淳一の「キース・リチャーズになりたいっ!!」

俺好き、映画好き、音楽好き、ゲーム好き。止まったら死ぬ回遊魚・淳一が、酸欠の日々を語りつくす。

ケン・ローチ監督の映画「麦の穂をゆらす風」。重厚でいて、しかも静謐な質感が漂っている。

2006年12月27日 | Weblog
 2006年カンヌ国際映画祭において最高賞パルムドールに輝いた、ケン・ローチ監督による、歴史に翻弄される兄弟を軸として、1920年代アイルランド近代史を描いた悲劇の物語である。
 主演が、「バットマン ビギンズ」での悪役ぶりが懐かしいキリアン・マーフィ。この人、なかなかいい味を出している。

 1920年。それまで、長きにわたってイギリスの支配を受けてきたアイルランドでは、人々の間で独立の気運が高まっていた。
 主人公のデミアン(キリアン・マーフィ)は、南部の町コークで医師になることを志し、ロンドンへの学業派遣も決まり、街の仲間たちとホッケー競技に興じている。

 しかし、イギリスのアイルランドに対する弾圧は容赦ない。
 軍隊は、アイルランドに押し入り、市井の人々に対して暴力をもって取り囲もうと試みる。街には夥しい数の死者が出る。憎悪と反感。それに対する激しい抵抗。
 若者たちを中心とするアイルランド独立への動きは急を告げ、弾圧による報復テロ、それに対する反撃と連鎖し続け、戦いは袋小路に入り込んでしまう。

 医師になることを目指していたデミアンも、ついにその夢を諦め、兄のテディと共に、武器を取ってアイルランド独立を目指す戦いに身を投じる決心をする。
 そして遂に、イギリス軍との激しい戦闘の末、イギリスとアイルランド両国の間で講和条約が締結された。
 ところが、完全な独立からは程遠いその内容に、条約そのものの評価を巡って、アイルランド人同士の間に賛成派と反対派の対立が生まれ、ついには悲劇的な内戦へと発展してしまうのだ。
 デミアンも兄テディも、考え方の違いから、双方敵味方に分かれて戦うことを強いられ、それが決定的な悲劇となって目の前に現れることに・・・。

 歴史に翻弄され、歴史に振り回される人間たちの、苦悩と悲劇。
 これまでも「物語」として、古今東西において語り尽くされてきたテーマであり、目新しさは特にない。
 それでもこの映画が、他の映画と比べてひときわ輝いて見えるその理由は、歴史の動きを大上段に語るのではなく、アイルランドのある小さな町に生きる一人の若者の視点から激動の歴史そのものを捉えたことだろう。
 ケン・ローチ監督は、気負うことなく、若者たちの抵抗と挫折を一歩引いた目線で静かに追ってゆく。

 目を覆うような残酷シーンもある。
 主人公と、兄を含めた仲間たちがイギリス軍に捕まり、牢屋に閉じ込められる。リーダー格の兄は、アジトと組織の全容を吐くことを強いられ、それを拒否したことで、拷問にかけられる。
 生爪を剥がされるのである。一枚、一枚、ペンチで。
 このシーンは観ているほうもキツい。余りにもリアルだからだ。そういう意味では、ケン・ローチとても上手い撮り方をしている。

 僕は、この映画を観て、なんとなく白土三平の傑作漫画「カムイ伝」を思い出してしまった。
 「カムイ伝」も、権力側と弾圧される民衆との抗争を描いた漫画史に残る名作だが、その中でも語られ主張されていたのは、結局、「真の敵は外部にいるのではなく、内部に宿っている」という普遍的な原理だ。
 外部の敵と対峙している間は一致団結が可能である。しかし、悲劇は必ずそのあとにやってくる。つまり、内部対立だ。
 裏切り。反目。暴力。憎悪・・・。

 激しくて、しかも切ない映画である。
 そして、とても静かで美しさをも内包している。
 悪くない。




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