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おらおらでひとりいぐも 若竹千佐子

今年度の芥川賞作品。ひとりの70代の老女の心の声の能弁さと、東北弁と標準語が混じり合った独特の文体が話題になった作品だ。老女の心の声すなわち思考は、これまでの人生での出来事の回想と現在の出来事が錯綜し、視点も様々な人が乗り移ったように目まぐるしく変わる。その錯綜振りはもしかしたら認知症患者の心のうちとはこういうものなのではないかと思うほどだが、同じくらいの年齢である自分としても、心の中の声がどんどん能弁になっていくという現象には十分思い当たるものがある。そして、終盤で老女の思考が急に明るさを増し、孫との交流をきっかけにして新しい一歩を踏み出していくところは、実現できるかどうかは不安であるが、老齢期に入ったもの誰もがそうありたいと思う最後の希望だ。(「おらおらでひとりいぐも」 若竹千佐子、河出書房新社)

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