フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 お茶の水大学教授の菅聡子さんが編者として、『〈少女小説〉ワンダーランド』(明治書院、1500円)という本を出版されました。
          
 「少女小説の歴史をふりかえる」「少女小説をめぐる文化」「少女小説名作ガイド」「少女文化のキーワード」の4章を柱にしながら、それにコラムを挟みながら構成した本です。
 最初の章には「少女小説の歴史」が明治期からたどられており、「少女小説」が成立するためには、大人になるための猶予期間としての「少女期」の制度的成立が必要だったことや、「少女小説」を可能にする読書能力の獲得があるということなどが、わかりやすく解説されています。
 そうしたわかりやすい解説の一方で、個々の文章の考察はかなり本格的で、編者の菅さんの書いた氷室冴子論はなかなか考えさせる論文です。
 氷室冴子が一躍有名になった1980年を中心に、その前史と後史が鋭く指摘されています。すなわち、前史としての吉屋信から1970年代を中心とした「ジュニア小説」の時代までがあり、そこからなぜ氷室冴子の世界が必要とされたかを論じています。さらに、氷室冴子の小説世界が今野緒雪・雪乃紗衣・谷瑞恵らに引き継がれていることを指摘しています。菅さんの論文を読むことで、氷室冴子の前史と後史という形で、いかに彼女の小説が「少女小説」史において重要な位置を占めているかがわかりました。
 また、執筆者から見る限り、菅さんの勤務するお茶の水女子大学の卒業生がここに集まっている印象があり、名門女子大学の伝統の力を感じさせます。
 私自身はこうした「少女小説」というジャンルに特別な研究意識を持ったことはないのですが、この本を読んでさまざまな興味が湧いてきました。そういう興味を持ったのも、わかりやすく、かつ本格的な考察や問題提起にあふれた本になっていたからだろうと思います。
 そういう意味で、文学研究者や文学専攻の学生に限らず、多くの方が楽しく読めるだろうと思う本でした。

          



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