澤田ふじ子の『蛍の橋』は、美濃の陶工として優れた才能を持つ平蔵が、凋落している美濃茶陶の再興をめざして京への修行に上る。その道中に東庵という僧にであうことから、この物語は始まる。東庵は実は真田幸村の一子で、大阪城落城の折秀頼とともに死んだことになっていえうが、生き延びて徳川幕府を倒して再び豊臣の天下をとめざす浪人たちの頭目の位置にあるという設定。平蔵は、東庵にひかれ野々村仁清のもとで修行する間も、彼のいる西法寺を訪ね心の交流を続ける。豊臣の残党は、資金集めのために強盗、火付けなども働き、やがてそれは京の町の治安を守る所司代の探索を受ける。東庵らが捕縛された際、本来無関係の平蔵も捕縛され、尋問を受ける。東庵は病死した後貼り付けにされる。平蔵も一味として斬首されさらされ、いいなずけの登勢はかつて平蔵と愛を交わした河原で、平蔵の首を見つめるのだ…。全体として澤田ふじ子らしい、権力に対する怒りを含めた鋭い告発の作品であると思う。