東南アジア・ヴァーチャル・トラヴェル

空想旅行、つまり、旅行記や探検記、フィールド・ワーカーの本、歴史本、その他いろいろの感想・紹介・書評です。

宮本昭三郎,『源氏物語に魅せられた男 アーサー・ウェイリー伝』,新潮社,1993

2007-02-06 11:12:36 | ブリティッシュ
アーサー・ウィイリー(Arthur David Waley)は
1889年 ケント州生まれ、ケンブリッジのキングス・カレッジ卒。
1913~29 大英博物館勤務。
1925~33 英訳の源氏物語 刊行。

ロンドンの通称ブルームズベリー・サークルと交際。ヴァージニア・ウルフ、バートランド・ラッセルなど。
また、エズラ・パウンド、T.S. エリオットなどと交友、彼らをバックアップした。(名前は知ってるけど、触ったこともない。)

源氏以外に、唐の時代の漢詩を中心に韻文・散文の翻訳多数あり。
大英博物館では、オーレル・スタインが請来した(かっぱらってきた)敦煌文書の整理をしている。
というわけで、東南アジアと関係ありません。

この人物につきまとった、ベリル・デ・ズータ(Beryl de Zoete カナ表記いろいろ)という女性がいる。

ウェイリーより10歳年上。
オックスフォードのサマヴィル・カレッジ卒。
イタリア語から、カロッティ『美術史』ほか、美学書の翻訳あり。
ダルクローズという人のリズム体操(のちにユーリズミックスと呼ばれる)を広める。
プラトニック・ラヴの信奉者(?)で、複数の男性と結婚歴(?)あり??
菜食主義!

というめちゃくちゃにエキセントリックで、わけのわからない女性である。
アーサー・ウェイリーとも婚姻関係にあったのかどうか不明だが、ともかく、生涯ウェイリーとともに同棲していた。
ウェブで調べても、各所にバラバラのデータがちらばっている。
しかし、一番有名なのは、そう、
ヴァルター・シュピースと共著『バリの舞踊と演劇』です。with Walter Speis " Dance and Drama in Bali ", 1937

この女性が、シュピースとともにバリ島に滞在したのだ。
ちょうど同じ時期に滞在した、マーガレット・ミード=ベイトソン組を悩ませる困った女性であったらしい。(わはは!)
一方で、ウェイリーとの交際は生涯続いたわけで、この実直な文献学者といっしょにイスタンブール旅行などしている。

(ベリルの死後、アーサーには、別種の家庭的な女性がつきまとう。伝記作者にとって、やっかいな、こまった女性であるようだ。資料隠滅の疑惑あり。)

というわけで、バリ島とはほとんど関係ないけれど、どんな人びとが押しよせたかという背景を伝える本です。
もちろん、本筋の日本語・日本文学研究の話もたくさん。(第二次大戦中、対日本諜報活動に協力していたらしいが、その話はなし)