東南アジア・ヴァーチャル・トラヴェル

空想旅行、つまり、旅行記や探検記、フィールド・ワーカーの本、歴史本、その他いろいろの感想・紹介・書評です。

『鶴見良行著作集 3 アジアとの出会い』,みすず書房,2002

2007-02-13 10:41:58 | 20世紀;日本からの人々
1970年代のルポ・エッセイ・論考を発表順に収録。

『バナナ』や『ナマコ』や『マングローブ』がオリジナルの単行本や文庫・新書で読めたのに比べ、本巻収録の記事・論考は雑誌発表後単行本未収録のものが多数。
吉川勇一・編集 鹿野政直・解説という布陣。
時代は、サイゴン陥落(陥落じゃなく解放だ!)、タイの反日運動、石油ショック、韓国の独裁政権(といって、日本人が非難できる立場ではない!)、インドネシアへの投資が急上昇、という時代。
鶴見良行は熱く語りかける。

で、この当時わたしは、鶴見良行なんて人物はぜーんぜん知らなかった。
べ平連運動も、タッチの差で無縁な年代である。
後に『バナナと日本人』を読んだ時も、鶴見良行なんて著者のなまえを意識しなかった。
やれやれ、いくら鶴見良行が、アジアの民衆との連帯をうったえても、わたしのようなボンクラには、その声は届かなかったわけだ。

とはいうものの、わたしにも言い訳はできる。
まず、当時、わたしは、革新系だろうが保守系だろうが(こういう具合に分類できたのだ)論説雑誌はいっさい読んでいない。新聞も週刊誌もマンガ以外はみていない。
ニュースも見ず(テレビがない)、世界の情勢にもいっさい無関心だったのだ。
まるで、ひきこもりか仙人のようだって?
いや、わたしのまわりはみんな似たようなもんだったよ。
だいたい、いいワカイモンが、ニュースや論説や政治なんかに興味を持つのは不健全だ。
この後の鶴見良行が語りたかったのは、短期の紛争や外交問題ではなく、長い歴史の中で形成された文化、食い物や飲み物といった日常のこと、自然や生態をながめる、観察するってことではなかったのか。
情報も、ワカイモンは、直接の口コミで伝えあうのが一番多いし、本や映画など、おもしろいことはいっぱいあるもんだ。

もちろん、鶴見良行さんのまわりの人間(たとえば月報に執筆している室謙二など、若いべ平連関係者)は、もっと知的刺激があって、もっと深い議論をしていただろう。
そういう体質や知的環境をうらやむ気持ちも、わたしにはある。

しかし、まあ、そういう詮索をしてもはじまらない。
若い読者に向けて編集されたこの著作集だが、実際に読んでいるのは、わたしのような用済みの老人読者が多いのではないか。
若い読者には、入手の容易な文庫本がいいだろうし、値段や入手可能性以前の問題として、まず、『マラッカ物語』や『海道の社会史』,『マングローブの沼地で』のほうが惹きつける点が多いだろう。

『ナマコの眼』は、最初に読むのはもったいないな……


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