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史跡訪問の日々

幕末維新に関わった有名無名の人生を追って、全国各地の史跡を訪ね歩いています。

「最強の人生指南書 佐藤一斎『言志四録』を読む」 齋藤孝著 祥伝社新書

2011年08月03日 | 書評
佐藤一斎の「言志四録」は講談社学術文庫(川上正光訳 全四巻)で発刊されている。少し立ち読みしてみれば分かるが、これを最後まで読み通すのは容易ではない。「声に出して読みたい日本語」でブレークした齋藤孝氏が、難解な「言志四録」を、例示を交えながら分かりやすく解説したのがこの書である。
佐藤一斎は昌平坂学問所の教授を務めた江戸後期を代表する儒学者である。その一斎が四十代から四十年以上にわたって「言志録」「言志後録」「言志晩録」「言志耋録」という四編に、人生訓や仕事術、学習術などを書き残したのが「言志四録」である。言うなれば日本版「論語」のようなものである。
佐藤一斎の門下には、佐久間象山、林鶴梁、池田草庵、大橋訥庵、安積艮斎、山田方谷、横井小楠ら、当代一流の学者が名を連ねている。西郷隆盛が、「言志四録」から気に入った言葉を抄出し、「手抄言志録」として座右の書としていたのは有名なエピソードである。「言志四録」は吉田松陰、河井継之助らにも多大な影響を与えたと言われている。

「言志四録」に掲載された数多の箴言は、現代においても輝きを失っていない。
――― 少にして学べば、即ち壮にして為すこと有り。壮にして学べば、即ち老いて衰えず。老いて学べば、即ち死して朽ちず。
これは「三学の教え」と言われ、「言志四録」でももっとも有名な言葉である。先日、小泉純一郎元首相の講演を聴く機会があったが、そこでもこの言葉が引用されていた。

この本の冒頭紹介されている言葉が、「言志録」からの箴言である。
――― 事を慮るは周詳ならんことを欲し、事を処するは易簡ならんことを欲す。
私の個人的な経験でも、大きな仕事に取り組むときはあれこれを悩むものである。悩むのは準備段階であり、実行段階に至って未だフラついているようでは、成功は覚束ない。「やる」と決まったら悩まず一気呵成に実行する。佐藤一斎の言葉は、このことを示唆しているように思う。

――― 志気は鋭からんことを欲し、操履は端しからんことを欲し、品望は高からんことを欲し、識量は豁からんことを欲し、造詣は深からんことを欲し、見解は実ならんことを欲す。
佐藤一斎の言葉は、人事労務屋の諸先輩方が良く引用されるが、一斎の発想自体が労務屋に通じるものがあると感じる。一斎の用いる漢語は、現代あまり使われることが無くなった単語が多いためやや分かりにくいが、「志気=情熱・熱意」「操履=行動力・実行力」「品望=品格・人望」「識量=度量」「造詣=知識・スキル」「見解=判断力」と置き換えると、現在我々が使用している人事考課要素と重なっていることに気付く。

「言志四録」に収録されている言葉の数は膨大である。きっとその中に自分にぴったりくる言葉が二つ三つ見つけられるだろう。人生の羅針盤を求めて彷徨っている人に、是非読んでもらいたい一冊である。

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