この著者の本を読むのはこれがはじめて。
研究領域はよく知っているし、どんなことを書いているかも知っているが、一般向け著作の少ない研究者の場合、まったく著作を知らない、読まないということがある。
副題「ヌサンタラ世界からの提言」、シリーズ名「現代の地殻変動を読む」、というタイトルから予想されるように、東南アジア海域世界の生き方を理解し、現在のグローバル化へのアンチ・テーゼを提唱したもの。
著者の主張する、提言する、東南アジア世界のエコ・システム、ソーシャル・エコ・システム、圏的発想、二者間関係を基盤とする人間関係、そういうことはわかる。理解できる。
しかし、それを東南アジア全体、さらに日本列島や東アジアに適応できるか、あるいは、グローバル化に対抗するオルタナティヴになるか、というと、わたしには判断不能だ。
たしかに、著者の描く、うごきまわる人々、ディアスポラ、フロンティア社会、そういったものはすばらしく、風通しがよくて爽快で、国家や企業にがんじがらめに縛られた社会で暮らす者にとっては魅力的にみえる。
とくに第4章のブギス人の世界、第5章のエスニシティを考察した部分、第6章の国家のひずみを描いた部分がみごとであるが。
家族や世間を考えると、不自由なもの、束縛するもの、と感じてしまうわたしがまちがっているのは、わかる。かといって、ヌサンタラ世界のように生きられるかというと、今住む世界とはまったく異質な世界であるように思える。むむむ。
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