今回は連載その53「診断の達人をめざせ」の続きです、どうぞ
すなわち、平静の心aequanimitasを持つ、診断の達人professional diagnosticianを目指すためには、「臓器別枠組み」にとらわれずに、幅広い疾患についての経験と知識を獲得する必要がある。 また、Yale大学のNuland医師は、その著書のなかで、「含蓄の深い診断」に対する畏敬の念を次のように記している。
「診断の謎を解いて得られる満足感は他の何ものにも代え難く、この満足感こそが、医療界で最も高度な教育を受けた専門家たちが臨床の現場に情熱を持って望む原動力となる。 すべての医師は自分自身の能力をそれによって評価する。 プロとしてのセルフイメージを形作る要素のなかで、診断が最も重要である。」
最近の医療を取り巻く状況はますます厳しいものになってきている。 医療過誤への攻撃的な報道と警察と司法の不当な介入による防衛的医療defensive medicine, 医師不足によるさらなる過重労働と医療崩壊など、現場の内科医の幸福度を低下させる要因が多い。
このようななかで、内科医が日々の臨床から満足感(幸福感)を得るためにも、多くの内科医が「沈着冷静な心を持つ診断の達人」を目指すことが必要であると考える。 現代の内科医にとっても、Oslar博士が示唆しているような「幅広い経験と疾患の諸症状についての詳しい知識」を得るためには、今日の若い内科医も、臓器別専門を持ちつつも、臓器的枠組みを突破した「内科専門医」を目指すことが重要であろう。
我が国へも何度か招待されている、「歩く医学辞典Walking Encyclopedia of Medicine」としても有名な、Laurence M Tierney,Jr医師(UCSF医師)も診断の達人である。 先に挙げたWachter医師らの著書にも、Tierney医師は登場している。 以下のように絶賛されている。
「著者である私たち2人は、UCSFのTierney医師に会った時の感激を思い出す、Tierneyは診断の達人で、私たちが医学生だった頃、医師としての脂ののりきった働き盛りを迎えていた。 私たちは畏怖と驚きの入り混じった思いで彼をみていた。 …私たちが診断の決め手だと思ったものを、彼は肩をすくめたり、首を振ったりして捨ててしまう。 (そして、Tierneyにより)他の金塊が掬い取られ、問題を一気に解決してくれるカギとして、ぴかぴかに磨き上げられて私たちの目前に示される。 これはいったいどういうことなのだ…。」
今回はこの辺で、次回も師の言葉をお送りします。