に頼るSETIの手法の限界を指摘。⑤は、エイリアン乃至人類が宇宙に進出するためには膨大なエネルギーが必要であり、そのエネルギーをどうやって調達するか、そもそも調達可能なのかを考察。特に面白かったのは、⑤の膨大なエネルギー調達の可否についてを考える際の「ダイソン球」という概念。これは、木星を解体して太陽を太陽電池で包み込み、太陽が発するエネルギーを100%利用できるようにするという突拍子もないアイデアだが、銀河間を移動するためにはそれでもエネルギーが足りなく、複数の恒星にダイソン球を建設する必要があるのだそうだ。色々な前提を置いたラフな計算だとは思うが、そこまで考えていること自体に驚かされた。
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オンライン 世界のwithコロナ②
昨夜に続き各国の駐在日本人らに現地のコロナ事情を聞くオンライン会議に参加。国は、香港、ミャンマー、中国、ロシアの4か国。昨日とうって変わってこの4か国、いずれも政治的発言には注意を要する国なので、聞き手の方も色々苦労されているのが分かった。その中で、香港やミャンマーでは政府自体への不信感、ロシアでは自国製ワクチンへの不信感から接種が思うように進んでいない実態が報告されていた。日本の場合、若者が接種に消極的という話を聞くが、それは重症化のリスクとワクチンのリスクを天秤にかけた判断であり、政府への不信という要素は少ない気がする。それぞれ色々な制約下での発言とは言え、2日間で合計10か国の近況報告を聞き、国民性、政策の優先順位の判断などの違いがそれぞれ浮き彫りになるとても為になる内容だった。今年の会議は昨年に続いて2回目とのこと。来年のことは分からないが、さすがに今回が最終回であればありがたいと思う。
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オンライン講義 宇宙論20
今回のテーマは「暗黒物質」。急速に謎の解明が進んでいるらしく、参加者がいつもの倍近くに増えていてびっくりした。講義内容は、暗黒物質の定義から始まって、その存在が予想されたきっかけとなった謎、正体を探るための研究、現在の候補など。暗黒物質を一言で言うと「電磁波と相互作用しない原子からできていない物質」で、1960年代に銀河の回転の仕方が観測結果で明らかになると、銀河の中心に質量が集中していると説明できないいわゆる「銀河の回転問題」という謎が浮上、それを説明するために考え出されたのが「暗黒物質」とのこと。暗黒物質の正体については未知の素粒子や未知の天体など色々な仮説が立てられたが、1990年代に入って宇宙マイクロ波背景放射の精密測定が可能になり、それによって暗黒物質に関する謎も徐々に解明、今のところ有力候補はALPS(axion)とブラックホールの2つになっているらしい。依然として聞いていて理解できないところもあるが、だいぶそれにも慣れてきて、自分に理解できる範囲でポイントを抑えられればいいかなと割り切れるようになってきた気がする。
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オンライン 世界のwithコロナ
世界各国に在住されている日本人に滞在国のコロナ事情を聞くインタビューで構成されたオンライン会議を視聴。国は、オランダ、ポルトガル、スイス、フランス、イギリス、カナダの6か国。それぞれの国からの生々しい肌感覚の話をたっぷりと聞けてとてもためになった。カナダ以外の5か国は同じヨーロッパだが、マスク着用率、政府への信頼感、ワクチン施策など国によって内容や雰囲気がかなり違うことに驚かされた。特に面白かったのは、スイスからドイツに入境した際に、突然「あなたはドイツに入国しました」「ドイツのルールに従ってください」というSNSメールを受信したという話。ドイツという国の厳格さが垣間見えるエピソードだ。カナダに関しては個人的な感想とのことながら、コロナは完全に過去のものという雰囲気、マスク率ほぼゼロ、マスクをしていると逆に変な目で見られる、話題は好調なホッケーチームの話ばかりなど、ヨーロッパ5か国との違いが浮き彫りになっていた。オリンピックについてはどの国もほとんど無関心だった。
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オンライン講義 天文学16
今日のテーマは「自然災害とその仕組み」。自然災害には、地震、火山噴火、津波、台風、竜巻、寒波といった地球システム自体に起因するものと巨大惑星や彗星との衝突といった外部要因によるものがあり、内部要因による自然災害を引き起こす力は①自己重力 ②遠心力 ③コリオリの力 ④潮汐力の4つ。このうち最大のものは自己重力、遠心力は自己重力の1/300、潮汐力は自己重力の10のマイナス7乗と極めて小さい。地球表層活動のエネルギー源は太陽放射で台風やエルニーニョをもたらす。太陽放射と惑星放射は基本的にはほぼ均衡しているが長期的には少しずつ変化しており、それが生命誕生やカンブリア爆発などの一因になった可能性がある。一方、地球内部活動のエネルギー源はマントルの熱対流でプレート運動をもたらす。地球上では38億年前に誕生してから様々な大きな変動が起きているが、30億年前に生命が誕生してから完全に絶滅したことはなく、現在自然災害と呼ばれる現象の多くはむしろ地球環境を安定させ進化を加速する働きをしているという考え方もできるそうだ。次回テーマは、地球環境と人間活動、地球温暖化。
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宇宙生物学で読み解く人体の不思議 吉田たかよし
宇宙論の知見をベースにして地球上の生物や人間というものの成り立ちを解説してくれる啓蒙書。宇宙論のオンライン講義を聞いていると、人間の体の構成分子が惑星の衝突とか原始太陽系円盤の形成とかに由来するという説明があり、とても神秘的な感覚に襲われるが、それを生物学的医学的にはどのように捉えているのかも気になる。著者は宇宙生物学の研究者だったがある時一念発起して医学に転身したという経歴の持ち主で、まさにそうした疑問に答えてくれる本書を書いてくれていた。本書では初っ端から地球上に存在する水の話になり、天体学入門で聞いた水惑星の起源の話とぴったりリンクする内容が語られ、さらに地球上生物の存続に関わる環境が月という衛星の存在、しかもちょうど良い大きさちょうど良い距離で存在していることに依存しているとの話へと続く。宇宙創世の話を色々聞いてきて、多少のことでは驚かなくなっていると思っていたが、それでも宇宙の神秘や生命の起源の話は舌を巻く奇跡の物語の連続だ。特に、細胞内のミトコンドリアがもともと別の生物でそれを体内に取り込み共生するようになったという話のところで、それが6億年前のカンブリア爆発を可能にしたという説明にはびっくりした。(「宇宙生物学で読み解く人体の不思議」 吉田たかよし、講談社現代新書)
ナトリウム:神経細胞や筋肉細胞に欠かせない物質。ナトリウムは原始地球の海の組成を体内に再現。
炭素:他の原子と結合しやすい→多様な分子を作れる。水によく溶けるので体内で運びやすい。
窒素、アミノ酸:空気中に豊富に存在。水素と結合しやすい。レゴのように組合せやすい。
リン:生命活動のエネルギー源として欠かせない。高性能の電池。
ATP→ADP→AMPで高エネルギー発生。しかもAMP→ADP→ATPとリサイクル可能
遺伝子DNA,RNAでも重要な役割
酸素:非常に不安定で何かとすぐ結合(燃焼、酸化)。扱いにくいがエネルギーは巨大。
酸素を活用することで飛躍的に活発化、多様化
ミトコンドリア、葉緑素: もともと別の生物→細胞内に取り込んで共生。
植物の葉緑素もシアノバクテリアという別の生物。カンブリア爆発はミトコンドリア共生の結果
鉄:恒星で作られる最も重くかつ最も安定した原子→地球で最多の原子(3割以上)
→人間、細菌の双方にとって最重要→感染防止→最小限残して排出→常に貧血状態
体内で酸素の運搬を担うヘモグロビン、ミオグロビンも鉄を利用
ナトリウム:神経細胞や筋肉細胞に欠かせない物質。ナトリウムは原始地球の海の組成を体内に再現。
炭素:他の原子と結合しやすい→多様な分子を作れる。水によく溶けるので体内で運びやすい。
窒素、アミノ酸:空気中に豊富に存在。水素と結合しやすい。レゴのように組合せやすい。
リン:生命活動のエネルギー源として欠かせない。高性能の電池。
ATP→ADP→AMPで高エネルギー発生。しかもAMP→ADP→ATPとリサイクル可能
遺伝子DNA,RNAでも重要な役割
酸素:非常に不安定で何かとすぐ結合(燃焼、酸化)。扱いにくいがエネルギーは巨大。
酸素を活用することで飛躍的に活発化、多様化
ミトコンドリア、葉緑素: もともと別の生物→細胞内に取り込んで共生。
植物の葉緑素もシアノバクテリアという別の生物。カンブリア爆発はミトコンドリア共生の結果
鉄:恒星で作られる最も重くかつ最も安定した原子→地球で最多の原子(3割以上)
→人間、細菌の双方にとって最重要→感染防止→最小限残して排出→常に貧血状態
体内で酸素の運搬を担うヘモグロビン、ミオグロビンも鉄を利用
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ブラックホール戦争 レオナルドサスキンド
オンライン講義の講師の先生が薦めてくれた一冊。宇宙論の科学者自身が書いた啓蒙書だが、とにかく難しくて途中で何度も読むのをやめたくなったが、最後は意地のような感じでとりあえず読み終えた。内容は、宇宙論のカリスマ、スティーブホーキンス博士が提唱した「ブラックホールに取り込まれた情報は消滅する」という仮説に反論し続けた著者の経験談、宇宙論研究の歴史解説、著者が研究を続けてきた中で出会った研究者達との交流の3本立て。ホーキンスとの戦いについては、ホーキンスが神格化されてしまっていることにより無条件で彼の言い分を信じてしまう取り巻き科学者への苛立ちが生々しく描かれている。また、ホーキンスの前で反対意見のプレゼンをして彼の反論を聞きたいと思っても、病気が進行してしまっている彼とのコミュニケーションの手段が限定されていて7〜8分待っても返ってくるのは単語2つだけとか微かに読み取れる表情のみという理不尽さ。結局は、著者自身の必死の研究や別の研究者の援護射撃によって著者に軍配が上がったようなのだが、その辺りは正直言ってあまりよく理解できなかった。ホーキング自身は、自分の間違いを認めて修正するような発言をした後「この論争に勝者敗者はない」と付け加えるなど、人間ぽいというか往生際が悪かったらしい。理解できなかったのは、著者が勝利したポイントとなったと述べる「ブラックホールの相補性」「ホログラフィック原理」「反ドジッター空間」「ひも理論」といった概念。「相補性」というのは「粒子でもあり波でもある」という光の二面性を説明するときに使われる言葉だが、それがどのようにこの話と関係してくるのかわからなかったし、近年のひも理論の研究が著者の援護射撃になったという部分も、ひも理論については大昔にブルーバックス一冊を読んだだけという自分にとっては謎だらけ。色々勉強し直してから読み返してみたら少しは理解できるようになるかもしれないが、どんなに頑張っても無理かもという気もした。(「ブラックホール戦争」 レオナルドサスキンド、日経BP社)
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オンライン講義 宇宙論19
今回のテーマは「重力波」。重力波という言葉は聞いたことがあるが、そもそも「重力波」って何なのか?光は粒子でもあり波でもあるという相補性を持っているというが、光はエネルギーだしエネルギーは質量でもあると言うから、そう考えると重力も粒子なのかなどと考えたところで訳が分からなくなってしまう。そんな状態で講義を視聴。講義内容は、重力波の定義から始まって、その特徴、発見までの歴史、重力波を研究することの意義など。重力波とは「時空の歪みが光速で伝わる横波」で、波を伝える媒質は空間(の歪み)、透過率が非常に高いので遠くに行っても減衰しない、非常に弱い波であるなどの特徴を持つ。アインシュタインによって1916年にその存在が予言されていたが、実際に存在が確認されたのは100年後の2015年で、それが光速であるということが確認されたのは2017年とのこと。視聴する前に疑問だった「光のように粒子でもあるのか?」については、重力子(グラビトン)は存在が予測されているがまだ確証はなく、存在していても観測は極めて困難だろうとのこと。重力波研究の意義については、重力波を観測することでブラックホールや中性子星など非常に重たい天体の内部の研究やインフレーション期、陽子誕生の謎に迫ることが期待されているらしい。次回は「暗黒物資」について。
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