左上は中国の6才の子どもによる花の絵で、左下は8才の子どもによる海老の絵だそうです。
いずれも中国の伝統的な絵画手法によるもので、必ずしもリアルなものではありませんが、子どもの絵としては驚くほど上手に描かれています。
モリーン.コックス「子どもの絵と心の発達」で紹介されている例なのですが、これは特に優れた才能を持っているから上手だということでなく、多くの子どもが絵を上手に描く技術を身につけているのだそうです。
欧米や日本では子どもに絵を描かせるとき、自己表現とか創造性が重要だとして技術的な巧拙を問題にしない傾向があります。
子どもに自由に描かせれば、子どもの持っている内面的エネルギーとか芸術性が引き出されて表現されると期待しているのです。
紙に絵を描くというのは、人類の歴史からいえばごく最近のことで、紙のような平面や、筆記具というもの自体が極めて人工的なものですから、人間に備わった自然な能力ではありません。
人間の視覚は三次元的な現実に適応しているのに、これを平面の上に描くということ自体に無理があるのですから、自然に任せて子どもがうまく絵を描けるのは期待薄です。
中国は社会主義だからかどうかわかりませんが、絵を学校で教えるのは子どもの個性を発現させるというような事でなく、絵を描く技法を教えているのだそうです。
たとえばペンギンの絵を描く練習の例では、自然の中のペンギンをビデオで見せた後、右の図のような教材を与え、先生の描き方に習って、練習をさせるそうです。
先生は紙の上に頭、尻、胴の両側にあたる4つの点の置き方と4つの点を結ぶ著癖で結ぶやり方を教え、次に頭の正しい描き方を示し、生徒はこれを模倣するのです。
右の図では大きさの異なるペンギンの胴の部分が描かれていて、子どもはこれを土台にして描き方を練習するのです。
ちょうど漢字を覚えるときに同じ字を何回も書いて手で覚えるように、絵の場合も同じパターンを何回も描いて手で覚えさせるのです。
すべての授業は教師や教科書から与えられる図柄の模写で、二次元のモデルを線画を基にして描く訓練をしているとのことです。
その結果じっさいの三次元的なものを写生しようとするときにも、二次元的な描画訓練が役に立って、創造性はともかく写実的な絵が出来上がるそうです。
B.エドワーズのように見本を逆さまにして描けば右脳が働いて、見本どおりの絵が描けるという説がアメリカや日本では人気がありますが、それだけでうまくいくというものではありません。
エドワーズの本にはこのほかにも絵を描く技法が紹介され、それによって数週間の訓練をした後で、生徒は描き方や物の見方が変わったといいます。
つまり、ただ右脳に頼れば絵が描けるというということではなく、人工的な技術を身につける必要があるのです。
紙という人工的な二次元の世界に、三次元的なイメージを表現するには、技術とか訓練が必要なのです。