考えるための道具箱

Thinking tool box

中村書店とタツミ堂書店。

2005-06-14 23:08:22 | ◎読
246、宮益坂上のあたりで、ほぼ並んで店をかまえる2つの古書店(※1)。職場に近いこともあって、よほど忙しくないかぎりは週に1度は顔をだすことにしている。

中村書店については、その歴史に深みもあるらしいが、そんなことは部外者には知る由もなく、またバックヤード(在庫)やリストの規模も分からないなかでは、両店とも、まあ一見すればしがない古本屋以上でも以下でもない。だから、渋谷の雑多な街なかではほとんどアピール力はない。

しかし、そこは東京だけあって、良い本のヒット率が高い。もともと古書マニアでもなんでもなく、新刊書を少しでも安く買いたいというだけの、よこしまな古書店好きにとっては、本の筋の通り方が気持ちいいとまでいえる。もちろん、ご近所のABCの帰りに寄ってみたらば、買ったばかりの『僕が批評家になったわけ』なんかが何冊も廉価で並んでいるのはショックではあるが、逆に言うと、それほどまでに僕と志向性がシンクロしているとも言えるわけだ。

中村書店は、どちらかというと乱雑で、かなり古いうえにどうでも良いような本と、新しく「これは」と思う本が混在している。そういうことなので、店頭での在庫数が少ないわりに探しにくいし、ほとんど不変でほこりたっぷりの棚などもあるが、そこに誤魔化されてはいけない。入り口から向かって右、4~5本目の棚、そして通路をはさんでその向かい側の棚に狙い目がある。
右棚については法政大学出版局、東京大学出版会、岩波書店、みすず書房、青土社などの人文・思想系の本、左棚については、国書刊行会を中心とした文学系、いずれも新刊を買う前にまず1回はここを覗くべきだといっても言いすぎではないほどの鮮度と回転だ。最近で言うなら、『フッサール『幾何学の起源』講義』『トリックスターの系譜』『デリダとの対話 脱構築入門』、レムの『高い城・文学エッセイ』『ケルベロス第五の首』といったところか。もっとあったような気もするけれど、思い出せない。

ちなみに、僕は先週、柴田教授の『アメリカン・ナルシス』を発見し(そのあとすぐにまた補充されていた)、今日は、みすず書房の新シリーズ「理想の教室」のうち亀山郁夫の『『悪霊』神になりたかった男』(※2)を購入した。後者は、まさに昨日新大阪の「ブックセンター談」で手にとっていただけに、どちらかというと幸運な感じである。いずれも新しいだけあって、半額までは崩れていないのだけれど、とにかく本をたくさん買ってしまう僕のような人間にはずいぶん助かる。

かたやタツミ堂書店も、同様に人文系・海外文学系は充実していて、一方で時期にもよるが岩波文庫、講談社文芸文庫などもしっかりしている。最近は、棚の動きがよくないようだが、それでも過去をふりかえれば、中央公論社の「世界の名著」版の『ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学』や、『零度のエクリチュール』『ジョンランプリエールの辞書』『村上春樹と柴田元幸のもうひとつのアメリカ』などに遭遇している。最近では、この店の棚のおかげで、後藤繁雄を知ることもできた。文庫本で『考えるヒント』を読み直す機会も与えてくれた。

東京に居る以上、本来的には神保町に日参したいくらいだけれど、ほんとうにヒマがなくかなわない。かれこれ6年くらいここで渋谷で仕事をしているにもかかわらす、神田の古街にいったのは悲しいことにわずか2回。地理的にも、得意先の帰りに寄るというわけにはいかない場所なので、今後も記録は更新されるに違いない。その代わりといってはなんだけど『モダン古書案内―昭和カルチャーの万華鏡「古くて新しい」本のたのしみ 』(※3)なんかのマップをみながら、東京の西方面の有名どころをまわってみたいところだ。あと、京都ね。


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(※1)リンクさせてもらっているのは、「書皮のページ」。新刊書店・古書店とわず、店と店のブックカバーを紹介している。『カバー、おかけしますか?』の先駆。充実していて本屋好きならそうとう楽しめます。
(※2)『ドストエフスキー-父殺しの文学』は、少し大層かなあと思って買い過ごしていたので、これはちょうどよいサイズ。スタヴローギンの「告白」の読解をベースにしており、かなり面白そう。みすず書房の「理想の教室」シリーズは、今後の予定もライアップされていて、『『白鯨』アメリカン・スタディーズ』(巽孝之)、『リキテンシュタインで現代美術入門』(松浦寿輝)、『『感情教育』歴史・パリ・恋愛』(小倉孝誠)、『『ハックルベリー・フィン』アメリカの源泉』(柴田元幸)、『『坊ちゃん』は漱石じゃない』(小森陽一)など、なかなかに力が入ってます。
(※3)新装刊らしい。暮らしの手帖、サンリオ文庫、保育社カラーブックス、大阪万博本など、ちょっとBの入った古書・雑誌を紹介するエッセイのほか、「植草甚一」「横尾忠則」「柳原良平」「堀内誠一」などのオルタナ人物紹介コラムに、少しだけ東京と京都の古書店案内。GOOD。というか、良質の時間つぶし。つぶせる時間があるならば。


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
私もよく伺います (yutakami)
2005-06-16 10:49:56
いつも拝読いたしています。

青山学院大学には1999年までの間、都合6年通いましたのでお話懐かしく思われました。古書店に行くと気分が落ち着きますね。

今後もお伺いします。
>yutakamiさま (urat2004)
2005-06-16 13:48:51
いつもありがとうございます。



このあたりは、セレクトショップ型の書店の数に比べて、純粋な古書店はそれほど多くないですね。学校の近くなので、もっとあってもよいかなあと思うのですが、渋谷・青山という立地上しかたないところでしょうか。



大阪ではもっぱら、江坂(緑地公園)の天牛書店ですが、最近では上記の書店ほど、ヒット率が高くないようです。



こちらこそ、今後ともよろしくお願いいたします。

Unknown (yutakami)
2005-06-17 02:12:19
広告というと今は早稲田から高田馬場まで歩いて左側、やや分かり難いのですが少しだけ斜めの道に入る古書店はご存知ですか?お店の名前が思い出せないのですがこと広告周りならダントツと思われます。
>yutakamiさま (urat2004)
2005-06-17 10:18:19
情報をありがとうございます。あの界隈もずっと興味があったので、なんとか時間をつくって行ってみたいと思います。

そういえば、広告関連の本で古典と言われる名著、たとえばオグルビーのものやダヴィッド社のものは、ほとんど絶版にになっていますね。ウチに死蔵されている名著を探してブログのソースにしてみます。良いきっかけをいただき、ありがとうございました。

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