あいち九条の会代表世話人で、5年前から沖縄大学客員教授として沖縄に在住されている小林武先生から、沖縄をめぐる最近の情勢について寄稿していただきましたので、紹介させていただきます。
なお、この文章は、みずほ九条の会の会員が参加する『安保関連法廃止 戦争させない瑞穂区の会』発行の10月通信に掲載された「沖縄だより」から同会の了解を得て転載させていただくものです。
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瑞穂区のみなさん、ごぶさたしています。名古屋で永らくお世話になりながら、2011年に沖縄に移住して後 ほとんど音信もせず、申し訳ありません。以来5年半、幸い心身とも健全に過ごしています。移沖の動機は、1959年、私は18歳でしたが、沖縄石川の宮森小学校米軍ジェット機墜落事件が起こり、基地の不条理を知ったことにあったのですが、その初心を今、現地で存分に生かすことができて幸せです。
◆ いま、沖縄情勢には新局面が・・・
見崎さんが送って下さった『安保関連法廃止 戦争をさせない瑞穂区の会』9月通信や『瑞穂区革新懇』ニュース9月号から、みなさんが安保法制廃止の展望をもちつつ沖縄問題をとらえ、とくに高江ヘリパッド工事強行の本質について学習し、行動を重ねておられることを知りました。
それで、屋上屋を重ねることは避けて、いま兆している沖縄情勢の新局面と思われるものを私なりの観方でお伝えすることにしたいと思います。
◆ 福岡高裁は「県側敗訴」判決を出したが・・・
それは、沖縄県民はいま、辺野古新基地、そして高江ヘリパッドも、「つくれない」と言えるところに情勢を押し上げている、ということです。「つくらせない」という主観的決意から「つくれない」という客観的認識への上昇です。先月(9月)16日に福岡高裁那覇支部が県側敗訴を判決したばかりですから、状況は逆ではないかと訝しがられるかもしれませんが、けっしてそうではありません。
判決は、国の起こした違法確認訴訟についてのものでした。つまり、翁長知事の承認取消処分を取り消したものではなく、国による是正指示に従わない県の不作為を違法と確認した判断の中で国の主張を正当とした判決にすぎず、これによって知事の承認取消が取り消されたわけではありません。
◆ 翁長知事には多くの抵抗手段が・・・
ただ、これまでに知事は確定判決に従うことを言明していますから、最高裁でも県側敗訴となりますと(判決は年度内と予想されています)、国が埋立権限をいったんは取り戻す状況が生じることになるでしょう。しかし、その場合でも、知事が「あらゆる手段を用いて辺野古基地をつくらせない」と公約していることにもとづいて、県は対抗措置を繰り出します。それは、①工法・設計の変更、②岩礁破砕の許可更新、③サンゴの特別採捕(移植)の不許可、④埋立承認の撤回などです。とくに④は「切り札」的な重みをもっています。
◆ 国の主張丸のみの判決に説得力なし
この判決は、日本の裁判例の中でも例をみないほど、むき出しの政治的判断に彩られています。本来、この訴訟では裁判所には前知事のした埋立承認の適法性の審査だけが求められていたわけですが、裁判所は、辺野古新基地の正当性を弁明すべく、何と北朝鮮の「ノドン」を持ち出し、沖縄はその射程外であるから新基地は不可欠なのだという、国側の軍事的見解にそのまま依拠しています。他方、県側の申請した証人は採用せず、県民の声に耳を傾けようとはしませんでした。
そもそも、国が県に対する提訴を始めるに先立って、国寄りの立場の明瞭な人物(多見谷寿郎判事)を異動させて支部の裁判長に就けるという、司法の独立に反する人事をしています。このような司法状況の中では最高裁の判決も暗い見通しをもたざるをえませんが、それは、けっして人々を納得させるものとはならないでしょう。
◆ 判決後、逆に高揚する沖縄の反基地運動
こうして、安倍政権は、司法を道具のように使ってまでして米軍基地建設を強行するわけですが、これは、沖縄の民意に真っ向から敵対するものです。普天間閉鎖・撤去と辺野古新基地反対で結束する沖縄の統一戦線=「オール沖縄」は、一昨年(2014年)に4つの選挙、すなわち名護市長・同市議、県知事、総選挙の4小選挙区すべてで自民を打ち破り、本年、県議選と参院選挙区でも圧勝しました。それで、高裁判決の後も、県民の反対運動はむしろ高揚しています。翁長知事も判決の日に、これから「長い、長いたたかいになる」と述べ、決心を固めています。
◆ 強権をふるうほど国は窮地に
すなわち、今、沖縄は、県民の意思が変わらない以上 知事も立場を変えませんから、国への抵抗をけっしてやめることのない段階に入っています。国は強権を繰り出せば繰り出すほど、展望のない長期戦を強いられます。結局、県民が屈しない限り、辺野古は「つくれない」のです。
▼ヘリパッド阻止!―高江のたたかい(「新婦人しんぶん」より)
◆ 厳しさ増す沖縄の要求=全基地閉鎖・撤去
このような新しい局面は、やはり、今年5月の米軍元海兵隊員による沖縄女性への凶悪犯罪に対しこれを絶対に許さないという県民の断固とした対応の中から形づくられたものです。
県民の要求は、①海兵隊、さらに在沖全米軍の撤去、②米軍全基地の閉鎖・撤去、③地位協定の抜本改定、にまで進んでいます。安保条約の終了はこれまでのところ運動の共同目標にはなっていませんが、日米同盟論者を自任する翁長知事も、「誇りある」日米同盟でなければならないと主張しており、安保の現状をそのまま肯定しているものではありません。
◆ 戦後史の重要局面にきた現在の沖縄
そして、この凶悪事件で、沖縄県民の命を守る役割は、日本政府では果たすことができず、沖縄の県・市町村が自ら担わなければならないことを多くの人が改めて深く知った、といえます。その方策の一つとして、米軍・米軍人が基地から出て市民の生活の場に入って行動し、居住することに対して、県・市町村の条例で規制することなどが、真剣に議論されつつあります。
――こうして、沖縄は、今、戦後史の中の重要な時期に入っているといえます。