考えるための道具箱

Thinking tool box

顧客満足組織の作り方。

2005-07-24 23:18:22 | ◎業
仕事柄、カリスマ営業の成功譚といった本を資料としてザッピングすることは多い。いまでいうと、なぜか百科事典をたくさんの家庭に売ってしまい№1セールスになってしまったセールスパーソンとか、地道な提案営業でBtoBの案件をたくさんまとめあげ業績を残した結果、情報会社のフェローとなっている屈指の営業マンとか。しかし、この書き分け方でお気づきのように、優秀な営業パーソンには、ロジカルで納得性の高い軌跡を残しながら成績をあげている人もいるが、一方で外交的なキャラクターで押していくことで、商品に対する顧客ニーズは少しばかり括弧に入れつつ、受注をどしどし獲得している人も多い。

それだけに、世間的にカリスマ営業として名を馳せているような人のノウハウは属人的で、他の営業パーソンに転移するのが困難なことが通例だ。ちょっとネットワーク・ビジネス的なところもあり、日本のナショナル・メーカーの商品、とりわけ耐久消費財の営業には適さないことも多い。

しかし、今回読んだ、『失礼ながら、その売り方ではモノは売れません』からは、予想通りといえば予想どおりなんだけれど、属人的でローンウルフ的なスピリッツに回収されない顧客満足営業スタイルのヒントが読み取れる。5月にダイエーの会長兼CEOに就任したばかりの林文子氏による本書は、彼女の営業パーソンとしての秀でた履歴を「個人の部」と「組織長の部」に区分けしながら紹介している。むしろ個人としての成功ストーリーは控えめで、組織・コーチングの要諦について多くをさいている。彼女の営業パーソンとしての経歴をみれば、それもうなずける。

■東レ・松下電器で(一般事務的な職を)務めたのち、31歳でホンダのディーラーへ転職。
■当時としては珍しい女性セールスだが、入社翌月よりトップセールス。
■87年BMW(株)へ。5年で400台販売。93年業務が低迷していた新宿支店長に抜擢され最優秀店へ導く。その後、同様に中央支店長としても組織を建て直し。
■99年ファーレン東京(株)(フォルクスワーゲン)へ代表取締役としてスカウト。売上・台数を倍増。
■2003年BMW東京(株)代表取締役社長
■2005年(株)ダイエー代表取締役会長兼CEO責任。


彼女が実際に話しているところを聞いたことはないので、どのようなパーソナリティー、キャラクターなのかはわからないが、90年代以降、多くの組織の建て直しに成功しているという経歴を見る限りは、いわゆるプロパー営業パーソン・一匹狼営業パーソンでもないしようだし、「いやあ、あの人だからできるんだよ。マネできないよ」といったところは多分にあるにせよ、そのスキルの転移への意識と使命感があることは間違いない(もっとも建て直したときの顧客がすべて彼女のネットワークから生まれていたのなら話は別だが)。

個人技の優れた営業パーソンは、組織のマネジメントには向かないといったことは、定式的にまことしやかに囁かれがちで、多分に否めない部分もあるのだけれど、なにも世の中の事象は必ず2項対立するわけでもなく、両立できる人もたくさん存在する。そういう人は、日夜、自分のスキルを概念化し転移しようと腐心しているわけで、これを考えると、やはり「優秀な個人をモデリングしベンチマーク」するより「優秀な個人がマネジメントする小組織をモデリングしベンチマーク」することにこそ、顧客満足経営・営業をドライブしていくためのヒントとシードがあるということになる。



いくつかキーワードを拾ってみよう。ここで書かれていることは、まったくもってあたりまえの顧客満足営業の行動原則だが、逆に言えば「お客さまの心情・事情を読むこと」「できる限りたくさんお客さまと話すこと」「お客さまを気持ちよくするために演じること」というシンプルな原則に絞り込んでわかりやすく浮き彫りにしているためわかりやすい。1時間足らずで読めてしまうサイズでもあるため、顧客満足研修のサブテキストとして使い勝手が良いかもしれない。

【ご用聞きビジネス】。これは現在では、「提案型営業」の正反対のビジネススタイルとしてもっぱら評判が悪い。しかし、商売の基本は御用聞きである。ご用を聞いて、自分が対応できることなら自分のビジネスと直接関係なくても対応していく。そこからうまれる、顧客とのお付き合い関係は、結局はどこかで自分のビジネスにつながる、ということだ。おそらく、彼女はダイエーでの立場を意識してこのことを本書の冒頭にあげたのだろうが、じつはこれは顧客の購買エージェントになることを意味していて、とりわけ高齢社会における小売業にとって重要になる発想だ。

もっともそこまでいってしまうと「ビジネスモデル」といった邪な気持ちもでてくるわけだけど、そうはならずとも、こういったビヘイビアによって生まれる、お客さまの感謝の気持ちは、たとえ購買にいたらなくても、かならず評判・紹介という形で帰ってくる。期待せずにこう思える心根がじつは顧客満足営業の基本的な資質である。

【投網営業】。こちらも現在の営業スタイルとしては分が悪い。彼女自身も、お客さまのタイミング、性格、スタイルを見極め、「出る引く」をはっきりさせなければならない、つまりしつこくダラダラとやってはかえってマイナスといっているが、とはいえ分かったような顔をしてお客さまの心理を読むことを戒めている。選別せずに広く投網を打ち続けることで、「たくさんの」お客さまと接するうちに、培われるキャリアだとしている。

結局はどこかの段階で、優良見込客・優良顧客を判別・選別しなければならないのだが、顧客満足についての根源的な理解のないキャリアの浅い営業パーソンにこのことを伝えても混乱するだけだ。それどころか曲解してしまい値踏み・見極めが基本行動になってしまう。また顧客満足を組織効率のなかで正当化するときに、ついつい「じつは優良顧客を選別し、選別されたお客さまに最大の満足を与えることだ」とプレゼンテーションしてしまいがちだが、それはあくまでも顧客満足経営・営業が成功した暁の最終段階の話である。たくさんのお客さまと分け隔てなくお付き合いするというストレスと苦労を経験することを大きな前提として受け入れなければ、その第1歩は踏み出せない。彼女は「顧客経験」の大切さを訴えているのだ。

【個売業】。これは紋きり型で、耳にタコができるほど聞かされている話ではある。以前とまったく同じフレーズを使わせてもらうと、ようは「uratさん、今日はいい穴子が入っているよ。とっておいたんだよ」と言える魚屋のおやじのDBのことである。本書から例を引くなら、「どう胃の調子は?」といえる飲み屋の女将のことだ。しかし、「行きつけ-常連」の関係でなければ、スマートにこの方法を実現するのは難しいし、言ってしまえば属人技の極みでもある。一方で、友人・知人との間でならあたりまえに交わされているコミュニケーションであるともいえ、このことに気づけばトレーニングは可能になるだろう。大量のお客さまは無理だとしても、まずいずれかのお客さまに絞り込んでみて、「声」と「個の関心」に集中できれば、おのずと次にお会いするときの第一声は浮かんでくるはずだ。大切なのは「次にお会いできる」という確信を持つことだろう。

個別対応については、ITを利用する高効率なCRMツールもたくさん登場している。もちろんこれらの電子的なしくみでコミュニケーションの量を補完していくことは避けられないが、根幹にあるのは心の問題であり、それは対話を通じてしか獲ることはできない。どれだけお客さまと話せるか、話すために話しやすい環境をどうつくっていくか。顧客満足の要諦はここにある。そして、これはなにも「話し好き」「人好き」の特権ではなく「話し好きの自分」「人好きの自分」というロールを演じることで習得することは可能だ。自分が演じれるのはどんな役柄か?を、認識できた人がもっともゴールに近い位置にいる。

本書を読むと、顧客満足理念をドライブしていくのは簡単そうにみえるが、けっしてそんなことはない。しかし、期限のなかでも顧客満足組織は作ることができるのではないかという希望はもたせてくれる。まあ、ほんとうところの答えは、ダイエーの今後にあるのだが。

あ、あとこの文章読んで、この本にはなにかものすごいノウハウが書かれているに違いない、と思った方、ごめんなさい。ここに書かれているのは、ほんとうに当たり前のことばかりで、きっと拍子抜けすると思う。いかに、こつこつ実践・継続するかなんだ、って予想どおりの結論にしたくはないんだけど、そういことになってしまうのです。だからこそ組織のモデリングということになるわけなんだけど。

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1 コメント

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Unknown (みんなのプロフィール)
2005-07-25 10:50:22
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