図 a では上の円のほうが大きく見えますが、普通の説明では、「斜めの線が遠近感をもたらすので、同じ大きさの場合手前側が大きく見えるのだ」としています。
遠近法による説明には反対意見もあるのですが、別の説明法として立命館大学の北岡教授のつぎのような説があります。
図 a で縦に引いた二本の線は平行線なのですが、斜めの線が交差すると鋭角がやや広がって見え、その結果二本の線は上がやや開いて見えます。
したがって垂直線に接するように円を描けば上のほうの円が大きく見えることになります。
二本の垂直線が上で広がって見えるということは b 図のように外側に同じ大きさの円を持ってきても、やはり上のほうが大きく見えるだろうと予測され、実際に上のほうが大きく見えます。
いわゆるポンゾの錯視の場合は、この垂直線はないのですが、二つの円を比べるときこの原理が作用するというわけです。
このせつめいでは、二本の垂直線が斜めの線と交差するときに、鋭角が開いて見えるのはなぜか、という説明がないので、分かったような分からないような感じです。
遠近法によって説明したがる人からすれば、二本の平行線が上に開いて見えるのは遠近感を感じるためだというかもしれません。
ところで平行線に斜めの線が交差すると平行線が一方に広がって見えるというげんしょうは、 c 図のような場合にはっきりと現れています。
これは、いわゆるツェルナーの錯視図といういうもので、北岡教授の例と比べてみると、実はポンゾの錯視と、ツェルナーの錯視は同じ原理だったのだということに気がつきます。
そうすると、考え方によってはツェルナーの錯視は遠近感の錯視なのではないかということです。
そこで、ポンゾ錯視のときと同じように、真ん中に二本の垂直線を配置し、二本が同じ長さに見えるかどうかを試そうというのが d 図です。
両脇の二本の垂直線が開いて見えるなら、真ん中の線は上のほうが長く見えるはずですが、なかなかそのようには感じられないはずです。
両方の長さを見比べようとして二本の線を同時に見ていると、 c 図では上が広がって見えた両脇の垂直線がいつの間にか平行に見えているでしょう。
真ん中の二本の線を見ていると錯視が消えるのは、離れている二本の線を同時に見るためで、 c 図の場合は気がつかないうちに上下に眼を動かしていたということです。
垂直線に斜めの線が交差したとき、鋭角が広がって見えるのが遠近感をもたらすのか、それとも遠近感によって、鋭角が広がって見えるのか難しいところです。
心理学の説明というのは原因によって結果を説明しているのか、あるいは結果によって原因を説明しているのか分からなくなるような場合があるようです。