講談社の担当者は、これをみて愕然としたでしょうね。「やっぱ、デザイナーの起用を間違えたなあ」って。「デザイナーの短慮の理屈だけじゃあだめだよなあ」って。場合によっては、いったん「熊の場所」にもどって、いちからやり直したいと考えているかもしれない。いや、「やり直せ!」と命じられているかもしれない。
いくら贔屓目に見ようとしても、あいかわらず書店で浮きまくっている講談社現代新書のとなりに、なんとも言えず美しい空間が誕生した。
「ちくまプリマー新書」。その洗練された知的な意匠、手にしっとりなじむ質感は、まさにシリーズ書籍の装丁のお手本だ。さずが、クラフト・エヴィング商會。表題部分でシリーズとして統一感をもたせつつ、背景のパターンを書籍ごとに変えるという離れ業をやってのけた。書体の選択、背景パタンの選択・
色調など、どれをとっても、プロフェッショナルの仕事といえる。斤量が重いのが気になるが、まあいちおう子供向けの本ということで許そう。もし、図書館蔵書などを意識して強くした、といったことを考えていたとすれば、ほんとうに頭があがらない。
コンセプトは、以下にあるように、中高生をターゲットとした入門書的な新書である。
「ちくまプリマー新書」は、「プリマー=入門書」という名にふさわしく、これまでの新書よりもベーシックで普遍的なテーマを、より若い読者の人たちにもわかりやすい表現で伝えていきます。彼らの知的好奇心を刺激し、それに応えられるものを目指します。学校でも家庭でも学べない大事なことを、「近所のおじさん、おばさん」のような立場から、わかりやすく、まっすぐに伝えていきます。そして、若い読者にもちゃんと伝わるような本は、他の年代の読者にとっても有意義なものになるはずです。
ということで、第1回配本のうち、わたしは『先生はえらい』(内田樹)を購入したのだが、その本意は、内田樹というわたしのバーチャル師匠を、娘に教えてやりたい、というところにあった。内容は、おそらくレヴィナスの師匠論や、ラカンの「あえてわからなく言う」といったところに展開していくような感じで、正直なところ小学6年生なら「わけわからん」ということになりそうだが、まあ、人とのコミュニケーションについて盲目的にならないようなトレーニングにはなるかもしれない。おそらく
「自動車教習所の先生」と「先生としてのF1ドライバー」を比較するくだりなどは、「師匠」というもののあるべき形について多少はわかってもらえるだろう(ムリか?)。そういった意味では、大人が読んでも、かなり歯ごたえのある内容にはなっている。
「ちくまプリマー新書」は今後、高橋源一郎『教科書にのらない小説』、小川洋子と藤原正彦の『世にも美しい数学入門』、
鴻上尚史『お芝居をつくろう』のほか、天童荒太、養老孟司、さらに、繰り替えす橋本治、赤瀬川原平、南伸坊などの筑摩人脈など、中高生だけに読ませておくにはもったいないラインアップへと展開する。隔月ではあるが、楽しみがまたふえた。
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「ちくまプリマー新書」。その洗練された知的な意匠、手にしっとりなじむ質感は、まさにシリーズ書籍の装丁のお手本だ。さずが、クラフト・エヴィング商會。表題部分でシリーズとして統一感をもたせつつ、背景のパターンを書籍ごとに変えるという離れ業をやってのけた。書体の選択、背景パタンの選択・
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コンセプトは、以下にあるように、中高生をターゲットとした入門書的な新書である。
「ちくまプリマー新書」は、「プリマー=入門書」という名にふさわしく、これまでの新書よりもベーシックで普遍的なテーマを、より若い読者の人たちにもわかりやすい表現で伝えていきます。彼らの知的好奇心を刺激し、それに応えられるものを目指します。学校でも家庭でも学べない大事なことを、「近所のおじさん、おばさん」のような立場から、わかりやすく、まっすぐに伝えていきます。そして、若い読者にもちゃんと伝わるような本は、他の年代の読者にとっても有意義なものになるはずです。
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「ちくまプリマー新書」は今後、高橋源一郎『教科書にのらない小説』、小川洋子と藤原正彦の『世にも美しい数学入門』、
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以前、TBしていただき、こちらにおじゃまして、拙著に関するコメントを拝見しました。このように丁寧にお読みいただける方がいるのだなと、端座して再読。
お礼が遅れたことをお詫びいたします。
ブログの内容を読ませていただき、稠密で丁寧な言葉遣いに、感じ入りました。
貴兄のようなコンサルタント(でよいのでしょうか)が存在するということは、ビジネスの世界も捨てたものではないと思わせてくれます。
これからも、面白い話題をご提供下さい。
コメントをありがとうございます。
なんだか、たいへんな毎日を送っているようで大丈夫でしょうか。
講談社現代新書については、以前からずっとからんでいるのですが、(もちろんデザイナーさんの問題もあるにしても)ほんとうのところは決裁のプロセスに課題があったのではないかと思ったりもしています。同じ講談社でも「群像」のアートディレクションは格段によくなっているのですが、商品としての重要度に比例して多くなる外野の数が影響をおよぼしているのではないか、と。まあ、どーでもいい話ですけどね。
娘さんに教えてあげたいと仰っていた『先生はえらい』読んでみました。「オチのない話」は普段オチのない話が多い私には興味深かったです。
それと一時デビット・リンチの不可解さにはまっていたのですが、こういうことだったのですね。いつか「マルホランド・ドライブ」の謎を解きたいと思っていたのですが、別に今のままでもよいのかとちょっと安心。
きっとこのブログを知らなかったら、内田樹さんの本なんて一生手に取ることはなかったと思います。新鮮な出会いでした、ありがとうございます。
これからも楽しみにしています。
コメントをありがとうございました。
もちろん、娘には難度が高すぎました(笑)。
『先生はえらい』は、じつは内田さんのエッセンスになっており、比較的新しいところだと『他者と死者 ラカンによるレヴィナス』、『東京ファイティングキッズ』といったところが、言葉が多いぶんわかりやすいと思われます。
「マルホランド・ドライブ」のくだりは考えさせられますね。「わかるもの」だけが正しいわけではないし、なにも「わかることが」いいことではないという部分は得心しましたが、一方で計算づくでないとできない芸術もあるか、と思ったり、でも、文学なんかでも書きながらズレて変わって作者の意図を超えることもあるよなあ、とかいろいろ考えをめぐらせています。