上の図は最近の新聞記事に総ルビを振ってみたもので、その下はルビを振らない原文です。
ルビを振ったほうは少し行間を空けていますが、それでもすべての漢字にルビを振るとごちゃごちゃして読み取りにくくなることが分ります。
読み取りにくい主な原因は、ルビがない文に比べルビつきの文を読むときは自然に視野が狭くなって、一目で読み取れる範囲が狭められていることです。
すべての漢字にルビを振ってあると、小さなルビにどうしても注意が向けられてしまいます。
細かな文字にはどうしても注意が向けられてしまい、結果として文字を読むときの視野が狭められてしまうのです。
読むときに視野が狭められてしまうと、固視によって眼が疲れやすく、近眼になりやすいので目の健康にはマイナスです。
上の例は現代の新聞記事なので、あまり難しい漢字は使われていないのですが、それでもカナと漢字の数の割合を見るとほとんど1:1つまり漢字の率が50%近いものです。
普通に読みやすい文章は、漢字の比率が30%程度とされていますから、50%近くともなれば読みにくいほうです。
もともと少し読みづらい文ですが、総ルビを振ると非常にうるさくなってしまい、見通しの悪い、読みにくい文になっています。
こうしてみると戦前に山本有三がルビ廃止の案を出し、陸軍もそれに賛成したというのも分る気がします。
すべての漢字にルビを振るというのは、印刷側からしても大変な作業であるだけでなく、読む側にしても多くのエネルギーを要し、また目を悪くする元にもなったのですから、ルビ廃止論ももっともだったのです。
戦前は大衆向けの新聞や雑誌は大体総ルビつきでした。
難しい漢字が使われたのと、漢字を知らない人が多かったためすべての漢字にルビが振られていたものです。
現代では大幅に漢字が制限された上に、教育が普及したので、単に漢字の読み方を示すルビはあまり必要がなくなっています。
言葉に同時に別の意味をもたせようとしたり、外来語の漢字訳にカタカナ語を添えるような二重表現にはルビは便利な方法です。
こうしたものは文章の中に多くはないので、文全体を読みにくくするほどにはなりません。
ルビの廃止論とか、擁護論といった対立は総ルビのようなものを考えるためで、漢字の読み方としてのルビは使わない原則とすればよいのです。
ルビの振り方にも、こまかいテクニックを使うと効果的になりますね。