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群青のタンデム 長岡弘樹

著者は「傍聞き」を読んで以来のファンだが、本書は何故か読んでいなかったので、読むことにした。書かれた時期は、教場の1作目と2作目の間ということで、昔の作品を探して読んでいた時期だったために、却って新作を読み落としてしまったのかもしれない。本書は、例によって、警察内部の人間模様と事件を絡めた連作短編集で、2人の新人警察官が定年退職するまでの長い時間の流れが、その時々に起こる事件の経緯と共に語られる。最初のうちは、ピンとこない感じがしたが、三作目辺りから、前の作品の登場人物が成長したり、昇進したりで、俄然面白くなっていく。最後の作品の最後の結末は、どう解釈すれば良いのか戸惑ってしまうほどで、そんなことがあっていいのかと、かなり衝撃的な結末に唖然とさせられる。ここまでビックリさせなくても、良いのにというのが正直なところだが、教場で脚光を浴びた作者の気負いなのかもしれないと感じた。(「群青のタンデム」 長岡弘樹、角川書店)

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暗い夜、星を数えて 彩瀬まる

常磐線車内で被災した25歳の女性作家が綴った東日本大震災の記録。津波と原発事故に翻弄されながらも、周囲の人々に助けられつつ自宅に戻るまでを綴った第1章、その後再び被災地ボランティアとして再訪した第2章、被災時に助けてもらった人々を再訪する第3章と続く。これらの文章から立ち上るのは、被災時の恐怖に留まらず、被災した人々の善意、一口に被災したと言って済ませることの出来ない被災者達の多様さなどだ。読者一人一人に、自分の経験と照らし合わせながら、あの災害ことを再考させてくれる貴重な一冊だ。(「暗い夜、星を数えて」 彩瀬まる、新潮社)

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捏造の科学者 須田桃子

小保方さんの手記の中で、最も彼女を精神的に追い詰めた新聞記者として描かれていたのが本書の著者。本屋さんで本書を見かけた時、小保方さんの手記に対する新聞記者からの反論がでたのかと思って買ったのだが、奥付の発行日付をみたら1年以上前の本だった。要するに、小保方さんの手記の方が後で、手記の方が本書に対する反論、本書が小保方さんに手記を書かせた原動力の1つだったということになる。そういうことなので、本書を読みながら、最も気になったのは、この本あるいはこの本の著者が、何故それほどまでに小保方さんを傷つけたのか、ということだった。本書を読んだ感想としては、まず最初に、本書がジャーナリストが書いた本として大変良くできた本だということだ。しっかり可能な限りの取材をして、それをきれいにまとめてわかりやすい文章で読者に何が起きたのかを教えてくれる。その限りにおいては、本書は、色々な賞を獲得するに値する優れた一冊といえるだろう。しかし、本書を読みながら、強く感じたのは、本書が読者の知りたい真相にたどり着いているとはどうしても思えないということだ。本書の中で、笹井教授の「全て小保方さんが悪いという見方もあるが、そうでないという見方もある」という発言を紹介しているが、それに対して著者はほとんど何も反応していない。彼女が取材を拒否し続けたためにやむを得なかったという反論は可能だが、それにしても極端に公平性を欠いている気がする。間違ったことをしていなければ取材に応じるはずというのは、やはり新聞記者独特の論理だろう。また、本書が理研の検証結果の発表を待たずに発行されているということも気になる点だ。新聞記者が書いた本で、ここまで個人に対する敵意をむき出しにした本は珍しいような気がするし、ある意味、功名をあせったもう一人の働く女性を見るような気がする。もちろん本書の著者には、小保方さんに対する取材方法について今更謝罪するつもりはないだろう。小保方さんの手記の中でやり玉にあげられていたもう一人の人物「若山教授」には小保方さんに反論する気概はなさそうなので、本署の著者にはぜひ反論を繰り広げてもらいたいものだ。(「捏造の科学者」 須田桃子、文藝春秋社)

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◯◯◯◯◯◯◯◯殺人事件 早坂吝

色々な書評で「前代未聞の作品」と評判になっている本書。本屋さんを何件か探したがなかなか見つからず、ネットで注文するしかないかなと思っていたら、たまたま立ち寄った本屋さんで偶然見つけることができた。これだけ評判になっている本なのになかなか見つけられないというのは、やはり出版不況の影響なんだろうかと思いながら購入した。本の帯には「前代未聞の題名あてミステリー」とある。読み始めると最初のページに確かに「題名をあてろ」という読者への挑戦状がある。題名は、印刷された〇(まる)の数と同じ8文字の「ことわざ」らしい。その謎が本書の鍵のようなので、後の方のページを読んでいる最中にめくって最後の方のページをめくってネタが判ってしまわないように慎重に読み始める。内容は意外と普通のミステリーだが、終盤に来てとんでもない展開に。表紙の絵から考えて下ネタではないかと危惧していたが、確かに題名をあてることが話の謎の鍵だった。積極的に他人に薦めるのはやや憚られる内容だが、こんな特異な才能を持った作家もいるんだなぁと妙に感心してしまった。(「◯◯◯◯◯◯◯◯殺人事件)」 早坂吝、講談社ノベルス)

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百人一首の謎を解く 草野隆

大昔似たような本を1,2冊読んだような気がするが、内容は全く覚えていない。知識としても、編者である藤原定家が公家であったことくらいで、正直百人一首にどんな謎があるのかも知らない、というのが本当のところだ。百人一首を使ったカルタ取りも数回やったことがあるくらいで、大半は「坊主めくり」だ。その時に思った謎と言えば、何故蝉丸だけがお坊さんの札の中で特殊なのか、そもそも蝉丸というのはどういう人なのか、といったところだが、そんなことに本書は答えてくれるだろうか、と思いながら読み始めた。本書は、百人一首にまつわる色々な謎と向き合うところから始まるが、その謎はかなり専門的だ。どうして有名な歌人や聖徳太子といった歴史上の重要人物の歌が選ばれていないのか、何故百首に選ばれてい歌人に「中納言」という役職の歌人が多いのか?素人としては、その当時はまだ有名でなかったからではないかとか、そもそも「中納言」という役職が何かも知らないし、ということで、そこに謎があるのかどうかも実はよく分からないというのが本音だが、読んでいくと著者の言いたことは何となく分かってくる。謎解明の中核は、百人一首が、蓮生という人物が定家に、邸宅の襖の装飾として、そこに書く和歌の選定を依頼したことに由来するということだ。依頼者と選者という2人の思惑を推測していくことで多くの謎が解明されていく。残念ながら、蝉丸の謎は十分に解明されなかったが、この一冊で百人一首への理解を深めることには十分役立った気がする。(「百人一首の謎を解く」 草野隆、新潮新書)

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ミッドナイトジャーナル 本城雅人

7年前に大きな誤報をしてしまった3人の新聞記者のその後の奮闘を描く本書。7年後に似たような事件が起こるのだが、果たして7年前の事件は本当に誤報だったのか、事件の真相は何処にあるのか。そうした謎に徐々に迫っていく展開に、読者は引き込まれていく。本書のもうひとつの醍醐味は、事件を追う新聞記者たちの、同じ新聞社の他の部署の人たち、他の新聞社の記者たち、あるいは取材相手である警察や関係者たちとの複雑なやり取りが克明に描かれていることだ。複雑過ぎて、何もここまでと思うのだが、ほんの小さな言葉遣いの違いが大きな情報の獲得に繋がったり、逆にちょっとした気配りの不足が真相への道のりを遠くしてしまったりと、何て新聞記者という仕事は大変なんだろうと、思わざるを得ない。各書評で絶賛されているのも納得の一冊だった。(「ミッドナイトジャーナル」 本城雅人、講談社)

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