上の図を全体的に見るとすべての黒丸がはっきり見えているような感じがします。
特定の黒丸に注意を集中しないで、全体をゆっくり見ればすべての黒丸が目に入ります。
ここで一番上の行に注意を向けてみると全体を見たときと比べ、下のほうはややぼやけて見えますが、上の黒丸ははっきり見えるはずです。
ところがこの一行の黒丸がいくつあるかを、視線を固定したまま数えようとすると、たいていの人は数えられません。
真ん中の二つに注意を向けそこから右または左に向かって順番に数えようとすると、目を動かさなければだんだんにぼやけて数えられなくなります。
一行の黒丸全体を見たときははっきり見えた感じがしたのに、そのまま目を動かさずに数えようとするとうまくいかないのです。
一行がはっきり見えたと感じたときの見え方は、数を数えられるような見え方ではなかったのです。
数を数えようとする時には、数える部分に注意を集中するので、他の部分よりはっきり見える必要があるからです。
本のように、黒丸の変わりに文字が表示された場合は、全体的に文字があるのは分かりますが、一つ一つの文字を識別するのは困難です。
黒丸の場合は、黒丸だと思っているので一つ一つを確認しなくても見えたと感じていられるのですが、本の文字の場合は一つ一つが違うので、全部が見えているとは感じにくいのです。
実は上の図の場合、すべてが黒丸ではなく外側の一部は五角形だったり、六角形だったりします。
しかも黒丸の一部には白い点がついているものがあります。
全体を見たとき白い点のある黒丸があるなということは感じたかもしれませんが、どれだけあったかと聞かれれば、3、4個ぐらいと答える人が多いのではないでしょうか。
実際は14個あるのですが、視線を動かして見回さなければほとんど見落とすのです。
黒丸のように単純な図形だから目を動かさず、全部見て取れると感じていたところが、実際は思ったほどよくは見えていなかったのです。
細かい違いを見分けようとして部分に注目すると、その部分は特にはっきり見えますが、はなれた部分はぼんやりとしか見えなくなります。
全体的に見ているときは、はっきりと見えるところと、見えないところの差が少なくなっているということで、すべての部分がはっきり見えているということではないのです。
ただ訓練をすれば、はっきりは見えていなくても違いを感じ取ることは出来ますので、誰でもごく狭い部分しか識別できないというわけではありません。
たとえばよく知っている人の写真であればボンヤリ写っていても、簡単に見分けられるように、はっきり見えなければ識別できないということではありません。