図はT.Adelsonのチェッカー盤の錯視図です。
左の図でAの部分とBの部分は同じ濃さのグレーなのですが、Bのほうが明るく見えますから同じ濃さだといわれても信じられないでしょう。
この図は日本でもよく知られていて、Bの部分は円筒形の影になっているので影による濃さを脳が割り引いて解釈するからだと説明されたりします。
BがAと同じ濃さであれば、Bは影になっているのでAより濃いグレーで表現されているはずです。
ところが同じ濃さで表現されているので、BはAより明るいのだと脳が解釈するのでBがAより明るく感じるのだというのです。
少しややこしいのですが、脳の解釈によって感じ方が変わるという説明が日本ではウケるためか、いつの間にかこの説明が定着しています。
しかしAdelsonは右の図をも用意していて、条件が変わるとAとBは同じ濃さに見えることを示しています。
Aと同じ濃さのグレーの棒を書き加えるとこの棒は実はBとも同じ濃さのグレーであることが分かり、結局AとBは同じ濃さだったことが分かります。
左の図ではAに接する四辺形がAより明るいので、対比によってAはより暗く見え、Bに接する四辺形はBより暗いのでBはより明るく見えます。
そのためAのほうがBよりも暗く見えるのですが、右の図になるとこうした対比が行われなくなります。
AもBも同じ濃さのグレーの棒に挟まれてしまっているので、単純に同じ色に見えてしまうのです。
この場合でもBは円筒の影にあるのように見えるのですから、影を意識すれば明るく見えるはずがAと同じに見えます。
この結果から見ると、影になっているので錯視を起こすという最初の説明は実は逆さまの説明であったということが分かります。
左の図では隣接する四辺形との対比によって、Aは実際より暗く、Bは明るく見えたのですが、その結果Bの周辺は影になっているように見えるのです。
右側に円筒形があることによってもBの周辺が影になっていると解釈が出来るようになっています。
そのため、円筒がなくてもAとBの見え方は変わらないのに、円筒の影になっているからBが明るく見えるという説明を受け入れてしまうのです。
左の図では対比関係によってBが明るく見えるということは、Bに注意を集中して見続けると、BとAが同じ濃さに見えてくることによっても確かめられます。
Bに注意を集中し続けると、隣接する四辺形との対比が抑圧されるので、AとBとが同じ濃さに見えてくるのです。
脳が解釈するから見え方が変わるという説明は、日本での脳ブームの影響によるかんちがいなのです。