中村彰彦の短編集である。戊辰戦争にからむ七つの短編を収める。
【修理さま 雪は】
主人公は、神保修理の妻、雪子。ものの本には、中野竹子、中野優子とともに涙橋に戦い、敵に捕らわれ自害したことになっているが、この小説では戦乱の街で行き倒れたところをとらわれ、土佐藩士の面前で自害したという説を取っている。実際問題として銃撃が交わされている中で捕らえられるという場面はイメージしにくい。小説の設定の方が自然かもしれない。なお、雪子の最期を見届けた土佐藩士吉松速之助(のち秀枝)は、西南戦争マニアには馴染みの深い人物である。西南戦争当時は少佐で、乃木希典の率いる十四連隊に所属していたが、木葉の激戦で戦死している。
【雁の行方】
妻や子供を含む二十一名が自害した悲劇の人、西郷頼母を描いた短編。これほどまでに狷介で、人に嫌われる性格だったとすれば、筆頭家老でありながら城を放逐されたことも理解できなくもない。我々の目から見ると、悲劇の人であるが、案外同時代の会津人には同情されていなかったのかもしれない。
【飯盛山の盗賊】
飯盛山で自刃した白虎隊の悲劇は広く知られるところであるが、彼らの遺骸から金品を盗んだ不逞の輩の存在は、当時からささやかれていた。盗みをはたらいた太吉は、落石にあたって死ぬ。まさに「因果応報」の物語で、筆者が「潤色されすぎているように思われる」と述べているとおりである。事実かどうかは別として、この話を伝える善良な市民としては、ハッピーエンドで終わらせるわけにはいかなかったのであろう。
【開城の使者】
鶴ヶ城落城前夜、降伏の使者に指名された鈴木為輔の物語。本来、悲愴な話であるが、戦いの最中に城を抜け出し降格処分を受ける辺りは滑稽でもあるし、敵中に忍び入って目的を果たす場面はスリリングでもある。藩主から直々に杯を賜り、家老から激励の声をかけられ、当人は奮起して死ぬ気で使命を果たそうとする。しかし、あとから「あいつなら死んでも惜しくない」という理由から人選されたと聞いて、本人は複雑な思いにかられる。読者は思わずクスリと笑ってしまうが、実は世の中、こういう勘違いで動いているのかもしれない。そう思うと笑ってもいられない話である。
【修理さま 雪は】
主人公は、神保修理の妻、雪子。ものの本には、中野竹子、中野優子とともに涙橋に戦い、敵に捕らわれ自害したことになっているが、この小説では戦乱の街で行き倒れたところをとらわれ、土佐藩士の面前で自害したという説を取っている。実際問題として銃撃が交わされている中で捕らえられるという場面はイメージしにくい。小説の設定の方が自然かもしれない。なお、雪子の最期を見届けた土佐藩士吉松速之助(のち秀枝)は、西南戦争マニアには馴染みの深い人物である。西南戦争当時は少佐で、乃木希典の率いる十四連隊に所属していたが、木葉の激戦で戦死している。
【雁の行方】
妻や子供を含む二十一名が自害した悲劇の人、西郷頼母を描いた短編。これほどまでに狷介で、人に嫌われる性格だったとすれば、筆頭家老でありながら城を放逐されたことも理解できなくもない。我々の目から見ると、悲劇の人であるが、案外同時代の会津人には同情されていなかったのかもしれない。
【飯盛山の盗賊】
飯盛山で自刃した白虎隊の悲劇は広く知られるところであるが、彼らの遺骸から金品を盗んだ不逞の輩の存在は、当時からささやかれていた。盗みをはたらいた太吉は、落石にあたって死ぬ。まさに「因果応報」の物語で、筆者が「潤色されすぎているように思われる」と述べているとおりである。事実かどうかは別として、この話を伝える善良な市民としては、ハッピーエンドで終わらせるわけにはいかなかったのであろう。
【開城の使者】
鶴ヶ城落城前夜、降伏の使者に指名された鈴木為輔の物語。本来、悲愴な話であるが、戦いの最中に城を抜け出し降格処分を受ける辺りは滑稽でもあるし、敵中に忍び入って目的を果たす場面はスリリングでもある。藩主から直々に杯を賜り、家老から激励の声をかけられ、当人は奮起して死ぬ気で使命を果たそうとする。しかし、あとから「あいつなら死んでも惜しくない」という理由から人選されたと聞いて、本人は複雑な思いにかられる。読者は思わずクスリと笑ってしまうが、実は世の中、こういう勘違いで動いているのかもしれない。そう思うと笑ってもいられない話である。