史跡訪問の日々

幕末維新に関わった有名無名の人生を追って、全国各地の史跡を訪ね歩いています。

「闘将伝 小説 立見尚文」 中村彰彦著 文春文庫

2012年01月07日 | 書評
桑名藩出身の軍人、立見尚文は戊辰戦争、西南戦争、日清戦争、日露戦争に従軍し、常に勝利を収めた“常勝将軍”である。
若い頃、藩で軍学を修めたというが、教育を受ければ必ず優秀な軍人が生みだされるというものではない。優秀な軍人は、胆力、判断力に優れ、大局観を持ち、勇敢であると同時に慎重さと大胆さを合わせ持たねばならない。万人に一人という天性の資質が求められる。著者は、この小説の中で、会津藩の猛将佐川官兵衛に
「だがどうも、その潮目を見抜く眼力は汝の方が拙者より確かなようだ。」
と語らせているが、数々の戦闘で判断を誤らなかった背景には、立見尚文の天賦の才能があったように思う。
立見尚文は賊軍桑名藩の出でありながら、実績と実力で陸軍大将まで昇りつめた。もっともこの人が薩長の出身であったなら、総理大臣や元帥になってもおかしくなかった。
著者中村彰彦氏は、「あとがき」の中で「これまで歴史小説の主人公にならず、今なお歴史の闇のかなたに埋もれている日本人に何とか光を当てられないか、という一点」で小説を書いているという。まさに賊軍の将、立見尚文は中村氏好みの人物といえよう。
この小説には、桑名藩の家老で最後まで恭順を主張したため暗殺された吉村権左衛門が登場する。得てして敵対勢力は悪者に仕立て上げられるのが常であるが、ここでは「国学を修め、和歌に秀でていた吉村は酒も煙草もやらず、家老屋敷の自室には小鳥を放し飼いにしている穏やかな人物」として描かれている。公正中立な描き方に好感が持てた。

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