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史跡訪問の日々

幕末維新に関わった有名無名の人生を追って、全国各地の史跡を訪ね歩いています。

「修理さま 雪は」 中村彰彦著 中公文庫

2009年09月04日 | 書評
 中村彰彦の短編集である。戊辰戦争にからむ七つの短編を収める。
【修理さま 雪は】
 主人公は、神保修理の妻、雪子。ものの本には、中野竹子、中野優子とともに涙橋に戦い、敵に捕らわれ自害したことになっているが、この小説では戦乱の街で行き倒れたところをとらわれ、土佐藩士の面前で自害したという説を取っている。実際問題として銃撃が交わされている中で捕らえられるという場面はイメージしにくい。小説の設定の方が自然かもしれない。なお、雪子の最期を見届けた土佐藩士吉松速之助(のち秀枝)は、西南戦争マニアには馴染みの深い人物である。西南戦争当時は少佐で、乃木希典の率いる十四連隊に所属していたが、木葉の激戦で戦死している。
【雁の行方】
 妻や子供を含む二十一名が自害した悲劇の人、西郷頼母を描いた短編。これほどまでに狷介で、人に嫌われる性格だったとすれば、筆頭家老でありながら城を放逐されたことも理解できなくもない。我々の目から見ると、悲劇の人であるが、案外同時代の会津人には同情されていなかったのかもしれない。
【飯盛山の盗賊】
 飯盛山で自刃した白虎隊の悲劇は広く知られるところであるが、彼らの遺骸から金品を盗んだ不逞の輩の存在は、当時からささやかれていた。盗みをはたらいた太吉は、落石にあたって死ぬ。まさに「因果応報」の物語で、筆者が「潤色されすぎているように思われる」と述べているとおりである。事実かどうかは別として、この話を伝える善良な市民としては、ハッピーエンドで終わらせるわけにはいかなかったのであろう。
【開城の使者】
 鶴ヶ城落城前夜、降伏の使者に指名された鈴木為輔の物語。本来、悲愴な話であるが、戦いの最中に城を抜け出し降格処分を受ける辺りは滑稽でもあるし、敵中に忍び入って目的を果たす場面はスリリングでもある。藩主から直々に杯を賜り、家老から激励の声をかけられ、当人は奮起して死ぬ気で使命を果たそうとする。しかし、あとから「あいつなら死んでも惜しくない」という理由から人選されたと聞いて、本人は複雑な思いにかられる。読者は思わずクスリと笑ってしまうが、実は世の中、こういう勘違いで動いているのかもしれない。そう思うと笑ってもいられない話である。

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「謀略の幕末史 幕府崩壊の真犯人」 星亮一著 講談社+α新書

2009年09月04日 | 書評
 星亮一氏が、会津以外について論じた本は珍しい。
 この本でも、会津は「正」であり、薩長は「邪」であるという論調は一貫しており、読後感は、やっぱりそうかというある意味での納得感と、「またか」という落胆が交錯した。
 特に「第四章 西の雄藩・薩摩の遠謀知略では、一方的にして感情的な大久保利通批判が連発されており、大久保贔屓の私としては残念至極であった。
 「策略は大久保の得意とするところ」
 「気が小さい大久保」
 「『全て悪いのは幕府』という言い逃れ…大久保のやりそうなこと」
 「自分では責任を取らず、すべてを幕府に押し付ける―――。その戦略を練ったのは大久保」
「頭がいいといえば、そうも言えなくもないが、大久保は腹黒い策士だった」
と、口を極めて大久保を悪者に仕立てているが、果たしてそうだろうか。佐賀の乱や台湾出兵後の対応を見ても、大久保は常人離れした豪胆さを持ち、決して問題から逃げない鋼のような強固な意思を持った人間としか思えない。
仮に星氏が指摘するように、策士であるとしても、幕末の複雑な政局を勝ち抜くためにはむしろ策を練らないと、生き残れないだろう。薩摩藩が幕末の政局を終始リードし得たのも、大久保の卓越した戦略立案能力と実行力があったからこそだと私は思うのである。それを「腹黒い」と批判することに大いに違和感を覚える。

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